暁 〜小説投稿サイト〜
魔法少女リリカルなのはStrikers〜誰が為に槍は振るわれる〜
第一章 夢追い人
第5話 賑やかな晩ご飯、そして舞い降りる死神
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とで、不思議そうにラディの顔を見つめるキャロ。
 しばらくラディの顔を見つめていたキャロだったが、先程の言葉が口に出ていたのだと気付き、はっとしたように口元を手で押さえた。
 慌てて頭を下げようとするのだが、先程のラディの言葉が頭をよぎり何をすればいいのか分からなくなる。そして結局はなにもできずにその場でオロオロするばかり。
 それでもやはりこの場は謝るべきだと思い、頭を下げようとする。
 が、それよりも早くラディの口が開かれた。

「いいぞ。お兄ちゃんでも」
「え……?」

 振ってきた優しい声と再び頭を撫でだした心地いいぬくもりに、キャロは落としていた視線を上げる。
 顔を上げたキャロの瞳に映ったラディの顔は、優しく暖かい笑顔を浮かべていた。

「オレなんかでよければ喜んで。むしろ、キャロみたいなかわいくて優しい子のお兄ちゃんになれるなんて嬉しいよ♪」
 
 目元を優しく綻ばせながらラディは促すように小首を傾げる。
 その仕草に背中を押され、キャロはその小さな口を開いた。

「えと……お兄、ちゃん?」
「うん♪」
「……えへへ♪」

 嬉しそうに相好を崩しながらラディはキャロの頭をくしゃくしゃっとかき混ぜる。
 キャロの方も髪をかき混ぜるラディの手を受け入れ、照れくさそうに笑っていた。
 幸せな、本当に幸せに満ちた、日常の穏やかな一ページ。なのにそれを目の前にして、エリオの心は鈍い痛みを訴えていた。
 
 お兄ちゃん。
 その一言に心の奥底に沈めていた嫌な想い出が浮き上がる。
 声だけだった想い出に線が浮かび上がり、そしてデッサンになる。
 白と黒で描かれたデッサンに色が付き、そして一枚の絵になる。
 切り取られた絵の一枚一枚が連なり動きだし、絵が動き出す。

 そして、そして、そして……

「あの!! 僕、お肉のおかわりもらってきます!!」

 自分でも少し大きすぎると思う大きさで目の前の二人に声を掛け、エリオは背を向ける。
 心に突き刺さる幸せな日常に、傷口から滲み出る黒く濁った想い出から逃げるように、背中にかけられたラディの声に気付かないフリをして駆け出す。

 終わったこと。もう、終わったことなのだ。
 今でどうあがいても取り返しがつかないこと。戻れないこと。どうにもならないこと。
 頭ではそれが分かっているのに、それが分からず振り回される心にエリオは奥歯を噛みしめる。
 食欲をそそる肉の焼ける音と香ばしい匂いを前にして、エリオはふとあることを思い出して立ち止まる。

 あぁ、そういえば?―

「?―おかわり、ラディさんが持ってきてたっけ」

 賑わう周りをどこか遠くのことのように感じながら、エリオは空を見上げる。
 沈んでいく夕日に赤く染まる空。

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