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ギロチンの女

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第六章

「結局のところはな」
「何も出来なかった」
「ううむ、まさか悪霊だったとは」
「我々の手の届かない相手だったな」
「悪霊が相手ではどうしようもない」
「我々はな」 
 警官では、というのだ。
「昼の世界ではな」
「夜の世界のことは」
「そうです、昼と夜はまた違う世界なのです」
 そうだとだ、こう言ったデュパンだった。
「同じ場所であっても」
「それでか」
「君は悪霊のことを知っていたのだな」
「そしてこの事件を解決出来た」
「そういうことか」
「そうなります。何はともあれこの町の事件は解決しました」
 デュパンは夜、彼の世界の中で微笑んで警官達に述べた。
「神父さんのご協力もあって」
「いえ、私は」
 神父は微笑んで謙遜してこう言った。
「何もしていません」
「いえいえ、そうではありません」
 今度はデュパンが神父に言った。
「僕一人では何も出来ませんでした」
「そう言って頂けますか」
「一人では何も出来ません」
 例え知識があろうともだというのだ。
「ですから」
「今回のことはですか」
「はい、有り難うございます」
 デュパンは神父に礼を述べた、そして。
 警官達にもだ、頭を下げてからこう言った。
「今回は有り難うございます」
「いや、我々は一緒にいただけで」
「何もしていないが」
「ただ見ているだけだった」
「本当に何も」
「いえ、この町に案内してくれました」
 このことについてだ、デュパンは警官達に礼を述べるのだった。
「お陰で悪霊は浄化されこれ以上犠牲者が出ることもなくなりました」
「だからか」
「我々にも礼を述べてくれるのか」
「そうです。これでこの町の方々はまた夜の中を歩けます」
 デュパンは微笑みつつ話す。
「そして夜の素晴らしさを堪能してくれます」
「夜のか」
「その素晴らしさを」
「夜にこそ真実はあるのです」
 その夜の中での言葉だった。
「僕は多くの人に夜のこの素晴らしさ、その中にある真実を知ってもらいたいのです」
「ううん、そうか」
「夜をか」
「そうです、多くの方に」
 こう笑顔で言う彼だった、そのうえで。
 事件を解決した彼は神父と別れを告げ警官達と共にパリに戻った、そのうえで報酬を受け取り夜の中に戻った。
 警官達の報告を読みだ、ナポレオンはこう重臣達に言った。
「人は知っておくことだ」
「人材をですか」
「そうだ、人はそれぞれ適性があるからな」 
 デュパンにしてもというのだ。
「彼は夜の住人だ、夜の世界のことには詳しい」
「だからあの者に依頼されたのですか」
「あの者なら事件を解決出来るからこそ」
「そうだ、何はともあれ事件は解決した」
 ナポレオンはこのことについても言及した。
「町に平和が戻った、私としても己の責務を果たせた」
「皇帝としての」
「そのことをですか」
「皇帝は国を安らかにしなければならない」
 ナポレオンはこのことは強い声で言い切った。
「例えそれが悪霊であってもだ」
「退けてですか」
「安らかにしなければならないのですね」
「そうなのだ、だからだ」
「それで、ですか」
「よかったと言われるのですね」
「その通りだ、この世は昼だけではないが」
 ナポレオンもそのことはよくわかっていた、この世界は昼だけではないということが。そして夜には多くの生者ではない者達がいることも。
「しかしだ」
「夜の者を使えば夜のことも収められる」
「そうした者を見出し使うことですか」
「そういうことになる、私はな」
 ナポレオンは満足している顔で述べた、町の奇怪な事件は無事に終わった。だがデュパンはこれまでと変わらず夜を愛していた、その中で生き続けたのだった。


ギロチンの女   完


                                2014・2・27 
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