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運命の向こう側
プロローグ1
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取り、表紙に目を向ける。そこには『日本・注四番地派遣書』と味気ない印刷文字で書かれていた。
 凛は紙束のどかされたデスクの上に座る。士郎を見る瞳からは、もう険が抜けていた。

「まあ実際、協会的には助かる話ではあるのよ。こんな事、わざわざしたい人なんてそういないし、当然私だってやりたくないわ。だから、うまく恩を売れたのはいいだけど――」

 そこまで言って、彼女の眉が潜められた。先ほどまでのような責めるようなものではなく、怪訝そうな形に。

「だからこそ、士郎が立候補した理由が分からないのよね。あの地にそれだけの縁があったとは思えないし。士郎に限って、未だに教授としての責任感がない訳が無いしね」

 冗談のような――魔術協会所属寸前まで素人同然だった彼が教授になったのには、それなりに理由がある。
 留学当初、士郎ははっきり言って、時間をもてあましていた。大学と時計塔の二重生活、それなりに忙しくなることは覚悟の上だったのだが。その予想は、大きく裏切られることになる。
 そもそもは、魔術属性が偏りすぎていたのが問題だった。ものになる魔術がはっきり、かつ狭かったために、履修した科目は多くない。最大の特技である投影魔術は、逸脱しすぎた異能であるために、学べる者ではなかった。いや、それ以前に、危険すぎてそれを察知させる事自体、忌避していた。
 余らせた時間をどう使うか――それが人助けに向くのは、衛宮士郎にとって当然だ。そして、それが吸血鬼等の化け物討伐に向くのは必然に過ぎた。
 聖杯戦争の経験と、伸びていく魔術の腕。なにより戦うのに向いた彼の資質。魔術協会にその名を知れ渡させるのに、そう時間はかからなかった。彼の師が、すでに名声を獲得していた遠坂凛である事も深く関係してた。士郎は凛の懐刀だと思われており、そしてそれは間違いでは無い。
 他にもいくつか理由はあるのだが……それを考慮しての、教授就任だった。当然、それを押し込んだのは凛である。
 ちなみに、時計塔で幹部と呼ばれるのは中堅以上の教授からだ。下位の教授は、運が良ければ新参者でも獲得できる。
 下位教授と執行者は、幹部と生徒のいわば緩衝地帯。多少の発言権をやるから、それで満足しておけ。真面目に魔術を追求するつもりなら、幹部なんて面倒なものは目指さない。ある程度権利を獲得して、あとは自分の研究室に籠もりきり、とは凛の弁である。ぶっちゃければ、士郎は凛のための、口利きの窓口だった。

「そりゃそうだ。ろくな事教えられてないけど、だからってほっといていいなんて間違っても思ってない。……まあ、俺がいなくてもなんとかなるって下心があるのは認めるよ。それに、いざとなったら一科の先生に何とかしてもらうようお願いしてるし」
「あいつらが何かの役に立つわけないでしょう」

 あきれたように
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