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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
  第二節 配属 第四話 (通算第9話)

――サイド3がジオン公国を名乗って以後も、グラナダは友好関係を築き、都市を発展させていきました。グラナダに本社を置くジオニック社はジオン公国軍と共同で機動兵器〈モビルスーツ〉の開発を行ったことでも知られています。
 二人がモビルスーツの展示エリアに入ると、ランバンが歓声を挙げた。ガイダンスの声など、聞いてはいなかった。なら何のために十五ドルも払って借りたのか判らないが、ランバンはザクに釘付けだった。
「レプリカだとしても、やっぱりイイよな……ザクは……」
 展示場の最も手前にあるモビルスーツは《ザク》だった。型式番号MS-06F《ザクII》。ジオン公国軍が一年戦争中に最も生産したモビルスーツである。ジオニック社とジオン公国軍兵器開発局が合同で完成させた、宇宙世紀の鉄の巨人。ミノフスキー粒子の電波干渉によって、レーダーという目を地球連邦軍から奪い、モビルスーツによる近接戦闘を仕掛け、三〇倍といわれた国力比を埋めるための技術の結晶だった。
――人類最初のモビルスーツは土木用重機であるモビルワーカー《クラブマン》をベースに開発された機体で、ジオン公国軍の最高責任者であったギレン・ザビによって「モビルスーツ」と名付けられ、MS-01の型式番号を与えられました。
 七〇年代軍備増強計画によって連邦宇宙軍にマゼラン級宇宙戦艦が配備されると、これに対しジオン公国軍部はミノフスキー粒子撒布化における機動兵器の開発に着手、宇宙世紀〇〇七三年にはMS-01を完成させ、翌年ミノフスキー物理学の応用によって開発された新型熱核融合炉を搭載したYMS-05《ザク》を完成させる。この情報を入手した地球連邦軍上層部は一笑に付したという。しかし、ジオン公国はモビルスーツの有用性を検証し、モビルスーツ母艦機能を持つ巡洋艦ムサイ級を建造、教導機動大隊による演習を行い、軍備の拡充を図った。宇宙世紀〇〇七五年には、連邦軍内で、これを警戒したアレクサンドル・ゴップ大将ら技術将校はRX計画を企図し、計画の隠れ蓑とするために凍結したコロニー建造を再開、サイド7としてルナツーの管轄下で行った。
 そして、宇宙世紀〇〇七七年、サイド6革命で《ザク》が実戦参加するが、大した活躍もなく、地球連邦軍はこれの有用性に気づくことはなかった。度重なる訓練と検証の結果、《ザク》は大幅な改修を施されMS-06A《ザクII》として生まれ変わったのだ。着々と増産されていくモビルスーツの配備によってジオン公国は開戦へと向かっていった。
「腹減らね?」
「……!」
 ランバンがカミーユの視界いっぱいに顔を突き出す。驚くなどという表現ではカミーユのその時の表情に相応しいとは思えない。のけぞる様にして尻餅をついた。
「なぁにやってんだぁ?」
 驚かせた本人は暢気なものである。ランバンが手を差し出すと、キッと睨みつけながらカミーユはその手を取って立ち上がった。ついた汚れを払う様にして、エントランスの近くにあるカフェテリアに黙って向かう。笑いを堪えたランバンが後に続いた。
「悪かったな」ぶっきらぼうに謝るランバン。
 カミーユは別に怒っている訳ではなかったが、不機嫌だった。
「別にっ。怒ってないよ!」
「何か別のこと考えてたんだろ?」
 ランバンはカミーユの様子から、そう判断していた。らしくない。カミーユはいつも周りに気を張っているように感じていたからだ。気分転換にと誘ったのだが、気分転換にならなかったのなら悪いと考えた。ランバンらしい気の回し方だった。
「いや、一年戦争って結局、スペースノイドのフラストレーションの捌け口だったんじゃなかいかって……さ」
「そうだろうな。オレだって、軍人やってなきゃ、連邦政府の批判ぐらいする」
「軍人か……あんまり、俺たちは軍人向きじゃなさそうだ」
 顔を見合わせて吹き出す。スペースノイド共通の認識とでも言おうか。スペースノイドにとってジオンは『敵』という感覚ではなかった。しかし、ザビ家は『敵』だった。ふと見ると、カフェテリアの壁は一年戦争の年表になっていた。
 宇宙世紀〇〇七九年一月三日。ジオン公国の宣戦布告によって一年戦争が勃発した。ジオン独立戦争の幕開けである。宣戦布告から三秒後、サイド6を除く各サイドおよび地球軌道パトロール艦隊に奇襲が仕掛けられたのだ。サイド5を除く各サイドの連邦宇宙軍派遣艦隊は潰滅、コロニー駐留軍は全滅した。そして、ジオン公国軍はGGガスによる大量虐殺を敢行した。これは、コロニーの基地化を恐れての軍事行動であると共に、既にジオニズムに賛同するスペースノイドはジオン公国への移民を済ませており、残存するスペースノイドは地球連邦政府の味方であるとの考えからだったと言われている。これによって、三十五億人もの人命が失われたのだった。 
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