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不思議な味

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第三章


第三章

「ないかも知れないって位薄かったんですけれどね」
「美味しくないんですか」
「いや、それでもこれがね」
 親父はまずいかというとそうではないと否定した。
「結構いけたんですよ。これが中々」
「そうだったんですか」
「はい、そうなんです」
 親父はアッサムに答えた。
「これはナンカが言っていませんでしたか」
「うん、言ったよ」
 横からナンカが笑顔で言う。
「その通りだよ」
「そうか。なら話は早いな」
 親父は店の中にあるスープのアクを取っていた。アクを取りながら話を続けていた。
「そういうことなんです。本当に変わった麺でしてね」
「日本人は薄味が好きでしたね」
「はい、そうです」
 タイ人から見ればそうなのだ。日本人の食事は彼等から見れば非常に変わった食事なのだ。もっとも日本人にしてもタイ人の料理は舌に合わず日本軍は結構苦労したのだ。
「あと魚が異常に好きでしたね」
「海のものにこだわっていましたね」
 これはアッサムも見ていた。
「何かというと生の魚を食べて」
「そうそう」
 思い出した顔が怪訝なものも含んでいた。
「挙句には小魚まで食べて」
「美味しいんでしょうか、あれは」
「さて」
 アッサムはそれには首を傾げる。懐疑的なのがはっきりとわかる。
「彼等にしてみれば美味しいんでしょうね」
「わからないですね」
「そのわからない味がうどんにそばなんですよ」
 話がそこに戻った。
「何であんなのを食べるのか」
「そんなにですか」
 ここで彼はふと疑問に思うことがあった。それを親父に言った。
「ああ、それでですね」
「はい」
「そのうどんにそばですが」
 もっと突っ込んだ話を聞くのであった。
「どんな麺なのでしょうか」
「どんなのですか」
「はい、やはり我々が普段こうして食べている麺とは全然違うのですね」
 今親父からもらったそのコエチャップをすすりながら尋ねる。黒いスープの中のその麺が実に美味い。その味を楽しみながら問うのだった。
「はい、全然違いますね」
「ひょっとして米も麦も使った麺ではないと」
「そばはそうなんですよ」
「そばは、ですか」
「はい、そば粉がありますよね」
「ああ、あれですか」
 話を聞いておおよそのことがわかった。彼もそばのことは知っている。だからその話を聞いてそれが一体何なのか理解したのである。
「あれを麺にするのですか」
「やっぱり日本人はそれを美味しそうに食べていましたね」
 親父は首を少し捻ってから述べた。
「私は食べていないので美味しいかどうかわかりませんが」
「そばはそうなのですね」
「はい。作り方は普通の麺と同じみたいですね」
 作り方についても言及する。
「小麦の麺と」
「成程。作り方自体は変わらないと」
「それで宜しいでしょうか」
「ええ、有り難うございます」
 まずはそのことについて言及する。
「まずはそばの麺はそれである程度はわかりました」
「そうですか。それは何よりです」
「はい」
「それでうどんは小麦を使ったものです」
 そばについて話したうえで今度はうどんについての話をはじめてきた。これもまたアッサムにとっては興味深い話である。何しろ彼は最初にそちらを聞いたのだから。
「小麦をですか」
「ああ、そうだ」
 ここで親父は何かを思い出したように口を開いた。
「その麺ですけれどね」
「はい、麺は」
「うどんは太い麺なのです」
「太いのですね」
「はい。そのコエチャップと比べると大体五倍はありましたね」
「これの五倍」
「そばの麺は大体同じ位だったと思います」
 そばについても言う。
「そして両方共麺は縮れてはいません」
「縮れていませんか」
「ええ。まっすぐですね」
 麺の形状まで言うところが流石であった。伊達に麺で食べてはいない。
「麺についてはそんな感じです」
「わかりました。うどんは太い小麦の麺で」
「はい」
 まずはそれを確認する。
「そばは細い麺ですか。わかりました」
「どちらもまっすぐで縮れていなくて」
 そこも確認が為された。
「そんな感じの麺でした」
「それでですね」
 しかし話はこれで終わりではない。アッサムはさらに親父に対して問うのであった。彼もここまで来たならば最期まで聞くつもりであった。
 
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