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渦巻く滄海 紅き空 【上】

作者:日月
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七十四 三竦み

 
前書き
大変遅くなって申し訳ありません!
捏造多数です。また今回、場面がころころ変わります。ご注意ください!

 

 
「あまり長くは許可出来ませんよ。まだ安静にしないといけない身体なんですから…」
キビキビとした姿勢で歩きながらの忠告に、ナルはこくりと頷いた。

消毒薬などの特有の匂いが漂う白い廊下。促され、しっかりした足取りの彼女の後ろをついて行く。
「それにしても本当に奇跡的な快復ですね」
肩越しに振り返った彼女が不意に微笑んだ。
「あの医療スペシャリストの綱手様が携わったとは言え、アマルさんの回復力には目を見張るものがありますよ」

心底感心した声音で語る看護師の話を聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。
街唯一の病院。そこに波風ナルはいた。アマルと面会する為に。







何時の間にか宿で眠っていたナルは、自来也の行方も何も知らなかった。誰もいない部屋でやや戸惑ったが、脳裏に友の顔が思い浮かぶと居ても立ってもいられなくなる。
瀕死の重傷を負い、ようやく意識を取り戻したらしいアマル。

思い立ったが吉日。彼女の行動は早かった。
まだ寝ていたパックン達を置いて、宿を飛び出し、現在こうしてアマルの病室に案内してもらっている次第である。




窓から射し込む陽射し。ほのかにあたたかい廊下は片や病室、片や窓が均一に並んでいる。その中でも一際大きな窓の真向かいで、看護師は立ち止まった。
「ここがアマルさんの病室です」
そう告げた看護師がドアノブに手をかけた時だった。弱々しい、だが緊迫めいた声がナルを呼び止めた。

「ナルちゃん……ッ!」
名を呼ばれ、声のしたほうへ顔を向けたナルが眼を見張る。


「し、シズネ姉ちゃん…っ!?」
驚愕するナルの視線の先で、シズネが息を荒くしている。上手く身体を動かせないのか、壁をつたって歩いてきた彼女はそのままズルズルとしゃがみ込んだ。
シズネを見た看護師が慌てて「せ、先生を呼んできます!」と医者を呼びに行く。


「ど、どうしたんだってばよ!?シズネ姉ちゃん!」
ナルの顔を認めたシズネが身を起こす。無理に立ち上がろうとする彼女をナルは急いで支えた。荒い息使いの合間で語られるシズネの話に耳を傾ける。
「つ、綱手さまに…、く…薬を盛られたの…。肌からじわじわ効くタイプで…さっきまで全く動けなかったんです…」
途切れ途切れに話しながら、シズネは顔を歪めた。自らを反省するかの如く項垂れる。


昨夜、アマルの病室前で彼女は綱手に休むように促された。その際、綱手はさりげなくシズネの肩をぽんっと叩いたのだ。
その後、気づかずに休憩所へ向かい、横になったシズネは徐々に身体の自由が効かなくなってゆくのに気づいた。だが気づいた時にはもう遅く、指一本すら動かすことも出来なくなっていたのだ。
以上から、薬を盛られたとしたらあの時しかないだろう。



「上手くチャクラが練れない上に…身体が痺れて…ッ、」
現に起き上がることさえ叶わなかった。今もまだ痺れは取れていないが、ようやく足だけはなんとか動かせるようになったので綱手を追う為に休憩所から脱け出したのである。

「な、なんで綱手のばあちゃんがそんなことするんだってばよ…?」
当惑するナルの腕をシズネは縋るように掴んだ。そしてやにわに病室前の大きな窓枠に足をかけ、鋭く叫ぶ。

「訳は走りながら説明するわ!一刻も早く、綱手さまの許へ…ッ!!」
唐突な発言に目を瞬かせるナル。最初こそ困惑したが、シズネの瞳に浮かぶ強い焦りの色を見て、彼女は「お、おう!」と勇ましく答えた。

ナルが力強く頷くや否や、自らのふらつく身体を叱咤しながら窓から飛び出すシズネ。ナルもまた続いて病院を後にする。


二人が立ち去った無人の廊下では、医者と看護師の慌ただしい足音がいつまでも響いていた。



















岩が砕ける。

飛び散るつぶてを顔面で受け、カブトは思わず眼を瞑った。瞬間、迫り来る蹴りを腕で防御する。
しかし相殺し切れず、吹き飛ぶ身体。即座に空中で体勢を整える。首を捻ると、顔の真横を風が切った。同時に舌打ちされ、殴られかけたのだと気づく。
怪力による風圧か。何時の間にかできた頬の掠り傷から血が滴り落ちていた。

「…実戦を退いて猶この力…。大した御方だ」
地に着地し、距離を取りながら感嘆の声を漏らす。カブトの呟きが聞こえたのか、自来也・大蛇丸と同じ三忍の一人――綱手は怒涛の攻撃をようやく休めた。

「お前こそ、並みの医療忍者じゃないな。術のセンスと切れ味は私の全盛期すら超える…見事なものだ」
「お褒めいただき、どうも」


世辞を聞きながら、カブトはわざとらしく会釈した。俯いた際に頬をすっと指でなぞる。
次の瞬間には、最初から傷など無かったかのような柔和な面立ちが笑みを浮かべていた。瞬時に傷を治したカブトの優れた技量に、綱手は軽く眼を見張る。

お互いに医療忍者同士。両者は何度かの接触により、既に息を切らしている。何故ならば双方とも眼には見えない痛手を負っているからだ。


片腕と片足の筋肉を少しばかり損傷した綱手。神経系の電気信号を混乱させられたカブト。
外見からは判断しにくいものであっても確実に命に関わる傷。自身の巧みな医療技術と知識を活かし、闘う二人は敵同士でなければさぞかし話が合ったことだろう。
現にカブトは、若い見た目に反して燦々たる経歴の持ち主である綱手を敬服の眼差しで眺めていた。


「同じ医療忍者として尊敬している貴女にそう言われると、悪い気はしませんね…」
穏やかな物言いで微笑む。だが直後、朗らかな微笑とは裏腹に、カブトは鋭利なチャクラのメスを手に宿した。
「敬意を表して、死なない程度に痛めつけてあげますよ」


笑顔で吐かれたカブトの毒舌を、綱手はハッと鼻で笑った。人差し指をくいっと動かす。挑発。

「やれるものならやってみな―――ぼうや」



















「綱手さま……ッ!!」
ナルの手を借りて綱手の許へ急いだシズネは周囲を見渡した。
一週間前大蛇丸と対峙した観光名所たる短冊城。寂然とした城跡は散々たる様を残し、人気が全く無い。

綱手の不在に狼狽えるシズネ。薬の効果か、未だ辛そうな彼女を城壁にもたれさせ、ナルもまた注意深く辺りを見渡す。
ふと目線を下げると、浅黒い染みが目に留まった。当初眼を凝らしていたナルは思い当ってハッと息を呑む。


それは血痕だった。
大蛇丸の攻撃から綱手を庇った、アマルの血。


壁にまで飛び散った痕は渇いたと言え、夥しい量だ。その時の情景が目に浮かび、ナルは唇を噛み締めた。
既に起こってしまった事を悔やんでも仕方がない。気持ちを切り替えるようにナルは頭をふるふると振った。
今は綱手の行方を捜すのが先決だ。

「…何処行ったんだってばよ?綱手のばあちゃん…」
答えがないと解っていても問わずにはいられない。思わず呟いた独り言は意外にも返事があった。
それも崩壊した城の影から。

〈こっちだ、ナル!!〉
「へ…?あ!」
突然掛けられた声に目を瞬かせる。直後、ナルは顔を輝かせた。
「パックン!!」
〈全く…。このわしを置いてきぼりにしおって…〉


むすっとした顔で文句を言う畑カカシの忍犬――パックン。
志村ダンゾウが五代目火影に就任しそうだという緊急報告を伝達しに来たパックンはナルと同じ宿で寝泊まりしていた。
だが今朝はナルが何度呼び掛けても眼を覚まさなかったので、仕方なく単身病院へ向かったのである。

「だって全然起きなかったんだって。オレってば、何回も声かけたってばよ?」
〈う…それはすまん。何故か物凄い睡魔に襲われてな…〉
ナルの言い分を聞いて、罰が悪そうにパックンが頭を掻く。パックン自身も眼を覚ますとナルや自来也がいなかったので戸惑ったのだ。ナルの匂いを辿り、今ようやく追いついたところなのである。


「…とにかく、綱手さまを…っ」
場違いなほど呑気な会話に、焦れたシズネが口を挟む。
彼女の必死な形相を見たパックンは一瞬怯んでから素直に頷いた。くん、と鼻を動かす。
〈自来也の匂い…それと大蛇丸の匂いもするな。どうやら移動したようだ〉


間を取って闘うには此処は狭いと判断したのだろう。城跡から幾分か離れた場所から数人の匂いを嗅ぎ取って、パックンは駆け出した。パックンの先導でシズネも走り出す。

同じく追い駆けようとしたナルは一瞬だけ振り返った。立ち去り間際に白き壁に飛散した目立つ染みを見つめる。
視線の先にある血痕。浅黒いそれを眺めた彼女は何かを決意するように拳を固く握り締め、踵を返す。


城跡に背を向け、ナルとシズネは綱手の許へ急いだ。その先に、予期せぬ展開が待ち受けているとも知らず。

















轟音。
天を衝く勢いの白煙があちこちで立ち上る。
平地だったはずの荒野には大きな穴が方々に穿たれ、大地を更に荒れ果てたものにしていた。

「かつては里の狂気とも呼ばれた貴方が里の為に奔走するとは堕ちたものね」
「そう言うお前は里の脅威…――――落ちぶれたものだな」
嘲笑った大蛇丸に対し、自来也も皮肉を返す。罵声の応酬。

口争いだけに留まらず戦闘する両者は共に『伝説の三忍』と謳われている。同郷出身の彼らは故郷である木ノ葉の里を片や滅ぼさんとし、片や守ろうとしていた。


「【乱獅子髪の術】!!」
だしぬけに、ぱんっと手を鳴らす。すると突然自来也の白髪がみるみるうちに伸びてゆく。急激に伸びた髪はまるで獅子の如く宙を自在に駆け、大蛇丸に襲いかかった。

太く束ねられた白き髪が己の身に巻き付くのを見て、大蛇丸は目を細める。針のように硬い髪がギシギシと身体を締め付けても猶、笑みを湛えたまま、彼はぐるりと自らの首を伸ばした。
白く長い首がにょろりと針金の山を掻い潜り、自来也の許へ辿り着く。

「…チィッ――【忍法・針地蔵】!!」
途端、今度は自来也の身体を覆う白髪。鋭い針同然の毛先が大蛇丸の猛攻を食い止める。
だがそれを見越した大蛇丸は攻撃寸前に身を翻した。【針地蔵】によって緩んだ白髪の拘束から逃れ、自来也から距離を取る。
艶やかな黒髪を靡かせ、大蛇丸は軽く肩を竦めてみせた。

「絞殺は蛇の十八番よ。盗らないでちょうだい」
「ワシの髪を蛇と一緒にするんじゃねえーのぉ」

軽口を思わせる言い合い。相手の行動を窺いつつもどこか愉快げに彼らは唇を歪ませた。

不意に視線が横へ逸れる。もう一人の三忍――綱手と、大蛇丸の部下であるカブトの戦闘。自分達とは聊か離れた場所で闘う二人の動向を眼の端で捉えた途端、顔を強張らせた自来也に対し、大蛇丸はうっすらと口許に冷笑を湛えた。


二人の眼に飛び込んだのは………自らの腕を傷つけて笑うカブトと、彼の血に塗れた綱手―――そしてそれを目の当たりにしたナルとシズネが呆然と立ち尽くすといった異様な光景だった。
























「その眼……いつから見えていない?」

その問いは、もはや確認に近かった。鋭い青に射抜かれ、イタチは観念したように瞳を閉ざす。
否、彼の双眸は始めから閉じたままだった。

「……最初の質問に答えよう」
ナルトが求める返答を的確に判断する。質問を彼がわざわざ言い直した訳をイタチは心得ていた。
ナルトは無駄な事を口にはしない。

「今は俺達がいる湖から周囲の木々…くらいか。ゼツはいないようだ。君のおかげだな」
「イタチ」
名を呼ばれる。催促され、イタチは誤魔化すのを諦めた。肩を竦める。
「俺の…口寄せ動物の目が届く範囲だ」

正直に答え、イタチはくいっと顎を軽く動かした。その所作一つでイタチが示した対象を目に納めたナルトは「アイツか…」と小さく零す。
「木ノ葉を偵察させていた奴か?」
「ああ」
頷く主人に気づいたのか、大きく羽ばたく。漆黒の翼をはためかせ、それはイタチの肩に乗った。艶やかな濡れ羽色の羽根が一枚、湖へ墜ちゆく。



ナルトの最初の質問――「どこまで見えている?」は範囲を聞いていたのである。
イタチの眼を持つ鴉が何処から何処までを見る事が可能なのか。そして鴉と視神経が繋がっているイタチが何処まで周りの情景を把握出来ているのか。


「瞼の裏に映像が映るような感覚かな。そこまで不便ではないよ」
「だが『写輪眼』は使えないのだろう?」
罰が悪そうに顔を背けたイタチにナルトは容赦なく「洗いざらい話せ」と厳しい言葉を浴びせる。

「鬼鮫との戦闘中も瞳術は一切使わなかった………使わなかったのではなく、使えなかったんだろう?」
「……………」
「何故ならイタチ。お前の眼は両方とも…――」


漆黒の羽根が水上を漂う。
大小の波紋を生み、たゆたうそれをナルトは拾い上げた。指先でくるりと回す。
応じるように、渦巻く朱を瞳に宿した鴉がカァと小さく鳴いた。









「――――その鴉に埋め込まれているのだから」
 
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