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東方変形葉

作者:月の部屋
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全国10カ所の妖気
第三章 秘封倶楽部と少年
  東方変形葉38話「少女秘封倶楽部」

 
前書き
入口をくぐり、静かな空間を歩く。人形たちを腕で抱き、姫雪と手をつなぐ。
きらちゃん「あっ!出口が見えてきたよ!」
ほたるちゃん「ほんとだ~!」
姫雪「裕海様、いこっ!」
裕海「ああ。」
少年は、再び故郷へと戻ってきた。愛する世界、幻想郷を救うために。
 

 
「はあ~、今日の講義もつかれたわね~。」
今日の講義も難しいことを言っていた。相対性精神学というのは難しいものね。
「ねえメリー、今日はどこへ行こうか?」
「・・・私たち、まともな活動してないわね。どうでもいいけど。」
いつものことなのでそれはどうでもいい。私の能力が活用される日なんて、絶対に来ないのだから。
・・・あの子が来るまでは。



蓮子が部室の鍵をあけ、扉を開ける。とても風通しがよく、夏とかには最適の場所だ。今日もここで雑談し、お茶を飲み、どこかに出かけて今日が終わるのだろう。そう思っていた。
「待ってたよ。」
部室の窓の近くに、一人の少年が立っていたのだ。チェック柄の服を着ている。
「だっ、誰!?」
蓮子は少しだけ警戒して言った。
「俺は葉川裕海。この世界にある用事があってきたただの人間だよ。」
「この世界?」
妙なワードがあったので、思わず口に出してしまった。少年は少し微笑んで部室の席に座り、言った。
「そう。それで君たちに手伝ってほしいことがあるんだよ。そう、境界が見える目を使ってね。」
「・・・っ!?どうしてそのことを!?」
私の能力のことは、蓮子を含むごく一部しか知らないはず。驚いて私も蓮子も呆然と立ち尽くしていた。
「少し長い話になるよ。えっとね―――」



少年は語り始めた。日本のどこか10か所に異常な妖気があると。その妖気がいずれ少年が住んでいる世界に影響を及ぼすと。そこでその異常な妖気の主を滅さなければならないが、そのためにはこの世とあの世の境界を見る力がいると。
「そういうことをある人に頼まれたんだよ。」
「・・・なるほど、おもしろそうじゃない!秘封倶楽部史上最大の活動よ!」
蓮子が嬉しそうに声を上げた。
「あなた、この人の話を信じるの!?」
「まあ、普通は信じないだろうね。だから、今からそれを証明するよ。」
少年は手を横に伸ばした。すると、そこに私がよく見る“境界”が現れた。
「結界さ。」
少年は続けて言った。
「結界というのは、境界を意味している。だから俺のような境界を見る力のない人間にはここにある結界が見えない。わかるのは気だけ。だけど、君たち2人のどちらかにはこれが見えるはずだ。」
「メリー、見えるの?」
蓮子が私に訊いた。
「ええ、間違いないわ。」
私がそう呟くと、少年が嬉しそうな顔をした。
「そうか、君なんだね。」
そう呟くと、結界を消し、代わりに空間の裂け目と思われる何かを生み出した。
「ふう、よかった。もし人違いだったら土下座しながら君たちの記憶を消してまた探すことになるかと思ったよ。3人とも、もう出てきていいよ。」
「やった~!」
「わ~い!」
「スキマの中は意外と暖かいなあ。」
空間の裂け目の中から、人形二体と一人の女の子が出てきた。
「わあっ!?人形が動いてる!?浮いてる!?喋ってる!?」
蓮子はかなり驚いていた。私ももちろん驚いているが。
「改めて紹介するよ。俺は葉川裕海、人間だ。」
「私は綺羅星人形!きらちゃんって呼んでね!」
「私は蛍石人形!ほたるちゃんって呼んでね!」
「私は小鳥姫雪です。猫の妖怪です。」
2人と2体が紹介した。え?妖怪?
「妖怪ですって?このかわいい子が?」
「そう。猫耳と長い尻尾がついてるでしょ?まあ妖怪と言っても絶対に人間に害を与えるようなことはしないよ。」
耳はどう見ても本物だった。どうやら本当に妖怪らしい。
「私は宇佐見蓮子。能力は、星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる能力よ。」
「わ、私はマエリベリー・ハーンよ。知っての通り能力は、境界が見える能力よ。」
私たちも紹介をする。
「あれ?君の名前はメリーじゃないの?」
「・・・蓮子がつけたあだ名なの。あなたもその名前で呼んでもらってもかまわないわよ。」
「そういえば、あなたたちの能力って何!?」
蓮子がものすごい興味津々に訊いた。
「ああ。俺の能力は、変化を操る程度の能力。おまけとして結界も張れるよ。」
「私は、再生を操る程度の能力だよ!だけど物しか再生できないの。」
「私は、域を操る程度の能力だよ!」
「私は、あらゆる矢を放つ程度の能力。」
どうして“程度”とついているのだろう。きっとあっちの世界での決まりなのだろう。
「人形さんたちと妖怪さんの能力もすごいけど、特に得体が知れないのはあなたの能力ね。」
蓮子がつぶやいた。たしかに、変化を操るというのはとんでもない能力だ。
「そうだね。まあとにかく、早速少し計画について説明するよ。これから少しだけ長い付き合いになるけど、よろしくね。メリー、蓮子。」
少年、裕海はにこやかな笑顔で言った。



「捜索は後で行うけど、あまり時間はかからないね。昼間は大学に行ってくれてかまわないよ。俺は大学で少し見張る必要があるから大学の外にいるよ。妖気の主が活動するのは夜のはずだから、準備が整ったら向かう。」
ざっと説明する。見張る必要があるのは、俺が妖気の主を探すことで、俺や関係者を狙ってくるかもしれないからだ。
「せんせー!しつもーん!」
「はい、蓮子さん。」
少しわかったことがある。境界を見ることができるメリーはおとなしく、蓮子のブレーキであること。蓮子は反対に、かなり活発で好奇心旺盛であること。
「その場所へは、どうやって行くんですか?」
「ああ、それはスキマを使っていくよ。車とか電車では時間がかかるし疲れるからね。」
「スキマ?」
俺の右と左にスキマができる。そしてきらちゃんが右のスキマに入る。そして、左のスキマから出てきた。
「こういう、空間移動ができる仕組みになっているんだ。」
「へえ~。」
蓮子は驚きと同時に納得の表情を浮かばせた。
「先生、質問。」
「はい、メリーさん。」
「先生はこの世界について詳しく知っているようだけど、本当に別の世界の住民なの?」
中二病患者なら「うぐっ」という質問だろう。
「ああ、俺は元はここの人間なんだよ。だけど能力が危なすぎてこの世界から幻想郷という世界につれて行かれたんだよ。」
「なるほど、それなら納得できるわね。」
納得できるんだ。ものすごい雑に説明したのだが。
「せんせ~!質問!」
「はい、きらちゃん。」
「どこに泊るのですか?」
・・・あ、考えてなかった。
「・・・どうしよう、この近くにホテルってあるかな?」
「この近くにはないわね。」
メリーが言った。うわ~、しまった。
「それなら私たちの寮に来ればいいよ!」
「そうね、それがいいわね。」
・・・え、寮?
「大丈夫なの?人形たちは小さいからともかく、姫雪と俺が行くと結構スペースとるんじゃあ・・・」
「大丈夫よ!結構広いもの!あ、布団が一枚しかないね。」
それでも邪魔になってしまうかもしれない。う~ん。
「布団は一枚で大丈夫だよ!だっていつも裕海様と2人で寝てるもん!」
・・・言ってはいけないことを。子供だからって言えごまかせるかな?
「“様”?家族とかの関係ではないの?」
2人が訊いたのは、心配していたことより少し斜め上のことだった。
「・・・この子は俺の弟子だよ。」
「「弟子!?」」
驚きつつ納得した表情を浮かべていた。
「・・・私たちのところに来た方が何かと便利だと思うわよ?」
確かにその通りだ。公共の風呂とかに姫雪が行ったら、間違いなく尻尾と耳が目立つ。
「そうだな、そうするよ。ごめんね、何から何まで。」
「いいのよ。いざとなったら女装してもらってごまかすから。」
・・・え?
「そうね!意外と女顔だもの!絶対にごまかせるわ!」
・・・女顔?
「決まり~~~~!」
「待て、女装は絶対にしないぞ。いざとなったらスキマで避難したり、存在自体を見えなくするから。」
「そんな~」
なんで残念そうなんだ。



「ご飯くらいは俺が作るよ。さすがに全部まかせっきりじゃあ駄目だしね。」
寮にこっそり入れてもらった。たしかに結構広い。このスペースは本当に二人分なのか。
「料理できるの?」
メリーが不安そうに言った。
「ああ、こう見えて一人暮らしが長かったからな。」
まあ、今ではメンバーが増えたがそれでも俺が作っているけど。
「・・・今、何歳なの?」
「ん?」
蓮子が訊いた。
「十五。四月の終わりぐらいで十六になるね。」
「「ええ~っ!?」」
え?そんなに驚かれるようなことだった?



「は~、お腹いっぱい。」
「ごちそうさまでした。美味しかったわ。」
「それはよかった。」
夕食を食べた。幻想郷とは違い、進んだ文明の台所は便利だ。
「さて、少し作業をしないと。」
リュックから紙を取り出す。十枚に切った紙に、捜索・場所詳細伝達と書く。そして、様々な変化の力を与える。
「日本のどこかにいる異常な妖気の持ち主の場所を探し、場所を伝えよ。さあ、飛べ!」
そういうと、窓から十枚の紙が飛んで行った。あとは帰ってくるのを待つだけ。ここから100キロ圏内なら10分程度で帰ってくるが、それ以上離れていたらかなり時間がかかる。

「あっ、もう帰ってきたよ!?」
十分ほどして二枚帰ってきた。その二枚を手に取る。
「京都の清水寺、奈良の白高大神。」
清水寺は観光名所の一つ。しかしそこは心霊スポットでもある。どういうわけだったかは知らないが。
奈良の白高大神。心霊スポットとしてかなり有名だ。たしかそこに行った十六歳の少女が悪霊に憑りつかれ、身体と精神に異常を記したことが確認されている。
「二つとも、有名な心霊スポットじゃないの。」
「そうね、わくわくしてきたよ!それで、今から行くの?」
「いいや、今日は行かない。」
「えっどうして?」
蓮子が訊いた。
「今日はもう疲れた。」
その証拠に、姫雪や人形たちが疲れ果てて寝ている。
「だから、明日に行くよ。君たちも準備しておいて。」
「ええ、わかったわ。」
「うん。そうするよ。あ、そろそろお風呂だね。」
蓮子に言われて気が付いたが、もう8時になる。
「そうだな。じゃあ先に姫雪と入ってて。俺は後で入るから。姫雪~、起きろ~。」
「むにゃあ~~・・・」
姫雪はむくりと起き上がった。そして鼻にキスしてきた。
「今は朝じゃないぞ。ほら、風呂に入ってきて。」
「むにゃ、お風呂~?」
・・・かなり寝ぼけてる。
「ゆ~みしゃま、優しく洗ってくだしゃいね?」
・・・また言ってはいけないことを。あ~あ、あの二人が赤くなってしまってる。“読心の変化”で考えていることを覗いてみると、すっごいアレな描写が出てきた。
「・・・変なことはしてないからな?ただ姫雪は子供だから一緒に入ってるだけだから。君たちが思っているようなことはしてないから。」
「はっ!?な、なな何を言ってるのかしら?へ、変なことは別に考えてなかったわよよよ!」
「そ、そそそうだよ。わ、わわ私たち乙女がそそそんなこと考えてるわけなな無いじゃない!」
蓮子とメリーがすごいあわて方をする。・・・君たち落ち着け。



10時。風呂も入り、今布団を借りて姫雪と同じ布団で寝ている。
いつぐらいになったら幻想郷に帰れるかわからない。ずっとここでお世話になるわけにもいかない。早く見つけなければ。
「むにゃあ・・・ん?まだおきてりゅの?」
姫雪が目を覚ました。
「ああ、少し考え事をしていただけだよ。」
「そうにゃんだ。じゃあおやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
明日に備えて、俺たちは静かに意識を手放した。



続く
 
 

 
後書き
38話です。
※挙げている地名はすべて実在するものです。実際に心霊スポットとして有名です。 
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