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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
  第三節 月陰 第四話 (通算第14話)

 グラナダ市街見物を終えたカミーユとランバンが基地に戻ろうとしたのは夕方六時を過ぎていた。変化する空模様は映像である。天井が巨大なスクリーンになっているのだ。月面恒久都市というのはどれも似た様な構造である。階層に判れ、職業毎にコミュニティを作って暮らしている。民族的なコミュニティは少ない。
 ハイウェイから基地が見える。グラナダ基地はグラナダ郊外――いわゆるクレーター外縁部にあり、いくつかの階層を貫いて作られている。いわゆる市街から見ると壁の中である。
「また明日からモグラ生活か……」
「嫌なら軍人やめたら?」
 カミーユの返事は素っ気ない。地球連邦軍の軍事施設は民族、伝統、宗教から切り離すため、人工的な建造物に敢えてされていた。主要な部分は殆ど地下に建造され、人工光と機械質な風景で暮らす。これが地球連邦軍の軍人の姿であった。
 宿舎の入り口には「地球の平和を守ろう!」と書かれたティターンズの人員募集のポスターが貼ってあった。人気アイドルがティターンズの制服を着て写っている。表向きティターンズは全ての地球連邦軍人に門戸を開いている様になっていた。だが、カミーユもランバンも現実を知っている。ティターンズには余程のコネクションがない限り地球出身者しか入隊できなかった。アースノイドのアースノイドによるアースノイドのための軍組織なのだ。だからこそ、宇宙軍ではなく、地上軍からの移籍組が多いのだ。宇宙軍はどうしてもスペースノイド中心になってしまうからだ。地球出身の軍人は地球を離れたがらなかったのである。
「いつまでコレ貼ってるんだ?どうせ、俺たちには縁がないのにさっ」
「ホントだよな。だいたい、エリート組織ったって、何のエリートだか」
 ランバンが揶揄するように言う。カミーユとランバンは士官学校といってもフォン・ブラウン校であったから、同窓では地球出身者といえばレドしか知らない。が、故に他の地球出身者――特に、教科指導官に多かった――との違いを知っていた。しかも、地球出身者の多くは名家や名門、政治家の子弟であり、軍務が政治家としての大きな票田に繋がるが故の入隊であることは既成事実である。
 ティターンズが結成されたのは宇宙世紀〇〇八四年十二月四日。バスク・オム大佐の全地球圏放送でその設立が宣言された。「地球に真の力を再びこの手に取り戻すため」という演説は、地球の人々に拍手喝采を受けたのだ。ティターンズがエリート組織であるというのは、ある意味で本当である。地球出身者で一年戦争を生き抜いた熟練兵の多くティターンズに配属された。だが、現実には中枢を陸軍閥に占められ、宇宙軍や海軍、特に空軍は蚊帳の外に置かれた状態であった。いわゆるレビル将軍の戦死によって力をつけた非主流派のハイマン少将による策謀である。ハイマン少将はジーン・コリニー大将と結託し、旧レビル派最大のコーウェン派の追い落としを図った。『デラーズの乱』はハイマン准将とコリニー大将に利用されたのである。
「ジオンの残党ったって、もう大きな組織なんて残ってないだろ?」
「最大勢力だったデラーズ軍は潰滅したって、アクシズがいるさ」
 デラーズの乱の首謀者エギーユ・デラーズ中将は、ジオン残党の中でも最大級の規模を誇った。彼はギレン・ザビ親衛隊長であり、親衛艦隊司令官であり、キシリア・ザビによるギレン暗殺を悟るといち早く〈ア・バオア・クー〉宙域より撤退し、兵力を温存した。他にも思い思い落ち延びた者たちは多く、それでもなお終戦後の共和国軍は連邦軍を超える兵力を持っていたということは、如何にジオンが勝利を掴む目前にいたか、誰よりもジオン公国軍兵士たちがよくわかっていた。だからこそ、前線の兵士たちは共和国政府を「裏切り者!」と罵ったのである。
 事実、戦後武装解除に応じ、帰国命令に従った将兵の多くはダイクン派の下級将校と兵士たちであり、ザビ派の将校は地下に潜ったのである。
 そして宇宙世紀〇〇八一年八月十五日、ジオン公国国慶節を機にジオン公国軍残党の反地球連邦運動が活溌化した。この拡大を懸念した地球連邦・ジオン共和国政府首脳は十月までに両国の相互撤退を決議し、戦後調査団を派遣することに同意した。
 宇宙世紀〇〇八一年十月二十五日に両国政府に提出された戦後調査団の報告書に驚くべき事実が明らかにされる。先のデラーズ中将率いる一個艦隊に加えキシリア・ザビ親衛隊の一個戦隊が終戦直前に戦線を離脱していたのだ。〈グラナダ〉に駐留していた連合機動艦隊の旗艦《グワジン》以下ムサイ級軽巡洋艦四隻――つまり親衛隊の一個戦隊と第七機動歩兵師団から大隊規模がグラナダを離脱、行方不明になっていたのである。さらに、ジオン共和国に撤収中であったキシリア・ザビ麾下の精鋭、海兵隊シーマ・ガラハウ准将麾下の一個戦隊が逃亡したのだ。
 このことは地球連邦政府が思惑として描いていた軍縮を地球連邦軍に受け容れさせない原因となったのは言うまでもなかった。
 そして、宇宙世紀〇〇八三年十一月十日、デラーズ中将に率いられたジオン公国軍残党は〈コンペイトウ〉鎮守府にて行われた連邦宇宙軍観艦式を襲撃した。地球連邦軍が秘密裏にすすめていた新型ガンダム計画の核搭載型モビルスーツを奪取されてのことであり、奪取されたガンダムによって襲撃は成功したのだ。これにより宇宙艦隊の実に三分の一が失われ、地球連邦軍宇宙艦隊は大混乱に陥った。さらに、彼らの蜂起はそれに留まらず、『コロニー落し』を敢行したのである。この時、連邦軍は派閥対立によって後手に回り、ソーラシステムによるコロニー落下阻止に失敗した。この事件を逆手に取り、コーウェン中将を失脚させたコリニー大将とジャミトフ少将は〈デラーズフリート〉のガラハウ准将と共同作戦を展開。さらにソーラシステムの第二射が両軍入り乱れる戦場に発射され、混迷する戦場を非常識が破壊し尽くすという最悪の形で終息した。『デラーズの乱』は結果として鎮圧されたが、一般には秘匿され、コロニー落としは輸送中の事故として処理された。しかし、一部の地球連邦軍内部の過激派を刺激し、特にハイマン准将の提唱する〈ティターンズ〉結成を議会に承認させる切っ掛けとなってしまった。 
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