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五流の悪役

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第一章

                 五流の悪役
 とある少年向けのメジャーな週刊漫画雑誌でスポーツ漫画を描いている高野栄太は今担当編集者である椎名祐梧とファミレスで打ち合わせをしていた。その打ち合わせの件は言うまでもなく今高野が連載している漫画のことだ。
 高野は少しぼさぼさになった髪に手をやりながら自分とは正反対にぱりっとした格好でいる椎名に対して言った。
「正直ネタに詰まってます」
「うん、そう見えるよ」
 椎名は自分の向かい側に座っている高野の想い詰めた顔を見て言った。
「悩んでいるよね、先生」
「そうなんですよ、これが」
「次の相手チームねえ」
「最近正統派チームばかりでしたよね」
 主人公の所属するチームの相手が、というのだ。
「ここのところ」
「そうだね、正々堂々と闘って」
「必殺技を持っているライバルがいて」
「そういうのが続いてるね」
「何かマンネリですよね」
 高野は難しい顔で椎名に言った。
「だからそろそろ」
「風変わりなチームを出す」
「ライバルも貴公子、自信家、不良、パワータイプ、正統派ライバルって出してきて」
「ネタ詰まりだっていうんだね」
「何かここで思い切ってとんでもないチーム出そうかなって」
「それいいね、いつも正統派ばかりじゃ飽きるからね読者さんも」
「そうですよね、けれど」
 それでもだとだ、難しい顔で言う高野だった。
「ここはどうしたチームにしようか」
「風変わりねえ」
 椎名も高野と一緒に考えた、二人の関係は高野がデヴューしてからのものでまさに二人三脚だ、今の連載の前からの付き合いだ。
 それだけに親身になって彼と共に考えた、腕を組んで。
 そしてだ、そのうえでこう彼に言ったのだった。
「ちょっとふざけるなっていうチーム出してみようか」
「ふざけるな、ですか」
「今までラフプレイのチームは出してきたよね」
「ええ、怪我上等で反則もしてくる」
「それでいて実力も備えている」
 こうしたチームもスポーツ漫画の相手として出て来る。スポーツのジャンルにこだわらず時折出て来るタイプだ。
 高野も既にそうしたチームを今描いている漫画で出した、だが椎名はここでというのだ。
「もっとだよ」
「もっとですか」
「もっと汚いチームを出さないかい?」
「汚いってどんなので」
「応援団と一緒になって試合前から主人公チームに嫌がらせをしてきて」
 いきなりスポーツ漫画、少年漫画のそれを超えた展開だった。
「そして試合でもね」
「これまでのラフプレイよりもですか」
「そう、主人公チームの選手を壊そうとする」
「そんなラフプレイを仕掛けてですね」
「しかも審判まで買収していて観客席からはブーイングと誹謗中傷の垂れ幕、しかもレーザーポイントとか悪意ある工作の限り」
「最低ですね」
 スポーツ漫画を描いている高橋にもスポーツマンシップがある、勿論椎名にもだ。高橋はそのスポーツマンシップからコメントした。
「それはまた」
「そう、最低のチームをね」
「出すんですね」
「極悪非道、勝つ為には手段を選ばず」
「スポーツマンシップの欠片もないですね」
「しかも判定に文句をやたら言ってきてね」
 そうした行為もというのだ。
「やたらとごねる」
「そうした相手をですか」
「出してみようか」
「つまり最低最悪のチームを出すんですね」
「そうしないかい?」
 椎名は半分真顔で、半分笑顔で高野に言った。 
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