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闇物語
コヨミフェイル
007
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 羽川がいいそうな台詞を残して戦場ヶ原はこちらに背を向けて歩き出した。
 僕も「じゃあな」と、だけ言って、自転車にまたがって、ペダルを漕いだ。
 このまま家に帰ってシャワーを浴びてゆっくりしたい欲にかられるが、それに従うことはできない。
 なぜなら、大事な用事があるからだ。
 奇数日なら、このまま戦場ヶ原の家で勉強を教えてもらうのだけど、偶数日なのでいったん家に帰り、用意をして図書館へ行く。そして、そこで羽川に勉強の面倒を見てもらうのだ。戦場ヶ原が推薦で入学するであろう地元の国立大学の入学試験に合格するため、夏休み前から毎日羽川と戦場ヶ原に日替わりで勉強の面倒を見てもらっている。これで成績が上がらないわけがない。
 これで上がらなければ、冗談抜きで戦場ヶ原に見捨てられても可笑しくない。定期試験当日は席次がほとんど変わらなかったり、下がっていたりしたら僕は首を吊ろうと決心を固めたくらいだった。戦場ヶ原に見捨てられるくらいなら死んだ方が増しだ、と本気でそう思っていた。
 分岐点で戦場ヶ原と別れて家に向かって自転車を漕ぎながら、そんなことをつらつらと考えていると、ブレーキを掛けざるを得ない光景が目に入った。
 ツインテールの小学生がいた――わけではない。
 勿論先程別れた戦場ヶ原がいたわけでも、先に図書館に行っているであろう羽川がいたわけでもなかった。
 車道を隔てた向こう側の歩道のガードレールの上を疾風迅雷の勢いで駆けてくる者が目に入ったのだ。ガードレールが凹むのではないか思うほどの荒々しい音がガードレールを踏み付ける度に聞こえてきた。
 刹那に可愛くはにかむ神原の顔が脳裏を過ぎったが、それは幸か不幸か外れた。
 それは黄色に黒の縦線が入ったジャージを着用していた。
 身長は僕よりすこし大きいぐらいだろうか。
 申し訳程度の短いポニテは風に煽られて振り回されていた。
 ……紛れも無く僕のでっかい方の妹、阿良々木火憐だった。
 走っていなければ、影縫余弦を彷彿とさせたかもしれなかったが、脳神経組織までもが筋肉組織である巨大な妹はガードレールの上を超絶的なバランス感覚を遺憾無く発揮しで疾走していた。
 逆立ち歩きの次はガードレールの上を疾走かよ。
 どこの中国雑技団だ。
 僕の羞恥心は鍛え抜かれて、もはや鋼鉄の堅さだよ。本当、兄思いの妹達には感謝しねえとな。これは是非とも、お返し、もといお礼をしないとな。
 静かに笑顔を湛えて自転車から降り、足元に落ちていた手頃な石を手に取った。マウンドのピッチャーのように何度か小石を小さく投げ上げて感触を確認し、投躑体勢に移行した。そして、鬼の形相で有らん限りの力で投げた。
 驚くことに野球なんて(友達がいなかったから)中学以来したことのない僕の手から放たれた石つぶては寸分の狂いも無く火憐
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