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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Myth8シュトゥラの魔神~Odin Saintest Von SchserwaloaD~


†††Side????†††

国境で待ち構えていた国境防衛騎士団と王都近衛騎士団の混合騎士団と合流した私とシャマルさん。オリヴィエ様付きの騎士である私が姿を見せた時は凄く驚かれたけど、オリヴィエ様の御指示だと伝えるとすんなり(言わずともそうなっていたと思うけど)受け入れてくれた。

「はふぅ、それにしても・・・・」

酷い目に遭った。まさか空を飛ぶ事があんなに怖いものだったなんて。空を飛ぶ事にずっと憧れていた。でも今日のオーディンさんと飛んだ体験からして、ちょっと考えさせられた。私に空は合わない。うん、別に空を飛べなくたって、魔法陣で足場を作る魔導・法陣結界で十分だ。

「騎士リサ。えっと、大丈夫?」

「あ、はい。ちょっと酔っているようでフラフラしますけど、何とか大丈夫です」

シャマルさん。私を抱えて地上にまで降ろしてくれた、もはや恩人のような女性。王城で、オーディンさんと同じお医者様だと伺っている。おっとりした、優しい御方だ。私がそう答えると、シャマルさんは「これから大事な戦いが始まるから、治しておきましょ」と、治癒魔法を掛けて下さった。
それで本当は辛かったフラつきが治った。感謝を告げると、シャマルさんは「いいえ。癒しと補助が私の役目ですから」と笑みを浮かべた。安心できる笑顔だなぁ、と思っていると、空が一瞬だけど強く光った。

「始まったみたいね」

シャマルさんが空を見上げて言う。私や騎士団の皆さんも同様に空を見上げる。そこには凄絶な光景が広がっていた。蒼い閃光と化しているオーディンさんの周囲に3ケタ近い槍が展開されていた。これらが一斉に1隻の戦船に突撃して行って、次々と着弾して爆発を起こしていった。
最初の数本の槍で防御障壁が砕け、残りで外壁や艦側面に在る砲台を破壊していく。他の2隻からオーディンさんに向けて幾条もの砲撃が放たれるけど、高速かつ複雑な軌道で空を翔けるオーディンさんには掠りもしない。
防衛騎士団の皆さんからは「相変わらず速いなぁ、騎士オーディン」とのんびりした声が漏れ、近衛騎士団の皆さんからは「なんだあれっ?」「うわっ、すごいなっ」「あれが噂の・・・!」などなどの驚愕の声。

「単独の魔導で戦船の障壁と外壁を突破する攻撃力、2隻からの砲撃を回避しきる機動力・・・確かにあれだけの戦力なら人だけの騎士団なんて一溜まりもない・・・」

開いた口が塞がらない。一目オーディンさんを見た時、あの方の実力を計り損ねた。今なら解る。計れなくて当たり前だ。計れるはずがない。あんなデタラメな・・・。砲撃を避けきったオーディンさんが外壁を破壊した戦船の中に侵入して行った。そしてすぐにその戦船の至る所から爆発が起き始めた。本当にオーディンさんは単独で戦船を撃沈させるつもりだ。

「イリュリアの動向に変化がありましたっ」

ここへ向かって進軍して来ているイリュリア騎士団の動きを視ている騎士の方から報告が上がる。進軍していたイリュリア騎士団は軽い恐慌状態に陥って、進軍を止めているとのこと。当たり前過ぎて何も驚く事ない。対人戦で反則とでも言える戦船を、対する人間が単独で墜としたんだから。

「このまま退いてくれれば無駄な血を流さなくて済むのだけど」

「そうですね。シュトゥラに攻め込むのがどれだけ無駄な労力か、これで思い知ってくれればいいんですけど」

シュトゥラはそれほど強い国じゃなかった。だけど、オーディンさんが付いた事で一気にその戦力は増大した。たった1人が加わったことで変わるなんて悪夢みたいだろうね、敵国とからすれば。緊張感が漂う中で待機している私たちに「イリュリア騎士団の進行が再開されましたっ!」と報告が入る。しょうがないか。向こうもいろいろ大変なんだろうなぁ、最近は負けっぱなしだし。

「各騎! もうしばらくすればクラウス殿下がいらっしゃる。殿下に無様な戦いは見せられないっ、判っているなっ!」

この混合騎士団の将を任されているらしい方がそう言うと、他の皆さんが「(ヤー)ッ!!」と叫び返す。あまりの声量に思わず耳を塞ぐ。すごい熱気。アウストラシアの近衛騎士団もこれだけ元気ならいいんだけど。みんな冷めてるから。
同僚の事を思い出していると、「シャマル」と太い声が聞こえて来た。見ると、頭に獣耳とお尻から尻尾を生やした男性が1人。シャマルさんは「ザフィーラ」と駆け寄って行く。オーディンさんが仰っていた、アムルでお留守番しているもう1人、というのはおそらくあの方。

「主オーディンは・・・・空か」

「ええ。御覧の通り。オーディンさん、戦船を相手に戦っているわ」

何度も爆発を起こし続けながら次第に高度を落としていく戦船。あの戦船はもう終わりだ。他の2隻が落ちて行く戦船を見てどういう行動に移るか、ちょっと興味深い。

「各騎。こちらも進軍を開始する。数は圧倒的に劣っているが、恐れる事は無い。歴史は深くとも、その暴挙は数知れず。イリュリアのこれ以上の暴挙を許すな。進軍開始!」

こうして私たちもイリュリア騎士団を迎え撃つために進軍を始めた。

†††Sideリサ⇒シグナム†††

戦船が徐々に落ちて行く。所々から爆発を起こし、魅了されてしまうほどに美しい蒼の閃光を撒き散らしながら。ヴィータが「すげぇ。オーディン、本当にすげぇ」と繰り返し、我らの主であるオーディンに驚嘆している。私とて同じ感想しか出て来ない。よもやこれ程の力を持っていようとは。今まで仕えてきた主とは正しく格が違い過ぎる。

「――って感心してる暇ねぇか、もう始まっちまってる」

「ああ。急ぐぞ。こちらは数で圧倒的に負けている。少しでも実力のある者が参戦しなくては押し切られる」

「シグナム。そんな心配はいらないよ。マイスターが居るんだから」

アギトが胸を張りながら言う。確かにあんな圧倒的過ぎる火力を用いれば対人戦では最強だろうが、オーディンには様々な制限がある。それを思えば手放しで安心できない。それゆえに少しでもオーディンの負担を減らさなければ。そのための我ら守護騎士ヴォルケンリッター。オーディンの信念に連なるために、戦場へ立つ。

『シャマル、ザフィーラ。私とヴィータとアギトもこれより参戦する。お前たちは今どこに居る?』

『私は後方で支援を担当しているわ。負傷者の治療を最優先としてね。ザフィーラなら最前線で敵騎士を薙ぎ払ってるわ。やっぱり守るものの為に戦うという事が力の源になるみたいね。そう言う私もそうだけど』

『そうか。・・・・ああ、私もそうだな』

“レヴァンティン”を横目で見、すぐに戦場へと視線を戻す。そして、「行くぞ、レヴァンティン。信念の下に、我らは戦う」と告げる。“レヴァンティン”はただ≪Ja≫と一言。

「そんじゃま、あたしらもとっとと始めちまおう。な、アイゼンっ」

≪Jawohl. Explosion≫

ヴィータは“グラーフアイゼン”のカートリッジをロードし、「シグナム。あたしはあっちから片すから」と言い、そのまま進路を変え飛び去って行った。ヴィータもまた守るための戦いが嬉しいのだろう。以前までのヴィータなら苛々として、周囲に当たり散らしていたが。さて「アギト、お前はどうする。オーディンは空の上だ。合流するのは難しいだろう」と、側に居るアギトに訊く。

「うぅ~・・・確かにあんなところに行ったら無事じゃ済まないだろうし、それ以前にマイスターの速度に追いつけない・・・・」

そもそもアギトどころかどんな者でも追いつけまい、オーディンのあの速さには。私とてあれは無理だ。ゆえに「なら私と共に来い。単独で動き回るよりかは良いだろう」と提言する。アギトは少しばかり考える仕草をし、「う、うん。マイスターからも融合の許可もあるし、一緒に行く」と首肯した。
そうと決まればすぐに動かねば。並居るイリュリアの騎士団に突っ込む。我らの姿を確認したイリュリアの騎士が「新手だ。気を付けろ」「フォーアライターの騎士の報告にあった女剣士だ」と騒ぎだす。

「グラオベン・オルデン、シグナム。参る」

「同じくグラオベン・オルデン、炎の融合騎アギト!」

――紫電一閃――

――フランメ・ドルヒ――

“レヴァンティン”のカートリッジを1発ロードし、刀身に紅蓮の炎を纏わせ一閃。敵騎士を斬り払っていく。アギトも炎の短剣を複数射出し、多数の敵騎士を撃っていく。それにしても数が多いな。味方の騎士も善戦しているが、やはり数が圧倒的に少な過ぎる。どこを見ても必ず敵騎士の姿が視界に入る。それから我々は、参戦してから10分ほどの間ずっと敵騎士を斬ったのだが・・・

『くっそぉっ。アイゼンでどんだけブッ叩いても全然数が減らねぇっ!』

『だからと言って焦りを見せ、下手を打たんようにな』

『判ってんよ。てか、思念通話なんかしてる暇があったら少しでも数を減らせよシグナム』

張り切るのはいいが、馬鹿な真似だけはしないでもらいたいものだ。それに一方的に思念通話を繋げたのはお前だろう、ヴィータ。と文句を言う暇もなくまた一方的に切られた。しかしヴィータの言う通りまったくと言っていいほど敵の数が減っていないようにも見える。

『アギト。ここで時間を取られるのは得策ではない。融合、行けるか?』

『・・・うん。ロード・シグナムとの融合準備』

先の戦闘の後、オーディンに私とアギトが無許可で融合した事を詫びた。しかしオーディンは我らを叱るどころか、

――構わないよ。私よりシグナムとの相性がずっと良いだろうしな。もしアギトとシグナムが良いのなら、2人にはロードと融合騎の関係となってもらいたい――

そう言って微笑んでいた。確かに同じ炎熱系の魔力変換を得意とし、魔力光も同じ。相性で言うならば確かに私とアギトは最高だと言えるだろう。融合状態も完全だった。だからと言って私がロードになっていいのか?という迷いもあった。しかしアギトの話によると、オーディンとアギトは上手く融合が出来ないそうだ。融合できる時間は最大で30秒。それ以上は弾き出される、と言っていた。

「「融合っ!」」

アギトと融合を果たし、我々の最大火力を数倍にした融合形態となる。「融合形態だっ! 油断するなっ、強敵だぞっ!」とより一層騒然となる。しかしもう遅い。すでに周囲一帯が攻撃可能範囲だ。“レヴァンティン”のカートリッジを2発ロードし、シュランゲフォルムへと形態変更する。

――シュランゲバイセン――

“レヴァンティン”の刀身を伸ばし、周囲に居る敵騎士のみを討っていく。だが中には腕の良い騎士もおり、“レヴァンティン”の軌道を読み、回避に成功する者も当然出てきている。
私に肉薄しようと跳びかかって来た数人の騎士。しかし私は独りではない。『防御が薄くなった隙を埋めるのもあたしの役目だっ』とアギトが私の内で言う。私の周囲に火炎の弾丸が生まれる。

――ブレネン・クリューガー――

そして放たれ、直撃せずとも僅かに生まれたその隙を突き、“レヴァンティン”で斬り払っていく。この短い攻撃だけですでに十数人と討ち取った。しかしまだまだ敵は居る。もし全員がオーディンを討つために用意された戦力であると言うのであれば、納得のいく数だ。だがそれでもオーディンは討てまい。オーディンが万全の状態で居る以上、まず勝てないだろうからな。

†††Sideシグナム⇒????†††

支天の翼シュリエルリート。此度の“闇の書”の主であるオーディンが、私の為だけに考えて贈って下さった、私だけの名前。
永きに亘り旅をしてきた我らだが、これまでの主にまともな扱いを受けた事は無かった。しかし、「これがこの戦船の動力炉か。確かに膨大な魔力を感じる・・・よし」と、この戦船を動かしている動力炉を見上げ、満足そうに頷いている我らが主オーディンは、戦の道具であった騎士たちを家族として見てくれ、迎え入れてくれた。

「シュリエル。少しばかり私は無防備になる。その間、敵が来たら迎撃してもらいたい。頼めるか?」

「はい、もちろんです。オーディンに害為す者が来れば、必ずや排除いたします」

命令ではなくお願い。そこからして今までの主とは違う。私は踵を返して動力室の入口へと向かって歩く。その途中、僅かに振り向き、オーディンの後ろ姿を横目で見る。オーディンは動力炉へと手を伸ばし、ピタリと手の平を付いた。そして小さく「コード・イドゥン」と呟く。
目を疑う光景。戦船の動力である魔力が、オーディンの手へと吸収されていく。オーディンは魔力の枯渇によって記憶を失う。それに対する策が、おそらく今の魔力吸収。あれならば魔力を消費しても供給できる。激しい震動が私とオーディンを襲う。動力を失っていく事で戦船が墜落しようとしている。

「シュリエル、脱出するぞ」

――女神の陽光(コード・ソール)――

オーディンは内壁に手を翳し、強大な蒼炎の砲撃を放ち、壁に大穴を開けた。たった一撃で分厚い戦船の装甲を貫通する、溜めが無くとも発揮されたその威力に、私は軽く戦慄した。しかしオーディンはその圧倒的な力を支配や破壊の為ではなく、守り救うために使うという信念を持っている。だから私や騎士たちは何も憂うことなく付いて行ける。きっとオーディンの選び進む道は間違ってはいないのだから。

「スレイプニール・・・!」

背に構成されている三対の黒翼を羽ばたかせ、蒼光の剣翼と細長いひし形の翼、計22枚を背負うオーディンの後に続いて私も船外へと飛び立つ。それとほぼ同時だった。別の2隻の戦船が、先程までオーディンと私の居た戦船に向けて幾条もの砲撃を放ったのは。
一斉掃射を受けた戦船が爆散する。衝撃波や破片に巻き込まれてしまう。そう思った時、オーディンが私の体を抱きかかえてくれた。視界が一瞬真っ白となる。視界が元に戻った時、私はオーディンに抱きかかえられている状態で、戦船は遥か下。

「さぁ2隻目に行こう・・・!」

オーディンは私の腰に回していた腕を離し、それだけを言って急降下。私も続けて急降下を開始。私たちを迎撃するために放たれた艦載砲撃は曲線を描き、私たちに迫ってくる。オーディンは速度を緩める事なく突撃を敢行。砲撃を最小限の動きのみで回避しきって行く。私も続くが、あれほど滑らかな動きは出来ず、停止と急加速を繰り返して回避。

――屈服させよ(コード)汝の恐怖(イロウエル)――

オーディンの左右に巨大な蒼い円環が展開される。それより出でるは、一対の白銀の巨腕。戦船よりずっと小さいが、それでも一番小さい小指でも周囲50mは優に超えている。そのうえ膨大な魔力を秘めているのが否応なく理解できる。大きさなど最早関係ない。
オーディンは「ジャッジメントッ!」と指を鳴らし、右の巨腕で1隻の戦船を鷲掴み、左の巨腕で拳打を放った。障壁に妨げられ、周囲に強烈な衝撃波が放たれた。だが障壁はそう長くもたなかった。不可視の障壁が目視できるほどにヒビが入っていき、砕けた。左の巨腕もまた戦船を鷲掴み、その動きを一切封じ込めた。

「突入する。シュリエルッ!」

「はいっ!」

――轟き響け(コード)汝の雷光(バラキエル)×3――

オーディンは蒼雷の砲撃を3発同時に放ち、戦船の外壁に大穴を開けた。先に突入したオーディンに続こうとしたが、「止まれッ!」と呼び止められた。振り返ると、敵の空戦騎士団がズラリと並んでいた。

『イリュリアの空戦騎士かっ?』

『ここは私にお任せをっ。オーディンは戦船の方にお願いいたしますっ』

『・・・・任せるぞ、シュリエルッ!』

「『はいっ!』・・・ここから先は行かせん」

オーディンの壁となるため私は船外に留まり、イリュリア騎士へと意識を集中させる。それぞれが剣や槍や斧などと言った武装を構え、「いざ覚悟っ!」と襲いかかって来た。空戦が行える騎士は実に珍しい。空間把握能力などと言った必須技術が多いからだ。
そう言った技術面や才能などの要素が必要なために、無理して空戦技能を習得する者は多くない。ゆえに騎士は基本的に陸での戦闘だ。騎士は派手で複雑な技能など要らない。

「(それでもなお空戦技能を有するのであれば、それは・・・かなりの強者、ということになる)グラオベン・オルデン、支天の翼シュリエルリート・・・参ります」

――ブルーティガー・ドルヒ――

手始めに、迎撃の為の高速射撃の短剣を複数射出。奴らはパンツァーシルトや手にする武装で防御。防いだのには驚嘆だが、その代わり動きを止めたその隙を見逃すような私ではない。魔力球ハウリングスフィアを4基設置し、「響け」私自身と4基の魔力球より同時多角砲撃ナイトメアハウルを放つ。咄嗟に回避できた者以外は今の一撃で墜ちた。甲冑を撒き散らせながら地上へ落下して行く。

「すまないが、早々に終わらせてもらう。闇に・・・・染まれ」

――デアボリック・エミッション――

私を中心として球体状に爆ぜる、純粋魔力による広域空間攻撃を行うデアボリック・エミッションを発動。防御関連の魔導を発動する事への阻害効果があり、並の騎士が防御をしたところで否応なく突破され撃破される。現に私に向かってきた騎士たちは今の魔導で全員が墜落して行った。

『オーディン。船外の騎士団の撃破を完了しました。御指示を』

『早いな。なら君も地上に降りて、シュトゥラの騎士団の援護に回ってくれ』

『もう1隻の戦船やオーディンの援護は、もうよろしいのですか?』

『ああ。私は単独で大丈夫だ。それにもう1隻の方もすぐに片付ける。気がかりは地上だ。少しでも戦力を地上に回した方が良い』

『・・・・判りました。御武運を』

『シュリエルも。無茶はしないようにな』

思念通話が切れる。「無茶はしないように、か」その御心遣いが嬉しかった。地上を見回す。シュトゥラ方面から四桁近い騎士が進軍して来ている。味方だ。対するイリュリアの騎士団だが・・・・少なからず離脱している騎士が目立ってきた。
深手を負い、戦線を維持できなくなってしまった騎士だろう。こちらも負傷した騎士が多いが、風の癒し手を始めとした治癒術師が多いために戦線復帰する騎士が多い。おそらく此度の戦はシュトゥラの勝利で間違いないだろう。このまま何事もなければ、だが。

「なら少しでもこちらを優勢にしておこう」

オーディンの御指示の下、私は地上へと向け降下する。

†††Sideシュリエルリート⇒オーディン†††

私を迎撃に来た騎士たちを片っ端から討ちながら、通路をひたすら翔ける。目指すはこの戦船を動かす心臓・動力炉。魔術を使って消費した魔力を供給するためにだ。魔力を吸収する魔術・女神の救済(コード・イドゥン)。今のところは上手く機能していて、魔力枯渇による記憶の消滅を防いでくれる。

「――っと、さっきの艦と同じ構造なら、次の十字路を右に曲がって、無駄に広い部屋を突っ切った後だな」

先に沈めた艦のマップを思い浮かべる。3隻全てが同型艦だったから、まず間違いなく内部構造は同じだろう。十字路へと着き右折。数百mと進み、通路と部屋を隔てる扉に突撃を掛けるようとしたところで、扉の奥から圧倒的な戦意が漏れ出している事に気付いたため、一度飛翔を停止。

(なんだ? この馬鹿正直とも言える戦意は・・・・)

ヘルモーズを解除し、通路の床に降り立つ。そして両開きの扉を開け、戦意を放っていた馬鹿正直な存在の正体を視界に入れる。迷彩服のような騎士甲冑。四肢に武装しているカートリッジシステム搭載の籠手と具足には、指の数と同じ計20本の鉤爪。アギトとシグナムとヴィータから聴いていた、フォーアライター・オルデンの団長・ファルコ・アイブリンガーの特徴と一致。

「戦船なんて、対人戦に引っ張りだすような戦力じゃないと思っていたけどさ、あんたの前じゃただの的だったわけだ」

「ファルコ・アイブリンガー、だな。先日は世話になったな。味方が13人、死んだ」

そう言いつつ室内に入ると、背後の扉が勢いよく閉じられた。逃がさない、と言いたいようだ。元より逃げるという選択肢など無い。「こっちも何十人と殺され、再起不能にされた」と応じてきたファルコに歩み寄って行く。

「戦争だから戦死者が出るのは当たり前、というのが真理だ。けどさ、それでもやっぱり許せないんだよ、仲間を討った奴の事を」

「そうか。私とてそうだ。付き合いは短いが共に戦った仲だ。毒なんぞで最期を迎えた騎士たちの恨み、ここで晴らすのも良いな」

ファルコ達フォーアライター・オルデンは騎士の誇りを捨て、外法を用いてでも勝利を得ると言う連中だそうだ。それもこれもベルカ統一の座を母国イリュリアに捧げるため。真正の外道ならまだ良かったんだけどな・・・。何も無い大きいだけの正方形の空間。空戦が行えそうなほどにだだっ広いその部屋で、私とファルコは対峙する。

「毒はあんたを討つためだけの戦術だった。俺が解毒剤を持っていると告げ、あんたの周りから味方を引き離して俺たちに引き付けておいて、あんたをじわじわ毒で侵し、死なせるという。しかし結局、あんたは生き伸びた。巻き込まれた防衛騎士団には最悪な展開だよな」

「(ファルコには融合騎が付いている、という話だったが・・・・にしても)お前への考えを改めよう。やはりお前は外道だ。私を討ちたいなら真っ向から挑んでこい」

「それが出来たら苦労なんかするかよ。なんだよ、このティルピッツを押さえ込んであるあの巨大な腕は・・・・よッ!」

ファルコを中心として膨大な煙幕が発生する。煙幕ではなく毒であってももう通用しない。戦闘甲冑の防御効果に対毒関連の術式を復活させておいたからな。室内の気圧を魔力で操作して突風を起こし煙幕を晴らす。室内ゆえに籠るかと思ったが、どこからか換気されているのか晴れていった。

「これは・・・!」

先程までは何も無かったこの大きな部屋がガラリと変化していた。どこをどう見ても深い森の中。無機質な床だったモノが草木の生える土となっていた。

「シミュレーターのようなものか・・・?」

管理局の訓練シミュレーターに類するものだと認識する。質感や匂いまでもが再現されている。この時代にすでにこのようなモノが在ったんだな。少しばかり“機動六課”時代の思い出に浸ってしまう。まぁもちろん深く浸る暇などないが。
ズンズン、と木々を踏み締めて跳躍している音が聞こえる。ファルコは木々を足場にして移動しているようだ。そして突然音が途切れた。周囲に意識を巡らせ・・・・気配を察知。

――暴力防ぎし(コード)汝の鉄壁(ピュルキエル)――

振り向きざまに対物障壁・蒼光の盾ピュルキエルを発動し、高速で突撃してきたファルコの一撃を防御。至近距離で視線が交わる。ファルコは「初手を完璧に防御する奴はあんたで2人目だよ」と言い放った後、また森の奥へと消えて行った。

「あんた、卑怯だよ。人間に許された一線をとっくに超えてるよ、あんたの魔導」

――クラオエ・デス・イェーガー――

また突撃してきた。ハンターグリーンの魔力光を纏った両手の鉤爪による刺突攻撃。伸ばされているのは右手のみ。回避しては、引き絞られている左の鉤爪で追撃を受けるな。ならば防御でファルコの動きを封じた後、カウンターを喰らわせる。対物・対魔力の効果を持つ、無数の小さな円盾を組み合わせて巨大な1つの円盾とする防性術式、

――護り給え(コード)汝の万盾(ケムエル)――

ケムエルを展開。ファルコの攻撃はケムエルによって防がれ、間髪入れずに突き立てた左の鉤爪も防ぐ。背後から一撃を喰らわせるために魔術をスタンバイしようとしたところで、背後から魔力反応。すぐに風の融合騎フュンフのものだと察する。振り返ることなくケムエルを背後にもう1つ展開。そしてケムエルに着弾する衝撃波。前方のファルコをケムエルごと押し返して弾き飛ばし、背後に居るはずのフュンフに向けて、

――咲き乱れし(コード)汝の散火(マルキダエル)――

蒼炎の魔力弾を7基射出し、背後の森へ進入したところで「爆散粛清(ジャッジメント)」と告げる。マルキダエルは炸裂弾としての効果を発揮。7基のマルキダエルは炸裂し、無数の小型火炎弾となって背後の森を蹂躙した。爆発の余波が届き、私の後ろ髪を激しく揺らす。と、爆発の衝撃波に紛れてフュンフの攻撃であろう真空の刃が私の頬を掠めた。私は姿の見えないフュンフへ向け「やるな」と称賛を贈る。

「そんな掠り傷を付けた程度で私は喜ばないわよ」

室内に反響する少女の声。それに「まぁ掠り傷とは言え、騎士オーディンに一撃与えた事には変わらねぇよ」とファルコの声もまた反響しだした。完全に姿を晦ませたな。爆破した森も復活しているし。早々に勝敗を決して次の艦を墜としに行きたいんだが・・・。

――グラナーテン・ヴィント――

頭上から風の魔力弾が数基降り注いできた。その場から前方へと跳び、回避する。床に手を付いて前転している最中に頭上へ向けて、

――舞い振るは(コード)汝の雷光(パシエル)――

蒼雷の魔力槍を12本射出する。パシエルは天井に着弾して周囲に雷光を撒き散らすが、フュンフとファルコにダメージは与えられなかったようだ。

――ヴォルフ・クラオエ――

気配。しかし姿は見えない。とにかくその場から離れようとしたが、その前に右袖を裂かれた。ステルス、か。ヴィータが言っていたな。すぐさま魔力弾を連射したが、ファルコに当てられなかった。奥の木々がガサガサと揺れる。そこに向け魔力弾を再度連射――したところで、後方からフュンフの衝撃波。風を集束させた魔力槍・巻き起こせ(コード)汝の旋風(アムブリエル)を全力で振るって気流を乱し相殺する。
ガシャ、と具足が床を踏み締める音が耳に届いた。大きく腕を振るった事で開いてしまっている私の懐へ、ファルコが最接近してきたようだった。なかなかの連携だ。が、純粋魔力刃・知らしめよ(コード)汝の忠誠(アブディエル)を両手の肘から手の甲、五指に掛けて創り出す。
ファルコの姿が僅かに見えた。両手を床に付き、具足の鉤爪に魔力を纏わせた両脚蹴りを放つ体勢。右前腕の魔力刃アブディエルで受け止め、左手の五指に纏わせたアブディエルでファルコの脚をガッチリ鷲掴み、「そぉぉらぁぁッ!」床に叩きつける。

「うごおっ・・・!」

「続けて行くぞ・・・っ!」

――知らしめよ(コード)汝の力(ゼルエル)――

魔術効果および身体の強化を行うゼルエルを発動。地面に倒れて咽ているファルコを全力で蹴り飛ばす。フュンフの攻撃に警戒しながら追撃の高速砲撃をスタンバイ。

――ギガント・アーテム――

発射直前、十分すぎる質量を持った暴風が私に重く圧し掛かって来た。思わず両膝を床に着いてしまう。というか・・・「キツ・・・!」最早重力を掛けられているかのようで、私を中心に地面にヒビが入っていく。
正直侮っていた。融合騎が、しかもプロトタイプと言われている子が、これだけの強力な魔導を扱えるとは。アギトではこうはいかないだろう。あの子にも轟炎という大魔法があるが、それとはまた別段に強烈だ。

「「融合!」」

耳に届くフレーズ。森の奥から強烈な発光と膨大な竜巻が発生したのが判った。暴風からようやく解放されたところで、早速ファルコらが攻勢に打って出て来た。

――ヴィント・ホーゼ・フェッセルン――

私の四肢を捕らえようと発生した竜巻状のリングバインド。咄嗟に離脱を図り、ギリギリで逃れる事が出来た。とほぼ同時に「喰らいやがれッ!」という攻撃を示す声。

――シュトゥルム・デス・オクテット――

周囲に細い竜巻が8つ発生し、私を包囲。そして竜巻はうねりを見せ、一斉に先端を私に向けて襲いかかって来た。防御に専念するか回避を徹底するか。私は幼少の頃から防御はあまり好みじゃない。だから機動力を最優先に鍛え上げてヘルモーズを創り、次いで攻撃力を鍛えた。遠距離攻性術式が多いのは、私を兵器としてしか見ずに調整した馬鹿親の所為だが。

「どうであれ・・・私に防御は似合わない・・・よなっ!」

――我を運べ(コード)汝の蒼翼(アンピエル)――

背より12枚の剣翼アンピエルを展開し、迫る竜巻を飛翔で回避。追撃してくる竜巻を見、ファルコとフュンフに聞こえるように「私も似たような魔導を使えるぞ」と宣告。

――削り抉れ(コード)汝の裂風(ザキエル)――

削岩機(ドリル)のような形状の竜巻砲撃ザキエルを8基放ち、迫る竜巻を取り込み、そのまま外壁を粉砕し船外へと出す。

「シュトゥラの悪魔、か。悪魔なんて、もうそんな生易しいものじゃないぜ、あんた。悪魔の上役・・・魔王・・・いいや、もはや魔神の域だよ」

――シュトゥルム・デス・オクテット――

――グラナーテン・ヴィント――

――ヴィント・バイセン――

その呆れの含んだ言葉と共に、さっきの竜巻がまた8基、風の魔力弾が18基、衝撃波が3基放たれてきた。私は「魔神か。悪魔よりずっと良い二つ名だよ」と笑みを返し、回避行動に移る。誘導効果のあるのは竜巻のみだ。魔力弾と衝撃波は一度回避しただけで、軌道は変わらず木々を薙ぎ払って消滅した。
どこからともなくファルコが出現した。フュンフと融合しているために、色々と変化が見られる。特に目が行くのは、ファルコの黄金の獣のような瞳。随分とギラギラと睨みを効かせてくる。

「おおおおおおおおおおッ!!」

――シュトゥルム・シャルフリヒター――

ファルコの周囲に風が集まり、さっきの竜巻・・・以上の魔力と風圧を伴って竜巻の蛇と化して突撃してきた。回避。蛇は流麗な動きで追撃してくる。面白い。様子見として、竜巻砲撃ザキエルを放って見るが、弾き飛ばされた。
なるほど。結構簡単に弾かれたな。それなら「懲罰せよ(コード)汝の憤怒(マキエル)・・・!」はどうだ? 龍、雷龍、光龍の3頭マキエルを発動。「粉砕粛清(ジャッジメント)」と指を鳴らし、蛇に巻き付くように突撃させる。ザキエル以上の威力と魔力濃度。そう易々と・・・・おっと、マキエルでもダメか。

(シグナムの紫電一閃の一撃で討ち破ったと聞いていたが、当時より強力になったか、それとも私の魔術の威力が足りていないか)

「どんだけ器用なんだよ、あんたっ!」

『けどそれももう終わりよ。とことん追い詰めて討たせてもらうわ』

――シュトゥルム・デス・オクテット――

ファルコ本体とは別にまたさっきと同じ八基の竜巻が発生、計九基が追撃してくる。面倒だが仕方がないな。これ以上魔力を消費するのも得策じゃない。右手の蒼光の弓を具現。

「フュンフに同意しよう。これでもう終わりだ」

左手に槍の如き長さを誇る蒼光の矢を具現させ、弓に番える。回避運動を取りながら標的をロックオンしていく。速度をさらに上げて、ファルコらを引き離した後、「弓神の狩猟(コード・ウル)」と術式名を告げ・・・ウルを射る。上級術式ゆえに威力はさっきまで使っていた中級術式とは比べるまでもなく高い。ウルは途中で分散、無数の閃光となってファルコらを迎撃。室内が蒼光の爆発で満ち、視界が蒼一色となる。

「・・・・私の勝ち、だな。ファルコ・アイブリンガー、フュンフ」

視界がクリアになり、状況を確認。シミュレーターは壊れたのか室内は元の無機質なものへと戻り、その床に倒れ伏しているファルコとフュンフに向け告げる。ファルコが呻き声を漏らしながら上半身を起こし、フュンフの様子を見る。安堵しているところを見ると、どうやらフュンフは機能停――死んではいないらしい。

「は・・・はは・・・あははは・・・負けた負けた。こりゃ勝てないぜ。だけどな、このまま終わりなわけじゃない。見てみな。あんたが守ってきたアムルに、最後の戦船デアフリンガーの砲撃が向けられる」

空間モニターが展開される。ん? シミュレーターだけじゃなく空間モニターまでベルカ時代にあったのか。それはともかくとして、アムルが映し出された。しかし、判っていないな。こうなる可能性も見越していたからこそ・・・・

「ほら、見てみなよ。アムルが砲火に呑まれる様を!」

その言葉を合図にしたかのようにデアフリンガーという残りの1隻から砲撃が放たれた。だが砲撃がアムルに届くことはなかった。アムルを護るかのように人面の付いた無数の黒石板(モノリス)が出現し、砲撃を完璧に防ぎきった。ファルコが目を見開き、「何が起きたんだっ!?」と叫ぶ。それに対し「紹介しよう。私の使い魔、アンゲルス・カスティタスだ」とモニターに向かって告げる。

「なんだよ、アレ・・・っ? あんたの使い魔? 冗談だろ? ありえないって・・・」

ファルコが呆然と呟く。七美徳が純潔――アンゲルス・カスティタス。以前召喚された契約先世界で従えた、七美徳を司る七大天使の一体。チェスのナイト(馬の形をした奴だ)の駒の額に1本の角を付けたユニコーンを胴体として、数億個のモノリスで両腕を形作っているという異形の姿。もちろん天の御使いたる証明――エンジェル・ハイロウもある。黄金の光で構成された幾何学模様の紋章だ。
かなり前の契約で、戦友だった男の息子――ネギ・スプリングフィールドを殺さなければならなくなった時に刺客として送り込んだが、護衛だったシャルに6体潰され、そのネギとパートナーの少女たちと、裏切ってくれた監視の天使ラグエル達に一体潰された。その果てに私もシャルの仇として、ネギと少女たちやその仲間たちによって斃されるよう仕組んで、計画通り斃されるに至った。

「――というわけだ。カスティタスが私の代わりにアムルを護る。残念だったな」

「・・・・正しく魔神だよ、本当に。怪物たる悪魔の頂点。あんた、その力があれば何でも支配できるな」

「そうかもな。だが支配なんぞに興味はない。・・・・ファルコ。退いて、二度と戦場に立たないと言うなら見逃す。退かねば、残念だが・・・殺す」

「・・・・逃げれば生かす、か。そうだよな、あんたにその権利があってもおかしくない。勝者だしな。でもな・・・」

ファルコはフラ付きながらも立ち上がる。四肢に装着している籠手と具足は健在なようでカートリッジをロードし続ける。「残念だよ」と左手に火炎の魔力槍・舞い振るは(コード)汝の獄火(サラヒエル)を創り出し、ファルコへと歩み寄って行く。

「これでもテウタ王女派の騎士の1人として数えられているんだよ。逃げられるわけが・・・・ねぇだろうがぁぁぁーーーーッ!!」

――クラオエ・デス・イェーガー――

獣のように一度体勢を低くした後、姿が描き消えるほどの速さで跳躍しながら突撃してきた。だがな、見えているよ。ダメージの所為もあるのだろうな。シャルの閃駆、フェイトのソニックムーブやブリッツアクションに比べれば遥かに遅い。サラヒエルを何も無い宙に一閃。だが確かにファルコを捉えた。サラヒエルの一撃を受けたファルコが吹っ飛んで外壁に叩きつけられた。

「トドメだ」

投擲体勢に入ると、「ファルコは殺させないわッ」とフュンフが立ち塞がった。ファルコは自分を庇うために私に立ちはだかった「フュンフ・・・!?」の姿を見、驚きを見せた。

「ファルコは私のロードよ。私はプロトタイプとはいえ融合騎。ロードを守るのが最優先の務めなのよ」

「よせ。もう俺たちじゃコイツには勝てない・・・」

「解ってるわよ、それくらい。格の違いを見せつけられたもの。魔神・・・言い得て妙だわ。悪魔の頂点たる魔神の如き強さ。数多くの種類の魔導を苦もなく発動させるその才」

――グラナーテン・ヴィント――

フュンフの周囲に風の魔力弾が10基展開される。しかしやはりダメージが酷いのか展開し続ける事が出来ず、魔力弾が消滅した。歯噛みするフュンフに、「ファルコを生かしたければ、先程の私の案を呑め」と告げる。フュンフの目に怒りの色が満ちた。あぁダメか。「逃げるなんて出来るわけがないでしょうっ!」と叫ぶ。

「前回はシグナムとアギトに良いようにやられて逃げたじゃないか」

「ちょっ、ちが――あれは、ヴォルケンリッターの事を報告するために仕方なく・・・もうっ! 風拳!」

両拳に風を纏わせ突っ込んで来ようとしたが、その前にファルコに捕まった。

「もうやめろ、フュンフ」

「ファルコっ? なに諦めようとしているのよっ! 逃げるなん――あっ・・・判ったわよ・・・」

ロードであるファルコが折れてくれれば、フュンフも折れるだろう。まさしくその通りとなった。このまま大人しく騎士をやめてくれれば助かる。ファルコはニッと笑みを浮かべ、「じゃあな」と別れの挨拶らしきものを言った。

「・・・・ぐっ・・!?」

その直後、突如として私は真横から強烈な衝撃を受け、成す術なく吹き飛ばされた。宙で体勢を整え、内壁に叩きつけられるのを阻止。床に着地し、私を襲った衝撃の正体を見やる。

「そういうわけで、これで失礼するぜ・・・・」

「憶えていなさいよっ、魔神オーディン! 今度こそ、その首を貰うんだからっ!」

ファルコとフュンフが、宙に浮くシンプルな長方形の鏡の中に消えて行く。いや、そんなものなど最早どうでもいい。その鏡らしきものを創り出した術者に目が釘付けになってしまう。私に一撃くれたのはあの術者で間違いないだろう。ああ、知っている、判っている。
鏡のようなアレも、突然現れた術者の正体も。絶対にあのクソ野郎の末裔で間違いない。男尊女卑の権化だった、天光騎士団・星騎士シュテルン・リッターが第八騎士アハト・リッター・鏡の境界・・・名はそう・・・

「サー=グラシオン・ヴォルクステッド・・・・」

「サー=グラシオン? 確かに僕の姓はヴォルクステッドですが・・・。あ、紹介が遅れました。イリュリア騎士団が一、強暴なる氷盾騎士団(アムレット・オルデン)を率いています、ゲルト・ヴォルクステッドと言います」

聞かれていたか。というか、人格面は普通だな。礼儀正しくすらある。二十代に突入したばかりと見える青年。グラシオンと同じハンティングピンクの髪(遺伝であんな派手な髪色だとしたら同情してしまうな)はサラサラショート。グラシオンはどれだけ目立ちたいのか、髪をツンツン立てていたな。

「それでは誠に勝手ですが、これで失礼いたします」

ゲルトの側面に鏡が生まれる。グラシオンと同じものだ。グラシオンの有していた神器である魔鏡“フェアドレーエン・シュピーゲル”による魔術反射や転移。それと同じ事を、神器ではなく魔導、もしくは能力で行っている。
私は追撃もせず、ゲルト達をただ見送った。これ以上連中に構っていられない。早々にこの戦船ティルピッツの動力炉から魔力を供給し、最後の1隻デアフリンガーからも魔力を供給しないとな。剣翼アンピエルを展開し、動力炉を向けて飛行を再開。通路を出て数十秒。

≪警告。本艦ティルピッツは砲撃の標的となっています。至急退艦してください。繰り返します――≫

そんな艦内放送が流れた。ティルピッツごと私を艦載砲撃で撃つつもりか。魔力供給は諦めて、外へ脱出するためにティルピッツを鷲掴んでいるイロウエルを操作し、艦体を真っ二つにへし折ってもらう。

◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦

イリュリア王都の中央にそびえる王城、その城内のある一室。ゲンティウス王や数人の執政官や騎士団総長グレゴール、そしてテウタ王女という顔ぶれが揃っていた。
美術品のような長テーブル4つを正四角形の形に配置し、それぞれが腰かけている。長テーブルに囲まれるように中央には球状の空間モニターが展開されていた。映し出されているのはオーディン。そして守護騎士ヴォルケンリッター。先程まではオーディンとファルコの戦闘が流れていた。国境で行われていたグラオベン・オルデンの戦闘は、全てイリュリアの上層部に筒抜けだった。

「ご覧に頂けましたか、御父さ――ゲンティウス陛下。最早シュトゥラを弱小国など侮っているわけには参りません。オーディン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード。騎士ファルコや融合・五番騎が言っていたように、彼は魔神の如き強さを持っています。対人戦ではおそらく勝つ事は無理でしょう。戦船をああもう容易く墜とす事が出来るのですから」

テウタ王女が立ち上がり、オーディンの強さに絶句しているゲンティウス王や執政官らを見回した。

「お兄様はああして騎士団を率いていますが、おそらく負け戦となるでしょう。魔神オーディンと闇の書の守護者ヴォルケンリッターがシュトゥラに居る以上、私たちイリュリアにベルカ統一は不可能です」

「むぅ・・・それは、そうかもしれぬが・・・」

「ですので、私は提言させていただきます。エテメンアンキおよびミナレットを使用し、この泥沼化しているベルカ統一戦争の幕を一気に降ろしましょう。もちろん我らイリュリアの勝利と言う形で、です」

テウタ王女の提言に、グレゴールを除く全員が度肝を抜かれた。“エテメンアンキ”と“ミナレット”。イリュリアが遥か昔より有していた超兵器の名だ。その2つは戦船どころの戦力ではない。まさに世界を破壊しうるだけの威力を有している。ゆえにゲンティウス王に「ならんっ!」と却下の一言が下る。

「イリュリアが成すべき事は、破壊による支配ではなく、勝利による統治。エテメンアンキとミナレットは、我らに勝利どころか破滅をもたらすだろう」

「聖王家の有する聖王のゆりかご。万が一にもゆりかごを戦場に持ち込まれてしまえば、イリュリアの勝利は崩れます。その最悪な事態が起きてしまった場合、早急に対処するために最低でもミナレットの運用を視野に入れませんと――」

「ならんっ。・・・・テウタ、我が娘よ。破壊の後には、我らの望む世界はないのだ。よいか? わしが王座に座する限り、エテメンアンキとミナレットの使用は認めん。魔神オーディンとその配下・守護騎士ヴォルケンリッター。その問題についてはお前が出張ればよい」

「っ・・・・判りました。申し訳ありませんでした」

ゲンティウス王とテウタ王女のそのやり取りを以って、“エテメンアンキ”と“ミナレット”使用の件は一時収まりを見せた。



 
 

 
後書き
ジェアグゥィチエルモジン、ジェアグゥィチトロノーナ、ジェアホナグゥィチ。
前作でも似たような(いや、まったく同じ)謝罪をしましたが、戦闘ばっかで申し訳ないです。
エピソード・ゼロの最終話に行く前に、ほのぼのとした話を1,2話くらい入れたいんです。
そのために早々にイリュリアと決着をつけたい。まぁ今後のエピソードの為に、本エピソードばかりにほのぼの話はガッツリ詰め込めませんが・・・。
と言うわけでもうしばらく続きます、戦闘話。くぅ、次のエピソードに行く前に過疎りそうで不安なんですけどね(怯)。
 
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