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ピカソの食道楽

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第二章

 彼は昼は彼の労働を果たした、そしてだった。
 夜は友人と共にその約束の場所に向かった、そこはというと。
 レストランだった、レストランの店員はピカソ達特にピカソの顔を見ると笑顔になってそのうえで彼に言った。
「今夜もですね」
「うん、今夜もだよ」
 笑顔でだ、ピカソは店員に応えた。
「あれを頼むよ」
「はい、わかりました」
 こうした慣れたやり取りからだった、そのうえで。
 二人で席に座りサラダやオードブルを食べていく、そして。
 あるものが来た、それはというと。
 ステーキだった、それもかなり分厚く大きなものだ。友人はそのステーキを見ながら共に座っているピカソに対してこう言った。
「今夜もだね」
「やっぱり夜はこれじゃないとね」
「ステーキだね」
「そう、それもスペイン風のね」
 その中でも彼の故郷のものだ、ピカソはパリにいてもスペイン人なのだ。
「これを食べないとね」
「やっぱり力が出ないんだね」
「そうなんだよ、僕は」
 こう笑って言うのだった、昼の時と同じく。
「夜はこれじゃないとね」
「そう言うんだね」
「そうなんだよ」
「大蒜と同じだね」
「ははは、そうだね」
 その通りだとだ、ピカソは友人の言葉に笑って応えた。
「僕は大蒜にステーキがないとね」
「他のものもじゃないかい?」
「パンやワインもだね」
「そうそう、色々ないとね」
「そうなんだよね、僕の場合はね」
「そして君はそうしたものを食べて」
「明日も描くよ」
 こうも言うのだった、その彼の故郷の焼き方のステーキを切って口の中に入れてその味を愉しみながら。
「そうするよ」
「そうだね、明日描く絵が」
「一番いいからね」
 この言葉もピカソがいつも言っていることだ、彼はこう言っていつも描いているのだ。
「そうするよ」
「そうだね、ではね」
「今日も楽しんでいるよ」
 ステーキをというのだ。
「そして明日も描くよ」
「頑張ってくれよ」
「お互いにね」
 友人にもこう言うピカソだった、彼はステーキも楽しんでいた。しかし彼の食への造詣はこれで終わりではなかった。
 ある日その友人にだ、仕事の合間でこんなことを言った。
「牡蠣だけれどね」
「牡蠣がどうしたんだい?」
「いや、あれは美味しいね」
 フランスでは牡蠣は非常によく食べられている。フランス人の大好物の一つと言って差し支えない位である。
「僕は牡蠣も大好きだよ」
「身体にもいいしね」
「そう、エネルギーになるよ」
 ここでもこう言ったピカソだった。
「牡蠣はね」
「エネルギーということは」
「最近考えているんだ」
 ピカソは友人に対して話していく。
「牡蠣も美味しいしエネルギーになるからね」
「凝ろうと思ってるんだね」
「食べることは前から好きだけれど」
 この辺りピカソの味の嗜好にも合っていた。
「一つ面白い料理を作ってみようかなってね」
「面白いね」
「そう、そうした料理をね」
 牡蠣を使ったそれをだというのだ。
「考えているんだ」
「じゃあ作ってみたらどうかな」
 特に反対せずにだ、友人はピカソに答えた。 
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