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求道

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第六章


第六章

「次は窮めるのだ。わかっているな」
「無論です」
 そしてそれに応えて頷く凌駕だった。顔つきはここに来た時よりもさらに引き締まっていた。それはまさに極めた男の顔であった。
「私もまた窮める」
「貴女もなのですね」
「そうだ。だからこそ案内したい」
 彼に言う言葉が変わってきた。微妙にではあるが。
「然るべき場所にな」
「まさかそここそが」
「そうだ。そこだ」
 言葉の言葉もまた凌駕がはじめて出会った頃とは違うものになっていた。やはり引き締まり鋭いものになっている。それもまた極めた者の顔であった。
「そこに案内しよう。そして共に」
「剣を窮めるのですね」
「その通りだ。そこにあの方がおられる」
 話がまた変わった。
「あの方がな」
「といいますとあの」
「そうだ、あの方だ」
 凌駕の言葉に答える形になっていた。
「あの方がおられる。私の祖父の師匠であられた方だ」
「言葉さんの祖父殿の」
「そうだ。そこに行こう」
 また彼を誘うのだった。
「そこでだ。剣を窮めようぞ」
「はい、それでは」
 こうして二人は今までいた山寺に別れを告げ別の場所に向かった。そこは霊峰とさえ呼ばれる山であり緑は深く人が入った形跡もない。二人はその奥に入って行きそうして。その頂上に辿り着いたのだった。
 そこには小さな一軒家があるだけだった。いるのは小柄で物静かな老人だけだ。穏やかな顔をしていてとても剣を握るようには見えなかった。その彼が切り株の上で静かに座禅を組んでいた。
「誰か来たのう」
 二人が老人の前に来るとすぐに呟いてきた。
「しかも剣を使う者達か」
「おわかりなのですか」
「もう」
「わかるとも」
 こう言葉と凌駕に述べてきた。その声も実に落ち着いたものであった。
「気が言うておるわ」
「気がですか」
「その通りじゃ。まだ気が刺々しい」
 今度はこう二人に話すのだった。それと共に目を開けてきた。
 目の光も実に穏やかだ。その目で二人を見ての言葉であった。
「極めはしたが窮めてはおらんか」
「窮めてか」
「極めてもまだ道がある」
 老人はこう二人に言うのだった。
「まだな。それが窮めるということじゃよ」
「はい、ですから」
「我々はここに来ました」
 二人は老人の前に跪き言ってきた。
「ですからどうか」
「私達に剣を教えて下さい」
「それではじゃ」
 ここで老人は二人に対して穏やかに言うのだった。
「剣を出してみよ」
「剣をですか」
「それからじゃ。振ってみるがよい」
 こう二人に告げる。
「よいな。まずは素振りじゃ」
「はい、それでは」
「すぐに」
 二人は老人の言葉に応えそのうえで剣を出した。そうしてその剣を手に持ったうえでそれぞれ老人の前で素振りをしてみせたのである。
 老人はその素振りを静かに見ていた。そして素振りを見た上で言った。
「そうじゃな。よい」
「そうですか。よいのですね」
「私達の素振りは」
「二人共極めている」
 また極めるというのだった。
「じゃがやはりまだ窮めてはおらん」
「はい、それは」
「申し訳ありません」
「謝ることはない。剣を持たずして斬る剣道ではまだないな」
「剣を持たずに!?」
「斬る!?」
 これは凌駕にも言葉にも思いも寄らない言葉だった。二人はその言葉を聞いて思わず目を丸くさせた。そうしてすぐに老人に問うのだった。
 
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