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問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
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一族の物語 ―我/汝、悪である― ①

火龍と鷲獅子、二つの龍角を得たアジ=ダカーハはそれを石畳に投げつけ、自らの分身にそれを与えた。
結果、双頭龍は大嵐の化身となって咆哮をあげ、フェイスレスに襲いかかった。

さらに上空では、アジ=ダカーハが主催者の一人を倒されて意気消沈したプレイヤーに向けて牙をむいた。
その場にはレティシアと鵬魔王が駆け付け、その片翼こそ奪ったものの・・・彼はそんなこと気にもしないで、個人として持つ最大の恩恵。世界の三分の一を滅ぼすと伝えられた閃熱系最強の一撃、“覇者の光輪(タワルナフ)”を、空中城塞に向けて放った。

それは空中城塞を落とすのではないかと思われたが、耀が最強種、“原初龍・金星降誕(ケツアルコアトル)”を創造し、そこに殿下の疑似創星図、“アヴァターラ”の補助が入ることによってその軌道を変え、防いで見せた。

こうして生まれた奇跡の連続。三頭龍はそれに対して、自らの持つ最大の一撃を防がれたことに対して、耀に報復の意味も込めて攻撃を放つが、ここでまた一つの奇跡が起きる。

ジャックが、その身を魔王に堕としてアジ=ダカーハの一撃を防いだのだ。
堕ち方としては、考えられる限り最悪のもので。

ジャックは、自らの主催者権限で開催するゲームに、無条件で自分が有利になるルールを、大量に盛り込んだのだ。当然、そのようなことをすれば膨大なロジックエラーが発動し、そのゲームは強制的に終了させられる。

さらには、その手法によって膨張した霊格は自壊し、死後も天界から罰を受け続ける。
後見人であった聖ペトロとクイーン・ハロウィンも、黙っているはずがない。ジャックの事を信じ、信頼したからこそ後見人を請け負ったというのに、そこに泥を塗ったのだから。


だがしかし、ジャックはその全てを覚悟したうえでアジ=ダカーハを討たんとする。

悪を以って巨悪を討つ。
自らの歩んできた畜生の道に、大輪を添える。

その覚悟があることは、誰の目から見ても確かだ。事実、絶対悪であるアジ=ダカーハもその覚悟の中に正義を感じ取り、全力で答えている。
誰も、その覚悟を邪魔しようとは思わないだろう。・・・普通なら。

ここには、その覚悟を許せないものが一人、いた。

彼は刀を抜刀し、それを上段に構える。

「ふざけんなよ、ジャック・・・!」

そしてそれを振りおろし、主催者権限を発動した。
白黒(モノクロ)の契約書類を振りまき、全ての主催者権限を強制的に終了させる、外道の主催者権限を。

当然、その瞬間に発動していた主催者権限は全て、強制的に終了させられた。
『GROUND COVER on the MOON SEE』も・・・『Jack the monster』も。

それによって、主催者権限によるブーストをしていたジャックはそのブーストを失って・・・三頭龍と戦うことも出来ず、その主催者権限を発動した少年・・・一輝の前に、落ちる。

「・・・ジャック、お前は何がしたいんだ。」
「ヤホ、ホ・・・一輝さん、ですか。」

もうあとは崩れていくだけの体であるジャックだが、それでも誰に話しかけられたかくらいは分かるようだ。
そして、もう自分の最後の覚悟を邪魔されたことに対して何かを言うだけの生命もないのか、やけに静かに、そう返した。

「自らの歩んできた人生を全て無駄にして、お前にとって大切ない人もたくさんいるのに、お前が大切な人だというやつらもたくさんいるのに、死ぬつもりなのか?」

一輝はそんなジャックに、容赦なく言葉を浴びせていく。

「・・・ええ。この畜生の人生。彼らを守るために使えるのであれば、その先に何が待っているとしても、後悔はありません。」
「そうか。なら悪いが、その覚悟は俺が折らせてもらう。・・・これまで通りの形では生き残れないだろうが、図々しく生き残ってもらうぞ。」

そう言いながら一輝は刀を振り上げるが、ジャックはそれを止めるでもなく・・・ただ、自らを語った。

「・・・ここで図々しく生き残ったとしても、私は死にますよ。先ほどの主催者権限、あれの使い方で私は魔王に堕ちました。天軍の征伐対象にも、リストアップされていることでしょう。ですから・・・この身の延命、そのために力を使わないでください。」
「やなこった。このまま勝手に死なれたんじゃ、俺が止めた意味がない。」
「・・・なら、貴方相手であれば、こちらの方が効果的でしょうか。」

そして、ジャックはいった。
私は、殺しましたよ・・・と。

「私は、少年も、少女も、幼い赤子も・・・己の創作意欲を満たすためだけに、殺しました。」
「なら俺も殺したさ。金を稼ぐために妖怪、霊獣・・・・幼い子供の妖怪も殺し、俺が気に入らないという理由だけで権力者を、正義を、色んなものを斬ってきた。・・・だからこそ、俺がお前に対して、罰を下すことができる。・・・どうしても赦されないというのなら、俺が罰をくれてやる。」

そう言いながら一輝は親指の肉を一部噛みちぎり、血を一滴足下におとした。
その瞬間、一輝とジャックを中心に赤い・・・血色の陣が描かれる。

「これは・・・?」
「ただの契約・・・鬼道の奥義の一つだよ。そこまで気にしなくていい。」

そして一輝は、奥義を発動する。

「俺はここに、神霊として生まれたものとして罰を言い渡す。」
「な・・・!」

ジャックは一輝の言葉に、ただただ驚いた。
弱りすぎていて感じ取ることができていなかったのだろう。
だが、この場にいる他の人間が何もしてこないのは、一輝が神霊となっていることに対する驚きか、モノクロの契約書類に目を丸くしているものか、他の主催者権限が解除されたことに対する驚きが多くを占めている。
唯一、アジ=ダカーハだけは二人の様子をただ静かに見ていたが。

「我が一族はお前の魂を、力を、恩恵を、その全てを幼子の笑顔のために、幼子の命を守るために使う。汝それを受け入れるのであれば、名を名乗り、魂を献上せよ。」
「・・・それは、本当に罰なのでしょうか?」
「ああ、罰だよ。まず一つ目に、お前はこれから先永遠に、捕らわれ続けるんだ。俺が死んでも、この契約は子孫であったり、何かしら檻をもっている人間に継承されていく。二つ目に、幼子の命、笑顔のために必要なら幼子を殺すのにも使える。外道がそれをしないって保証は、どこにもないからな。」

一輝はそう言いながら、見るものが恐怖しそうな笑みを浮かべる。

この奥義には、相手が弱っていれば弱っているほど契約に乗ってきやすくなるという、相手の心を操る式も存在している。
一輝がそれを使っているのかどうかは分からないが・・・ジャックは、

「・・・魔王、“南瓜の王冠(パンプキン・ザ・クラウン)”。この魂、どうか幼子のために・・・」

契約に乗り、その存在全てを輝く霧へと変えて・・・一輝に封印された。
そして、そこでようやくアジ=ダカーハへと目を向ける。
ずっと一輝たちを見ていた三つの頭も、一輝と視線を合わせる。

「・・・よう、アジ=ダカーハ。その首をもらいに来たぞ。」
『ほう・・・それは、友の覚悟を蔑にしてまで成したいことなのか?』
「ああ、成したいね。俺の手で、お前を殺したい。」

一輝はそう言った瞬間に跳び、獅子王でアジ=ダカーハを斬りつける。

『そうか、そうまでして私を殺したいか!いいだろう、その意思絶対悪たる私が受けて立つ!』

そして、彼の彼たる故を宣言した。

『来るがいい、英傑よ。そして踏み越えよ―――我が屍の上こそ正義であるッ!!!』
「残念ながら、俺は英傑なんて立派なもんじゃない。・・・折角だ、俺も正しい名乗りを上げるか。」

そして一輝も、それに答えた。

「我は悪である!忌まれし外法をもって力を得、民より悪と罵られるが故に!」

右手をあげ、そこに今回のゲームの契約書類。一輝のゲーム開催と同時に降り注いだものと同じ文面の、黒く染められた契約書類を持つ。

「我は善である!民に、妖に、神に、全ての者に倒せぬ悪を討ち取るが故に!」

左手をあげ、そこに今回のゲームの契約書類。一輝のゲーム開催と同時に降り注いだものと同じ文面の、輝く契約書類を持つ。

「我は外道である!善の道悪の道、その双方を踏み外したが故に!」

そして、両手を打ちつけ・・・二つの契約書類を、混じり合わせる。
そこには白黒(モノクロ)の、今この場にいるプレイヤーが持ているものと同じ契約書類があった。

「さあ受け取れ、アジ=ダカーハ!俺が、我が一族の功績をもって開催するこのゲームを、受けて見せろ!」

一輝はそれを投げ、アジ=ダカーハはそれを受け取って初めて、契約書類の文面を見た。

今ここに、外道の主催するするゲームが、始まった。


『 - ギフトゲーム名“一族の物語 ―我/汝、悪である―”


 我らが一族は、外道である。
 外道であるが故に悪であり、外道であるがために悪を学ぶ。
 外道であるが故に悪をさばき、外道であるがために悪となる。
 あぁ、何故我らは外道を名乗るのか。
 我らは何故故に、民より悪として認識されるのか。
 我らは何故故に・・・恐怖と畏怖を捧げられるのか。
 我らは時に神としてあがめられ、時に悪として裁きを受ける。

 汝ら民を守ってきたのは誰だ!?
 日の国の民を・・・否、我がいる世界の民を守ってきたのは誰だ!?
 それは我らである!
 我らは大いなる妖怪と契約し、その力を借りて世の歪みを殺してきた。
 人も、妖も、神ですら殺めることのできぬ存在を、我らは屠ってきた。
 時に死を覚悟し、時に契約を結び、時に死を対価として。
 我らには、その事実による栄光は決して訪れない。
 その事実を知るものはいない。
 我ら一族以外には、彼らを殺すことは出来ないのだから。
 妖怪であれ、魔物であれ、霊獣であれ、神であってさえも、歪みを殺すことはできない。
 そして、その存在を伝えることも出来ない。

 我が一族には、様々な鬼道がいた。様々な・・・六十二の道があった。

 一人(初代)は、一族のために道を作り出した。
 世界の民を守るために、禁忌とされていた妖怪との契約を交わして。
 事実を民が知ることはない。
 ただひたすらに侮蔑を向けられると分かっていて、それでもそんな民を守ろうとした。
 だからだろうか。陰陽師としての名も無く、動いていたのは。

 一人(二代目)は、初代の遺志を継いだ。
 初代の遺志を継ぎ、生涯で一度、歪みを屠って見せた。
 だが、二度目は無かった。
 二度目の邂逅、そこで彼は命を失った。

 一人(三代目)は、歪みと邂逅することはなかった。
 だがしかし、契約によって得た力で霊獣を殺し、一族の名を汚名から拾い出して見せた。

 一人(四代目)は、これまでの道のように、何かを残すことは出来なかった。
 だが、先代の作り出した道を、闇に閉ざされた道に差す光を広げることは、やって見せた。

 一人(五代目)は、数々の妖怪を屠り、封印して見せた。
 だんだんと消えていく汚名の中で、彼女は希望を見出していた。
 だからこそ、命の尽きるその瞬間まで、人に仇名す妖怪を、人のために屠っていた。
 そして、最後には神すらをも屠り、一族の中で最も異質な奥義を編み出した。

 一人(六代目)は、先代を疎んでいた。
 先代の偉業、神殺しが彼にはプレッシャーとなり、それに押しつぶされようとしていた。
 だが、民はそんなことは気にもしない。
 先代の強さを彼にも望み、彼がそれに答えないと掌を返した。
 先代はすばらしかったのに。
 先代は人となりもよかったのに。
 そんな言葉が、彼に世界を呪う決心をさせた。

 一人(七代目)は、父の意思を継いだ。
 否、継がされた。
 彼は生まれてからずっと、父に洗脳されていた。
 世界を呪え、ただそれだけを教え込まれてきた。
 そうした心で過ごしていたせいか、一族は再び恐怖の対象となってきていた。
 そして、志半ばで死亡した。

 一人(八代目)は、そんな父を間近で見てきた。
 そして、一族の歴史を紐解き、民が何度も掌を返していることを知った。
 そして、父の死とともに、彼は堪えが効かなくなった。
 彼は世界を呪うために一つの奥義を編み出し、そして、そこで息を引き取った。

 一人(九代目)もまた、父の様子を見てきた。
 そして、父の奥義を完成させるために怨みを連ねた。
 一族の奥義は、強き意志によって編み出される。
 それゆえに、彼は怨みを重ね、怨みを連ね、世界に絶望し・・・
 父の奥義と対になる、奥義を編み出してしまった。

 一人(十代目)は、そんな歴史を知らなかった。
 父は自らが狂っていることを理解していて、子に会うことが無かった。
 だが、父の死とともに、全てを察した。
 長寿であった父を生かしたのが何であるのか、それを知ってしまい・・・
 そして、霊獣を殺すのにその二つの奥義を使い・・・世界の全てを、呪った。

 一人(十一代目)は、祖父の死を境に壊れていく父を、隣で見ていた。
 それ故に唯一止めることができ・・・だが、それを実行しなかった。
 そんな父を止めるしかないことは分かっていた。
 だが、彼にはそんなことが出来なかった。
 目の前で高笑いする父を、壊れていく父を、殺すしかないとは思った。
 だが、心優しい彼には、父を殺すなんて出来なかった。
 そして、殺さずに止める方法を強く願い・・・
 誰も殺さずに、全てを収める奥義を、編み出した。

 一人(十二代目)は、天才であった。
 幼きころに祖父が世界を呪い、父がそれを止めた。
 そして、その瞬間に祖父が自殺し、父も自殺したにも関わらず、彼は強く生きた。
 そのことを知った瞬間に奥義を習得し、一族の長となった。
 幼き彼を疎む分家は数多にいたが、それすらねじ伏せ、そしてその人望で束ねて見せた。
 そんな彼だからこそ、彼は一族の勤めを果たした。
 歪みを殺し、さらには得た力で霊獣を殺して見せた。

 一人(十三代目)は、ひたすらに強かった。
 人望があるわけでもなく、ほかに何かあるわけではなかったが、力のみはあった。
 寡黙な彼は、一族のために何も出来ないと考え・・・
 せめて、と。霊獣を二体、殺して見せた。
 人間には到底倒せないとされた、神に近い霊獣を、殺して見せた。

 一人(十四代目)は、ひたすらに弱かった。
 だがしかし、父と違って力以外の全てを持っていた。
 彼はその人望で、一族の汚名を雪ぐ努力をした。
 弱いなりに努力し、力ない人たちのために働いた。
 だがしかし、一族の汚名は中々雪ぐことはできなかった。

 一人(十五代目)は、何も持っていなかった。
 感情すら持たずに、ただ何も感じずに生きていた。
 そんな彼女だったからだろうか。
 その肝を狙う霊獣がいた。
 感情を持たず、しかし確固とした力を持った彼女の肝を、狙われたのだ。
 だがしかし、そんな霊獣でさえも彼女には何の感情も抱かせなかった。
 恐怖も何もなく、ただ淡々と霊獣を殺し、その配下も殺していく。
 その様子は、ともに捕まっていた少女達に一つの存在を思わせた。
 鬼を、感じさせた。

 一人(十六代目)は、ある意味不幸であった。
 先代がそんな人であったせいか、感情が豊か過ぎた。
 そして同時に、鬼道の名を持つ最初の一人となってしまった。
 先代が鬼と呼ばれ、それからはそれまでの呼び名と混ざって鬼道となったのだ。
 そんな彼は、感情が豊か過ぎたせいでその声に押しつぶされていき・・・
 最後には、豊かだった感情を失い、生と死の区別すらつかなくなった。

 一人(十七代目)は、自ら鬼道を名乗った。
 民に認識された以上、それが我らだと。
 胸を張り、堂々と名乗った。
 そんな彼は、歪みを殺して見せた。

 一人(十八代目)は、何もかもが中途半端だった。
 良いわけでもなく、悪いわけでもなく、平均にいるわけでもない。
 どこにも属さない、ひたすらに中途半端な存在だった。

 一人(十九代目)は、英雄だった。
 民の一人も認めない、英雄だった。
 善を愛し、悪を憎む。
 どれだけ民から憎まれようとも、民を守り続けた。
 そして、彼は歪みを殺し・・・強すぎる力ゆえに、民によって殺された。

 一人(二十代目)は、完全に無であった。
 才能はあるがなく、感情はあるがない。
 全てがあるのに全てがない。ありとあらゆる無を感じ取る、そんな人間であった。

 あぁ、何故我らは存在するのだ!
 あぁ、何故我らは生まれたのだ!
 あぁ、何故我らは生きているのか!
 あぁ、あぁ!世界よ、何故我らを求める!
 あぁ、あぁ、あぁ!!世界よ、なせ我らに滅びを許さぬのか!

 民は、我らに完全を求める。
 我らは、我らに闇を求める。
 民は、我らに悪を求める。
 我らは、我らに勝利を求める。
 民は、汝らに勝利を求める。
 我らは、眼前の敵を消すことを求める。

 さあ、剣を取れ!弓を引け!
 拳を握り、銃を握り、槍を握り、武を交えようではないか!
 その実に宿る力の全てを、その身に宿る星の輝きをぶつけ合い、造られし星を示せ!
 我らの間に存在する邪魔な全てを取り除き、雌雄を決しようぞ!
 全ての望みを叶えしその先に、我らが、民が望むものがあると信じて!
      一族代表、第六十三代鬼道“鬼道一輝”印

宣誓 “鬼道”の名を継ぐ者が開催する限り、この試練(ゲーム)が正当であることを保証します。
      “世界”印』
 
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