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Magic flare(マジック・フレア)
第4話 夢ノヨウ恋ノヨウ
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 ―1―

 降りしきる銀糸の夜である。
 クグチは雇用契約書にサインし、提出した。
「なんだその顔は。嫌そうだな」
「騙された気分です」
 頭痛がするのか、岸本は眉のつけ根をつまんで揉んだ。そのまま窓辺に歩き、降りしきる銀糸と向き合う。
「故意に廃電磁体を都市に招じ入れようとする奴らがいることは前からわかっていた」
 岸本はクグチに背を向けたまま溜め息をついた。
「方法はわからないが、それについてはACJの技術部門が解明する。動機についてはACJのサービス部門が解明するだろう。わからないのはそれが為された時、都市と利用者に何が起きるかだ」
 クグチは椅子から立った。窓に映る岸本と視線があった。
「今の三十代後半から下の世代は……俺の世代だ。人格形成期から電磁体と関わりあってきた。もっとも俺がガキの頃のは、今みたいに守護天使などと言う大層なパッケージングはされていなかったがな。それに比べりゃおもちゃみたいなもんだったが……いずれにしろ、廃電磁体による汚染で守護天使が狂えば自分も狂うという人間が多数存在することは十分に予測できる」
「たかだか都市サーバの電子データが人格の一部だとでも」
「そういう人間は多い。さらに守護天使が示す幸福指数で、都市機構は人間の価値を決める。何十年とかけてこのシステムがゆっくり崩壊し、移り変わっていく分にはいい。だがそれが悪意の人間によって急速に瓦解すれば、大変な混乱が起きる」
「その程度のことで……」
 クグチは呻いた。
 そうは言っても、守護天使が社会の、人間の、何を隠しているかを、クグチも見てきたつもりだ。喪失の記憶を。悲惨の記憶を。クグチとてそうだ。鮮明な記憶と黒く塗り 潰された記憶の途絶がいつもある。
 田舎の一軒家の濡れ縁のこと。そこに女と座っていたこと。懐かしい雨と、赤い刺繍糸。微笑する女。奥の部屋で赤子が泣きだし、雲の切れ間から顔を出す爆撃機。
 動悸が激しくなり、目の前がくらみ、両脇と額に汗が浮く。そうして続きが思い出せない。クグチは自分で自分の記憶を隠した。守護天使を使わずに。思い出したいとは思わない。
 大変な混乱とは言い過ぎかもしれないが、守護天使の不在は確実に社会に不安と問題をもたらすはずだ。
 今窓の外を降る銀糸や、守護天使、様々にデザインされた幻覚が消えて、本当は静かな都市の本当は黴の生えた建物群、本当はひび割れた道、本当は空のない檻、その景色よりも死を選ぶ人がいたとて不思議はない。
「地下勢力を拡大させるわけにはいかない。連中は電磁体保護法が施行されれば何らかの形で裁きを受ける」
「事後法ですか」
「連中の規模や勢力は知らんが、対処できるのは俺たちのこの十三班だけだ。決して多い人数ではない。この少人数の中でいざこざを起こすのは不毛だと思わないか?」
 岸
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