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運命の向こう側
プロローグ2
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とも、これ以上調べても、何かが分かったとは思えないがな」
「どういう事だ?」
「お前は本当に知らないんだな」

 む、と言葉に詰まる。反論しようとしたが、それは言葉にならなかった。今彼女が言ったこと以上の何かを知っているかと言われれば、何も知らない。
 真名は、いつもように大人びた(もしくはませているだけか)笑みを押さえて、真顔になった。仕事の時にはよく見せるが、こうして普通に話す時にはまず見せない顔。

「つまり、前評判通りの完全なる魔術師だったって事さ」

 それでも分からず、首を傾げる刹那。

「あー、何と言えば分かるんだろうな。……魔術師って言うのは、どんな人間だ?」
「そうだな、一般的には引きこもりの研究者、か。基本的に、自分の枠の中に籠もって、誰にも知られず枠の彼方を目指す。しかし完全に世の中と分かつのではなく、表向きの顔を作って関係を維持しているな。私がつきあった印象なら、自他に厳しい仕事人だ。契約した内容は絶対に破らないし、また破らせもしない。仕事なら信頼できる相手だ」
「……正直、その評価も私にとっては驚きなのだが。まあ、そんな所だ。そして、それを極めつけにした――魔術師の理想型が、衛宮士郎な訳だ」
「ああ、なるほど」

 やっと刹那も気付いた。つまり、極まった秘密主義者なのだろう。
 恐らく同種である魔術師すら――もしかしたら世界の誰も――彼の魔術を、そして戦い方を知らない。見せ札のいくつかだけが表であり、後は全て裏なのだ。カードの枚数も、その手札さえ分からない。情報を集めるに当たって、最も厄介な相手。どこにも情報がない、それが衛宮士郎という魔術師なのだ。
 なるほど、龍宮真名が魔術師を厭う理由が、分かった気がした。彼女は戦士では無く兵士、もっと言えば傭兵だ。可能な限りの情報を集め、対策を模索し、不可と判断すればとっとと逃げる。ノーデータと言うのは、可不可の判断すら出来ない一番嫌な相手に違いない。
 そこには多分に、仲間であっても信用しない、という思想も関係している。最低限、振り切って逃走できるだけの準備と情報を用意しておく。自分が風見鶏である以上、他者も自分を信用しきらないと考えておかねばならない。
 難儀なものだ、と刹那は思っている。だが、それが彼女のやり方である以上、口出しをする気も無い。

「ついでに言うと、衛宮士郎はバケモノクラスの魔術師だ。魔法使いのナギ・スプリングフィールド、神鳴流の近衛詠春のような。知っての通り魔術協会は、関西呪術協会以上の、歩み寄る理由も気もきっかけもない、最大の敵対組織。そんなのが懐に入ってきたら、どうなると思う?」

 水で泥を洗い流すように、違和感が全て溶け落ちた。長時間悪寒にさらされた肌を、慰めるように腕に触れようとして――それは、俄に響く喧噪に止め
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