暁 〜小説投稿サイト〜
Element Magic Trinity
紅蓮の傍に寄り添うのは
[1/8]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

目を開くと、少し黄ばんだ天井が見えた。
上半身を起こし眠たい目を擦ると、アルカは1番近くの窓に手を伸ばしカーテンを開けた。眩しい光に目を眩ませながら、寝癖の付いた赤い髪をガシガシと掻き回す。
当時5歳の少年がやるには些かおじさんっぽい仕草だが、父親を見ていていつの間にか身についてしまったのだから仕方ない。
着古したパジャマを脱ぎ、黒いジャケットを白いトップスの上から着る。これは2つ上の姉ミレーユが自分用に買ったものだ。何故それを弟のアルカが着ているかというと、「買ったはいいけど着る機会があんまりない」と貰ったからだったりする。サイズも問題ない。
何より、アルカは父が黒いコートを着ている時の後ろ姿が好きだった。色鮮やかなクリムゾンレッドの髪に黒いコートという出で立ちはとても様になっていて、コートではないが色は同じジャケットをアルカは愛用している。

(……静かだな)

ジャケットの袖に腕を通しながら、アルカは違和感を覚えた。
いつもなら、よく喋る姉の声や母が朝食を作る時の―――――例えば熱したフライパンに卵を流し入れる音やトースターの音が聞こえるはずだ。イレイザー家は小さくはないが、大きくもない。毎日そんな音が家中に響いているような環境である。
まだ寝てるのか、とも考えたが、すぐにその考えは消える。時計が示すのは午前9時。この時間なら母が起きているはずだ(平日も休日も7時起きするのがアルカの母である)。

(全員出かけた…訳じゃないだろうし、本当に起きてないのか?)

……妙だ。
何の音もしない。料理する音も、話し声も、足音も。
違和感を抱えたまま部屋を出て、階段を下りる。階段に行くまでに姉の部屋があり試しにドアをノックしてみたが、返事はない。「姉貴ー、寝てるのかー?」と声もかけたが、反応なし。

「親父ー、母さーん、起きてねーのかー?」

両親の部屋は1階だ。階段を下りつつ声を掛ける。
いつもなら、リビングのソファに座った父エストが新聞から顔を上げて笑みを浮かべる。
いつもなら、キッチンに立つ母シグリットが振り返って寝癖の付きやすい赤髪を撫でる。
いつもなら、自分で髪を結べない姉ミレーユが慌てたようにアルカを見つけて駆け寄る。
それがアルカの“いつも”であり、今日だってその“いつも”が繰り返される――――それ以外に考えられなかった。

「おーい、聞いてんのかー?」

アルカはよく“あまり怒らない子供”だと言われる。
別に全てを怒らず許す訳ではなく、怒るのは家族の事を何か言われたり、大切なモノに対して何か言われたりする時だけ。それ以外はどんなに苛ついても声を荒げないし、大抵は笑って済ませる。
その理由は至って単純で、怒って声を荒げた後の空気が嫌いだからだ。ギスギスして、誰に何を話しかけていいのか解
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ