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真・恋姫†無双 劉ヨウ伝

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第112話 友との決別

 
前書き
久しぶりに劉ヨウ伝を更新しました。 

 
 丘力居(きゅうりききょ)を見送って数日後、啄郡に向いました。
 白蓮に会うためにです。
 丘力居の件で私はかなり強引な方法で白蓮達の介入を排除しました。
 白蓮は私に対して幾ばくかの不興、否、かなりの不興を買っていると思います。
 手遅れの感は否めませんが、なんとか彼女に会いお互いのわだかまりを解かなければいけません。
 私は供も連れず、彼女の城に馬で向いました。
 部下を連れて行くと、揉め事が起こりそうな予感があります。
 私は公務として彼女に会いに行くのではなく、友人として彼女に会いに行きたいと思いました。

 城に到着すると見知った女性・白藤が私を出迎えてくれました。
 「車騎将軍。当城に何かご用でございますか?」
 彼女は私を無表情で事務的に受け答えを行なってきました。
 彼女の態度はわかりやすい反応でした。
 私は招かれざる客のようです。
 これ位で引き下がるつもりはありません。
 彼女とは烏桓族との件では衝突しましたが、今後とも友好的な関係でありたいと思っています。

 「白蓮は居るか? 彼女と話したいことがある」
 「生憎、主・公孫賛は病にて伏せております」
 白藤は私に他人行儀な態度で予想外の返答をしました。
 「病? なおさら彼女に会わせてくれ」
 私は白蓮のことが心配になり彼女にそういうと更に予想外のことを言われました。
 「主は他人に病をうつしては申し訳ないと仰り、車騎将軍に限らず他の者とも面会を断っております。申し訳ございませんが、お帰り願えませんでしょうか」
 白藤はお辞儀をして言いました。
 病は嘘だと直感しました。
 想像していたことといえ、現実に直面するとショックでした。
 白蓮は仇敵・烏桓族を身を呈し庇った私を許せないのでしょう。
 白蓮達の烏桓族達への姿勢を鑑みれば、こうなることは当然でした。
 私が烏桓族の虐殺を行なっていたら、幽州は紛争が続く悲惨な状態のままだったと思います。
 「彼女の部屋の戸越でも構わない。どうしても話したいことがある」
 「無理にございます」
 私の言葉など知らぬと白藤は突っぱねました。

 説得出来ると思った私が愚かでした。
 こんな状態で無理を通して、彼女と面会しても逆効果になるのは目に見えています。
 白蓮のことが心配ですが、ここは去るしかないです。
 「白藤。わかった。白蓮には体を労ってくれと伝えてくれ」
 私は白藤に短く告げました。
 「はっ」
 白藤は拱手をして応えました。
 彼女の行動からも露骨な拒絶が滲み出ています。

 「白藤、お前は私を許せないのか?」
 私は彼女達の態度に居たたまれなくなり、白藤に質問をしました。
 「我らは車騎将軍に対して他意はございません」
 「烏桓族との争いを続けていては民は疲弊するだけだ。あのまま放っておけば、いずれかが滅ぶまで血が流れ続けることになっていた。こんな争いは不毛でしかない。お互いが少し歩み寄るだけで、この地は安定し民は安心して田畑を耕すことができる」
私は白藤に訴えるように話を続けました。
 
 「理想論です。人の心はそれ程単純でない」
 少し間を置き、他人行儀を貫いていた白藤が感情を表面に現しました。
 「為政者は民の為に理想を追い求める責務がある」
 「それで奴等に家族を殺された者は救われるのですか?」
 白藤の瞳は殺気に満ちた怒りでした。
 彼女の怒り様は普通じゃない。
 もしや、彼女は身内を烏桓族の者に殺されたのでは・・・・・・。
 それなら、頷けます。
 あの異常なまでの烏桓族への敵愾心。
 「救われないだろう。失った命は何を替えても償えるものではない。私に出来るのはそのような者達を出さないように努力することしかできない」
 私は彼女の瞳から目を反らすことなく、彼女を真っ直ぐ見据えました。
 「傷を受けし者達に平和のために犠牲になれと仰るのですね」
 「そうだ」
 私は一拍間を置き重い口を開きました。
 「己の名声を傷くことも厭わず、罪人である烏桓族を救った方とは思えないお言葉ですね」
 彼女の怒りは頂点に達しているようでした。
 私は彼女を見つめ続けるのが辛くなりましたが反らしてはいけないと思いました。
 私は「すまない」と、口にしそうになりました。
 ですが、それを口にできませんでした。
 謝罪は私が楽になるための免罪符でしかありません。
 「私は失った命を蔑ろにするつもりはない。争いに倒れた者達は家族を死なせるために戦ったのではない。家族を守るために戦ったはずだ。彼らの犠牲を無為にしないために、私が恨みを買おうとその意思を継ぐ」
 私は白藤の態度にたじろぐことなく、彼女を真摯な表情で見つめました。
 「お人好しです。どうしもない程に。そして、偽善者だ」
 白藤は怒りを納め溜息を吐きました。
 「私の祖母は私を救うために単騎で烏桓族の部隊に斬り込みました。あの時の光景は未だ忘れません。幼子の私には奴等が何者か分からず、ただただ恐怖に震えることしかできませんでした。祖母のお陰で私は命を繋ぐことが出来ました」
 白藤は私から視線を反らし遠くを見つめ話始めました。
 「私は烏桓族を許すことはできない。祖母を惨たらしく殺した彼奴等を!」
 白藤は腰の剣に手を触れ、怒りに打ち振るえていました。
 彼女は剣を抜き、その剣を私に見易いように持ちました。
 「この剣は祖母を殺した烏桓族から取り戻しました」
 「その烏桓族は死んだのか?」
 聞くまでもないのに思わず聞いてしまいました。
 「取り戻しました」と、言っていた以上、その烏桓族が生きている可能性は低いです。
 「ええ。私が受けた思いを奴等にも教えてやりました」
 それ以上話の続きを聞く気が起こりませんでした。
 彼女が何をしたのか想像ができました。
 「奴等の家族をなで切りにしてやりました。奴等が命乞いをする面前で妻を子供を嬲り殺しにしてやりました」
 私は彼女がそれを行なっている光景を想像してしまいました。
 白藤の祖母の件同様、惨い光景だったことでしょう。
 「もういい」
 私は彼女の話を聞いていると辛くなりました。
 「いえ、聞いていただきます。あなたは聞く義務があります」
 白藤は俺を静止して話を聞く様に促しました。
 「私は奴等の目の前で、泣き喚く幼子に剣を突き立て見せつけてやりました」
 白藤は私を哀しい表情で見つめました。
 「その時、奴等は私に何と言ったと思います」
 彼女の次の言葉は言わずとも想像できました。
 「『殺してやる』です。奴等は私の祖母を殺しておきながら、そう言ったのです。殺してやるはこちらの台詞。私は怒りに任せ、奴等を斬り殺してやりました。どう、思われます。これでも奴等との共生は可能でしょうか?」
 彼女は私に近づき食い入るように私のことを見ました。
 「それでも共生の道を模索する」
 私は心痛な気持ちで彼女に言いました。
 「何故です!」
 白藤は私に対して叫ぶました。
 「我らと烏桓族の間には埋められぬ溝があるのです。私だけではない。多くの幽州の民が同様の苦しみを受けているのです」
 「お前は復讐で救われたのか?」
 私は彼女を哀しい表情で見つめました。
 「救われる訳が無いでしょ! 奴等を殺しても失われたモノは元通りにはならない」
 白藤は俯き小さく独白をしました。
 「今でも、幼子をこの手で殺めた感触が頭から離れることはないです。無抵抗の者を斬り殺したこともです。祖母の復讐を望み、それを自らの手で成し遂げたにも関わらず、私は救われることは無かった」
 白藤は感情を露にすると、暫く沈黙しました。
 「復讐をするまでは救われると思っていました。でも、現実は違いました。私は彼奴等と同じただの人殺しです」
 白藤は自嘲するように顔を上げ沈痛な面持ちで私に告げました。
 「なら、どうして俺の考えが分からない」
 「あなたの仰る通りです。ですが、烏桓族に家族を殺された遺族にとって、幽州の地がいかに豊かになろうと深い傷が癒えることはない。彼らは烏桓族を皆殺しにしたところで失った者が戻ってことないことなど百も承知。しかし、彼らは烏桓族を皆殺しにせねば気が済まない。これは理屈ではない!」
 「私は余所者で幽州の民の想いを知ることなどできない。だが、大切な者を失う辛さを慮ることは出来る。お前の話を聞いて、なおさらのこと烏桓族との共生の道を探ることを強く決心した。共生の道を模索する以上、それを破綻させる者、互いの信頼を踏みにじる者を私は絶対に許さない。私が幽州の民と烏桓族の共生を実現させてみせる」
 「これ以上、話しても平行線です」
 白藤は剣を鞘に戻し、私に向き直りました。
 「わからないなら何度もでも話すまでだ」
 「それで烏桓族が反乱を起こしたらどうなさいます」
 「二度目はない」
 私は白藤に迷うことなく告げました。
 一度目は許したが、二度目はない。
 幽州の民は許さないだろう。
 そのときはただ反乱を行なった者を粛正するしかない。
 今度は許さない。
 「あなたに出来るのですか?」
 「世を乱す者は粛正する」
 「あなたは世を乱す者を許されたではありませんか?」
「私は烏桓族との共生を望む。だから、今回は許した。二度目はない」
 「二言はございませんか?」
 「この私の命に掛けて」

 白藤は少しの間、私を真剣な表情で真っ直ぐ見据えていました。
 「正宗様、失礼します」
 白藤は私を「正宗」と呼ぶと拱手して踵を返して去っていきました。
 彼女すら説得できないのなら、白蓮を説得するなど夢のまた夢だな。
 自分の力の無さを痛感しました。
 本当に私は無力だ。

 「一つ忘れておりました」
 白藤は歩みを途中で止め、私の元に戻って来ると腰につけた剣を私に差し出しました。
 「これは?」
 私は白藤の行動に合点がいかず訝しみました。
 「これは幽州の民と私の感謝の印です。あなたと私はやり方が違いますが、幽州の民の未来をより良きものにしようと尽力してくださいました。この剣は祖母が私に残した形見でなかなかの業物です。あなたのご身分には似つかわしくないかもしれませんが、これが私の気持ちです。どうぞお受け取りを」
 「ありがたく受け取らせて貰う」
 白藤の申し出を拒否するこは出来できませんでした。
 彼女は彼女なりに幽州の民を慕っているのだと思います。
 それに私に形見の剣を渡したということは心で納得できずとも、幽州の安寧を望んでいることの証と思います。
 「それでは」
 白藤は短く言うと次は振り向くことなく去っていきました。
 私は彼女の後ろ姿が見えなくなるまで見送りました。

 結局、私は幽州去るその日まで白蓮と話す機会を得ることはできませんでした。
 私は幽州を去る日に白蓮へ文を届けさせました。
 返事が返ってくることは期待していませんでしたが、何かしなければいけないと思いました。 
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