第四十三話 踏み絵
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げた領地からは直接税も入る。問題は無い」
不機嫌そのものだ。と思ったらエーリッヒが微かに笑みを浮かべた。
「いずれ直接税の収入はもっと増える」
えっと思った。俺だけじゃない、シュトライト少将、アンスバッハ准将も訝しそうにしている。それを見てエーリッヒが更に笑みを大きくした。だが目は冷たい、明らかに冷笑だ。
「収益の四十パーセントを奪われる貴族達がそれに我慢出来ると思うか、アントン」
「……」
「無理だ。殆どの貴族は投資会社にもっと利益を出せと要求するだろう。より大きいリターンを求めるためによりハイリスクな商品に手を出す事になる。いずれ失敗して損失を出す事になるだろう、取り返しのつかないほどにね」
「損失が出れば当然だが領内開発に回す資金は無くなる。領民達は納得しないだろうな。政府も納得はしない、収益を出し領内開発に金を出すから投資会社に融資を預けるのを認めていたのだから」
「……どうなるのです」
シュトライト少将が掠れた声で問い掛けた。
「領地は取り上げる」
「それは……」
絶句するシュトライト少将をエーリッヒが冷たい眼で見た。
「領内開発が出来ない以上領主としての資格は無い。私の予測では十年も経たないうちに帝国貴族四千家の内半分以上は領地を持たない貴族になると思っています」
アンスバッハ准将がゴクッと喉を鳴らした。
「その事は大公閣下、リッテンハイム侯は……」
「知りません。これはあくまで私の予想です。外れる可能性も有りますからね、言いませんでした」
嘘だ、言えば反対すると思ったのだ。エーリッヒの真の狙いは貴族の無力化だろう。そうする事で改革を進めようとしている。だがそれを表に出せば大公とリッテンハイム侯は反対すると見た、だから表向きは貴族を優遇する様な政策を出して説得した……。
「義父に伝えますか?」
さりげなく出たエーリッヒの言葉に両脇の二人が身体を強張らせた、俺もだ。試されている、改革を支持するのか否か、自分を支持するのか否か……。エーリッヒが笑みを浮かべて俺達を見ている。空気が凍った、震え上がる程の恐怖を感じた。
「シュトライト少将、アンスバッハ准将、先程頼んだ事、早急に調べてください」
「はっ」
空気が緩んだ。
「アントン、ゲルラッハ子爵に連絡を取ってくれ。例の件で相談したいと」
「分かりました」
それを機に書斎を辞した。部屋を出ると三人皆太い息を吐いた。
「如何する、シュトライト少将」
「さて、卿は如何する、アンスバッハ准将」
「如何するかな、……フェルナー大佐、卿は如何する」
「……さあ、小官には何とも」
結局誰も答えを出さなかった。顔を見合わせ、そして歩き出した。
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