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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十一話 苗川攻防戦 其の三
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様に見える、新兵だ、恐らく十七才だろう。軍曹は四十路前だ。
近い年頃の子供がいてもおかしくはない、心配なのだろう。

 金森の顔色は蒼白で、導術兵の象徴である額の銀盤も疲労の度合いを示し黒ずんでいる。
導術兵達は皆この様な状態であった。 導術は乱用すると消耗する、酷いときには死を招く事は大隊本部の中で最も導術部隊と接していた情報幕僚であった馬堂少佐も理解していた。
 だからこそ、交代制を取っていたのであるが交戦が始まると加速度的に術師達は消耗していくことは必然であった。
 じくり――と新城の良心に痛みが走る、だがそれを無視して指揮官である新城は前方の戦況に心を向ける。
 ――現在攻撃を行っている敵の戦力は二個中隊だ、残りの二個中隊は後方一里に控えている、糧秣を優先して配分させたのだろう。
 本格的な行動の前の威力偵察のつもりか、それとも逼迫した兵站事情が稼働率を下げたのか――
 ――何方にせよ此処で予備部隊が拘束されている状況は好ましくない、頭数から何もかも兵站事情以外は帝国に水を空けられているのだから。
 ――畜生め。守原大将が少しはまともな指揮をとっていればこんな面倒は無かったのだ。いやいや、どうにもならない事を愚痴っている僕も言えた者ではないな。

馬防柵に殺到した部隊が予備隊の銃撃で倒れながらも、柵に槍斧や鋭剣を叩きつけ、破壊しようとしている。
 新城が命じた通りにその頭上に四度、霰弾が炸裂し騎兵達が薙ぎ倒されていく。
着弾の衝撃からか馬防柵が根本付近がへし折れ、倒れると、後続部隊が次々と戦友だったものと柵を乗り越えてなだれ込む。
「総員、撃て!」
 指揮官達の掛け声が聞こえ、再び銃声が響く。施条銃から放たれた弾丸が襲いかかると騎兵達の隊列が激しく乱れた。
 そして――猛獣の咆哮が響く。
 剣虎兵達が突撃を開始したのだ。馬が捕食者の声に反応し怯え出す、二方向からの猛攻、そして馬の混乱。 部隊は混乱から壊乱へと成りつつあった。
 常識通りならば、このまま300名の精兵達は200名もいない烏合の衆へと成り果てるはずだった。
 新城の耳に、勇壮な帝国語が微かに聞こえるのと同時に、彼は中央の一部で秩序が戻り始めるのに気がついた。
――不味いな。向こうには優秀な指揮官がいるらしい。此処で統制を取り戻され本隊まで戻られると危険だ。
「装填、まだか!」
 
「お待ちを――全門、装填完了しました!」
 権藤軍曹は優秀な下士官らしく、既に行動を開始していた。
「軍曹、中央、距離二百間」
「はい、大尉殿」
 迅速簡潔な言葉と正確な命令の実行により、統制を取り戻した部隊は赤く染まった。



同日 午前第十二刻 小苗川防衛陣地 独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊本部 
独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊長 
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