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銀河転生伝説 ~新たなる星々~

作者:使徒
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第30話 望まぬ出征


――宇宙暦818年/帝国暦509年 4月10日――

「出兵だと!? いったい何を考えているのだ!!」

ルフェール共和国の軍統合参謀本部にある本部長室で、宇宙艦隊司令長官ロング・ニトラス元帥は憤りを露にしていた。

「落ち着け、貴官の気持ちも分からんではないが……憤ったところで事態は何も変わらんよ」

「…………」

彼を宥めるのは統合参謀本部長フォルト・ゲイム元帥。
ルフェール軍において最高の地位にいる人物である。

「先日、ティオジア方面軍の司令官が交代した。政府はこれを好機と見ている」

「好機だと……その新たな司令官の名は?」

「アウグスト・ザムエル・ワーレン元帥」

「ワーレン元帥といえば、帝国軍の名将ではないか。政府は何を血迷ってこのような決定を……」

「どうやら、司令官の交代によりティオジア方面軍の指揮系統に混乱が生じると考えているようだ」

「馬鹿な………」

その言葉に、ニトラスは絶句した。
そして、怒りを露にして吐き捨てる。

「そんな甘い話があるものか! 連中は何も分かっていない!」

「だが、政府上層部はそう考えている。それに、グリニア方面への侵攻は陽動だ」

「陽動?」

「この作戦の本来の目的は、第一、第二、第四、第六の4個艦隊からなる本体が帝国軍の耳目をグリニアに引き付けておいて、別動隊である第三、第五、第七の3個艦隊がルフェールと隣接する辺境各国――今は『元』が付くが――そこへ攻撃を加えることだ。成功すれば彼の地域における帝国への不信感は増し、未だ統治に苦労する帝国に政略的なダメージを与えることが出来る。それは、帝国のルフェール侵攻を大幅に遅らせることに繋がるとな。まあ、作戦としてはそれなりだろう。我々に事後承諾ということを除けば……だがな」

「ん? どういうことだ?」

「言葉通りさ。この陽動作戦は、本来作戦を立てるべき我々を差し置いて一方的に通達されたのだよ。こちらに出来るのは戦術的な算段だけだ」

ゲイムは忌々し気に語るが、これは彼らにどうこうできる問題ではない。

「気に食わん話だな。ところで、グリニア方面の本体が陽動ということは、戦わず……もしくは軽く戦闘を行うだけで切り上げてよいと?」

「本体にも会戦で勝利を収めよとのことだ……政府は会戦における勝利というインパクトを必要としているのさ。別動隊の方はある種の保険だろう」

「なんだと! それが今の政治家か!!」

バンッ……とニトラスは机を強く叩き、怒声を込めて言い放つ。
これに関しては、ゲイムもまったくの同感であった。

だが、だからこそ彼は言う。

「ニトラス。この件が成功しようと失敗しようと……いや、十中八九失敗するだろうが、私は本部長の職に留まることは無いだろう」

「勝てば勇退、負ければ責任を取って辞任……ということか」

「ああ。だが私が辞めた後、政治家共の思い通りに動くような人物が軍のトップに立つことだけは避けねばならんのだ。ここで貴官が短期を起こし要職から外れるとなれば、連中は嬉々として自分たちに忠実な者を代わりに据えるぞ。それも、統合参謀本部長に宇宙艦隊司令長官という地位にな」

「…………」

「幸いなことに、現時点でその地位に最も近い第一、第三、第五、第七の各艦隊司令官はそれほどの愚者じゃない。しかし、彼らは全て今回の出兵に参加するのだ。もし、大敗するようなことがあれば………」

「左遷して名誉職にでも回す……か。だが、現政権も転覆は必至だろう」

「ああ、もちろんだ。貴官は知っているか? 野党の議員たちが最近、第十四、第十五艦隊司令官と懇意にしてるのを」

「なんだと………」

第十四艦隊司令官ラムディ・エンソン中将と第十五艦隊司令官アラン・バンディーク中将たちの下へ政治家たちが足を運んでいるのはニコラスも耳にしていた。
しかし、それが与党ではなく野党の議員であったのは初耳である。

「野党の議員にとって、政権交代が起きるのは確定事項なのさ。無論、それは現政権の連中とて分かっている。だからこそ、この無謀とも言える出征を強硬に進めたのだ」

「では、此度の出征における艦隊の選定も………」

「そうだ。司令官が野党と親しい第十四、第十五艦隊に手柄をやりたくない。そんなところだろう」

囮部隊である本体に、まだ定数に届かず数の揃っていない第四、第六艦隊が含まれているのは、そういう理由であった。

「そんな下らん理由で……」

目先の危機より権力闘争。
そんな人物たちに軍の使用権を握られていると思うと、遣る瀬が無くなる。

「嫌な話はこれだけじゃないぞ。こんな現状のルフェールに嫌気を差す人間たちが出てきている。有象無象ならどうにでもなるが、一定の地位にある者ならその影響力は無視できん。で、そんな連中が何を考えると思う?」

「………クーデターか?」

「それもある。が、クーデターを起こすには軍部の協力が必須だ。私とお前が軍の掌握を出来ている限りは、その心配は無いだろう」

「では……亡命か」

「ああ、それも九王国へならカワイイものだが……問題なのは銀河帝国への亡命を考えている輩だ。帝国への亡命となれば、手土産が必要になるだろう」

手土産といっても、彼らに提供できるものは限られている。
即ち、情報である。

「今回の件、良い土産になると思わないか?」

「確かに……情報が洩れていれば厄介だな。こちらでも探ってみるが、確証が取れなければどうしようもないぞ。精々各艦隊の司令官に通達を出すぐらいだ」

「それでもいい、何もしないよりはマシだろう。とはいえ――」

そこで言葉を切ったゲイムは、再度話始める。

「情報が漏れることを前提として敵を嵌めることはできないものかな」

「………なら、1個艦隊を秘密裏に先発させて恒星グリニアの後ろに潜ませておき、戦闘が佳境に入ったところで敵の後背に奇襲をかける……というのはどうだ? どの道、先の作戦だけでは情報が漏れなかったとしても不足だ。別動隊は成功するかもしれんが、本体は勝つか負けるか分からん。どうせなら徹底的にやるべきだろう」

「なるほど。ところで、今度の出征会議だが……貴官は断固として反対しろ。もし作戦が失敗した場合、責任を取るのは俺だけでいい」

「ゲイム、お前………」

ゲイムの覚悟に、ニトラスは言葉を失う。

その後、数日後に開かれた会議において出征は決定された。


* * *


――フェザーン――

「ほぅ……ルフェールはこんなことを企んでいるのか」

「決戦を挑むと見せかけて、本命は艦隊によるゲリラ戦とは……ルフェールも見境無くなってきましたな」

「とはいえ、手品をやる前からそのネタが割れているのではな……この情報とバイエルライン、ディッタースドルフ、グリューネマンの艦隊を増援として秘密裏に送っておいてやれ。ワーレンならそれで対処するだろう」

ルフェールの内通者から情報を受け取った銀河帝国も動き始める。

グリニア星域に、三度目の嵐が訪れようとしていた。
 
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