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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Myth10-A嵐の前の安穏~エリーゼ狂想曲

†††Sideエリーゼ†††

3日ぶりの青天。陽の光も風も気持ち良くて、今日の執務は中庭で行うことにした。庭で執務を行っていると、「おーい、シャマル」オーディンさんがシャマルさんを呼んで、「はーい♪」笑顔を振りまいて応えるシャマルさん。
そんなオーディンさん達は今、今後の事を考えて医療用品の補充と備蓄確認を、補佐のモニカとルファ、アギトとシャマルさんと一緒に医院の方でやっている。のんびりした空気で屋敷内に設けた備蓄庫と医院を行き来しているから、書類に記入しながら羨ましく眺める。
いいなぁ。わたしも交じって楽しくお喋りしたいんだけど、書類の束にガックリ肩を落とす。わたしの気分を落とす原因はそれだけじゃない。チラリとある人物に目を向ける。

「オーディン。私にも何かお手伝い出来る事があれば・・・・」

「う~ん、そうだな・・・。今のところはないかな。というかなシュリエル。私にべったりついて来なくても、君はまだ来たばかりだからゆっくり街見物でもしていれば――」

「近くに居ると迷惑ですか・・・?」

「う゛っ。迷惑ではないが・・・・、仕事ならアギトやシャマル、ルファにモニカも居るし・・・・」

「そうですか・・・・。では何かあれば仰って下さい・・・・」

「・・・判ったよ。それじゃあ紙に記した医薬品を運んで来てくれ」

「はいっ。オーディンっ」

オーディンさんがトボトボ去ろうとしたシュリエルさんの頭を撫でつつ1枚の紙を渡すと、シュリエルさんが強く頷いて備蓄庫に走って行った。表情の変化が判り辛いけど、シュリエルさんは確かに嬉しそうに微笑んでた。ペキッ。手に持ってる羽根ペンをへし折っちゃった。これで3本目だ。

「はぁ~~~」

大きく溜息を吐く。先のバルデュリス王子率いる大騎士団の侵攻から数日が経過して、わたし達にまた平穏な日々が戻ってきた。でもオーディンさん達が帰って来た時、朝には居なかった人が1人増えてた。シュリエルリートさん。オーディンさんと同じ綺麗な銀の髪、吸い込まれそうな程に深い紅の瞳。わたしなんかと比べるまでもない超絶美人だった・・・・。

(シュリエルさん・・・・強敵、だよね・・・・やっぱり)

決して男女の関係になりえないってオーディンさんは言っていた。でも、それでも気にはなるのだ。「はぁ・・・・」嘆息しながら、オーディンさん達が戦から帰ってきた後の事を思い出す。

◦―◦―◦回想なのです・・・・◦―◦―◦

イリュリアの大侵攻を知って、厳戒態勢に入ったアムル。わたしは執務室でオーディンさん達の無事を祈り続けるだけ。国境に近いと言ってもそれなりに離れてるアムルではあるけど、それでもここまで爆発音や振動が届いて来る。それまでに激しい戦なんだ。
オーディンさん達グラオベン・オルデンがいるシュトゥラが勝つのは判り切っているけれど、それでもやっぱり心配しちゃう。そんな僅かに生まれている不安も、すぐに晴れる事になる。戦場から伝書鳥が1羽。戦いが終わると、防衛騎士団の方から戦闘終了を報せる手紙を持った伝書鳥(名前はブラオ君)が飛ばされて来る。

「・・・・ほっ。良かった、やっぱりオーディンさん達の勝ちで終わってくれたんだ」

「わはっ♪ どれだけ人数を集めてもオーディン先生を討ち斃すなんて無理だよ無理♪」

モニカがわたしの手から手紙を引っ手繰って読んだ後にそう言いながら隣に居るルファに手渡した。ルファが「もう。エリーゼが呼んでる最中なのにダメじゃないの」ってわたしから手紙を引っ手繰ったモニカに窘めつつも手紙を受け取って読み始める。
そして「オーディン先生、戦船を単独で3隻も墜としたそうですよ」って苦笑して、わたしに手紙を差し出してきた。すぐにわたしに返すべきなんだけど、もう文句を言う事もない。そういう仲だし。
受け取った手紙を改めて読み返す。バルデュリス王子率いる大騎士団を退ける事に成功した、と。こちらの被害はイリュリアに対して軽微(それでも戦死者は100人以上)。オーディンさんやアギト、シグナムさん達グラオベン・オルデンが頑張ってくれたおかげだって。

「・・・・アンナ」

「ええ、判ってる。美味しいご馳走を用意しないとダメよね」

ずっと無言で控えていたアンナもみんなの無事と勝利に喜んでいるみたいで、にこやかに調理場に向かった。それから3時間後、夜も更けた頃にオーディンさん達は帰って来た。玄関でみんなでお出迎えしていて・・・・気付く。
あれ? 今朝出て行った時より1人多くないですか? 順繰りに見ていく。オーディンさん、アギト、シグナムさん、ヴィータ、シャマルさん、ザフィーラさん・・・女の人。わたし達の視線がその人に集まっているのがオーディンさん達にも判っているみたいで。

「私たちと合流するのが遅れてしまっていたが、今日、めでたく合流する事が出来たんだ。紹介するよエリーゼ、みんな。彼女はシュリエルリート。シグナム達と同じ私の大切な仲間だ」

「大切な、仲間・・・・。はじめまして。シュリエルリートです。シュリエル、と呼んでください」

シュリエルリート――シュリエルさんはお辞儀した。夜だからその綺麗な銀髪が魔力灯に照らされて光の波のように見える。ヴィータやシャマルさんのような可愛いじゃなくて、シグナムさん寄りの機微に乏しい表情なんだけど・・・・そんなの関係ないくらいに美人で、しかも「お、大きい・・・!」スタイル抜群。アンナ達がそれぞれ自己紹介していって最後にわたしが「エ、エリーゼ・フォン・シュテルンベルク、です」とにかく挨拶。

「エリーゼぇ~、お腹がもう限界ぃ~」

お腹をグゥ~って鳴らすアギトがフラフラとわたしの元に飛んできた。苦笑するアンナが「皆さん、お食事の御用意は出来てますから、どうぞ中へ」みんなを屋敷の中に招き入れた。モニカとルファ、アギトとヴィータとシャマルさんは「ただいま~♪」真っ先に入って行った。シグナムさんは絶対にオーディンさんと一緒の時はまずオーディンさんの後だから、まだ残ってる。アンナもそう。わたしが居るからまだ残ってる。そしてシュリエルさん・・・・はどうして?

「ほら、シュリエル。君も、ただいま、だ」

オーディンさんがシュリエルさんをエスコートするように背中に手を回してポンと叩いた。

「では・・・・。ただいま・・帰りました」

少し戸惑いを見せていてもどこか嬉しそうな複雑な表情と声色。迷っていたから入らなかった? 初めの頃のシグナムさん達と同じ反応だ。続いてオーディンさんも「ただいま」シグナムさんも「ただいま帰りました」と、私とアンナに挨拶。
アンナは「はい。おかえりなさい」って気持ち良く迎え入れた。でもわたしはこれ以上恋敵(シグナムさん達も否定してるけど)が増えるのはちょっと嫌だな、って思ってる。だけどオーディンさんのあの嬉しそうな顔を見たら、わたし一人の気持ちの事でそんな風に思うのも嫌だなって思う。

「お帰りなさい、オーディンさん、シグナムさん。そして、シュリエルさん♪」

だから精いっぱいの笑顔で迎え入れる。シュリエルさんが儚い笑みを見せた。ぅぐ、やっぱり美人。その日はオーディンさん達は疲れていて、食事と入浴を済ませてすぐに寝入っちゃった。わたし達も緊張で疲れていたみたいで、すぐに眠った。

◦―◦―◦回想終わりなのです◦―◦―◦

そして次の日からシュリエルさんを新しく含めた生活が始まったんだよね。思い返していると「もうエリー。あと何本折れば気が済むの?」新しい羽根ペンを持ってきてくれたアンナが嘆息。「ありがと」受け取って仕事を再開。でも気が乗らない。どうしても目が書類からシュリエルさんに向いちゃう。

「オーディン先生~、X-908Bの在庫を確認してもらってもいいですか~?」

「ああ、判った、見せてくれ」

モニカが在庫書をオーディンさんに見せるために体を寄せるんだけど、ちょっとちょっとモニカ、近い、近過ぎだって。そこまで引っつかなくても書類を見せるだけで良いでしょうが、もうっ。
まぁオーディンさんは顔色一つ変えてないから、モニカの色仕掛け(わざとか偶然かは判らないけど)にはやられてない。ふふん。わたしよりスタイルは良いモニカだけど、オーディンさんに反応なし。大きければ良いって事じゃないのが判る。

「ちょっとモニカっ。マイスターにくっつき過ぎ!」

「おおっと。アギトちゃんが久しぶりに自分から飛び込んで来たッ♪」

モニカはすぐにオーディンさんから離れてアギトを抱きしめてクルクル回り始めた。ホントにモニカは小さい子(女子限定)が好きなんだから。困ったものよね~。まぁそんなこんなで、オーディンさん達が気になってしまったわたし自身の仕事は捗らず、でもオーディンさん達は補充などなどを済ませて休憩に入った。庭でポツンと1人っきり。何やってるんだろ、わたし。大きく溜息を吐きながらテーブルに突っ伏す。

「エリーゼ。体調が悪いのか?」

「えっ? オーディンさん・・・!」

ガバッと体を起こして見ると、トレイを片手に佇んでるオーディンさん。トレイをテーブルに置く。載っていたのはティーカップとポットとクッキー。くぅ~、ってお腹が鳴って、顔が一気に熱くなる。オーディンさんをチラッと見ると微笑ましいって感じで見てくる。
は、恥ずかしい・・・。両手で顔を隠してまた突っ伏すと、「お腹が空くなら元気な証拠、だな」とわたしの頭を優しく撫でてくれた。気持ち良くて嬉しい事なんだけど、これってつまり子供扱いされてるって事なんだよね。それがちょっとだけ残念かな。

「えっと、ありがとうございます、わざわざ。アンナの仕事なのに」

「私がアンナに頼んだんだよ。エリーゼと話がしたいから私が持っていきたい、って」

「えっ? そうなんですか・・・!?」

「最近、エリーゼの様子がおかしい思うんだけど。シュリエルが来てからじゃないか・・・・?」

「(鋭い・・・)そ、そうですか? わたしはいつも通りですよ~?」

とは言うけど、実際にちょっとシュリエルさんに警戒しているから、様子が変だって思われても仕方ない気が。でも、気付いてくれるなんて・・・それってわたしの事を見てくれているんだよね。ミルクティーの用意を終えたオーディンさんがティーカップをわたしに差し出して「座っても?」と訊いてきたから、「もちろんですッ」即答。オーディンさんが対面に腰かける。2人でこうして話すのって久しぶりかも。

「だから相談に乗ろうかな、と思ってね。シュリエルは私の家族だから、相談役はアンナより私の方が良いと思うんだけど、どうだろう?」

「えっと・・・・(恋敵として見ていたから変になってた、なんて言えないよ)」

「やはり増え過ぎ、だよな。居候が次々と来て。すまないな、エリーゼ。ベルカで頼れるのは君たちだけなんだが。やはり例の空き家に――」

頭を深々と下げたオーディンさん。慌てて「ち、違うんですッ。そうじゃありませんッ。あと引っ越しは前も言いましたけど却下ですッ」否定する。すると「そっか。それは良かった。必死過ぎて少し驚いたが」とオーディンさんは笑みを浮かべた。
ドキッとする。うん、やっぱりわたしはオーディンさんの事が好きなんだ。そして「じゃあシュリエルは関係ないのか?」と今度は唸り始める。どうすればいいの?
ただ「わたしは迷惑だなんて一度も思った事ありませんから」ってきっぱり告げる。「・・・ありがとう、エリーゼ」そう微笑んでくれるオーディンさんにはどう言えばいいのかなぁ。

「悩みは個人的なもので、シュリエルさんは切っ掛けに過ぎません。もちろん悪い意味ではないですからお気遣いなく、です」

「そうなのか・・・。でもなにか相談事があれば何でも言ってほしい。力になるから」

オーディンさんが「そろそろ失礼するよ。仕事の邪魔は出来ないからね。食器類はまた取りに来るから」と立ち上がって去ろうとするのを、「待ってくださいッ」呼び止める。呼び止めちゃった。どうするというの、わたしは。もうちょっとだけ話がしたい。うん、素直にそう言えば良いんだ。だから「あの、もう少しお付き合いしてもらっていいですか?」ってお願いしてみる。

「もちろん構わないけど、いいのか? 結構書類が溜まっているようだけど・・・・」

「こんなの本気を出せば一気に終わらせる事が出来ますよ。気分転換せずにいる方が余計に滞ります」

端に寄せた書類の束をバシバシ叩く。気分が昂っていれば、こんなのサクッと終わらせられる。そのために、わたしはまだまだオーディンさんと2人きりの時間を過ごしたい。

「それは解るよ。急ぎの用でもぶっ通しでいると余計に遅れるんだよなぁ~」

「そう、それですッ。今のわたしは正にその状態なんですッ」

「そっか。ならもう少しお付き合いしよう。ミルクティーのお代りはどう?」

「はいっ、頂きますッ♪」

し、幸せだぁ~♪ でもすぐにハッとして気付く。気配が近づいて来てる。今のわたしは高性能なお邪魔虫探査システムと化している。わたしとオーディンさんの時間を邪魔しに来る何かが近付いて来ているのが判る。

――警告(ヴァルヌング)――

――警告(ヴァルヌング)――

――警告(ヴァルヌング)――

頭の中に警告音が鳴り響く(気がした)。目だけを動かしてキョロキョロと周囲を警戒。ここ中庭へと入るための扉が開いているのが判る。目を凝らすと、モニカとルファがこちらを覗いているのが見える。ううん、それだけじゃなくてアギトがこちらに飛んで来ようとしているのを、アンナが止めてるのも見えた。
ありがとうだよ、アンナ。「さっきから随分と周りを気にしているようだけど?」とオーディンさんが周囲を見ようとするのを、「む、虫が飛んでいるようで、つい追っちゃいました」って誤魔化す。もう一度扉の方を見ると、誰も居なかった・・・のも束の間、アギトがまた飛んで来ようとして、今度はシャマルさんに止められた。お、落ち着かない。これは逆に疲労が生まれそう。よし、こうなれば・・・。

「オーディンさんッ」

「おおう? どうかしたい・・・?」

「今から少しお出かけしましょうッ!」

オーディンさんは「・・・よし。じゃあ行こう」少し考えた仕草の後、わたしに手を差し伸べてくれた。そっとオーディンさんの手に自分の手を置く。これだけでもうドキドキだ。

「まずはアンナに報せておかないと駄目だな」

屋敷に向かおうとするオーディンさんに「わたしが思念通話で言っておきますッ」と告げる。いま屋敷に入ると絶対にアギトがついて来る。アギトの事は大好きだけど、ずっとオーディンさんにベッタリだから、たまにはちょっと離れてほしいかな。

「わざわざ魔導を使うの――」

「良いんですッ。魔導つかうの大好きッ☆」

「そ、そうか・・・」

必死過ぎてオーディンさんにおかしな娘だって思われるかも。で、でも今はとにかく誰の邪魔も受けずにオーディンさんとお出かけしたい。だから多少の犠牲は仕方ない。うん、そこはもう代償として諦めよう。

『アンナ。状況を見てくれていればわたしの言いたい事、解ってくれるよね?』

『はぁ~~~。本当なら止めて仕事に専念するように言うべきなんだろうけど。いってらっしゃい。エリーも1人の女の子だし、幼馴染の恋くらい応援してあげたいわ。アギトや皆さん、それとモニカの事は私とルファに任せて、気分を晴らしてきなさい』

「『ありがとうッ、アンナ♪』オーディンさん、アンナに許可を貰いました。ではでは早速参りましょう❤」

オーディンさんの左腕に抱きつきつつ正門を目指すために歩きだす。屋敷に目をやりながら「随分とあっさり許可を出したなぁ」と呟くオーディンさん。「そういう日もありますよ♪」ってわたしはオーディンさんの腕を引っ張ってひたすら歩く。
オーディンさんはわたしよりずっと身長が高い。たぶん180cmちょっと過ぎくらい。わたしは154cmくらいだから、「エリーゼ。ちょっ、転びそうだ」オーディンさんは前屈みになってしまう。でも今は一刻も早く屋敷から脱出しないといけないから、少しの間だけ我慢してもらおう。
無事に正門から出て、名残惜しいけどオーディンさんの腕を解放して、距離を取りながら「シュテルネンリヒトに寄ってもいいですか?」と尋ねる。

「どこへでもどうぞ。時間が許す限りエリーゼと付き合うよ」

男の人であるのにとても綺麗な笑みを浮かべるオーディンさんが見せた不意打ち。気恥かしさについ顔を逸らして俯いてしまう。ど、どうしよう。せっかく2人きり・・・

「オーディンとエリーゼ卿・・・・?」

じゃなくなっちゃった(涙)。振り返ってみれば、訓練教室を終えて帰って来たシグナムさん達が居た。シグナムさんとヴィータ、そしてザフィーラは騎士としての心構えや戦い方を、希望者に教える教室を開いてる。ヴィータが「オーディンとエリーゼさんはこれから買い物?」と駆け寄って来た。

「え、ええ、うん、まぁそんなところかな」

「そうなんだ。ふ~ん・・・・」

お願い、ヴィータ。ついて行きたいって言わないで。心の内で必死に願う。すると「いってらっしゃい。もうお腹が空いて倒れそうだから帰るよ」とお腹を鳴らしたヴィータが屋敷を見る。シグナムさんも「確かに空腹だな。筋の良い者が多いからつい熱中してしまう」と微苦笑。
その事で倒れる住民続出なんだけど、美人なシグナムさんや、口が少し悪いけど憎めないどころか可愛らしく思えるヴィータ、寡黙だけど優しいザフィーラに鍛えてもらえるという事で、退場者は今のところ1人も居ない。そして今は人型のザフィーラはやっぱり無言で一礼だった。うん、礼儀も正しい人だ。

「そっか。じゃあ行ってくるよ」

「はい。いってらっしゃいませ。オーディン、エリーゼ卿」

「いってらっしゃいませ。我が主、エリーゼ卿」

「いってきま~~すッ♪」

気持ち良く見送ってくれたシグナムさん達に感謝しながら、改めてシュテルネンリヒトを目指す。さて。以前までなら街中を歩いていると、騎士様とデートかい?とか、羨ましいなぁエリーゼ、だとか、恋人関係のように茶化されて困って、でも本音はすごく嬉しかったっていうのが多くあった。

「お、エリーゼちゃん。先生と久しぶりにお買い物かい? よかったね~」

「ありゃ? 先生、今日はエリーゼと一緒なんだ。妹ばかりに構ってると恋人たちに愛想つかれちゃうよ」

・・・なんだそれ。わたし妹じゃないよッ、あとオーディンさんに恋人いないよッ! ほら、腕に抱きついて恋人みたいでしょッ! だと言うのに、向けられる視線は温かく優しいもので、完っっ全に兄に甘える背伸びした妹としてしか見られてない。
とここでオーディンさんが「プッ」噴き出して笑いだす。わけが判らず「え? え?」って慌てていると、「百面相してるぞエリーゼ。あはは、可愛い」なんてまたもや不意打ち。ボッと顔が熱くなる。可愛い、なんて初めて男の人に言われた・・・・・・と思う。結局、このあとシュテルネンリヒトに着くまでわたしは、まともにオーディンさんの顔を見れなかった。

「お? エリーゼちゃん、社長(ディレクトア)・オーディン、いらっしゃいませ~❤」

シュテルネンリヒトの店主、ターニャが元気よく出迎えてくれた。真っ先にオーディンさんに駆け寄って来て「新作のデザイン出来たんですか?」って期待の眼差しを向けた。オーディンさんのデザインした服の第一号はまずシュテルネンリヒトでターニャや時々オーディンさんによって作られる。
そこからシュトゥラ王都ヴィレハイムに数着送られて、複製されてシュトゥラ全土の服飾店に回される。オーディンさんのデザインした服の大ファンは、オリジナルが売られるここアムルにまで来ることもある。と言うよりオーディンさんに会いに来てる(一部求婚していったけど、わたしが睨みを利かせてるから今は問題なし)。

「今日はエリーゼに付き合っているんだ。残念ながら新作はまだだな」

「それは残念。でも・・ムフフ。ちょっとエリーゼと2人で話しさせて、ディレクトア」

「え? なんでわたし1人?」

「まあまあ、お姉さんと秘密のお話をしようじゃないか♪」

店内の奥の部屋に連れ込まれる。さっきからニヤニヤしてるターニャに、わたしは恐れを抱く。ターニャがいきなり優しげな笑みを浮かべてわたしの肩に手を置き、「よく頑張って誘えたね」って親指を立てた。

「私、このまま別の女性に彼を奪われて、あなたが泣くんじゃないかって心配してたんだよ?」

「そ、そんなこと思ってたのっ?」

「思ってた思ってた。応援したくてもあなたったら全然行動に移さないし。どうせ一緒に住んでいて、しかもお互いが命の恩人だっていう特別な関係に甘えてたんでしょ」

「・・・・仰る通りで・・・・」

ガックリ肩を落とす。きっとオーディンさんにとってもわたしは特別なんだ、って思ってた。でも実際はみんなと等しい関係に過ぎず、下手すれば妹的に思われてるかもしれない。嘆息すると、「けど、勇気を出して今日は誘ったんでしょ? えらいえらい」って頭を撫でてくれるターニャ。

「お姉さんに任せな♪ ディレクトアに、あなたの魅力をガッツリ教え込んであげるから」

そう言って巻き尺をポケットから取り出して、「さぁお姉さんに曝け出そうね~❤」にじり寄って来た。頬が引き攣ったのが判る。ダメだ。このままターニャと2人きりで居ると何をされるか判らないから、踵を返して逃走を図る。

「逃げちゃダメ☆」

――服飾店主奥義・ヤマタノオロチ――

「うえっ!?」

胸、お腹、お尻、二の腕、ふともも、あと何故か額に巻き付く8本の巻き尺。ターニャは「一度に身体の寸法を計れるこの奥義、すごいでしょ?」なんて自慢げに笑う。今日に限っていつものドレスじゃなくて丈の短いスカート(アンナにはしたないって言われたけど無視)に、半袖ブラウス姿。
だからかなり正確に・・・・「計れるわけないよ、ターニャ」そう嘆息。寸法を正しく計るなら服を脱がないと。やれやれ、ってやりたいけど額がギュッと締め付けられてる所為で出来ない上に目が閉じられないし。

「判ってるよ。だから今から脱がすんじゃないの、ちゃんと計るために」

「ちょっと待って! 逃げないからッ、自分で脱ぐからッ、だから外してッ!」

自分で脱いで進んで計られるならまだいいけど、誰かに脱がされて無理やり計られるのは嫌過ぎる。だから説得を始めるけど、「うわ、なんか興奮してきた」ターニャはもうダメだった。そ、そうだ。オーディンさんに助けを求めよう。「オーディンさんッ、助けてくださいッ!」叫ぶ。だけど、オーディンさんが来る前に、

――服飾店主奥義・キタカゼトタイヨウ――

どうやったのか判らないけど、ブラウスとスカートが一瞬で脱がされた。下着姿になったわたしは「~~~~~~~~~~ッッッ!!??」声にならない悲鳴を上げる。とそこに「エリーゼ? 何かあったのか?」普段は耳にするだけで嬉しい声なのに、現状では絶望と悪夢と悲劇を混ぜ合わせて地獄の鎮魂歌の如きと化してるオーディンさんの声がすぐそこまで来ていた。

「ひゃうっ、来ちゃダメですッ、やっぱり来ないでくださいッ、来たらわたし死んじゃいますからッ!」

全力で叫ぶ。わたしの身勝手な言葉にオーディンさんは「そうか」一言だけ言って、店の方に戻って行った。あとで謝ろう。けどその前に、「ターニャ!」8つも離れたお姉さんを睨みつける。ターニャは「いや、さすがにディレクトアに助けを求めるなんて思わなかったし」なんて困ってはいるけど、反省の色をみせないから、もう溜息しか出ない。

「ま、まぁ償いはするよ。エリーゼにピッタリ、かつ可愛らしさを前面に、そして男を魅了させる美しさを備えた服を作ってあげるッ。もちろんディレクトアにも知恵を借りてねッ♪」

はぁ。リボンを見に来ただけなのに、どうしてこうなっちゃったんだろう。服は今のところ間に合ってるんだけど。でも「わたしだけの服を、オーディンさんが・・」作ってくれるというのは魅力的だ。ターニャが「おーい、私も一緒だぞぉ~」なんて言ってるけどもう知らない。あと、そろそろ額の巻き尺をどうにかしてほしい。目が乾いて痛いのなんのって。

「――で、改めて寸法させてもらうんで、大人しくしててね」

「だったら早く頭と二の腕と太ももの巻き尺を取ってよ。痕付いたらどうするの。特に頭の方を早くお願い。目が乾く」

ようやく額が巻き尺から解放されて、目を何度もパチクリ。あー、痛い。目頭を揉んでいると、「ひゃうっ?」いきなり二の腕をフニフニされたから悲鳴を上げてしまった。

「ちょっと!」

「少し弛んでないかい? フニフニフヨフヨならまだ良いけど、ダルダルだとディレクトアに笑われちゃうよ?」

「大きなお世話ッ! そんなにダルダルじゃないでしょッ。フニフニじゃんッ」

自分の二の腕をフニフニする。垂れてないもん、普通に柔らかだもん。

「いやぁ~、結構危ないよ、コレ」

「だったらターニャはどうなのッ?」

額と同じように解放された事で動かせる両手でターニャの服の袖を捲って、少し日焼けしてる二の腕を触る。

「・・・・ん~~、柔らかさと硬さが半々?」

首をひねる。垂れてはいないのは確か。ターニャは「ま、鍛えてるし、それに・・・。って、私の事はどうでもいいから、あなたの寸法を計るよ」なにかはぐらかされたような気もするけど、そんな事を思っていられるような余裕がすぐに無くなった。

「えっとなになに・・・・。胸囲は77.8cmか・・・・。はぁ」

「溜息吐かないでもらえますかねぇ」

「16歳でこの小ささはちょっとね~」

「うるさいよッ! 判ってるよッ、子供体型だって事くらい! でも育たないんだもん、仕方ないでしょッ!」

体を抱くようにして胸を隠す。そして何を思ったのかターニャは信じられない事を言った。

「ねえディレクトア~! エリーゼって胸囲が77.8なんだけど、小さい胸の子でも恋人候補になれ――」



「あんた馬鹿じゃないのッッ!!!!」



ターニャの口を全力で押さえに掛かる。もう完全に手遅れだけど、腰囲や臀囲までバラされたらもう生きていけない。というかもうお嫁に行けないよ~(号泣)。どうしてくれるッどうしてくれるッ。ターニャは口を押さえられても楽しげに「ふにゃふにゃほにゃほにゃ」なんて言っているのか不明だけど、きっと良くない事に違いない。

『腰囲と臀囲は平均なんだね。胸だけ平均以下って・・・・なんか可哀想』

『思念通話を使ってまで言う事ッ!? もうほっといてッ、これ以上オーディンさんに聞かれたら・・・ん?』

あれ? オーディンさんから返事が来ない。呆れてるのかも。もしかしたら、わたしの体を想像して・・・・きゃぁぁぁぁぁっ(テレ)。そんな馬鹿な事ありえないと判っていても恥ずかしくて、両手をターニャの口から離して、自分の顔を覆う。

「ディレクトア、何やっているんだろ? せっかくエリーゼの身体情報を知れる好機なのに」

そうのたまったターニャのお尻に全力の蹴り一発。喋らせたら喋らせたでターニャは馬鹿な事ばかり言う。もう頭が痛い。

「痛いっ」

「わたしの精神に苦痛を与えたその罪、当然の罰ですッ」

「訊き難い事を訊いてあげたのに、何たる仕打ち」

「だからって胸囲の寸法を正確に言う事ないでしょッ!(泣)」

「あ、そうか。言われてみればそうだね~♪」

「絶対に確信犯だッ!」

ポカポカ殴りつける。ターニャは「ごめんてば」謝りはするけど、反省の色を見せない。

「噂だと、男の人に胸を揉まれると育つって聞いたよ。ディレクトアにやらせれば・・・」

「そんなのオーディンさんにさせられるわけないでしょッ!!」

見られるだけでも恥ずかしさで悶絶しそうなのに、指先だけでも触れたらきっとわたしは昇天する。

「う~ん、じゃあ胸を大きくせずにディレクトアをメロメロにさせるには――」

「ねぇ? さっきから何言っているの? 馬鹿なの? ねぇ、馬鹿なの?」

そろそろターニャの頭が本気で心配になってきた。服を作ってくれて、それで魅了させるっていう正攻法の話はどこへ行ったんだろう。

「あ、お風呂に一緒に入って、背中を流してあげればきっと・・・・!」

「ターニャ。シャマルさんに頭診てもらおう? ね? その方が良いよ、きっと」

「あぁこれはダメか。エリーゼ、無いし」

「何が無いのか言ってみ? ん? 言ったら言ったで蹴るけど」

残念なものを見るような哀しげな視線を、わたしの体の一部に向けるターニャの脚を蹴る。痛いはずなのにそんな素振りを見せずに「手堅く料理ね、やっぱり、うん」ようやくまともな事を言ってくれた。

「そうだ。好物を訊きに行こう」

ターニャが扉に向かっていく。そしてガチャッと開けた。オーディンさんは店内に居た。「おーい、ディレクトア~」ターニャが呼び掛けた。ここでわたしは途轍もない失態を犯していることを思いだした。わたしは下着姿のまま。血の気が引いて、けどすぐに血が頭に上る。部屋の奥に行って服を着ないと。
そう思ったのに、未だに解かれていない巻き尺の所為でターニャから離れられない。これも確信しての行動というわけっ!? 「お願い、ターニャ! 服を着させてッ」懇願する。

「ちょっと待って。ディレクトアの様子がおかしいんだけど・・・・」

「服を――へ? オーディンさんが変?」

真っ先に思い浮かんだのが記憶喪失の事だった。ターニャを壁とするようにして覗き見る。オーディンさんは別に苦しんでいなかった。ホッと一安心。「呼び掛けても聞こえていないようなんだよね」って首を傾げるターニャがもう一度「ディレクトア!」って大声で叫ぶけど、オーディンさんは無視。本当に聞こえていない・・・?
ターニャが直接呼びに行くつもりか部屋を出て、オーディンさんの元へ行こうとする。でもそんな事になればわたしは下着姿のままでオーディンさんの目の前に行く事になる。それだけは何としても阻止しないと。そう思って、これ以上ターニャを進ませないように踏ん張ったその直後、オーディンさんが振り返った。

「「「あ」」」

オーディンさんと目が合う。けどすぐにオーディンさんはスッと目を逸らした。な、ななななな何か言ってし、しししし釈明さないと。だけど口から出るのは「あ、あ、あの、あのあの」だけ。頭の中が真っ白になる。目が、顔が、耳が、体が熱い。ポロポロ涙が零れるのが判る。

「あ~あ、エリーゼったら。下着姿で外に出るなんてはしたないよ?」

「エリーゼ。風邪をひいたらいけないから、早く服を着ような」

「い、い・・・・いやぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああッッ!!」

体を抱いてしゃがみ込み、悲鳴を上げる。それが、今出来る精一杯の行動だった。結局、その日は恥ずかしさの所為でそれ以上オーディンさんと一緒に居る事が出来ず、別々に帰り、夕飯もオーディンさんだけじゃなくみんなと別々で済ませた。
そして・・・・

「ターニャ許すまじ、ターニャ許すまじ、ターニャ許すまじ、ターニャ許すまじ、ターニャ許すまじ」

頭を冷やして、なんとかオーディンさんと顔を合わせていつも通りお話しが出来るように頑張ろうと意気込んだわたしは今、オーディンさん達の居るフロアへと来ている。
廊下を歩いていると、シュリエルさんの後ろ姿を発見。どうしたんだろう?と追いかけてみると、露天風呂に行くところだった。なんだ、お風呂か。そう思っていた時、男性用脱衣所の方から、「今日は参ったなぁ。エリーゼに謝らないと」というオーディンさんの声。
オーディンさんが入ろうとしているお風呂に、シュリエルさんも入ろうとしている・・・? 後先考えずにシュリエルさんに向かって疾走。何かを喋らせる前に手を引いてその場から離脱。

「エリーゼ卿? いきなりどうしたのですか?」

「それはこちらの台詞です! オーディンさんが今から入るんですっ! そしてシュリエルさんは女性なんですっ、だったら上がるまで待たないとダメなんですっ! だというのに何故、一緒に入ろうとしたんですかっ!?」

大人しそうなシュリエルさんがこんな大胆なマネをするなんて思いもしなくて驚いた。まさか「シュリエルさんとオーディンさんって、前々から一緒にお風呂に入る仲なんですか?」って恐る恐る尋ねてみた。返答によっては、わたしの恋はこれにて閉幕だ。

「いいえ。今日が初めてですが・・・・」

「だったらどうして急に・・・・?」

「夕方、オーディンと親しい者に、オーディンに喜んでもらえるような方法はないのかと相談したところ、風呂で背中を流してあげればいい、という事でしたから」

どこかで聞いたな~、その話。

「誰から聞いたか、教えてもらってもいいですか?」

「?? はい。シュテルネンリヒトという服飾店の主ターニ――」

「ターニャぁぁぁぁあああああああああああああッッ!!!!!」

アイツ(もうアイツで十分だ)の店、潰しちゃおうっかな~!!


 
 

 
後書き
ヤクシミズ。
とんでもない馬鹿話で申し訳ありません。最近は出番が無かったエリーゼに焦点を合わせ繰り広げられた今話。
『魔道戦記リリカルなのはANSUR』が私の最後の作品となりますので、前作並(もしくはそれ以上)に馬鹿話を出していきたいと思っています。
 
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