暁 〜小説投稿サイト〜
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静かなカーチェイス
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定は、一瞬。

バッ、と後ろを振り向く木綿季と反対に、蓮は前に身を乗り出す。助手席の金髪男が苛立たしげに口を開こうとするが、それを無視してハンドルを持つ八伎に言葉を飛ばす。

「何があったの」

「………………つけられています」

即答が多いこの男にしては珍しい、一瞬の間。

それが現在の状況の逼迫さを如実に表しているようだった。

思わずのほうを振り返るが、彼女は黙って首を振る。怪しげな後続車両はいない。

「気のせい、ってことは?」

これに答えたのは、助手席の木瀬だ。ツンツンと剣山のように突き立った髪を間抜けに揺らしながらこちらを睨みつける。

「それこそありえねぇな。経験が浅い俺ならともかく、八伎さんが間違えることなんてありえない」

自己顕示欲が強そうなこの男にしては、珍しく他人を全面的に後押しする発言である。要警備対象に「経験が浅い」などと暴露する点はさておいて、蓮と木綿季は思わず顔を見合わせた。

「先程から数台ローテーションを回していますが、明らかに動向がおかしい。恐らくプロではなく、素人でしょうね」

冷静に八伎は言うが、蓮としてはこう思わざるを得ない。

なぜ、と。

この車を狙う理由が分からない。

小日向蓮にしても、紺野木綿季にしても、その実態はただの一般市民である。別段実家が裕福という訳でもないし、カタギじゃないような行為もしたことがない。

ならなぜか。

数瞬の沈黙の後、蓮が至った結論に八伎も同じく辿り着いたようで、小さな舌打ちとともアクセルを踏み込んだ。

時代に置いていかれそうになっている堅実なエンジン音とともに、黒塗りのリムジンは加速する。

スーツの懐から、同色の真っ黒な携帯端末を取り出し、かなりの打鍵スピードを披露した後、八伎は耳に当てる。

待つのは一瞬。

相手はすぐに応じたらしい。

「俺だ。後ろの砂利どもを蹴散らせ」

どう取っても物騒にしか聞こえないその文言に、ぎょっと木綿季は身を強張らせた。それに対し、小日向蓮は安心しきったように、上質な背もたれに背を預ける。

「ちょ、ちょっと蓮――――」

「いや、ご心配をおかけしました」

木綿季が堪らず上げようとした声を遮るように、八伎は声を上げた。

ちっとも安心できない。

そんな表情の従姉を安心させるために、蓮は端的に言葉を紡ぐ。

そう、全ては先刻八伎が言った一言に集約されていたのだ。

《素人》

普通、黒塗りのリムジンに載っている人物像を想像する時、どんな人物を思い浮かべるであろうか。

政治家?どこかの企業の社長?もしかしたら石油王?

色々な憶測、予想が現れては消えるであろうが、それらに共通しているのは、主に二つだろう。
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