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乱世の確率事象改変

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相対するは覇王と道化師

 寂寥を孕んだ心を静かに押し込める。

 深く……深く海の底に沈ませるように。

 凝らしても見えぬ暗闇の中に溶け込ませて、低く……低く、と。

 三度、ほんの瞬刻だけの言交は、懐かしき敵意の思い出。

 想いを同じくする同志にして、自身に逆らう敵対者。

 汝、何を持ちて我が身に歯向かうか。

 何故、己を殺さんとするか。

 答えを知る術は無く、知るとすれば又しても待つのみ。

 この手にあるは麒麟の残骸か、それとも麒麟の幼か。

 確かめてくれよう。

 汝が望みはなんぞ。

 黒き大徳が光源、何が為に使わんや。



 我が覇道の為となるか……それとも……





 †





 昼も漸く過ぎた頃、帰還の凱旋も滞りなく終わり、部屋に積まれているのは、既に見慣れ始めた戦後処理の膨大な竹簡の数々。
 到着次第、風から遠征中の出来事で重要なモノを大まかに説明されて、仕事に直ぐに取り掛かる事はせず、まず行ったのは湯浴み。
 失恋をした時に髪を切るように、気持ちの切り替えというのはカタチから入る事も大事である。
 誰かと共に入っても良かったのだがそんな気分では無く、一人湯を行った華琳は風呂から上がって直ぐに身なりを整え、真桜が工房に籠った為に詠から代わりの報告を受けて、自身の執務室に向かい仕事に取り掛かる……はずだった。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 扉を開けるとそこに居たのは一人の侍女……否、いるはずが無い、華琳が足繁く通う店の給仕であった。
 確かに人の気配はしていたが敵意は無かった為に、また、危ない輩ならば執務室に通されるわけがないので当然の如く扉を開けたのだが、さすがの華琳もそんなモノが居るとは予測出来なかった。
 白い髪に混ざる藍色は艶やかに、白磁の肌は眩く透き通り、きつい目鼻立ちに揺蕩う紺碧の瞳は人を惹きこむ宵闇。
 娘娘でも見た事の無い美しい少女に……誰か、とは聞かなかった。
 この出会いが予測出来ておらずとも、華琳は動じない。そんな些細な不可測で覇王は揺らぎはしない。

「店長から新作の届け物でもあるのかしら? まあ、有り得ないでしょうけど」

 余裕たっぷり、事も無さげに言った華琳に対して、面白くない、というようにその少女はため息をついた。
 無礼な態度である。即座に切って捨てられてもおかしくない程の。ではあっても、その少女をどうこうしようとは、華琳は思わなかった。

「風ちゃんの事、信頼しているようですね。私が、この部屋に入れた理由も予測済みですか」
「私が見た事も無い人物でこの部屋に通されるのは風の判断あっての事、店長ならば使いなど寄越さずに直接訪ねてきて謁見の間で待つだけ。あなたの正体も当ててあげましょうか?」

 すっと目を細めた少女は、華琳に覇気を向けられて少し震える。目の前に立つ覇王はまさしく、大陸を照らす才を持っているのだと理解して。
 華琳は一方的に試されるのは嫌いだが、才あるモノ達との心地よい駆け引きは好きだった。
 今回は、相手が誰であるのか確信している為に、桂花の時のように見せかけの怒りで試し返したりはしない。
 ましてや、執務室に客人を通していたのは風の判断である。何かしらの意味があるのは予想に容易い。

「無礼を働き、申し訳ありません。これ以上の無礼は、あなたの引いている線を越えます。私から、名乗りましょう。始めまして、司馬……司馬仲達です」

 頭を下げる仲達――――朔夜に対して驚く事も無く、当然というように華琳は目を切って横を通り抜け、執務室の椅子に腰を降ろした。
 二つの湯飲みを並べ、机の上に置いてある魔法瓶からお茶を注ぐ。客人である事に変わりない為に、しかし先程の行いから最低限の持て成しに抑えた。
 後に、ゆったりと脚を組み、ほんの小さく息を落としてから対面に座った少女を厳しく見やる。

「……私が曹孟徳よ。こちらから勧誘の文を出していたのだから謝る必要は無い。出向いて来た客人の戯れが過ぎた所で、部下の判断による結果なのだからあなたを責めるのはお門違いでしょう? 秘匿されていたけれど予測は付いていたわ。この街であなたのような存在が私の目を掻い潜りつつ安全に隠れられる場所など、他国の細作すら立ち入れない店長の店しか有り得ない。ただ、隠れた理由くらいは……教えて貰いましょうか」

 それも大体予測は付いているが、とは華琳も続けなかった。朔夜自らに話させる事に意味がある。
 無表情な朔夜はそのまま、桜色の唇からつらつらと言葉を紡ぎ出した。

「崩れかけた治世を、叩き壊す黄巾の乱も終わり、諸侯による群雄割拠その始まりを告げる連合が組まれた事は読み筋。そこから先、この大陸の向かう方向も全てが大局の赴くままに。
 劉備を“取り入れもせず潰しもしなかった”あなたの思惑は大陸内部の迅速な安定、そして漢の興りに行われた徳と覇による敵対構想の再発。本来なら、徐州は袁家を滅亡させた後で手に入れるはずだった、ここまではよろしいですか?」
「それで合ってるわ」

 目を細めた華琳に突き刺さるは冷たい輝きを放つ紺碧の視線。軍師の知性が見て取れる。
 描いていた道筋をこうも簡単に当てられる程の頭脳は、なるほど、やはりただの文官である姉とは違うのだと分かり、華琳は嬉しくて口の端を吊り上げた。

「しかし大局を、捻じ曲げる程の一手が横合いから差し込まれ、あなたはその一手を放ったモノを欲した……否、前々から、欲してはいましたが逸早く手に入れる事に決めた、というのが正しいでしょう。
 此処に、娘娘の支店展開を勧めた時点で、黒き大徳に大局を捻じ曲げる先見があるのは確実。徳に従う覇の現身は、あなたの根幹に陰りを齎します。世界を照らしたいと願う日輪に雲は必要ありません。払う為には、一度は手元に置くことが必須。だから今回のような交渉を設けた」
「ふふ……正解」

 楽しい、と素直に思う。
 外部に居ながら、少ない情報だけで自分のしこりを看破していた存在が居たというのは、この上無く面白く感じた。
 彼女が隠れた理由とはあまり関係なく聞こえるが、華琳にとっては関係している話。
 今の話から分かるように容易く大局を見れる程の頭脳を持つならば、その存在に惹きつけられるは必至。洛陽が戦火に沈む事を読み、黄巾の時点で娘娘を大陸で一番発展するであろう場所に建てさせた……その事実が、軍師という生き物を惹きつけないはずが無い。
 つまりこの司馬仲達という少女は華琳とその男を比べていたのだ。
 華琳の心に憤慨は無い。
 自身の器の大きさから、そして失われたモノを認めているから。まだ……欲しくて仕方ないから。

「では話を戻します。確かにあなたは、私を従える事が出来る唯一の存在だったでしょう。直接面と向かって求められたなら、あなたに従っても構わないと思う程に。私の才は、主の器が小さければ溢れて溺れさせてしまいますから」

 傲慢にして愚かしい……とは思わない。
 華琳は既に、自身が張ったと思っていた糸が、他者から誘導されたモノだと気付いているが故に。

「……三姉妹の事を店長に話させたのがあなた。店長の気質を読み切り、幽州をより大きな混沌の渦に巻き込むようにさせた。おかしいと思っていたのよ。出来る限り観衆を巻き込みたくない優しいあの子達が、許可を出したとは言っても私が示した三つの街以外で自主的に歌ってくるなんてね。誰かが店長を煽らなければそうはならないでしょう?
 その事実から、あなたが主を溺れさせるというのはよく分かる。人は誰かに操られる事には耐えられない。抗い、抑え付けようとしても疑念猜疑心の渦に呑み込まれ、いつ裏切られるか、自身を脅かされるかと恐れ慄き、殴られる前に殴り、殺される前に殺す。そうでなければ、自身の人生を諦観して傀儡になるか、自分の周りに置かずに何処かへ追いやるか腐らせるだけ。そういう者を下に置いて尚、揺るがない精神を持てる為政者は存外少ないもの。
 あなたが私から隠れた理由は……その才をこの手から逃がすわけが無いのを分かっていて、黒麒麟と初めに出会いたかったから、でしょ?」

 誰しも他人に操作されるのは心地いいモノでは無い。尤も、華琳はそういった、自分を操作しようとするような輩を自身に跪かせる事こそ求めているのだが。

「分かって、頂けているようで何よりです。日輪は私を呑み込めて、真月は私を受け入れられる。黒き大徳ならば背負える事もあったでしょう」

 ふと、その言葉が興味を引いた。華琳は少し片目を細めて朔夜を見やった。

「中々に面白い話ね。私達の王才のカタチを分かり易く当て嵌めている。他の王も表してみるから、あなたの見解を聞かせて貰おうかしら」
「……よしなに」

 朔夜は反抗する事無く、先の無礼がある為に華琳の望みを素直に聞いた。
 幾人かを思い返すこと数瞬。
 思い出すのはこれから戦う一人と、共闘していた一人と、乱世の果てに相対するであろう一人。

「そうね……『縋り付く』事も一つの王才。旧き王道を行くは『抱き込む』事を最上とするモノ。『心繋ぐ』事で救済を願う新しき王。これでどう?」
「袁紹、孫策、劉備、です」

 示した人物の名をピタリと当ててくる朔夜を見て、華琳はさらに笑みを深める。
 顎に一つ指を当て、朔夜は直ぐに己が見解を述べ始めた。

「袁紹は、名声と血筋に縋りつく事で民を導く王として確立されているのですね。なら本人は、身分の高いモノに与えられる、勉学が出来る状況からその才を養ってきただけであり、先天的にでは無く後天的にしか王に成り得ない平々凡々な名家の跡継ぎ。ただ、抑え付けが解き放たれれば、その反動での成長は計り知れず、また、押し上げる王佐を得れば強大にして狡猾に成り得る、というように、本人に何か不可測が有りさえすれば面白いように変わるでしょう。
 孫策は、受け継がれてきた王の価値観と親が一代で築き上げた名声をその才で繋ぎ、絆深めた臣下と土地のモノ達を抱き込むに特化しているのでしょう。それでは新しい風を吹き込ませる事も出来ず、継続するだけで先の無い、くだらないガラクタの世となりそうです。血筋の裏切り、もしくは絆の断絶を“身内”から行われれば、新しき道が開け、小さき覇王では無くなります。
 劉備は……やはり意味が分かりません。アレの妄言は店長からも姉からも聞いていますが、この大陸には猛毒に過ぎます。他者との協力有りきの末端の救済という惰弱な発想は中枢の壊死を促し、他者と繋がる事でしか示せない曖昧な指標は先の世を腐らせます。枠を決めずに和を繋ぐ事など愚かでしかないですから、アレだけは最上位に絶対立たせてはいけません。故に恐ろしい。あれは乱世終末後、百年の治世継続を齎すに特化しすぎています」

 満足だ、というように華琳は頷いた。
 頭脳の明晰さは申し分なく、王に対する価値観も彼女好みであった。

「王の在り方は一つでは無いですから、いろいろな王が居ても不思議ではありません。そして覇道の欠点も分かった上で、あなたが劉備と出会ってから敵対構想を練ったのも分かります。
 力による乱世の平定、後の才による治世の確立は末端からの壊死を伴います。冷酷な覇だけで治める治世は恐怖の禍根を残します。だからこそ……今の構図を描いているあなたが正しい……あの方も同じように」

 最後に華琳の事を読み解き、言葉の終わりに甘く……誰もが蕩けたと分かる表情に変わる朔夜。
 恋の色かとも思ったが、それだけだとは思えなかった。
 心酔は数多も見てきた。自身に対してもそれは向けられてきた。だが……朔夜のその瞳は余りに異質過ぎた。
 淡い恋心、だけでは無い。歪な愛情、とは全く違う。敬愛や親愛なども足り得ない。だが、それらよりも深く、濃密にして純粋な想いを持つ。

――これは狂信。この子はあの男に溺れたのか。

 自身の才を余すところなく……華琳の為に振るうを望まず、自身と同じように大局を見据えられて且つ、覇王にさえも抗う事の出来るモノを主と認めたのだと理解した。
 王佐足りえる軍師というモノは、自分の上に立てるモノをこそ望む。才を捧げ、心を捧げ、主の為にと己が全てを使いたいモノ。明晰な頭脳は使う理由を求め、決して自分が先頭に立ちたいわけでは無いのだ。例え先頭に立てるだけの才や力を持っていようとも、王すら越える先見を持っていようとも。
 自分でさえ予想できなかった手を打ってきた男を思い出して、この結果も詮無きことかな、と華琳は素直に思う。心に浮かぶのは『諦』……では無く『認』であるが故に。

「王に対する見解は満足させて貰った。私の事も良く把握している。その上で、あなたは私には仕えない、と言うのね」

 一応聞いておく必要がある、などと考える華琳では無く、ズバリと直線的に……仕えなくてもいいと示した。
 通常の華琳ならばまず無い事態。己が芯たる誇り、そして煌く才持つモノを、自分のモノにしたいのが覇王曹孟徳なのだから。

「私の天命は秋兄様だけですから」
「……私を今ここで認めたあなたが側に侍りたいと思う程、今の徐公明も才を捧げるに値する、というわけなのね」
「っ! ……その……通りです」

 獰猛な猛獣のように、されども恋い焦がれる少女のように、華琳は笑った。
 その笑みは、朔夜を震えあがらせるには十分であった。
 朔夜は何が華琳を此処まで高ぶらせているのか分からずとも、ただ純粋に、目の前のモノに恐怖し、自分の心に増えた感情に歓喜した。
 人の欲望、それがどういったモノを求めようとも恐ろしい……と、朔夜はまた、世界に色を足す。その色が彼女の頭に経験と知識として詰め込まれて、先の世を動かす為のモノとなる。

――風、客人のしつけを怠った罰則は無しにしてあげる。今の徐晃と会う前にこの子と話せて良かった。私は忘れていた……アレは私を前にすると曖昧にぼかし尽くすのが得意な男だった。記憶を失っていても甘い顔で近づいては逃げられる。だから本当のカタチを見極めるなら……追い詰めて引き出すべきなのね。

 華琳は己が臣下からの忠告を……そう、受け取った。

「では仲達、あなたに忠誠は求めない。徐晃と同じように客分扱いをする、というのでどうかしら?」

 グッと拳を握りしめ、朔夜は薄笑いを浮かべる覇王を見据えた。
 いつでも抗っていい、という自信が透けて見えて、ほんの少し苛立ちが込み上げる。

「秋兄様が正式に、あなたに仕えたなら私も仕えましょう」
「ふふ……それは何時、なのかしらね? 私の事は華琳でいいわ。気付いた事があればなんでも言いなさい。例え私とは違う意見であろうとも」

 悪戯を仕掛けて見ても柳に風と流され、華琳が作る流れを崩せる事は無い。
 自分で認めたから、真名を交換する事に否やは無いが、悔しく感じた朔夜はふいとそっぽを向いた。

「私の真名は……朔夜です。が……月姉さまと違って、あなたを姉さまとは呼びません。呼んでなんてあげません、華琳様」
「月の事も認めたのね。月を姉と呼ぶのならそのうち私の事も呼ぶしかなくなるわ」

 綺麗に笑った華琳に先程の獰猛さは無く、愛おしげに言葉を零していた。まるで妹が成長するのを待つ姉のように。
 すっかり冷めてしまったお茶を啜り、冷めてもやはりおいしいと思いながら、華琳はまた微笑む。

「本当に……これからが楽しみだわ。それには同意してくれるのでしょう? 朔夜」
「……同意して、あげます。今の秋兄様と一緒に、世界を変えるんですから楽しいに決まってます」

 ぶすっとむくれて短く返事をした朔夜の顔を見る事も無く、華琳はのんびりとお茶を飲んだ。その冷めたお茶が無くなるまでは、目の前の仕事ではなく自分の弾む心を噛みしめようと。


 当然、客分をすると言った以上は、有益な人材を即座に使わない華琳では無く、朔夜は夕暮れまで膨大な仕事の手伝いをさせられた事は言うまでも無い。







 †






 満天の星は美しく雲一つ無し。
 晴れた空はこれほどまでに気持ちがいい。日輪煌く時も、真月輝く時も、である。
 客分となった朔夜に仕事を手伝わせたおかげで今日の分が予定よりも早く終わり、まさか今日の内に会って置けるとは華琳も思わなかった。
 仕事が終わって疲労困憊の様子の朔夜から齎されたのは、秋斗とは今日の夜に娘娘で会っておいた方がいい、という提案。
 明日も仕事が立て込んでいる華琳としてはそれに乗り気であった。
 第一、謁見の間を準備するにも形式が必要であり、部下達を並べれば秋斗が飄々と言葉巧みにぼかすのが目に見えている。それに……春蘭たちに休息を与えたかったのも一つ。
 普段ならば、華琳が夜分に出歩くなら春蘭や秋蘭が共にいる。
 しかし今日は一人。春蘭のお守りは季衣に固く言いつけておき、凪達区画警備隊の夜間巡行もあるから問題は無い。とは言っても、春蘭は待ちきれずに、夜半前には必ず迎えに来るのは分かり切っているが。

――アレとは私一人で会っておかなければならない。

 常に秋斗の隣にいる月は今日、霞と詠の三人で過ごさせている。秋蘭と流琉、沙和はまだ帰還して居ない。
 朔夜は風に預けて来たが、稟とも交流を深めている頃合いだろう、と軍師三人の歓談は如何様なモノになるのかも華琳の興味を擽った。しかして今はそれに心向ける時では無い。
 一人で歩く暗い街道はモノ寂しく感じる。行きかう人の気配も無く、店の呼子の活気溢れる声も無い。まるで華琳が作った街では無いような……そんな感覚。
 中々に面白い発見だ、と場違いな感想が頭に浮かび、一人なのに苦笑を漏らす華琳は、あまり臣下に見せられるモノでは無いなと感じても、その笑みを抑える事は無かった。
 夜にまで活気溢れる街にする方法はあるか、と考えても、まず思い浮かばない。
 ふと、一人の少女が放った言葉を思い出した。

「広大にして歪な知識……か。それには夜の街を煌びやかに照らす方法もあるのかしらね」

 一人ごちて。そのまま思考に潜る。

――そんな方法があれば、どれだけ人の世は発展出来るのか。そしてどれだけ、夜の闇に怯える事が少なくなるのだろうか。
 夜は安息の眠りの時間であると同時に、獣達にとっては狩りの時間。人には暗闇の時間が確実に必要なれど、獣に堕ちたモノに対して怯える時間でもある。不安を少しでも拭い去れるならば僅かな淡い月明かりでさえ有り難いモノ。
 期待は余りしていない。灯りを常に焚いているなど出来るはずも無いのだから、まずそんなモノは、天からの恵みをしがらみの多い人の手によって作り出す事は、到底不可能でしょうね。例えどれだけ、その男の知識が歪であろうと。

 この時代に生きる華琳には分からない。夜でも昼間のように明るく出来る世界があり、文明の発達は幾多もの智者の発見によって華琳には想像も出来ない方向へと向かっている事を。
 知れば彼女の興味は留まらず、渦巻く羨望が鎌首を擡げるだろう。
 華琳は人の作り出す文化文明が好きなのだ。王でありながら学者肌でもある文化人。探究の面に於いても政務の時と変わらず、自身で確かめなければ気が済まないタイプ。
 だからこそ、彼女は理想を追い求めながら現実的に物事を見る事も出来るのだが。

 思考を向ける内、飄々とした男を思い出す。
 春蘭並の武力、秋蘭並の頭の回転と判断力……初めは是非欲しかった。
 男である、というのが彼女にとって少しばかり躊躇う所だが、それでも欲しいのに変わりは無い。後々になって自身の根幹を揺るがすからこそ絶対に欲しくなった。しかしただ目に見える才を鑑みただけでも華琳が欲しい人材ではある。

――聞けば、雛里達三人と四日に一度、寝台を共にしていたという。驚いたのは雛里達から誘った事だけれど、幾日同じ日が続いても手は出さなかったらしいから、下半身のだらしない他の男達と違って期待は出来そうね。

「まあ、私の大事な子達に手を出したら……生まれてきた事を後悔させてあげましょう」

 自分で言って、何故か有り得ない事態だと思った。雛里の想いを知ったが故に。
 同時に、僅かな苛立ちが心に湧く。
 雛里が居ない間に朔夜のような才女を惹きこんでいたという事実が、華琳の心にささくれを作り出した。
 あの慟哭を見てしまったが故に、そして彼女がどれだけ愛していたかを知っているが故に、雛里側に感情移入してしまうのは仕方のない事だと思っている……ではあっても、やはり納得が行かず、イライラとやぼったいモノが心に沸き立つのは止められない。
 それは雛里の主として……では無く、近しい人の幸せを願う人として普通の感情。他人の恋愛沙汰には別に興味は無いとは思っていたが、存外、まだ華琳にもそういうモノへの興味は残っていたようだった。
 その意味を、華琳はしっかりと理解していた。
 気付かぬはずも無い。これは切り捨てた自身を他人に映しているのだから。

――あの時……私は雛里が羨ましかったもの。

 切なく、苦しく、されども美しい。
 感情を伴った愛とは人に許された営み。人を狂わせる要因の一つでありながら、人を美しく輝かせる要因でもある。
 華琳は臣下達の事を愛している。黒麒麟が身体に向けるモノと同じく、臣下達は自身の身体の一部であると思っている。
 だが……雛里の持っているモノはそれらとは別だと明確に区別している。時間を掛けて育んでいく他人との絆その最たるモノであり、滅私の想いに昇華しかねないモノ。
 それを持つのは弱さだ、と華琳は既に切り捨てた。
 愛する者を切り捨てなければならない事態となれば迷いなく切り捨てる。絆を繋いで来た愛する臣下達にさえ、命を捨てろと命じる。
 彼女は忘れてはならない。
 何を犠牲にしても、“自分が”この手で世に平穏を作り出したいのだから。
 彼女は既にそういった苦悶を乗り越えていた。身を引き裂くような甚大な心の痛みを……長い年月の中、自問自答の夜を重ね、愛する者達に無言の信を向けられて。
 そして華琳は知らない。黒麒麟も同じように思い悩み、最後の最後で大切な一人を切り捨てられなかった事を。
 一番大切な一人を切り捨てる事態がどれほど自身の心を引き裂き、どれほど思考を一つに染め上げるかを……彼女はまだ知らない。

 思考に潜りて歩むこと幾分、ふと気付けばすぐそこに娘娘の大きな店が見えた。
 ぼんやりと灯りに照らされる入口に立っていたのは、彼女とは別の大陸制覇を目指す店長その人。

「お待ちしておりました。覇王様」
「夜分に無理を言って申し訳ないわね」
「いえいえ、慣れておりますから。三日以内に一度の夜分会合、夜半を過ぎても飲み続けるお客様も覚えにあります。調理油の“りさいくる”と売り上げの上昇にて、長い時間の営業が出来ておりますゆえ問題は何もありませんよ」
「へぇ、夜分までの会合なんて公孫賛の真面目さが見て取れ――――いえ、失言だったわ。ごめんなさい」

 一寸蔭を落とした店長の表情は哀しみ。
 白蓮の評価が自分の中でまた上がった事から思わず口を突いて出ただけなのだが、さすがに申し訳なく感じて謝罪を行った。

「こちらから話しを振ったのであなた様に何も非はございません。では、『夜天の間』へご案内致します」

 気遣いに感謝しながらも、記憶を失った彼が此処にいるという二つ目の事態も相まって店長は哀しげな声で告げ、己が店の扉を開ける。
 聡く気付き申し訳なさを宿す華琳であれど、期待に弾む心は……確かに持っていた。
 朔夜のような特異な価値観を持つ子が認め、風も真名を許したほどであっても自分で判断するまでは安易に呑み込めない。
 記憶を失っていても、自身が欲しくなるような興味深い何かを持った人物であって欲しいと願って、華琳は娘娘の店内へと足を踏み入れた。







 夜天の間に着き、引き戸が開けられ、店長にお礼を一つ言ってゆっくりと入室。
 まず目に入ったのは数品の料理。広い夜天の間には現在、いつもより小さな机しか置かれておらず、その机の上に店長が作ったであろう品々が並んでいる。
 次に映ったのは……腕を組んでいた待ち人、嘗ての黒き大徳。ほんの少しだけこちらを見やったと思うと、椅子から立ち上がってペコリとお辞儀を一つ。

「あなたが曹孟徳殿ですね。徐晃……徐公明と申します」
「いかにも、私が曹孟徳よ。夜分に呼び出して悪いわね。謁見の間でもよかったのだけれど、此処の方がいいと朔夜が言ったからそうさせて貰ったわ」
「部下の方々を休ませる為、とも思えますが……いえ、失礼いたしました。しかし……私は記憶を無くしたようですが、客分として扱って頂きありがとうございます」

 前のように体面をどうにか取り繕った堅苦しい敬語は変わらず、されども研ぎ澄まされた刃のような鋭い視線は無かった。
 すっと目を細めて無言の圧力をかけると、交渉の場で不敵に跳ね返していたのが嘘だったかのようにたじろぐのも記憶と違う。

「選んだのはあなたでしょう? 記憶を取り戻す為に劉備軍に戻る、という選択肢もあったはずなのだから。それもまた良し、と私は伝えておいたはず」

 落胆、寂寥、憐憫……やはり、記憶を失った秋斗は、自身の求めた黒き大徳ではないのだと強制的に思い知らされる。
 自分の心情を悟られないように目線を切り、華琳はゆったりと秋斗の正面に座った。

「その堅苦しいのが素で無いのは知っているから砕いていいわ。飾られた言葉と心では無く、本心で話しなさい」

 言うと同時に懐かしい気分になった。
 飄々と躱そうとしていた彼を、あの黄巾の終わりに問い詰めた時と似た言い回し。どういった反応をするかと試したかったのも一つ。

――さて、あの時とは違う状況だけど、お前の全てを見せて貰いましょうか。

 そんな華琳の思惑など読み取れるはずも無く、ほっと息を一つついた秋斗は椅子に腰を持たれ掛けさせて直ぐに自然体になっていた。

「ありがとう。曹操殿がそう言うのならそうさせて貰おうかな。堅苦しいのは苦手だし。あ、店長のおいしいメシをゆったり楽しく食べたかったのもあるな」

 楽しげな柔らかい笑みを見て、思考に空白が齎される。
 華琳は普段の秋斗と話すのはこれが初めてであり、自分の思い描いていた姿とのギャップに着いて行けず。一太守を前にして、一度言われたくらいで態度を崩すモノがこれまで一人も居なかったのもあった。
 砕いていいとは言ったモノの……華琳を前にしても緊張感の欠片も無い砕けきった様子、敵意など全く感じ取れない怯えを少し潜ませた優しい瞳、緩く笑みを浮かべてどれから食べようかと想いを馳せている秋斗を見て、華琳は眉を顰めてため息を落とした。

――これがあの黒麒麟だとは到底思えないわね。

 期待した分だけ現状との違いが際立つ。それは分かっていても、やはり求めずにはいられなかった。
 ただ、華琳は直ぐに思いもよらぬ反撃を受けることになった。

「曹操殿も面倒くさい事は無しにしよう。前の俺があなたに対してどんなだったかは知らないが、此処に誘われてたら同じようにこの時をあなたと楽しもうとしただろうよ。美味いメシが目の前にあるんだから腹黒く探り合うのなんざ食ってからにしよう……ってな」

 彼は華琳が前の自分を交渉で求めた事を聞いている。
 今もそれを求めていると判断して、自分がどのようなモノであるのかを見せた。
 現在に至るまでの約一月の間に、昔の自分と今の自分が余り変わらない、と常に傍にいてくれた少女から聞いていたから。

「……それもそう、か。せっかく店長が極上の料理を用意してくれたのだから、礼を失するわけにはいかない……って、この『おむらいす』は見た事無いわね。それに『ぱすた』も」

 華琳が思い知らされたのは秋斗の発言に関連してもう一つ。
 普段の華琳では有り得ない失態。目の前の料理に目が行かない程に一つの想いに思考を捉われていたという事。
 にやりと笑みを深めた秋斗は楽しげに喉を鳴らす。

「クク、やっと気付いてくれたか? まだ正式に店に出してない材料を使ったんだ。オムライスのソースはデミグラスでは無くビーフストロガノフ、山菜のクリームパスタはホワイトソースが少し違う、どっちも曹操殿を驚かす為に、俺が店について直ぐ店長に頼んだ品になる。時間指定してくれたから出来立てなのは保障しよう」

 言うなり彼は小皿に取り分けて華琳の前に並べて行く。
 やっと気付いてくれた……という事は、秋斗はずっと華琳が気付くのを待っていたという事に他ならず、砕いた雰囲気で話せるように秋斗も準備していたという事。
 いつの間にか主導権を握られてしまったと感じて、それでも一本取られてしまったのは自分である為に何も言わない。ジト目で見据える事は忘れなかったが。
 しかし彼の追撃はまだ終わらない。
 料理を並べ切った秋斗は、なんの事は無いというように二つの杯を酒で満たし始めた。

「先の戦と今日の仕事、お疲れ様です。あなたの趣味嗜好は聞いているが、今日は俺みたいなのの晩酌で勘弁してくれたら助かる。
 あっ! 仕事が終わってないかもしれんから……果実水を頼んだ方が良かったか。申し訳ない」

 呆気にとられるとはまさにこの事。
 有り得ない光景でありながら日常的なように見えるのは如何してか。
 瞳を見れば思惑や警戒も見当たらず、酒に関しては計算で無くただ純粋にそうしたくてそうしているだけだった。
 不敵な笑みでこちらの頸を狙っていたはずの男が申し訳なさげに酌をして、自身の不足に気付いてしゅんと謝る様があまりに可笑しく感じて、思わず華琳は苦笑が漏れた。

「ふふ……今日の分は朔夜に手伝って貰って終わったからお酒で構わないわ。それと取り分けてくれてありがとう」

 彼女は風が真名を許した理由に納得が行った。
 主導権を引っ繰り返すのは簡単に出来る。しかし秋斗はそんな事心底どうでもいいのだ。
 ただ気兼ねなくこの時間を楽しみつつ、最後に真剣な話をしよう。忙しいのに時間を取ってくれたのだから楽しい時間を過ごして欲しい。酒を自分から注いで労ったのはそういう意味を込めてか、と華琳は考える。

――劉備とは違った意味で緩い。気遣いも出来て、でも苛めがいのある徐晃の事を風は気に入ったのね。

 今度は間違わず、黒麒麟の幻影を重ねずに目の前の秋斗の事を見定めはじめた。
 渦巻いていたはずの幾多の感情は、もう既にうやむやにされ、毒気を抜かれてしまった。
 気にしないでいいと示され、ほっと息を付いた秋斗の前に、今度は華琳が先手を取って杯を掲げた。

「話す事は数あれど、食事の間は料理がおいしくなるように楽しませて貰いましょうか」

 一寸面喰った秋斗は、にやりと笑うその悪戯好きを思わせる華琳の笑みに、同じような笑みを返して杯を持ち上げる。

「期待に応えられなかったら?」
「そうならないように楽しませなさい」

 そちらから言いだしたのだから出来るのだろう、と言外に伝える彼女はもう先手を譲る事は無く、しかし既に楽しそうであった。
 ぐっと言葉に詰まる秋斗は降参とばかりに、笑顔でため息を一つ。

「では、頂きましょう」

 静かに凛と鳴る声を以って、二人は酒を飲み干し、小さく短い宴が始まる。
 存外、こういう時間も偶には悪くは無い、と華琳はその時感じたのだった。





 †





 華琳にとって、秋斗との食事の時間は短く感じた。
 店長の料理は相変わらずの絶品であったが、やはり誰かと食べてこそ、そのおいしさが際立つ。
 一刻ほど掛けて食事を終わらせてからもう三刻。今まだ、話の途中である。
 話している事は料理についてやこの街の明るい話題、そしてどうすれば街の人が平穏に過ごせるかの試行錯誤や他愛ない民達との出来事やその感想。

 生クリームを使った甘味の試作は出来たがまだ完成していない……とか。
 西区でも治安のいい開けた場所、そこにある木に子供達が遊ぶ遊具を付けたら大盛況だ……とか。
 衣服店の娘と書店の息子が婚儀を上げるから店の商品が安くなればいいなぁ……とか。
 子供達と竹笛で遊んだが、今度は子供達が演奏を聞かせてくれるらしい……とか。
 警備隊と共に街の治安を守る為に走り回ったりもする日があった……とか。

 本当に些細な他愛ない話は……今までそんな細かい事を聞くような時間が無かったので新鮮に感じ、街の改善については、斬新なモノが幾つかあった。風には既に話しを通しているのは知っていたが、秋斗と煮詰めるのも中々に面白く感じた。
 砕けた口調にも慣れ始めた。先程までの違和感がまるで無くなってしまっていた。
 こうやって徐晃隊との絆を繋いで来たのだと良く分かる。平穏に暮らす秋斗は、兵達に最も近しい存在であったのだと納得もする。
 親しみやすく、良く笑い、偶におどけて、気遣いも忘れず、細かい所に気付けても抜けている所もあって苛めやすい。
 華琳には秋斗のようなやり方は出来ない。標として高き場所に立ち、兵達とは隔絶したモノを示す事によって導くのが華琳のやり方。
 秋斗のは桃香のやり方に近い。兵や民の側にて絆を繋ぎ、共振する事で狂信させて導く。妄信、狂信の違いはあれど、平穏な街中に於いてはまさに近しい。ただし、戦場、否、乱世に関わる事柄に於いては……華琳のような覇の者となっていたのだが。

――この徐晃を守りたかったのが徐晃隊、か。

 話しを聞きながらも器用に思考を重ねる華琳であったが、何時までも楽しい時間を続けているわけにもいかないとして、話の節目を探し始めた。

「――――ってなわけで、東区の警備隊でも第三区画……まあ他の区画も同じようなのが多いけど、なんでか知らんが他より規律や規則に対して厳格でな。仕事熱心で問題が起きた時の対処は速いからいいんだが、もうちょっと民に向ける笑顔が欲しいんじゃないか?」
「固い表情で接されるよりも親しみを込めたほうが何事も潤滑に回る、というのね? けれど、引き締めておかないと気性の荒い民には舐められてしまうからそういう部隊は必ず必要でしょう?」
「部隊単位、しかも常時はさすがになぁ……生真面目な強面ばかりで迷子の子供とかの対応に向いてないし。そういった細かい配慮や柔軟な対応は西区の方が出来てる。西区担当は確か……于禁って人だったか? その人の配置した部隊は民からの評判がかなりいい」
「ふむ……まさか沙和の作った警備隊の方が民に気に入られてるとは……あの子の優しい気質からかしらね。まあ、東区のそれは凪……楽進が振り分けた新入りの多い場所でしょう。古参のモノは慣れてるから問題は……確かに古参が居ても変わらなさそうだわ。あの子はちょっと真面目過ぎるきらいがあるから……って言ってもあなたのせいでもあるのだけど?」
「俺? ああ、前の俺か。一応辿ってきた道筋は大まかに聞いたし、黄巾の時に関わりがあったのも聞いたけど細部までは知らないな」

 教えて欲しい、というのが華琳には透けて見えた。

――分かり易い。あの嘘つきは……敵以外にはこれほどまでに見透かしやすい男だったのか。

 丁度空気も変わった。
 中々に楽しかった時間も終わりとしよう……と、すっと目を細め、手に持っていた杯を机に置く。
 それを見て、秋斗は哀しげに視線を机に落とし、華琳に倣って杯を降ろした。

「楽しい時間は及第点、と言った所ね。ありがとう。此処からは王と客分の時間としましょうか」

 顔を上げて視線を合わせる秋斗の瞳には怯えが揺らぐ。

――何をそんなに恐れているのか……雛里からも聞いたから分かっている。この男は――――

「曹操殿、楽しい時間を終わらせたなら、まず初めに話したい事があるんだ」

 華琳が口を開くよりも前に、秋斗は目に強い光を映した。
 平坦に紡いで隠そうとしても、感じ取れる悲痛な声音は怯えが含まれている。何を聞くつもりなのか、きっと予測の通りだろうと華琳は小さく鼻を鳴らした。

「……言ってみなさい」

 目を瞑り、一瞬の逡巡をした後で、秋斗はゆっくりと……華琳にはバレバレなのだが、どうにか自然体を保とうとしながら言葉を紡いだ。

「鳳統ちゃんは……大丈夫か?」

 茫然。彼は華琳の斜め上を行った。
 真っ先に秋斗が口にしたのは自分のこれからでは無く雛里の事。
 自分は人を殺すのを恐れている、とでも言うと思っていた。それを言った上での返しも用意していた。されども、彼が気にしていたのは全く別。
 口に出した途端、秋斗の瞳からは心配の色が溢れ出ていたが、華琳に読み取らせまいと表情を変えずにじっと見つめるだけ。

「……ええ。今回の戦では主だった将も軍師も全員大事なく生き残った。雛里……鳳統は徐州掌握の為に残してきたけれどちゃんと仕事をしているわ。それがどうかしたのかしら?」

 思いもよらぬ発言にも動揺は見せず、なんの事は無いというように華琳は聞き返した。
 ほっと胸を撫で下ろして少し俯いた秋斗は優しく微笑んだ……が、合わさずとも見える瞳からはまだ心配の色は消えない。

「いや……あの子も俺を支えてくれてた一人だって聞いたし……ちょっと気になっただけ――――」
「誤魔化すな徐公明。……何故、そこまで気に掛けている?」

 鋭く遮られ、ギクリと肩を引くつかせた秋斗は顔を上げず、目を合わせようとしない。
 華琳が真っ直ぐに放つのは探りの言葉。今はもう、秋斗は黒麒麟では無い為に。
 先ほどまでの語り合いで今の秋斗の人となりは把握していた。話せる範囲ならば真っ直ぐに返して来るような男だ、と。
 どう返すのかと見つめること数瞬、俯いたまま、秋斗は淡々と言葉を紡いでいく。ただし……その声は、哀しみからか掠れていた。

「……厳しい人だな、あなたは。
 あの子はさ、俺が起きた時に凄くほっとして、本当に嬉しそうな顔をしてたんだ。それが俺の言葉を聞いた途端……どん底に変わった。
 目を見開いて、震え出して、涙を幾つも零して、言葉を紡ごうとしても出なくて、唇を噛みしめて俯いて……俺の目の前から走り去ったんだ。だから……大丈夫なのかなって」

 瞬間、華琳の心には膨大な悲哀が溢れ出す。雛里の切望を受けたから、秋斗側がどのように見えていたかを聞かされて、その光景を鮮明に思い浮かべてしまった。

――私はあの子に対する把握が甘過ぎた。どれだけ……どれだけあの子が苦しんだのか。希望を持った瞬間に愛する男から直接絶望に叩き落とされた。間違いなく……心を凍らせてもおかしくない。それでもこの男の幸せを願い、代わりに背負うと言ったあの子は……どれだけの想いを抑え付けて私の元に来たのか

 愛おしさが溢れ出す。胸が痛い程に締め付けられ、今すぐに会いに行って抱きしめてやりたくなった。
 華琳の心にズキリと痛みが走った。それはまさに、彼女の切望を叶えられず、支えると言ったのに覇王として鳳凰の願いを叶えることしか出来なかった懺悔の痛み。戦に赴いて来た時点で殻に籠ってしまったその心の中身を覗けたなら、そういった痛みも含んで。
 同時に、秋斗が異常に見えた。今の秋斗にとっては……最悪の出会いのはずなのだ。
 今の自分が全く知らない少女を絶望に叩き落とした。自分は何もしていないというのに。

――今の徐晃は……濡れ衣を着せられた罪人となんら変わらない。

 自分の道筋を確かめたとも言っていた。ならば彼は、知らない罪を背負い続けている事に他ならない。知らない期待を向け続けられている事で間違いない。
 それでも飄々と先程まで笑っていた秋斗は……やはりどこかおかしく感じた。自然体でからからと笑う秋斗と、悲しみを漏らしてしまう秋斗、どちらが本物なのか華琳には区別がつかなかった。

「徐晃……さっきまで普通に、自然に笑っていたのに……どうして雛里への心配は隠そうとしたの?」

 つい、口を突いて出てしまった。
 華琳は、自身の臣下には平穏な世で幸せになって欲しいが為に、彼の事を知らなければならなかった。
 雛里が目一杯幸せになるには秋斗が戻った方がいい。そうでなければ、あまりに雛里が救われない。秋斗にしても、このままでは知らぬ罪と皮を被り続けなければならない。
 だから、コロコロと切り替わる彼の事を、明確な理由を本人から聞いてでも知らなければならなかった。
 秋斗は……ぎゅっと、自身の胸を握って、幾つも感情が渦巻く瞳を華琳に向けた。

「……はっきり聞かれたんだから本心を話すって約束を守るよ。どうにか普段は考えないように出来始めたけど、泣いてるあの子を思い出す度にやっぱり痛むんだよ……此処がな。でもあの子を本当の意味で笑顔に出来るのは俺じゃない。だって……いつも隣に居てくれるゆえゆえの笑顔も曇らせちまうんだ」

 最後に柔らかに微笑んだ。しかし寂しげな声で哀しい笑顔だった。家に置いてきぼりにされた子供のような。
 吹き抜ける声の乾きから、華琳は目を見開いた。
 零された言葉に表されていない意味を、寂しくて哀しい笑顔の意味を、聡い華琳が気付かぬはずも無い。

 彼は……一人ぼっちだった。

 人々からは自身の記憶にない姿を重ねられる。
 自分に近しかったと言ったモノからも、前の自分と重ねられ、戻ってほしいという想いを向けられる。
 新らしく出来た義妹も友も、情報から昔の姿をその影に見ていた。
 こうして出会った覇王でさえ、黒麒麟という化け物を望んでいた。
 其処に今の秋斗の入り込む余地は……無い。

「だから、さ。俺は戻りたいんだ。もう……あの子達を泣かせたくないんだよ。俺が戻れば皆が幸せになれる、そうだろ?」

 苦笑を一つ。彼の声音は軽く、されども重く。秋斗が雛里への心配を隠そうとした理由は……気にしないで皆に笑ってほしかったから。『今の自分』が雛里や月、詠の為に何かをしたくても、それが余計に彼女達を哀しみに落としてしまうから。
 風が如何して朔夜と引き合わせたのか、その思惑を華琳は漸く理解した。
 警告していたのだ。本物の徐公明を見つけろ、と。記憶を失っていても朔夜が認めたという事実を先に教えて。ただ、朔夜は覇王が今の秋斗に期待したから直接は何も伝えなかったが。
 幸いな事に、本物の姿は曝け出された。
 それは偶然であり必然。
 覇王があまりに楽しげに、彼の治世の姿を呑み込んだから。そして……雛里の事を隠そうとしても隠せない相手で、彼が雛里の事をどうしても聞きたいくらいに気に掛けていたから。
 月や詠ではこうはならない。彼自ら気を使って、話題に出そうともしない。月達二人も雛里への想いが枷となって話す事も出来ない。
 華琳が厳しくて、優しかったから出てきただけ。
 そして彼は、彼女達の為に、今の自分は切り捨ててくれと言っている。一人ぼっちで、孤独の中で、嘗ての自分の影を追い続けるから、と。
 投槍にならず、受け入れて背負い、自分を失わず、誰かの為に。
 今の彼は孤独な道化師と言えよう。
 皆を笑顔に出来る主役が帰ってくるまで舞台を繋ぐ……誰にも求められない道化師。
 しかしてその心の在り方は間違いなく、多くの誰かの為に自身を削っていた、黒麒麟であった彼そのモノ。

――これが……徐公明。黒麒麟の大本となった本当の姿。そして……雛里が愛して救いたかった、優しい男。

 雛里は真っ先に今の彼の事を考えて動いていた。
 ひとりぼっちにしないであげてと願ったのは……彼女だけ。
 彼の事を愛しているから、今の彼が幸せに暮らせるように、皆に黒麒麟では無い徐公明を見てくれる事を望んだ。
 しかし……戻ってほしいと誰かが願えば願う程に、今の秋斗は苦しめられる。そして苦しみ故に、切り替わりが強くなり、誤魔化すのだけ上手くなっていく。
 月は今の秋斗が前と変わらないと気付いている為に、彼の苦しみを理解しつつも戻そうとしている。それが救われない今の彼の為になると信じて。
 誰を救いたいか。この状況での選択に……答えは無い。
 ただ、雛里にしても、今の秋斗にしても、何を選ぼうともどちらかが救われない現状が出来上がってしまっていた。

 華琳にしては珍しい事に、思考がピタリと止まっていた。
 小さく喉を鳴らした秋斗からはもう寂しげな声は無く、哀しい素振りも見られない。

「厳しい人かと思ったら悪戯が好きみたいだし、冷たいのかと思ったらそんな顔するし、曹操殿は優しいなぁ」

 彼の気の抜けた言葉を聞いて、やっと思考が正常に回り出した。
 まず、目を細めた。いつものように威圧を含んで。
 次に口の端を吊り上げた。不敵に微笑めば自信が甦る。
 最後に声を出して笑った。そうする事で、秋斗と雛里、二人の内一人への思いやりを切り捨てた。

「……ふふ、あははっ! 面白いわね、徐晃。あなたに自分の欲は無いのかしら?」
「あるさ。あの子達に笑って欲しい」

 口を引き裂き、黒い瞳は真っ直ぐに冷たいアイスブルーの目を穿った。それはまるで、在りし日の黒き大徳のような願い。
 誰かの為になるのなら、自分が救われなくても問題は無いという……黒麒麟の作り上げた全てが持ってしまうモノ。

――私が聞きたい答えとは違うのも分かってるくせにまたぼかして! 『自分』があの子達を幸せにしたいと言え! この大嘘つきっ

 心の内で毒づくも顔には出さず、呆れかえったようにため息を零した。

「そう、ならあなたは彼女達の為に、昔の徐晃に戻ろうと尽力しなさい。ただ……戻った時に今のあなたの記憶が無くなったらどうする?」

 記憶喪失など滅多に起こるモノでは無い為に、華琳は起こり得る最悪の事態を突き付けた。
 この哀しい、徐晃隊と同じ、滅私の想いを宿した男に。

「その時は俺を縛り付けてくれると助かる。前の俺が何を考えてたか大体分かるからな。確実に曹操殿を裏切るだろ。それだけは……あの子達を悲しませる事だけはもうしたくない。黒麒麟をぶん殴ってやりたいくらいだが……なにせ自分だ。クク、殴ったら痛いだろうなぁ」

 おどけながらも其処には怯えがあった。ただし、他人を傷つけるのが怖いという優しい怯え。
 記憶を失ってもやはり秋斗の根幹は変わらず、自分の身などよりも他の者達を守りたかった。
 自分が消えてしまおうとも、彼は前の自分が戻る事によって雛里や月、詠が幸せになってくれる事を望んだ。
 静かに目を瞑り、華琳は口を噤み、厳しい表情で思考に潜った。

――私はまた思い違いをしていた。徐晃は王では無いが王にもなれる矛盾の存在。規律と秩序の大切さを知っていたとは言っても、私の、覇王の現身として成長出来たのは王として成長しきっていない劉備の元に居てこそだった。徐晃という男の在り方は……他人の為だけに存在する願いの器。敢えて名付けるなら……人に願われ謳われるその名は……

「……『天の御使い』というモノをどう思う? 民達から一時的に噂が立って消えたけれど」

 数瞬の後、尋ねる声は重く、開いた瞳は冷たい。
 いきなり話が変わった事で訝しげに眉を顰めた彼は、思考に潜り、直ぐに己が見解を述べた。

「数多の英雄や有力な為政者にすら期待できないと感じた民達の空想の産物なんじゃないか? 願いのカタチ、とも言えるか。そんなもんが居たとして名が売れた場合、もし負けたら民の希望が失われて大事になる。誰か有力な為政者に侍ったとして、後々そいつが居たから勝てたなんて文句を言われたら面倒くさい事この上ないし、絡み合う事柄から先の世にも歪みと亀裂が生じる。『天の御使い』なんざいらん。この大陸に生きてるモノが自分の力で治めてこそ、長い長い平穏が作れるだろうよ」

 何処か憎らしげに、そして自嘲気味に語る。華琳はその姿に違和感を覚えつつも、知性を宿す瞳を向けた。

「徐晃……あなたは『天の――――」
「華琳様ぁ――――っ! お迎えに上がりましたぁ――――っ!」

 言い終わらぬ内に甲高い大声が押し寄せてきて華琳の言葉は掻き消された。
 いつ息継ぎをしているのかと思うくらい長く、良く通る声は華琳の愛する片腕、春蘭のモノ。
 大きくため息を吐いた。呆れから、嬉しさから、興が削がれた落胆から。
 秋斗は目を真ん丸にして声の聞こえた方を見やり続ける。
 次いで、ゆっくりと開かれる引き戸から現れるは店長。やれやれと首を左右に振りながら、二人に苦笑と言葉を零した。

「覇王様、なんとか夜天の間への直接突撃は防ぎましたが……この始末です。一応店の受け付けで待って頂いておりますが……如何しますか?」
「……相変わらずあの子は……いいわ、直ぐに行く。今、あの子と徐晃を鉢合わせさせると店にも迷惑が掛かるから……ゆっくり三百数えて待てたらご褒美を増やしてあげる、と伝えて頂戴」
「承知いたしました」

 紳士的なお辞儀をした店長は引き戸をゆっくりと閉めた。
 なんとも言えない空気の中、華琳は目を細めて、不思議そうに首を捻っていた秋斗を見据えた。

「とりあえず今日はお開きとしましょう。最後にこれからのあなたの話を。現在と過去、どうなるか分からない不安定な存在に多くの人の命を預ける事は出来ない。あなたは客分のままで私の所に居て貰う事になるけれど……それでいいかしら?」
「ありがとうございます。私としては願ったりです」

 突然、堅苦しい敬語に戻った秋斗を見て、何処か居心地の悪さを感じた華琳は顔を顰めた。

「……公式の場以外では崩して構わないわ。あと……あなた自身、心の底から人を救いたいと願うまで戦にも出さないし部隊も与えない。次の戦では……私の隣で戦争がどういうモノか眺めて貰う」
「俺に人を殺せと命じないのか?」
「命じられて殺すと言うなら、私の元には必要ない。嘗て、賊に堕ちた部下を、自分の部下に殺させたモノが居た。理を説き、何故そうするのかを思考させ、己が意思で殺せと命じた。私はその行いを高く評価している。どういう事か……分かるわね?」

 目を見開き、秋斗は苦しげに眉を寄せた。
 華琳に自分がどのようなモノであったのかを突き付けられた。覇王が求めているのは黒麒麟だ、と暗に示されたとも言えるが違う。
 戻る為には最低限必要な覚悟を持て、戻らないにしてもそれくらいの事はして貰う、という意思表示だった。

「ああ、十分だ。肝に銘じておく」

 返事の声は幾多の苦悶が混ざる。しかし瞳は闇色では無く、小さな輝きを秘めた黒。
 満足そうに頷いた華琳は期待を心に浮かべながら、椅子から立ち上がった。

「よろしい。ゆっくり話せる時間が出来たらまた今日のような話をしましょう。客分としての仕事は変わらず風から与えるわ。明日から量が増えるけれど、自分の献策の責任は取って頂戴ね」
「信賞必罰、か。それもしっかり頭に刻んでおくよ。夜分まですまなかった」

 ゆっくりと夜天の間の入り口に進む華琳を見て、秋斗は直ぐに引き戸を開きに行った。

「こちらから呼び出したのだから謝る必要は無いわ。春蘭……夏候惇がいるから送りは不要よ。じゃあまた、次は城で会いましょう。おやすみ、徐晃」
「分かった。おやすみ、曹操殿」

 背を向けて階段まで辿り着き、パタリ、と閉められた戸。
 一度だけ、華琳は振り向いて、小さく口の端を吊り上げた。

「お前がなんだろうとどうでもいい事だったわね。その在り方、そして異質な才や知識が……『天の御使い』と呼ばれるに相応しいとしても。覇王曹孟徳は天意を求めず、自ら道を切り拓くのみ。あなたの完成系であった黒麒麟が御使いなら……やはり私に跪くべきよ」

 目を切った華琳は階段を下りながら、心に一つ、痛みを感じた。

――雛里……あなたの愛した男は変わらない。あなたの求めた優しい男なのだから……戻る為に側に居てあげなさい。
どちらになるとしても、私が欲しい存在である事には変わりない。なら、あなたも、あの男も、出来る限り幸せになれる道を選びなさい。
 あの孤独な道化師が、黒麒麟を演じ始める前に。


























 †



 かちゃり、と洗い立ての白があるべき場所に戻される。
 片付けの手伝いも終わり、疲労の色が濃い息を付いた秋斗は、蝋燭の灯されたカウンターの椅子に腰を下ろした。

「如何でしたか?」

 悲哀を宿す声で聞く店長を見て、ふるふると首を横に振る。

「やっぱり戻らんな。前の俺が敵対してた曹操殿と相対すれば戻るかも、とも思ったんだが……」

 心底残念だ、というように肩を落とす秋斗に、店長はすっと杯を差し出した。

「あなたなら誤魔化してそうおっしゃると思ってましたよ。私が聞きたい事は違う事です」

 相変わらずあなたは……というようにため息を一つ。
 杯を手に取ってゆらゆらと波打つ酒を見つめる秋斗の表情は悲壮に溢れていた。

「鳳統様の事……ですよ。聞いたのでしょう?」

 瞳に黒が渦巻く。彼は空いている片手で胸を抑え付け、僅かに片目を薄く細めた。

「大丈夫……と言っていたがそれは表面上の話だろうな。曹操殿も心痛めているようだから……大丈夫じゃないんだろう」

 グイと杯の酒を煽った秋斗。酒瓶を直ぐに上げて、店長は空いた杯に酒を満たす。

「記憶が無いのに心配するというのはあなたらしいと言えばあなたらしいですが……他のお二人よりも、特にゆえゆえ様に対してよりも気に掛けているのは何故なのか、分かりかねますね」

 店長が疑問を素直に零すと、秋斗はぎゅうと胸に当てた手を握りしめた。強く、痛みに耐えるように歯を噛みしめながら。

「俺はあの子に笑って欲しい。ゆえゆえも、えーりんも同じように心の底から笑って欲しいが……あの子は二人とは別なんだ」

 その真剣な眼差しを覗いて、何故、と店長がそれ以上聞く事は無かった。
 静かに、酒を嚥下する音だけが響く店内は暗い。
 店長も自身の杯を傾けて、きつい酒を喉に通した後、熱い吐息を宙に溶かした。

「明日の朝も早いので私は寝ます。帰る時に裏口の鍵はいつも通りの場所から店内に放り込んでおいてください」
「ああ、分かった」

 おやすみなさい、と言って最上階の部屋に上がっていく店長を見送り、

「気ぃ……使わせちまったなぁ」

 秋斗はため息を一つ。
 なんとはなしに暗闇の階段を見つめ続けること幾分、カウンターに視線を戻す。
 この一本を開けるまで、と決めた所で……最後の一杯しか注げなかった。
 また大きく一つため息を吐いて、彼は一気に杯の酒を飲み干した。
 熱さを宙に溶かす。心の内も同時に出てきた。
 俯き、震える吐息を漏らし、ポタリ、ポタリと雫が落ち始める。口は笑みを浮かべていた。

「……っ……クク……俺には……誰も、救えない。だから……きっと黒麒麟を慕っていた、あの子の為に――――」





――乱世に華を、咲かせよう



 
 

 
後書き
読んで頂きありがとうございます。


華琳様との二度目の出会い。
そして記憶を失った彼の詳しい話。
この物語の華琳様はこんな感じです。
朔夜ちゃんとは真名を交換しましたが、彼とは無しです。

次から数話、交流しつつ戦準備です。

ではまた 
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