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一歩ずつ

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7部分:第七章


第七章

「それじゃあ」
「二人でね」
「ええ、二人で」
 雪はベッドから離れてそのうえで箪笥に向かって服を探した。そのうえで淡いピンクのシャツに白いコート、それに黒のロングスカートに着替えた。
 その姿で扉を開けるとそこにはグレーのセーターに黒のジャケット、同じ色のズボンのレイラニがいた。彼女はすぐに雪に対して言ってきた。
「似合ってるわね」
「そうかしら」
「ええ、似合ってるわ」
 笑顔で雪に言ってきていた。
「とてもね」
「そうなの。だったらいいけれど」
「自信持っていいわよ」
 レイラニはさらに言う。
「それはね。穂のうにね」
「そう。それじゃあ」
「それでね」
「それで?」
「あとは顔を洗って歯を磨いて」
 このことも話してきた。
「メイクもして行きましょう」
「そうね。じゃあ」
「私はもうできたから」
 見ればその通りだった。顔はさらに奇麗なものになっておりそのうえその身体からは薔薇の香りさえ漂ってくる。香水のものなのは明らかである。
「だからね」
「後は私だけなのね」
「そうよ。じゃあいいわね」
「うん。じゃあ」
 それに頷いてであった。雪も自分の準備に入った。そしてそれが終わってからであった。
 外に出る。横にはレイラニがいる。彼女がまた尋ねてきた。
「それでね」
「ええ、それで」
「何処に行くの?」
 このことを彼女に問うのであった。
「それで何処になの?」
「それは」
 それを聞かれて少し戸惑う雪だった。しかし少しだけ考えてからそのうえで述べるのだった。彼女が述べたその場所は何処かというと。
「動物園ね」
「動物園?」
「そこに行かない?」
 こうレイラニに言うのだった。
「これからね」
「動物園なの」
「ほら、子供の頃ね」
 その時に遡った話であった。
「その時よく一緒に行ったじゃない」
「それで一緒にコアラとか見て」
「そこに行きましょう」
 こう提案するのであった。
「二人でね」
「わかったわ。それじゃあね」
「ええ。それじゃあ」
「動物園に行きましょう」
 レイラニは明るい笑顔で彼女の言葉に頷いて答えた。
「そこにね」
「ええ。あそこなら」
 雪はふとしたように呟いた。
「レイちゃんも知ってるし」
「ええ、そうよね」
「それに」
「それに?」
「誰もいないから」
 顔を俯けさせて目を斜め下にやっての言葉だった。
「だからいいわね」
「誰もって?」
「何でもないわ」
 今思っている言葉は言わなかった。言えなかったと言ってもいい。彼女にとってはそれは思い出したくもないことだった。現実というものがだ。
 
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