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剣の丘に花は咲く 

作者:5朗
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第四章 誓約の水精霊
  第二話 メッキの王冠

 
前書き
シエスタ 「シロウ君一緒に帰りましょう」
士郎   「ああ、帰ろうか」
キュルケ 「あら、シロウ。もう帰るの?」
士郎   「キュルケか? ああ、今日は親がいなくてな、シエスタが晩御飯を作ってくれるということだから、その手伝いだ」
キュルケ 「へえ……。親がいない、ねぇ」
シエスタ 「な、何ですかキュルケさん。そんな目で見て」
キュルケ 「べつ――」
ルイズ  「なッ、何ですってぇっ!! シエスタッ!! あんた親が留守の間に士郎の家に上がり込んでナニをする気なのよッ!!」
シエスタ 「な!? る、ルイズさん、き、聞いていたんですか?」
ルイズ  「べ、別に聞き耳を立てたわけじゃないのよっ!! ただ何となく耳に入っただけよッ!!」
シエスタ・キュルケ 「「へぇ~……」」
ルイズ  「な、何よその目は、ほ、本当よ……本当なんだからッ!!」
士郎   「ま、まあまあルイズ、落ち着け。シエスタは俺の母親に頼まれてだな」
ルイズ  「なっ! は、母親に頼まれてって……」
士郎   「そうそう、親の代わりにば――」
ルイズ  「親に頼まれて、性教育だなんて……」
士郎・シエスタ・キュルケ 「「「何でそんなことになるんだッ!!!」」」
ルイズ  「え? だって親がいないんでしょ?」
士郎   「そうだ、旅行に出ていてな」
ルイズ  「それでシエスタが母親に頼まれたのよね?」
シエスタ 「はい、シロウ君の晩ご――」
ルイズ  「シロウの性教育を」
士郎・シエスタ・キュルケ 「「「だから何でそうなるんだッ!!??」」」
ルイズ  「え?」
キュルケ 「え? じゃないでしょ。はぁ、あんた一体なんでそんな結論になるのよ?」
ルイズ  「だ、だって、この間シロウの家に行ったら、シロウのお母さんから、言われたんだもん」
士郎   「あ、アイリさんから」
ルイズ  「うん、わたしがシロウに良く勉強を教えているって言ったら、最近士郎の成績が落ちてるから教えてやってねって言われて。それで……」
士郎・シエスタ・キュルケ 「「「それで?」」」
ルイズ  「この本をくれたの」
士郎・シエスタ・キュルケ 「「「()それ?」」」」
ルイズ  「『身体で覚える英単語』」
士郎   「母さあああァァァァァァんッ!!!!!」


 ルイズの勘違いの原因は士郎の母親、アイリスフィール·フォン·アインツベルンのせいであったッ!!
 何とかルイズを説得するも、完全には信用できなかったルイズはキュルケと共に士郎に付いていくことにッ!!
 だがッ! 士郎は知らなかったッ! これから起こる惨劇をッ!!


 迫り来る惨劇ッ!! 生き残れるか士郎ッ!!!??

 

 
 キラキラと言うよりも、ギラギラと輝きそうな様々な家具に囲まれた広々とした豪華な一室の中、男が金箔と宝石で豪奢に飾り付けられた椅子の上に座っている。
 男の名は、オリヴァー・クロムウェル……神聖アルビオン共和国の初代皇帝である。
 クロムウェルが座っている椅子とセットなのか、同じように金箔と宝石で複雑な模様が描かれた机の上には、一本のロウソクが立てられ、周囲を朧げに照らしていた。
 しっかりと造りこまれた椅子の背に、ギシリ、と身体を預け、天井を仰ぐクロムウェル。

「どうする、どうする……くそっ! ただの世間知らずの子供だと思っていたのに。クソクソクソっ! 生意気にも抗うとは……ッ」
「随分と悩んでいるようだな」
「っ!」

 突如背後から声を掛けられ、ゴロゴロと椅子から転がり落ちるクロムウェル。
 慌てて背後を振り返ると、目の前には深いローブを被った女性がいた。ローブを深く被っているため、表情は伺えないが、クロムウェルは女が誰か知っていた。
 女の名はシェフィールド――周囲からクロムウェルの秘書と言われている女である。
 クロムウェルは慌てて立ち上がると、シェフィールドに向かい……頭を下げた。
 神聖アルビオン共和国の初代皇帝であるはずの男が、ローブを被った地味な女に対し頭を下げる。
 この場にアルビオンの貴族がいれば、自分の目を疑っていたことだろう。
 
「すすす、すみませんっ! ど、どうかご容赦くださいませっ! つ、次こそは必ずやトリス――」
「五月蝿い」
「ひっ」

 頭を下げ、必死に女に謝罪するクロムウェル。シェフィールドはそんな必死に言い訳をするクロムウェルを一瞥すると、侮蔑を含んだ言葉を吐き捨てる。
 まるで、母に叱られた子供のように身体をびくつかせながら、クロムウェルは恐る恐ると顔を上げる。

「あ、あの小娘は、今や『聖女』と崇められ、間もなく女王に即位するという話しです」
「それで」
「王国にとって王とは国です。な、ならば女王さえ手に入れれば、トリステインを手に入れたことと同義です」
「つまり、どうすると?」

 腰を曲げたままクロムウェルは、その歪んだ笑みを浮かべた顔で、シェフィールドを見上げた。

「ウェールズを使います」
「ふん」

 シェフィールドが首を部屋の隅に向ける。机に立てられた一本のロウソクでは、部屋の隅まで照らし出すことは出来ない。
 クロムウェルは立ち上がり身体を伸ばすと、手を叩きウェールズに呼びかける。

「ウェールズこっちに来い」
「お呼びですか。閣下」
「お前の恋人の『聖女』を、我が城、ロンディニウムに連れて来い」
「分かりました」

 目を血走らせ、ウェールズに指を突きつけ命令するクロムウェル。クロムウェルの言っていることを理解しているのか、ウェールズはにこやかに笑い頷く。
 
 ロウソク一本の灯りが、豪奢な部屋の中を小さく照らす中、まるで劇をしている様な二人の姿を、シェフィールドは口元を歪め眺めている……この……人形劇を……。

 


 

 

 王の仕事はと問われれば、いくつもあるが。その内の一つに接待というものがある。
 戴冠式を終え、女王となったアンリエッタは、国の内外を問わず、様々な相手の接待を行うようになった。ただのご機嫌伺いの相手から、トリステインの未来のために直接交渉に来る者等、本当に様々だ。
 特に今は戦時ということから、アンリエッタは朝も夜も関係無く誰かと顔を合わせていた。
 女王に就いたばかりとはいえ、舐められるわけもいかず。マザリーニが補佐をしていたとはいえ、疲労は確実に溜まっていく。
 しかし、今から来る相手に対してだけは、女王である必要はない。女王ではなく、アンリエッタとして迎える客なのだからだ。


 部屋の外から、客の到来を告げる声がする。
 入室の許可を出すと、扉が開き待ちかねた相手が入ってくる。
 魔法学院の制服を着たルイズが、閉じた扉の前で頭を下げる。その横には士郎が同じく頭を下げていた。

「ルイズッ!」

 ルイズが頭を上げるより先に、アンリエッタは駆け出し、ルイズに抱きついた。頬をルイズの顔に押し付け、強く強く抱きしめる。

「ひ、姫さま……あっ……もう、陛下とお呼びしませ――」
「ルイズ」

 アンリエッタに抱きつかれ、目を白黒していたルイズがアンリエッタのどう呼べばいいかと迷っていると、アンリエッタの悲しげな様子に声を詰まらせた。
 
「あなたまでそのように言うようになれば……わたくしは一人になってしまいます。ですのでルイズ。ルイズ・フランソワーズ……お願いですから、わたくしから最愛のお友達を取り上げないで……」
「……ふふ。分かりました姫さま。ならこれからもいつものようにお呼びいたしますわ」
「ふふ、そうしてくださいな。……本当に王になんてなるものではないわ……」
「……姫さま」

 望まない結婚を前に、萎れた花のようだったアンリエッタだったが、結婚がご破産になった今でも、萎れたままだ。いや……顔色が悪く、さらに萎れているように見えた。
 そんなアンリエッタの様子に、ルイズは声も出ないといった様子だ。
 しばらく無言で、ルイズはアンリエッタを抱きしめていた。

 ルイズの下に、アンリエッタからの使者がやって来たのは、今朝のことであった。女王からの呼び出しということから、二人は授業を休み、アンリエッタが用意した馬車に乗りここまでやって来た。
 馬車の中では、士郎と二人っきりであったが、ルイズは突然のアンリエッタの呼び出しの理由を考えていたため、おかげで気まずい雰囲気にはならなかった。
 
 いくら友人だからとは言え、今のアンリエッタは女王だ。一介の学生と話しをする時間などないはずだ。
 ……本当にただの一介の学生だったなら、だけれど。
 
「それで、姫さまがわたしをお呼になった理由とは?」
「そうね……ルイズも薄々気付いているかもしれませんが……まずはこれを」

 そう言ってアンリエッタは、手に持った羊皮紙の報告書をルイズに手渡した。

「あの勝利の本当の功労者に対し、いくつかお聞きしたいことがあります」

 報告書を読み終え、顔を上げたルイズに向かい、アンリエッタが声を掛けると、ルイズは小さく、長く息を吐きだした。

「ふぅ~……、ここまで、お調べになったんですね」
「まあ、あれだけ派手な戦果あげて、分からないと思っていたの?」

 くすくすと小さく笑ったアンリエッタは、そこで今の今まで黙ってルイズたちのやり取りを眺めていた士郎に顔を向ける。アンリエッタを見つめる士郎の目には、労わるような優しさと、悲しみが入り混じり、複雑な輝きを魅せていた。
 強いて言うならばマザリーニが向ける目と似ているが、ハッキリと違うと言い切れる何かが、その目にはあった。今まで見たことがない、その不思議な瞳に、思わず息を飲むアンリエッタだが、一つ左右に首を振ると、士郎に話し掛けた。

「あれに乗り、レコン・キスタの竜騎士隊を壊滅させた聞きました。御礼を申し上げるのが遅れ、申し訳ありませんでした」
「謝るようなことではありません」
「あなたはこの国を救ったのです。……本当でしたら、あなたを貴族にして差し上げたかったのですが」
「いえっ、そのようなことは」

 士郎が断りの声を上げようとしたが、それよりも早くアンリエッタが声を上げる。

「しかし、あなたに爵位を授けるわけには参りません」

 アンリエッタがキッパリと言い切るが、士郎には何とも思わなかった。反対に助かっていた。爵位だのなんだのに何ら魅力も感じないし、もらったとしても貴族社会が自分に合うはずもなく、ただ困るだけだ。

「あなた達の成した戦果は、長いトリステインの歴史の中でも類を見ない程の戦果です。本来ならば小国の一つでも与えたとしても良いくらいですが……与えられない理由があります」

 そこまで言うと、アンリエッタはルイズを見つめ直し、口を開く。

「艦隊を壊滅させたあの光は……あなたですねルイズ」

 何かを確信した物言いでアンリエッタは言う。ルイズが不安気に士郎に振り返ると、士郎は一度目を瞑り眉間に皺を寄せると、小さく息を吐くと共に目を開けた。

「ルイズ……君が選べ」

 士郎の言葉に、ルイズは小さく頷くとアンリエッタの顔を見る。

「実は――」

 そしてルイズは語る。
 あの時のことを……。『水のルビー』を持った手で始祖の祈祷書のページに触れると、虚無の呪文が浮かび上がったこと。それを読み上げると光が現れ、艦隊を壊滅させたこと。

「姫さま……わたしは『虚無』の担い手なのですか?」

 不安気に問いかけるルイズ。アンリエッタはルイズを安心させるよう優しく笑うと、ルイズの肩に手を置いた。

「ええ。あなたは『虚無』の使い手です。ご存知でしょう。始祖ブリミルは、自身の三人の子に王家を作らせると、それぞれに指輪と秘宝を遺したことを。このトリステインに伝わるものが、今、あなたが嵌めている『水のルビー』と『始祖の祈祷書』です」
「……はい」
「王家には、このような言い伝えがあります。『始祖の力を受け継ぐものは、王家に現れる』と」
「えっ? で、でもわたしは、王族じゃ」
「ラ・ヴァリエール公爵家の祖は、王の庶子です。あなたはトリステイン王家の血を引いているのですよ」

 そして、チラリと士郎の手を見る。

「シロウさんの手にある印は、『ガンダールヴ』ですか?」

 士郎は無言で頷く。
 士郎が頷くのを見たアンリエッタは、軽く俯くと、ルイズに硬い表情が浮かんだ顔を向ける。

「これで、あなた達に戦果に対する報酬を与えられない理由は分かりましたね」
「わたしの力を狙って、争いが起きるから。ですか?」

 俯き呟くように応えるルイズ。
 それに言葉短く応えるアンリエッタ。

「その通りですルイズ。あなたの力を知られれば、敵はなんとしてでもあなたを手に入れようとします……それだけでなく、この城の中の者さえ……あなたを手に入れようとする者が必ずやいるでしょう」
 
 アンリエッタは俯いたまま顔を上げようとしないルイズに近寄ると、その頬に優しく触れる。

「ですからルイズ。その力はわたくし達だけの秘密です」

 頬に触れる手に自身の手を重ねると、ゆっくりとルイズは顔を上げ頷く。

「分かりました姫さま。……ですが一つお願いがあります」

 重ねた手を強く握り締めたルイズは、決意を秘めた瞳でアンリエッタを見つめた。その強い光を秘めたルイズの目を見たアンリエッタは、思わず息を飲んだ。

「ッ……お願いとは?」
「わたしの虚無の力……姫さまのために使わせてください」
「なっ!? ……何を言っているのですかルイズ。そんなこと出来るわけないでしょう」

 ルイズの言葉に目を見開いたアンリエッタは、先程のルイズと同じように顔を俯かせた。
 ルイズは両手でアンリエッタの顔を包むと、自身の顔と向き合わせる。 

「先程言ってくれましたよね。わたしが姫さまのお友達と……なら、困っているお友達の力に成らせてください」
 
 ルイズの言葉に、アンリエッタの瞳が潤む。
 声が震える。

「あり、ありが、とう……ルイズ」

 アンリエッタの腕がゆっくりとルイズの身体に回される。
 
「わたくしの……お友達」

 



「これを渡します。あらゆる場所への通行、警察権を含む公的機関の使用を認めた許可証です。……これからは、あなたはわたくしの直属の女官ということになります」

 アンリエッタから恭しく許可証を受けとったルイズは、それを大事そうに両手で抱きしめる。
 その様子をどこか複雑な顔で見るアンリエッタは、同じように複雑な顔をしてルイズを見つめる士郎に声を掛けた。

「シロウさん。これからもどうぞルイズを……わたくしの大切なお友達をお願いいたします」
「はい」

 首を微かに頷き応える士郎に、ふっ、と綻んだ笑みを見せると、机に向かって歩き出した。机の上に置かれていた白い袋を手に取ると、それを士郎の手に握らせる。

「あなたの成した戦果に対し、何も報いることが出来ませんが……せめてこれだけでも受け取って下さい」

 士郎が袋の中身を確認すると、中にはぎっしりと金銀宝石の他に、金貨が詰まっていた。
 頭をがりがりと掻きながら、士郎は袋をポケットに入れ笑いかける。

「ありがたく受け取らせてもらいます」

 優しい……優しく柔らかい士郎の笑みに、アンリエッタも思わず笑みを返してしまう。
 





 
 ルイズたちが去り、一人部屋に残ったアンリエッタは、広いベッドの上に腰を掛け目を閉じると、先程の士郎の笑みを思い出していた。
 金貨や宝石が詰め込まれた袋の中身を見ても、全く目の色を変えなかったルイズの使い魔――エミヤシロウ。
 向けられた笑顔は、とても……とても優しい笑みだった。……見ていると、こちらも思わず笑みが零れてしまうほどに……。
 金貨や宝石に全く興味を示さなかった彼が、何も言わず受け取ってくれたのは、自分を気遣ったくれたものだと理解していた。

「不思議な……人……です、ね」

 自身の顔に、自然と笑みが浮かんでいることに、アンリエッタは気付かなかった。






 王宮を出た士郎とルイズは、屋台や露天、様々な見世物が出て、お祭り騒ぎの様子を呈する城下街を、見て回っていた。地方領主の娘であるルイズには、見るもの全てが珍しいのか、子供のようにうきうきとしながら出店を覗き込んでいる。
 
「シロウシロウっあれは何? 何?」
「ん? あれか、あれはな――」

 ルイズは士郎の外套の端を掴むと、あちこちの露店に入るとアレは何? コレは何? と士郎に笑い掛けながら尋ねている。
 そんな幼い子供の様なルイズの後ろを、笑みを浮かべながら士郎はついていく。
 足を止めることなく、様々な露店に顔を出していたルイズだったが、一つの露店で足を止めた。
 ルイズが足を止めた露店は、宝石商のお店だった。
 ルイズは指輪やネックレス、色々な装飾品が並べられている様子を眺めている。
 やたらと熱心に商品を眺めているルイズに、頭にターバンを巻いた商人がもみ手をしながら声を掛けてきた。

「おおっ! なんと貴族のお嬢様がいらっしゃるとは、どうぞご覧下さい。どれもこれも『錬金』で作られたまがい物ではなく、天然の石ですぞ」

 並んでいる装飾品は、どれもゴテゴテとしていたが、ルイズはその内の一つ、貝殻を彫って作られた真っ白なペンダントを手に取った。
 ペンダントは周りに大きな宝石が嵌め込まれてはいるが、どれも質の悪い水晶であり、造りも簡単なものであった。しかし、ルイズは、そんな安っぽいペンダントを物欲しげに見つめている。
 そんなルイズの姿に、士郎は先程アンリエッタから渡された袋をズボンから取り出すと、商人に尋ねた。

「いくらになる」
「今ならばサービスで四エキューとなります」
「なっ!? たか――」

 商人がニッコリと笑いながら言い、ルイズが驚き声を上げようとしたが、その直前、士郎は袋から一円玉ぐらいの大きさの金貨を四枚取り出し、それを商人に手渡した。
 
「ありがとうございました」

 商人と士郎のやり取りを驚きながら見ていたルイズが我に返ると、頬を染めながらお礼を言った。

「あっ、ありがとうシロウ……大切にするね」

 士郎に向かって頭を下げたまま、顔を上げないルイズに口の端だけ笑みを浮かばせた士郎は、ルイズの手からペンダントを取り上げると、優しくルイズの髪をかきあげ、首にペンダントを巻いてやる。

「……んっ……ぁ……」

 突然の出来事に、まるでびっくりして硬直した猫のようになったルイズは、士郎がペンダントを首に巻く際、士郎の手が首に触れる度に、何かを耐えるような声を漏らす。

「どうだ?」
「あ……その、あの……ありがとう」

 巻き終わった士郎がルイズに着け心地を聞くと、ルイズは首まで真っ赤にした顔で士郎を見上げると、はにかんだ笑みを向けた。
 
「ん、いや。どういたしまして」

 ルイズの笑みに照れた士郎は、何とはなしに視線を隣の露店に移動させると、その露店の一画に思いがけないものを見付け驚いた。

「シロウどうしたの?」

 視線を逸らしたまま戻さない士郎の様子に、ルイズが訝しげな顔をしながら聞くと、士郎は慌ててルイズに振り返った。

「いや、ちょっと珍しいものを見つけてな……ちょっとあそこによって見てもいいか?」

 士郎が隣りの露店を指差す。士郎が示す指の先を確認したルイズが小首を傾げる。

「あそこって服? でもそれってアルビオン軍が着ていた中古でしょ? お金たくさん持っているんだし、折角だからもっといいものを買えば?」
「まあ、そうなんだがな」

 ルイズの言葉に曖昧に頷きながら、士郎は一着の服を手に取り見つめる。
 服を手に取り見つめる士郎に、この露店の店主だと思われる者が声を掛けてくる。

「お客さん、御目がたけえな。そりゃあ、アルビオンの水兵の服でさ。今なら安く提供するぜ」

 店主の声に、士郎は内心で頷く。

 水兵服か……そう言えば、あの服(・・・)も元は水兵服だと言う話しだが。

 水兵服を持ち上げ、何となく懐かしい気持ちになっていた士郎の脳裏に、とある服(・・・・)を清楚に着こなすシエスタの姿だけでなく、胸元を大胆に開けたキュルケの姿や、手が服から出ていないだぼだぼ姿のルイズ、そして……どこかいけない気持ちにさせる、とある服(・・・・)を着たロングビルの姿が浮かび、我知らず服を握る手に力が入った。

 無意識の内に士郎は店主に尋ねる。

「いくらだ?」

 声は湧き上がる何かを押さえ込むかのように、低く重く響いた。

「は、はい。さ、三着で、一エキューで結構でさ」
「なら三エキュー払う。九着もらうぞ」
 
 士郎の奇妙な迫力に押された商人に三エキューを支払った士郎は、うず高く積まれていた水兵の服の中から、九着を選び取り出した。
 中古の水兵の服を買う士郎の姿を、ルイズが呆れた顔で見ている。
 自分なら、お金をもらってもいらないものを、士郎が言い値で、しかも九着も買っている。しかも、制服を握る士郎の顔は何故か満足気であった……。
 
 




 あれから、さらにいくつか買い物をした士郎たちは、両手に荷物を抱えた姿で寮の部屋に戻ると、ルイズはベッドに腰を掛け、手に持つ始祖の祈祷書を広げた。鼻歌混じりに始祖の祈祷書を読むルイズの様子を横目に見ながら、士郎は手に持った荷物を床に置き、仕分けを始める。
 
 しばらくそのまま時間が過ぎていると、唐突にルイズが士郎に話し掛けた。

「そう言えばシロウ」
「ん? 何だ?」
「それ、どうするの?」

 ルイズが指差すのは、士郎が買った水兵の服。
 士郎はん~、と天井を仰ぐと、ニヤリとルイズに笑いかけた。

「秘密だ……まあ、もう暫らく待っていてくれ」
「? まあ、いいけど」

 納得がいかないという顔をしながらも、ルイズは頷くと、「そうそうそう言えば」と話しを続ける。

「もしかしてシロウって……わたしが虚無の使い手だって知ってた?」
「ふむ……まあ、な」
「むぅ……何で教えてくれなかったのよぉ」

 ぶすっと頬を膨らませ、睨みつけてくるルイズに、苦笑を返す。

「理由は、ルイズ自身が言っただろう」
「えっ? わたしが言った? いつ? どこで?」

 困惑した表情を浮かべるルイズ。
 ころころと変わる表情に苦笑いを笑みに変える士郎。

「巨大な力は危険を呼び込むものだ。伝説と謳われる程のものなら尚更だ」

 士郎の言葉にルイズはあっ、と声を上げる。

「だから……言わなかったの」
「いつかは分かることだったからな」
「はぁ……色々文句言いたいけど……まずは」
「ん? まずは?」

 ルイズは顔を俯かせながらベッドから立ち上がると、士郎の顔に杖を突きつけた。

「一発殴らせて」
「は?」
「エオルー・スーヌ・フィル……」
「ちょっ――」

 殴らせてと言いながら、呪文を唱え始めたルイズに慌てる士郎。

「ヤルンサクサ……」

 慌ててルイズの詠唱を止めようとするが、士郎の制止の手に気付いたルイズが、詠唱の途中で杖が振るう。杖が振るわれると士郎の足元が突然爆発し、そのため制止のためルイズに向かっていた士郎の体のバランスが崩れ、そのままルイズに向かって倒れ始めた。慌てて踏ん張るも崩れたバランスは容易には戻らず、士郎の手がルイズの肩に触れる。
 触れた力は、ルイズでも耐えられる程弱かったが、ルイズは逆らうことなくベッドに倒れこんでいく……士郎と一緒に。

「つ……すまん大丈夫か! おい?」
「ん……え? ぁ……」

 一緒にベッドに倒れたルイズに声を掛けるも、全く反応がなく焦った士郎が、ルイズの肩に手を掛け揺さぶると、ルイズはすぐにパチリと目を開いた。
 目を開けたルイズは、目の前にいる士郎に疑問の声を上げ、次に士郎に押し倒されていることに気付き顔を真っ赤にさせると同時に小さく声を上げた。
 
「し、シロウ……」

 顔を覗き込んでくる士郎に対し、ルイズはゆっくりと目を閉じ始める……がいつまでたっても何も起こらず、焦れたルイズがゆっくりと目を開けると、ベッドから立ち上がった士郎が心配気な顔でルイズを見下ろしていた。

「むぅ~……シロウ」
「大丈夫か?」
「はぁ……大丈夫よ馬鹿」
「? いきなり馬鹿は酷いな」

 いきなりの暴言に目を白黒させる士郎だが、すぐに真剣な顔になるとルイズに問いただした。

「しかし、本当に大丈夫か? 何だが様子がおかしかったが?」

 心配気に顔を覗き込んでくる士郎に、まだまだ赤らんでいる顔を左右に振る。 

「うん大丈夫……多分精神力が足りなかったんだと思うの」
「ああ。まあ確かに戦艦を落とすのに、かなりの精神力を使っただろうからな」
「そうなのよね……ん? 魔法は精神力を使うって知っているの?」
「まあな、色々と自分で調べていたからな」

 ベッドの上で座リ込むルイズの頭を撫でながら、ルイズに士郎は膝を曲げ視線を合わせる。

「あれだけの威力のある魔法なら、一晩二晩寝ただけでは再度唱えられるものではないが――」

 そこまで言うと士郎は、撫でていた頭を軽く押した。

「――今は寝ておけ、効率のいい精神力の回復の方法でも探しておく、その間ルイズはゆっくりと休んでおけ」

 そう言って士郎は部屋から出ていこうとしたが、外套をルイズに掴まれて動けなくなった。

「あ~ルイズ……その、なんだ?」
「一緒に……寝よ?」

 ベッドに寝転がった状態で、小首を傾げお願いするルイズに、士郎は――

「いや、それはさす――」
「……ダメ?」
「……はぁ」

 ――折れた。
 甘えるように囁くルイズの声には、やはり勝てず、士郎は寝巻きに着替えると、ルイズの隣で横になった。


「おやすみシロウ」
「ああ、お休みルイズ」 


 ルイズは隣に存在する固く大きく熱いものを抱きしめながら、安らいだ顔をして目をつむる……。

 士郎は抱きついてくる柔らかく滑らかな感触と微かに漂う甘い香りを感じながら、何かを耐えるように眉間に皺を寄せ目をつむる……。




 ルイズの寝息に、士郎の呟きが重なる。




「はあ……なんでさ」






 
 

 
後書き
士郎   「お、落ち着け三人とも」
ルイズ  「シロウッ! シロウはちっちゃくてもいいもんねッ!」
シエスタ 「いいえッ! シロウ君は大きいほうがいいんですッ!」
キュルケ 「なら、一番大きいあたしが一番というわけね」
士郎   「ちょっ、ちょっと――」
シエスタ 「た、確かにキュルケさんがこの中で一番大きいですけど、だからって一番というわけじゃないんですよッ!」
ルイズ  「さっ、さっきから何馬鹿なこと言ってんのよッ!! 大きさが、魅力の決定的な差でないことを教えてやるわッ!!」
シエスタ・キュルケ 「「なっ!!!」」
士郎   「る、ルイズナニをッ!!???」
ルイズ  「うりゃあああァァァ!!」
士郎   「何で服を脱ぎながら襲いかかってくるんだあああぁぁぁぁ!!!」
ルイズ  「小さいならではのッ! 素晴らしさを教えてあげるんだからあああァァァ!!」
士郎   「ぐあはぁァァ」
シエスタ 「クッ、まさかここまでやるなんてッ! ならわたしだって!!」
キュルケ 「あらあら……まさかルイズがここまでやるなんてね……だけどッ! これはこっちの得意分野よッ!! 判断を誤ったわねルイズッ!!」
士郎   「シエスタッ!? キュルケッ!? までナニをやっているううううぅううっぅうッ!!!??」
イリヤ  「たっだいまあ~! お兄ちゃん、い……る……」
士郎   「い、いりや……」
ルイズ・シエスタ・キュルケ 「あっ……い、イリヤ(ちゃん)」
イリヤ  「……ねえ、お兄ちゃん?」
士郎   「な、何だいイリヤ?」
イリヤ  「何してるの?」
士郎   「え~……と……プロレスごっこ?」
イリヤ  「そう……なら、私もやろうかな……」
士郎・ルイズ・シエスタ・キュルケ 「え?」
イリヤ  「うん……だけど、私じゃなくて……」
士郎・ルイズ・シエスタ・キュルケ 「え?」
イリヤ  「やっちゃえ……バーサーカー」

バーサーカー ――オオオオォォォォォォォォォォォォおおおおおおおおおおッッ!!!!!――

士郎・ルイズ・シエスタ・キュルケ 「ッぎゃあああああああああぁぁぁっぁぁっぁッぁぁッ!!!?」

 ルイズ・シエスタ・キュルケからの(性的な)攻撃を受け瀕死の状態の士郎に迫るのはッ!! 死んだ目をした妹ッ!!
 その名はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンッ!!!
 少女は己のサーヴァントを士郎にけしかけるッ!!
 襲いかかる身長253cm!  体重311kgの鉛色の巨体ッ!!! 

 士郎よっ!! 君は生き残れるかッ!! ていうか! これは絶対死ぬだろオオオォッ!!!?

 次回ッ! 「男ならオイルレスリングだッ!!!!」 ヌルヌルの果てにッ! ナニを見る士郎ッ!!

 
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