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【短編集】現実だってファンタジー
虫を叩いたら世界は救われるか検証してみた・霊の章
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って溺れ死んだ。そして、死体から流れ出たユウヤの魂を利用して、滝つぼから流れる水路全てを祟り結界で覆ったのだ。

水路は旅館を囲うように流れていたため、私達はこの狭い空間に閉じ込められた。

私達を閉じ込めた「ゐんがみ」は、恐ろしい姿をしていた。腐り果てたような悪臭と巨体。血走った巨大な眼球をぎょろつかせ、言葉とも遠吠えとも知れないおぞましい音を喉から漏らして襲い掛かり、私は逃げるだけで精いっぱいだった。

その後も悪夢は続く。「ゐんがみ」は旅館の女将に憑りついて従業員を皆殺しにし、更には今まで自分が取り殺し、或いは生贄に捧げられた人間の魂を悪霊として旅館中に解き放った。私達は精神的にも肉体的にも追いつめられ、散り散りにされ、殺されていった。

殺されるのも、命を狙われるのも、逃げられないのもとても辛かった。
惨殺死体を見て嘔吐もしたし、腰が抜けて悪霊に殺されそうにも何度なったか分からない。
おまけに「ゐんがみ」の霊力の所為で旅館の一部が今は失われた過去の神社と融合し、滅茶苦茶になった空間が私を惑わせた。

みんな苦しんで死んだ。

ユウヤは好きだったはずの水を畏れながら死ななければいけなかった。水泳部で主将を務め、将来有望だと称賛されて誇らしげにしていたのに。嫌だ、助けて、という悲痛な叫びが耳にこびり付いて離れなかった。

ミネハルは「ゐんがみ」に憑りつかれて私を殺そうとし、一瞬だけ戻った自我を振り絞って自殺した。父が自殺したことを苦に、自殺など最低の行為だといつも言っていたのに。皮肉な選択を迫られた彼の胸中は計り知れない。

シズクはユウヤの事が大好きだった。だから、彼が死んだと聞いた時に傷ついてしまった心を「ゐんがみ」に利用され、操られて無理やり首を吊らされた。死後、微かに残った彼女の霊魂の残滓がそう教えてくれた。

タクロウは心の底から今という事態に恐怖していた。何故自分がこんな目に。こんな所にはいたくない。そう泣き叫んで、包丁を片手に半狂乱で私を襲ってきた。あの時は逃げるのに必死だったけど、今になって思えばあれも「ゐんがみ」に心を弄ばれていたんだろう。

サクラは、死に顔だけは綺麗だけれども実際にはパニックの末に一人だけ助かろうと「ゐんがみ」に下ろうとした。そしてそのまま「ゐんがみ」に魂だけを抜き取られてしまったのだ。一瞬だけでも助かると期待したまま死ねた彼女は、果たして幸せだったのだろうか。

残ったのは悪霊を操って私を殺そうとする、女将に憑りついた「ゐんがみ」だけ。

でも、この半ば異界化した世界で見つけた過去の書物を読み、私は断片的ながらこの事態を打開するための方法を探り続けた。そして様々な手がかりを発見した。

ひとつ――「ゐんがみ」は対を為すライバルである「狐憑き」が弱点である。

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