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マカロニウエスタン

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第三章

「駄目だ、そこは」
「えっ、駄目ですか」
「今ので」
「そう、駄目だよ」
 とてもだというのだ。
「だからもう一回だよ」
「もう一回ですか」
「これで四度目ですよ」
「四度目でも何度目でもだよ」  
 ファリーナは難しい顔で彼等に言う。
「いい撮影が出来るまで」
「そうですね、それじゃあ」
「やりましょう」
 役者達もはっきりとした声でファリーナに応えた、そしてだった。
 彼等も納得して撮影を続ける、そして。
 撮影は真剣な中で進められていく、何度も撮りなおしをしてだった。
 時間も金も限られた中であるが。
 極限まで努力を続ける、そうした撮影だった。
 その撮影を見てだ、チンベッサは唸って言った。
「いつも思うがね」
「真剣だっていうんだね」
「映画の撮影は」
「ああ、本当にね」
 そうだとだ、彼はイタリア人達の努力を見て話すのだった。
「いい撮影現場だよ」
「だってな、いい映画じゃないとな」
「こっちも気が済まないからな」
「そうだよ、折角スペインまで来て撮影してるんだよ」
「手間暇かけて作るからな」
 それでだと返す彼等だった。
「それならな」
「いい映画じゃないとな」
「それでだよ」
「俺達も真剣だよ」
「映画についてはな」
「だよな。そうじゃないとな」
 チンベッサも彼等の陽気だが真剣な言葉に応えた。
「いい映画にはならないからな」
「本気でな」
 監督のファリーナも言う。
「ハリウッドを越えるつもりだよ」
「本場の西部劇をか」
「ああ、そうだよ」
 絶対にだというのだ。
「そうしてやるよ」
「凄い意気込みだね」
「凄いのは意気込みだけじゃないだろ」
「ああ、俺にもわかるよ」
 くすりと笑ってだ、チンベッサはファリーナに答えた。今は休憩時間でコーヒーを楽しみながらその場に座って話をしている。
「そのことはな」
「そうだよな。あんたもわかってくれてるな」
「当たり前だろ、ずっとこうして見てるんだぜ」 
 それならというのだ。
「わからない筈ないだろ」
「そうだよな。じゃあこの映画もな」
「完成させるんだな」
「それも良作にな」
 してみせるというのだ。
「絶対にな」
「頑張ってくれよ。それでな」
「ああ、上映になったらな」
「そっちも楽しませてもらうからな」
 チンベッサは笑顔でファリーナに述べた。
「絶対にな」
「楽しみにしてくれよ」
「ああ、そこに俺の名前もあるしな」
 現地のスタッフとしてだ、チンベッサの名前も最後のスタッフロールに入るのだ。彼にとってはそれを観ることも楽しみなのだ。
「待ってるぜ」
「そうしてくれな」
「よく馬鹿にされるけれどな」
「アメリカの真似ってか」
「まあ真似って言えば真似さ」
 ファリーナもこのことは否定しなかった、イタリアの西部劇はアメリカの西部劇の真似であるということを。 
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