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第六章


第六章

「それは他の人達の仕事さ」
「他の人達の」
「だから。言わないし言えないんだよ」
 またしても真剣な言葉だった。
「権限なんて夢のまた夢だしな」
「組織とかのシステムだよね」
「それを決めるのは自衛官じゃないからな」
 それもであった。つまり自衛官は何もできないのだ。ただ動くだけである。その時の状況の中で。これが紛れもない実情であった。
「わかってくれるか」
「うん」
 兄の言葉にあらためて頷くのだった。
「それでだ。ゴランに行く前の話だけれどな」
「ああ、焼き鳥だったね」
「それ、行くか」
「焼き鳥でいいの?」
「何言ってるんだ、焼き鳥だからいいんだよ」
 英雄は顔も声も笑っていた。
「御前焼き鳥好きだろ」
「うん」
 これは事実だ。彼はとかく焼き鳥やそういったものが好きでそこにビールがあれば言うことはない。そうした男だったのだ。その中でもやはり焼き鳥だった。
「じゃあ喜んで行かせてもらうさ」
「そう。だったら」
「それで店は何処だ?」 
 その笑顔で弟に問う。
「今から行くか」
「今から」
「店、開いていたらだけれどな」
「開いてるよ」
 壁にかけてあったカレンダーを見てから答えた。
「今日はね」
「そうか。行くぞ、それじゃあ」
「うん。じゃあ案内するよ」
 また兄に答えた。
「行こうか」
「ああ、一緒にな」
 軍事のことは忘れて焼き鳥を食べに向かう。それで話はとりあえずは終わったが兄が仕事で大阪に向かうと。また彼の心を不安が占めるのだった。
 大学の研究会の部屋。研究会といっても部員は彼だけだ。彩名が遊びに来るがそれは部員ではない。今日は彼女がパソコンを開いている彼のところに来たのだった。
「ああ、サイトリニューアルしているの」
「うん」
 本とパソコン以外は何もない部屋だ。漫画もあるがそれは全部軍事関連だ。しかも自衛隊の。完全にマニアの部屋になっている。それがこの研究会だった。
「一応。調べたことも溜まったし」
「溜まったの」
「外国のことも調べたんだよ」
 彼はパソコンのキーボードを打ちながら答える。
「色々とね」
「それでわかったことは?」
「他の国じゃまだ軍隊はよくわかってるみたいだ」
「そうなの」
「うん。徴兵制がある国もあるしね」
「徴兵制って」
 彩名は徴兵制と聞いてその顔を微妙なものにさせた。
「確か構成君徴兵制は」
「反対だよ」
 これには反対を表明しているのだった。
「意味ないし」
「そうよね。そんなことしても全然」
「そういう問題じゃないんだよ」
 徴兵制やそういうことの問題ではないと言う。これは彼の考えだった。
「数の問題じゃ。それに」
「それに?」
「今は専門的な技術集団になっているしね」
「自衛隊が?」
「そうだよ。専門職の集まりなんだ」
 こう述べるのだった。
「自衛隊はね。昔みたいに徴兵制で人集めたらいいってことじゃないんだ」
「そうなの」
「数があっても仕方ないんだ」
 次の言葉はこうだった。よくテレビや巷で徴兵制反対といった意見があるがこれを完全に否定していた。しかもはっきりと簡潔に、であった。
 
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