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艦これ〜海神の怒り〜

作者:黒井稲妻
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一話
一章
  一章

一人の、黒っぽい服を着た艦娘が、建物ーー呉鎮守府の門前で、朝日に照らされていた。彼女は、今日からこの鎮守府に配属される。深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせる。数々の戦闘をこなしてきた彼女だったが、知らない所に住む、というのは、戦闘とは違った緊張を感じさせる。
暫くして、彼女が、よし、と体を揺らすと、頭の、ある艦娘から貰った髪飾りが、小さな音を立てて揺れた。彼女が門を開き、くぐろうとした、その時。
「あなたが、時雨さんですね!待ってましたよ」
門の向こうから、小さな、首から双眼鏡をぶら下げた艦娘が元気良く声を掛けてきた。彼女の姿に、時雨は見覚えがあった。艦娘として直接会った訳では無いが、その姿は資料で見たことがある。名前は確かーー。
「私は、陽炎型駆逐艦五番艦、雪風です。大東亜戦争の時は、あなたとセットで、呉の雪風、佐世保の時雨なんで言われてましたね」
「やっぱり雪風さんか!ボク達がこの姿で会うのは初めてだね!」
時雨は嬉しそうに言うと、早足で門を抜け、雪風に駆け寄った。
雪風は、近付いた時雨の体をまじまじと見ると、拗ねた風に言った。
「先に改二になるなんて、ズルイですよ。私なんてまだ改造すらされてないのに」
「頑張れば、チャンスは来るよ、きっと」
時雨は、雪風を慰めるつもりでそう言ったつもりだった。だが、雪風はため息をついて呟いた。
「みーんな、そう言うんですよね……私だって頑張ってるのに……」
雪風は、更に落ち込んでしまった。そんな彼女を見て、時雨がどう言おうかとあたふたしていると、
「あ、皆が出迎えに来ましたよ!」
雪風が、鎮守府の玄関を指差して、明るい声で言った。そこを見ると、多くの艦娘が、騒ぎながら時雨を歓迎していた。そこには、「我ラ時雨ノ転属ヲ歓迎ス」と書かれた横断幕まであった。
「ほら、行きましょう!」
雪風が、時雨の手を取って、力強く引っ張った。時雨は、雪風の手に引かれながら、ある種の温かさを感じていた。

1997年7月、海から謎の生命体、深海棲艦が出現。この日を境に、人類と深海棲艦との、長い戦争が始まった。
だが、人類の既存兵器ではまるで歯が立たず、核を持ってしても、深海棲艦を止めることは出来なかった。
海から追いやられ、核の雨が打たれた人類に残されたのは、神頼みしか無かった。それが功を奏したのかは分からないが、ある日突然、人類の救世主ーー艦娘が出現した。彼女ら曰く、艦娘は大東亜戦争で、海に散った英霊の集合体である、とのこと。
とにかく、人類は彼女らに希望を託し、大気の浄化に専念し、艦娘を統率する、提督を派遣した。提督は、軍人の中から選び抜かれた、エリート中のエリートーーの、はずなのだが、
「とてもそうには見えないんだけどな……」
「ん?何か言ったか時雨」
時雨の目の前にいる、執務室の椅子に足を乗せて怠そうにしている若い男ーーこの人物が呉鎮守府の提督らしい。その横で金剛型戦艦一番艦、金剛が、何やら彼に睨みを効かせていた。
雪風の話に依れば、秘書艦になったが最後、一部を例外として、提督からのセクハラに一日中耐え抜かなければならないらしい。前の佐世保鎮守府の提督は、堅物すぎて嫌われていたが、こちらではその逆らしい。
「ま、今日から君もこの鎮守府の一員だ。戦闘は服が破れ……もとい、怪我しないようにしてくれればいいから、頑張れ」
提督は、そう気怠そうに言った。
時雨は、敬礼をして、執務室から出た。戸をゆっくり閉めると、深い深いため息をついて、廊下にへたり込んだ。
(た、頼りなさすぎる……)
あんな提督の元でやっていけるのだろうかーー時雨は、今後の生活が心配になった。
時雨は、いやいや、と首を横に振って立ち上がると、
「どれだけ提督がダメ人間でも、ボクは提督に従わなくちゃならないんだ。軍人である以上は!よし、頑張るぞー!」
時雨は意気込むと、長い廊下を、軽いような重いような足取りで歩いていった。 
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