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静かなカーチェイス
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一瞬、自分から言った要望を承認されたと気が付かなかった。

従弟である小日向蓮もまた、了解されるとは思っていなかったのか、車椅子の背もたれ越しの背中が明らかに強張った。

木瀬と名乗った金髪男も目を剥いて喚きだす。

「ちょ、ちょっと八伎さん……!」

黙れ、という言葉はどこまでも端的であった。

「本人にその気があればお連れしろ、と言われている」

二の句がつけなくなった木瀬がパクパクと口を動かした。餌を欲す鯉みたいだ、と木綿季は思ったが言わなかった。

八伎はこちらを見ると、アゴを数ミリだけ縦に振った。

「お連れしましょう」

短いその一言とともに、八伎は真っ黒なリムジンを指差した。










スモークがかった、真っ黒な車窓。

そこから見える、モノクロの景色。

こんなもの、一生見ることはないと思っていた。

小日向蓮は、一つだけゆるゆると息を吐いた。それはエアコンから吐き出される暖気に乗って消えていく。

絶妙に調節された室温は、研ぎ澄まされた頭を悪い方向へ緩くしていく。

こんな事ではいけない、と思い、眉間を強くつまむ。

身体が丸ごと沈みこみそうな革張りのシートに、ばふっと背を預ける。その感触は、リムジンのトランクに折り畳んで納まっている車椅子とは大幅に違い、その成金趣味に舌を巻く。

そんな自分を、隣に座っている従姉、紺野木綿季が怪訝げに見てくるがあえて言いたい。

誰のせいだと思っているのだ。

苛立たしげに息を吐き出すと、呼吸が苦しいとでも勘違いしたのか、「蓮、大丈夫?」と木綿季が心配そうに訊いてきた。鷹揚に頷き返しながら、蓮は窓枠に肘を突いた。

モノクロの世界が、高速に流れていく。

運転する八伎、助手席の木瀬。どちらの顔も、運転してしばらくすると別人のように厳しいものとなった。

ボソボソ、と幾つか言葉を交わし、木瀬の方はサイドミラーを数秒に一回見るようになる。一度だけ蓮も振り返ったが、そこには違和感を放つようなものは特に見受けられなかった。

二度、八伎が携帯を取り出し、どこかへ連絡する。

その口調はお世辞にも柔らかいとは言えず、限界まで張り詰めた絹糸のような緊張感が感じられた。

車内の、張り詰めた沈黙に耐えられなくなったのか、隣の木綿季が口を開いた。

「あの、何かあったんですか?」

「何でもありません」

答えた声は、即答。

しかし、その言葉が嘘だという事はすぐに分かった。おそらく、木綿季も。

だてに《あの世界》で二年間過ごしてはいない。人を信じる事がイコールで死に直結する世界で、疑うという行為は最低限必修単位だ。

隣の木綿季と、目線で会話する。

役回りの決
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