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東方攻勢録

作者:ユーミー
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第十二話

「……ここは?」
 目を覚ますと、すっかり見慣れた天井が俊司を出迎えてくれた。周囲を見渡すと、昔学校で使っていたカバンが置かれている。どうやら自室に運ばれたらしい。
「里中さん!」
「俊司さん!」
 布団のそばには二人の少女が、不安そうな顔をして俊司を見ていた。
「妖夢……衣玖さん……」
「衣玖さんが大声で叫んでいるから何事かと思えば、あなたが血だらけで倒れていて……それを見た瞬間……私、頭が……真っ白に……」
 妖夢は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
 俊司が倒れた後、妖夢達は奇襲でもあったのかとパニックになったそうだ。まあ血だらけの彼を見たら誰だってそう思うだろう。すぐに永琳が治療を施し、なんとか事なきをえた。亡霊なので死ぬことはなかっただろうが。
「……ごめん。俺もここまでとは思わなくってさ……」
 俊司はゆっくり体を起こすと、すっかり涙目になった妖夢の頭をなでた。
「里中さん、自身のスペルカードは熟知しておかないと、いつか身を滅ぼしてしまいます。注意してください」
 衣玖少し怒っているようだが、同時に心配してくれているようだった。俊司は何も言うことなく頷く。衣玖は溜息をつきながらも、また笑みを返してくれた。
「里中さん、さっきのスペルカードの代償……このことなんですね?」
「はい」
 決意『守ると決めた日』は対象を守る代わりに、そのダメージを受けるというものだった。それも単にうけるだけではない。何十倍にも膨れ上がったダメージを受けるのだ。そのため衣玖の雷をおびた弾だけでも、俊司が吐血して倒れるくらいのダメージになっていた。
「……どうしてそんなものを作ったんですか? 俊司さんが考えるスペルカードは……ほとんどデメリットがあります。今回のは……特にひどすぎますよ!」
 俊司のスペルカードは肉体強化や武器強化がメインだ。特に肉体強化のスペルカードである『犠牲と発達』『感情の真骨頂』の二つは効果を増幅させることだって可能だし、へたすれば誰もかなわなくなるくらい強くなってしまう。しかし『犠牲と発達』は五感のうちの一つを犠牲にしなくてはならないし、『感情の真骨頂』はベースにした感情を増幅させてしまう。どう考えてもデメリットが強すぎるのだ。
 しかし俊司はそれらのスペルカードを平気で使用する。妖夢達には考えられないことだ。
「そうかもしれないな……でも、これくらいがちょうどいいんだ」
 そう言いながらスペルカードを取り出すと、俊司は悲しそうな顔をしながらそれを見ていた。
「ちょうどいいと言いましても……」
「俺の能力は『危機を回避する程度の能力』。この力さえあれば命を守ることなんて容易い。逆に考えれば、相手にとっては倒せない相手に見えてしまう。だからこの力に対するデメリットも存在するんだ」
 俊司の言うデメリットは、自身が気づいていないか不可能な状態にされることの二つだ。要するに手段がなくなるということ。実際に俊司はその弱点をつかれて、二つの命をなくしている。
 しかしそれを補うのが決意『守ると決めた日』だ。能力のデメリットをなくし、自分・人・物のすべてを守ることができる。それにへたすれば撃退まで持っていくこともできるだろう。だがその部分がダメなのではと、俊司は考えていたのだ。
「決意『守ると決めた日』もそうだ。完全な防御で攻撃を防ぎ、さっきのように攻撃に写ることができる。でもそんな物をいろんな戦いで使ったら……負けるようなことなんてなくなってしまう」
「それでいいのでは――」
「それじゃだめだ。完全無敵なんてものは存在しない。俺の能力だって突破口はあるんだ。だから……俺はスペルカードにデメリットを含んでるんだ。強力なものには特に……」
 完全無敵は存在しない。弱点は必ず存在する。それをなくすことも許されない。これが俊司の思想でもあり、自分に対しての甘えを取るものでもあるのだろう。かつて能力に頼りきっていた頃に見せつけられた、あの幼馴染の死に関連づけて……。
「俊司さん……」
「心配してくれてありがとう……でも、決めたことなんだ」
「……」
 衣玖も妖夢も反論しようとはしない。というよりかは出来ないのだろう。目線を下に落としたまま黙り込んでいた。
「……でもこのスペルカードは最終手段として使うよ。出来れば俺もこんなスペルカードは使いたくないから」
「……わ……あな……から」
「……妖夢?」
「私が! あなたを……守りますから……!」
 妖夢はまたしても涙目になりながら、真剣なまなざしで俊司を見つめた。
「私があなたの弱点を補います。必要ならば目や手足にもなって見せます! ですから……ですから……」
 徐々に視線を落としながら、妖夢はまた黙りこんでしまった。俊司も彼女の気持ちがわからないわけではない。逆の立場でもそう言ったはずだ。俊司は聞こえないように小声でありがとうと呟くのだった。
「衣玖さん、色々とご迷惑をおかけしました」
「いえ。私のことは大丈夫ですから。そうそう、あなたが目覚めたら永琳先生を呼びに衣玖約束でしたね。呼んでまいります」
 衣玖は静かに立ちあがると引き戸に手をかける。
「ああ、言い忘れていました」
「言い忘れ?」
「はい、紫さんからの伝言です」
 そう言うと、衣玖からさっきまでの優しさにあふれた表情が消えた。
「あさって……全員を集めて会議を行うそうです」
「そっ……それって!」
「……最終決戦だそうです」
 衣玖はそう言い残して部屋から去っていった。
(最終決戦か……こうしちゃいれないな!)
 俊司はそばに置かれていた銃とナイフを取ると、所定の位置に装着して立ち上がった。
「妖夢、ちょっと付き合ってくれるか?」
「えっ?」
「特訓……いいか?」
「特訓だなんて! そんな体で――」
「守ってくれるんだろ? だったら俺も妖夢も強くならないといけない。協力……してくれるよな?」
 俊司は優しく微笑みかけながらそう言った。一瞬言葉を失っていた妖夢だったが、何を言っても聞かないだろうと悟ったのか、同じように微笑みかけながら立ち上がった。
「わかりました。手加減なしでよろしいですね」
「ああ。よろしく頼む」
 二人はそのままいつもの場所に向けて歩きだすのだった。 
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