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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Myth5-Aアムルの守護騎士団~Glauben OrdeN~

 
前書き
Glauben Orden/グラオベン・オルデン/信念の騎士団  

 
†††Side????†††

(何故こうなってしまったのだろう・・・?)

我々守護騎士一同(ザフィーラは居ないが)は、服飾品の多く並ぶ店に訪れていた。主オーディンらに我らの衣服を買うように言われ、こうして居るのだが・・・私はこういった経験が無いため、何が出来るわけでもなく佇んでいる。
今まで我々が仕えてきた主とは全く違う雰囲気を持つ今回の主、名をオーディン。我ら“闇の書”の管制人格(アレ)と同じ銀の髪をした青年は、一言で言い表すなら真っ先に、不思議もしくは謎、だろう。今までの主は、決して如何なる者にも屈することのない強大な権力と力を持っていた。一国の王であったり、領主であったり。しかし今回の主はそのどちらもでない。

「シグナムさん。なにか要望とかあります? どういう服が好みで、こういう服が着たい、とか」

「え? いえ。特にそう言った物は・・・」

いま私に要望を訊いてきた少女、エリーゼ卿(男爵位をお持ちとのことだ)がこの街(アムルと言っていたか)の主であり、我らが主オーディンはこの街の医者だそうだ。医者が“闇の書”の主になるというのは初めてで、しかも我々に対する接し方もこれまでの主と違って、高圧的ではない随分と優しいものだ。
“闇の書”を知っているか否かは判らないが、すでに名乗りと転生・起動時の場面に居合わせたことで我々が普通ではないことくらい理解しているはず。だというのにあの態度。我ながら戸惑ってしまうのも仕方ないと思っている。

『しかし、シャマル。お前はもう馴染んでいるな』

ルファという少女(主オーディンの看護助手との事だ)と、我ら守護騎士の参謀であるシャマルが様々な服を手にとって体に当てていた。私の思念通話にシャマルは『だって初めてなんだもの。こんなに普通の扱いを受けるの』と少しばかり悲嘆の入った声色で返してきた。
これまでの主の我らに対する扱いを思い出す。確かに酷いものだったと思う。中には主以外の者が良くしてくれた事もあったが、それはごく少数でしかなかった。しかし我らが人間ではないのもまた事実。故に仕方ない処遇だとも思っている。

「シグナムさんはスタイルが良いから、なに着ても似合いますよね。むぅ、羨ましい。オーディンさんはやっぱりわたしのような子供体型よりシグナムさんのような・・・ダメダメ、そんなこと考えちゃ」

エリーゼ卿はそう独り言を漏らしつつ、私の衣服を選んでくれている。それを横目に、今度はヴィータへと目をやる。ルファと同じ主オーディンの助手たるモニカという少女に揉みくちゃにされていた。編んでいた髪を解かれ、櫛で梳かれては別の髪型へと結われ、その繰り返しの中で「オーディン先生は、ヴィータちゃん達のこと強い騎士って言ってたけど、ホント?」と訊かれていた。
ヴィータはそれに対し「あ、当たり前だろっ。あたしらは最強だっ」と雑な口調で答えた。モニカはヴィータを抱え上げ、「くはぁ、雑な口調がまた可愛い~❤」とクルクルとその場で回り始めた。

「や、やめろよ。あたしがこんなんで喜ぶガキじゃねぇんだぞっ」

「いいよいいよ~、さっき言ったように敬語にならなくて~♪」

我々は先程ルファとモニカに、敬語は必要ない、と言われた。ゆえにヴィータはすでに実行している。しかし私はやはり何者かに仕える守護騎士の将として確りしなければならないため、そう容易に口調を崩すことは出来ん。

「ちょっとモニカ。遊んでないできちんと選んであげてよ~」

「判ってるよぉ~。ヴィータちゃんは可愛い娘だからねぇ、目移りしちゃんだよ~」

ルファに叱られるも、モニカは変わらずヴィータから離れようとしない。少しばかり鬱陶しく思っているような顔をしているが、力づくで逃れようとしないところをみると、ヴィータとて心底嫌がっているわけではないようだ。改めてエリーゼ卿に視線を戻そうとしたところで、この店の店主である若い女性が私の元へ歩いて来た。

「はじめまして。私、この店シュテルネンリヒトの店主ターニャって言います♪ 今後新しい御洋服をお求めの際は、シュテルネンリヒトを御贔屓にお願いします。では本題。ねえ、あなた達、見ない顔だけど、エリーゼちゃん達とはどんな関係なの?」

お辞儀でもして無言を貫こうと思えば出来るような気もするが、愛想がなく付き合いも悪いという事で主オーディンの評判を悪くするのもまずい。

「はい、はじめまして。私はシグナムと言います。エリーゼ卿と――というよりは、我々は主オーディンの知人です」

「オーディンさんの? へぇ~ほぉ~。ムフフ♪ エリーゼちゃ~~ん。もしかして大ピンチなんじゃないの? 色々とさ~」

「ふえっ? な、何を言い出すのかなぁターニャさんは? あはは~」

「嘘つくの下手過ぎ~♪」

はしゃぎ合う2人をしばらく眺め、シャマルが「本当ですかっ?」と驚いた声を上げた。そちらに視線を移すとシャマルと目が合い、シャマルが3着の服を手に「主オーディンがデザインした服なんですって」と見せてきた。そうなのか。此度の主は本当に不思議なお方だ。医者でありデザイナーでもあるとは。

「オーディン先生は医者とは別に服のデザイナーもしているんです。その売り上げの一部は、お世話になっているという事でシュテルンベルク家に収めていて、残りは戦災で苦しむ街の支援の為に使っているんです。この半年間、オーディン先生は少しでもシュトゥラの為になればと頑張ってきて、今ではシュトゥラの有名人です」

「半年間・・・?」

「はい。オーディン先生は半年前にここベルカを訪れたんです。詳しいことは私が勝手に言うことは出来ませんので、ごめんなさい」

半年前にベルカを訪れた? 主オーディンはベルカの人間ではないのか。通りで我々の事を恐れないはずだ。なにせ“闇の書”を知るのは、ベルカに住まう人間が大半だからだ。“闇の書”の転生場所は基本ランダムで、ベルカ以外の世界に転生する場合も少なからずある。しかし確率的にはベルカ内で転生するのが高い。そして主オーディンはベルカ人ではない。

(だから闇の書の事を知らなくともおかしな話ではない、か)

まぁベルカ人であろうと“闇の書”を知らない者も居るから、この考えはさほど意味はないが。

『驚いたわね。この戦乱の世であるベルカにわざわざ訪れるなんて。主オーディンは一体どのような目的でベルカに来たのかしら?』

『詮索するな、シャマル。どのような目的であろうと主オーディンは良き行いをし、この国に貢献している。今はそれで良いではないか』

『・・・そう、ね。ええ、判ったわ』

再び服を選ぶためにシャマルがルファと共に踵を返した時、店の外からリィーンゴォーン♪と鐘の音が連続で聞こえてきた。直後、店内を包んでいた柔らかな空気が凍りついたかと錯覚するほど張りつめた。店の奥に居た女店主ターニャ殿が「エリーゼちゃん!」と切羽詰まった顔でエリーゼ卿を呼ぶ。エリーゼ卿とルファもそうだが、一番はしゃいでいたモニカの表情すらも険しくなる。

(なんだ、一体何が起きている? この張りつめた空気はどういうことだ?)

「シグナムさんっ、シャマルさんっ、ヴィータちゃんっ」

エリーゼ卿が我々の名を呼び、「お願いしますっ」と頭を下げた。お願いします、とは一体どういうことなのだろうか。何をお願いされているのかが判らない。訊き返そうにもそうすることで主オーディンと我々の関係に疑念を与えてしまうかもしれないと危惧してしまう。それゆえに訊き返すことに躊躇いを覚えていると、「お願いしますってどういうことだ・・・?」とヴィータが気にするようなこともなく尋ねた。

「え? どういうことって・・・、皆さんはオーディンさんの助けになるために来たんですよね?」

するとエリーゼ卿は呆けてしまった。一応はそういう話に合わせるよう、主オーディンに頼まれていたが。さらにシャマルが「・・・はい、そうですけど。それが何か・・・?」と訊き返す。

「・・・もしかしてこの鐘の音のこと、オーディン先生から聞いてないんじゃ・・・」

「あっ、そうか! 実は――」

エリーゼ卿から伝えられた鐘の音の真実。ここアムルの街が、隣国イリュリアからの侵攻を報せるためのものだそうだ。イリュリア。かつての“闇の書”の主の中に、その国のとある領地を治めていた者もいた。
その主がどういう末路を辿ったかは憶えてはいないが、確かに我ら守護騎士はイリュリアの一戦力として存在していた時期がある。そして今度は敵対するという事だ。とは言え、迷う事などない。現在(いま)の我らは、主オーディンの下に集いし騎士なのだから。

「そういうことでしたか。判りました、すぐに主オーディンと合流します。シャマル、ヴィータ、急いで戻るぞ」

「え? でも、・・・・判ったわ。ヴィータちゃん」

「言われなくても判ってんよ」

主オーディンと合流するために店の外に出る。シャマルは少しばかり迷った様子だった。理由は判る。今の状態では我々は戦力にはならない。だからこそすぐに主オーディンと合流し、我らが戦力となるために“ある事”をしてもらわなければ。私に続いて出て来たシャマルとヴィータに一度視線を送り、頷き合う。屋敷への帰路を走りながら、主オーディンと共に居るザフィーラに思念通話を通す。

『ザフィーラ。主オーディンはどうなさっている?』

『シグナムか。主らと我は上だ』

そう返答を受ける。上を見上げると、確かにザフィーラとアギトという名の――おそらく融合騎であろう小さき少女と、そして我らが主オーディンが居られた。
膝下まで伸びる黒い長衣。丈の長い黒い外套。黒のズボン。黒の編み上げブーツという、銀色の髪が良く映える騎士甲冑姿。それ以上に私が見惚れてしまったのが、背より展開されている剣のような蒼い12枚の翼。見詰めていると、吸い込まれそうな錯覚を得てしまうほどに輝いていた。

「すごい、綺麗・・・」

シャマルがうわ言のように呟いた。私も呆けてしまったが、すぐさま地上に降り立った主オーディンに、「これよりイリュリアの騎士団と一戦を交えに行かれるのですね」と確認を取る。主オーディンは「この街を守るの私の役目だからな」と即答し、視線をはるか遠くへと向けた。おそらくその視線の先が戦場となるところなのだろう。ならば言うことは決まっている。

「主オーディン。我ら、御身に仕えし守護騎士。戦場へと赴くならば、我らも共に」

主オーディンを前に我々は片膝を付く。すると主オーディンも我々と同じように片膝を付いて、先頭に居る私に右手を差し伸ばしてきた。どうすれば良いのか判らず手を取っていいのか迷うだけだったが、戻さないところを見ると取るのが良いのだと判断し、主オーディンの右手を取る。
外見は中性的だが、やはり確かなる男性としての硬さのある手。グッと手を引かれ、立ち上がらされる。私に続き、シャマル、そしてヴィータと手を引かれ立ち上がる。

「助かるよ。味方の大騎士団もいるが、空戦が出来る騎士が少ないんだ。君たちは空戦が出来るとザフィーラに確認した。アムルを守るために私と共に戦ってくれ、守護騎士ヴォルケンリッター」

「「「「了解(ヤヴォール)!」」」」

胸の内に広がるこの思い・・・。嬉しさ、というのだろうか。主と共に戦えるという事が、守るために戦うという事が・・・何よりも嬉しい。だが先程のシャマルとの話が頭の隅を過る。まったく、シャマルには困ったものだ。私まで気になってしまったではないか。主オーディンの目的が何なのか・・・。いや、目的がどうであれ、我らの主である事には変わりない。だから気にするな。

「マイスターっ、あたしだって居るんだからねっ!」

主オーディンと似たデザインの赤い長衣・膝丈までのゆったりとした黒いズボンという騎士甲冑に身を包んでいるアギトが、そう主張しながら私へと飛んできた。しかし何故わざわざ私の顔の前に来るんだ? 主オーディンが見えんではないか。

「あはは、判っているよアギト。頼りにしている」

「どんと頼っていいよマイスターっ♪」

頭を撫でられたことで満足したのかアギトは私の眼前から離れ、主オーディンの肩に降り立った。主オーディンが「なら急ごう。連中は待っていてくれないから」と再び空へ上がろうとする。いけない。このままでは我らは役に立ちようがない。急いで止めなければと口を開こうとしたところで、「あ、あの主オーディン、お待ちください!」とシャマルが先に主オーディンを呼び止めた。

†††Sideシグナム⇒オーディン†††

「――そういうわけで、私たちは武器は持っていますけど、甲冑に関してはその都度主に賜らなければなりません」

「イメージをしていただければ、あとは我々自身が魔力で構成します」

シャマルとシグナムから告げられたのは、守護騎士の騎士甲冑は私がデザインしなければならない、ということだった。そう言えばそうだったか。しかし今から騎士甲冑のデザインを考えている暇はない。すでにイリュリアの騎士団は動いている。仕方ない。本当に仕方ない。どうしようもなく仕方ない。
すまん、はやて。そう心の内で土下座して、これよりずっと未来に於いてシグナムたち守護騎士が着ていた騎士甲冑をイメージする。“闇の書”を介して、私のイメージが守護騎士に伝わる。あ、そう言えば持ってくるの忘れた。取りに行かないといけないな。

「騎士甲冑、確かに賜りました。ヴィータ、シャマル、ザフィーラ」

「おうっ」「ええ」「ああ」

シグナムとシャマルとヴィータの3人は、首にかけていた待機状態のデバイスを手に取って起動した。それを合図としたかのように彼女たちの足元に深紫色の魔法陣が展開される。“闇の書”起動時に現れた六方に円のある六茫星型のベルカ魔法陣。
続けてそれぞれの足元から発せられる魔力光。シグナムはラベンダー、シャマルはミントグリーン、ヴィータは赤、ザフィーラはライトペリウィンクル。黒のアンダーから騎士甲冑へと変わっていき、私の知る見慣れた騎士姿となった。

「準備はいいな。では行くぞ――っと」

いきなり目の前に転移してきた“夜天の魔導書”に少しばかり驚いた。シャマルが「あら、闇の書が・・・」“夜天の書”に手を伸ばし、「主オーディン。戦場へ赴くならば闇の書も共に」と私に差し出してきた。私が受け取るのを見たシグナムが「主オーディン。行き道で闇の書に関してお話しいたします」と言ってくれるが、すまないが知っているよ、それはもう全部な。
とりあえず「頼むよ」と返し、戦場である国境へと向かうために空へと上がる。とそこに「オーディンさ~ん! アギト~!」と、私とアギトを呼ぶ声。地上を見下ろせば、エリーゼを始めとした街のみんなが手を振っていた。出撃前の恒例の見送りだ。エリーゼ達に「行ってくるよ」と手を振り返し、「君たちも振り返してあげてくれ」と彼女たちに言う。

「ヴィータちゃん、頑張ってねっ!」

「いってらっしゃい、シグナムさんっ、シャマルさんっ、ヴィータちゃんっ、ザフィーラさんっ」

「みなさん、お気をつけてっ」

モニカは両腕をブンブン振ってヴィータにエールを送り、ルファはご丁寧に全員の名を言って手を振って、アンナは手を振ることなくお辞儀。
あと「誰、あの美人!?」「えっ? オーディンさんの恋人?」「なにぃ? エリーゼちゃんに慕われているのに恋人が居るだとぉ?」「ママ、あの男の人、お耳と尻尾があるよ」「ええ、そうね。格好いいわね❤」「母さん・・・後で話を――」「先生っ、その金髪の女性、あとで紹介してくれ!」「じゃあ俺には、髪の長い人を紹介してくれっ!」だとか色々と騒がしい。
そんな街の人たちに見送りに呆けていた彼女たちも、

「い、行ってきます」

「行ってきま~すっ」

「おうっ、しっかりあたしらが守ってやるかんなっ!」

ザフィーラは無言で頷くだけだったが。シグナムもシャマルもヴィータもザフィーラもどこか嬉しそうだった。私が主で居る間、少しでも良い思い出が彼女たちの心に刻まれると良いな。それに、もちろん“彼女”にも早々に目を覚ましてもらい、共に同じ時間を過ごしたいものだ。

「じゃあ行こう。敵は待っていてくれない」

そうして私たちは街のみんなに見送られながら空を翔け、戦場へと向かう。その道中、先程の話の続きをすることに。そう、“夜天の書”のことについて、だ。

「――闇の書は、魔力を持つ者の内に在る魔力の核を蒐集し、666頁を埋める事で、主に莫大な“力”が与えられることになります。それこそ一国を支配できるほどに」

「一国を支配する、か。私にとっては興味も何も無い。私の願いは何かを支配する事じゃなく、守りたいモノを守り、救いたいモノを救う、その一点のみ」

「本当にいいのですか? 主オーディン。医者なんかじゃなくて王様になれるかもしれないのに・・・?」

ヴィータの敬語に、またもブルッと寒気が。いかん、これは早々に直さないと――とは思うが、今は“夜天の書”の説明を最後まで聴こう。

「私に国を治める資格なんて無いんだよ。今はたださっき言った通りの事が出来ればいい」

「守りたいモノを守り、救いたいモノを救う、ですか。あの、主オーディン。無礼を承知で一つお聞きしたい事があるのですがよろしいでしょうか」

シャマルが申し訳なさそうな顔で、質問することへの許可を取ってきた。すると「シャマル!」とシグナムが声を荒げて、シャマルを制止しようとした。シャマルは「ごめんなさい、シグナム」と謝ったあとに私の目を見て、すぐに逸らした。私が居ない間に何かあったのだろうか。とりあえず「構わないよ」と返す。シャマルは意を決したかのようにまた私の目を見て、尋ねてきた。

「主オーディンはどうしてベルカを訪れたのでしょうか・・・? 申し訳ありません。ルファに聞きました。ですが詳細は聞いておりません」

「私がベルカを訪れたのは、ある存在を破壊するため。名はエグリゴリ。私の先祖が生み出した人型の戦術兵器だ。暴走している奴らをベルカで発見したという情報が仲間から入った。報告に従って、私はベルカを訪れたんだ。何故シュトゥラのアムルに居るかはあとで話そう」

洗脳され暴走しているとは言え、それでも大切な子供たち(ヴァルキリー)を兵器呼ばわりするのは心が痛むが、私とシェフィが創り出した子供だと説明するわけにもいかない。魔術師の時代も“アンスール”の時代も大戦の時代も、すでに遥かに遠き古き過去。この時代に引っ張ってくる必要のないものだ。だから真実は話さない。

「そうでしたか。お話ししてくださってありがとうございました。その、主オーディン。この無礼への罰は如何様にも。如何なる罰も受ける次第です」

「気にしないでいいよ、シャマル。この戦乱の世に好き好んで訪れる奴なんて普通いないから怪しく思うよな。その疑問を持つのも当然だ。だからお咎めは無し」

そう微笑みかけると、シャマルは少し呆けた後にホッと安堵を顔に浮かべた。しかしシグナムに頭を叩かれ、「痛っ?」と痛みに顔を歪めることに。

「今の無礼、主オーディンでなければ首を刎ねられていてもおかしくないぞ、馬鹿者」

「だって・・・。でも良かったです。主オーディンはやはり今までの主とは違うんですね・・・」

シャマルが過去を思い出しているのか悲しげに目を伏せた。私は右隣を飛行するシャマルの肩をポンと叩き、「この誓いは死ぬまで変わらない。だから安心してくれ」と言う。“界律の守護神テスタメント”時ならそんな温く甘い言葉は吐けないが、今は魔術師として存在を許されている。
だからその誓いを貫ける。だがその誓いの裏には、逃れられない闇があるのもまた事実。場合によっては、守るために、救うために誰かを殺さなければならないという闇。それらを背負ってでも私は誓いを胸に前へと進むだけだ。恨むなら恨め、憎むなら憎め。それらを背負う覚悟も決意も、すでに1万数千年も前からある。シャマルは綺麗な笑みで浮かべ、「はいっ」と頷いた。

「では主オーディン。闇の書の蒐集はどうなさいますか?」

「蒐集する事で、他に何かメリットはあるか?」

私が引き出したい情報は、管制人格である“彼女”の事だ。だが“夜天の書”を知らないというスタンスを取る私がそれを求めるのもおかしい。だから彼女たちが話してくれるのを待つしかない。
当然そんな私の思惑を知らないシグナムだったが、「主オーディンは、戦力が増えるのを良しとしていますか?」と訊いてきた。この流れは“彼女”に直結するものだと思い、「君たちを戦いの道具と思わせるようで悪いが、出来ればあった方が良い」と答える。

「いえ、そのような事は思いません。主オーディンの誓いが偽りでない事は解ります。それに、たとえ戦いの道具と見てもらっても我々は構いません。事実、今までそうでしたから」

「ええ。ですから、そう不安そうなお顔をしないでください」

「む? 不安そうな顔をしていたか? そういう君たちも不安そうな顔をしているよ。良い機会だから言っておこう。君たちを戦いの道具とは絶対に思わない。戦場では共に戦う戦友として、日常では共に過ごす家族として、私は接するつもりだ。
この考えもまた決して変わらない。だから、家族の1人としてお願いがある。まず第一に、名前の前に“主”を付けない。第二に、私に対して敬語は要らない。特にヴィータ、君だ。君の素直な口調で構わない。私に対して無理して敬語は使わないでいいんだ」

名指しされたヴィータが「え? あ、はい――じゃなくて、うん。これでいいの? オーディン」と早速直した。はぁ、それだよそれ。だから「ああ、それでいいよ。でも、他の大人には一応敬語な」と頷く。
そうだとも。私に対して気の遣った敬語なんて有り得ない。それがヴィータなら尚更。シャマルも困惑しながらだが、「では、えっと、オーディン・・・さん。ごめんなさい、さん付けだけは許して下さい」と、まぁ及第だな。しかし予想はしていたが・・・

「歴代の主に対してこの口調が長く、我は直せそうにありません、我が主オーディン」

「ザフィーラ、なんも変ってね~。オーディンのお願いなんだぞ」

「ヴィータちゃんはすっかり出来あがっちゃったわね。ザフィーラはもうそれで固定かしら」

「主オーディン。さすがに敬語を改めさせるのは、主に失礼が過ぎるのでは?」

「いや、それでいいよ。自然が一番だ。君も、シャマル達と接するような気楽さで私と接してくれていいんだ。それが私の願いだしな。主を付けられると、どこか主従の壁を感じてしまうんだ、気にし過ぎかもしれないが。敬語に関しては私の我が儘だから、ヴィータ以外には強制しないが。しかし、主、に関しては切に願うよ」

「ある――いえ、判りました、オーディン」

シグナムも敬語はやめないが、主を付けなくなった。今はこうだが、付き合いが長くなれば追々変わっていけるだろう。さて、さっきの話の続きに入ろうとしたところで、頬をプクッと膨らませてむくれているアギトが視界に入った。

「アギト? どうかしたか」

そう訊いてもむくれたままで、プイッと顔を逸らされた。試しにもう一度名を呼んでも無視だった。仕方なく、その膨らんだ小さな頬を人差し指で突く。すると「ぶふぅ」と口から息が漏れだす。何故か知らないがすっごい睨まれた。

「一体どうしたというんだ?」

戦場はもう近い。“彼女”の話も聞きたかったが、それは戦いながらにでもしよう。しかしアギトがこの状態での戦闘は避けたい。生死の関わる戦場では少しの油断が命取りだ。だから何故むくれているのかの原因を突き止め、解決しなければアギトどころか共に戦うみんなの命が危ない。

「なあアギト。話してくれ、私に何か非があったのなら謝る。だから教えてくれ」

「・・・マイスター、ずっと守護騎士たちと話してばっかで、あたしのこと忘れてるんじゃないかって」

アギトはどうやら仲間外れにされたと思っていたようだ。少しばかりアギトを放っていたのも確かだから強くは言えないが。

「馬鹿だなぁ。そんなわけがないだろ。アギトは大切な家族なのだから。だけどな、言わばアギトは私の家族としての先輩なんだから、もう少し辛抱してくれ」

「先輩・・・。先輩かぁ。うん、判ったよマイスターっ♪ あたし、先輩として恥ずかしくないようにするっ」

「ああ、頑張ってくれアギト先輩」

アギトは満足したようで笑みを浮かべる。それを見て、私とシグナムとシャマルは顔を見合わせて微苦笑。ヴィータは「この小せぇのが先輩? あたしらの方がずっと年上じゃねぇか」とアギトの小さな頭をグリグリ撫で回す。それに対してアギトは「や、やめろよ、歳なんか関係ないもんっ。マイスターの家族として上か下の方が重要なんだっ」と小さな体を活かしてヴィータの手から逃れて、舌をべーと出す。

「フフ、ヴィータちゃん、楽しそう」

「シグナム。さっきの話の続きだが、よければ戦闘中にでも頼む」

「判りました。そちらの方が都合が良いかもしれませんし」

見えてきたのは、森に囲まれた平原の中での数百人という騎士が入り乱れた戦場だった。ひとつは国境防衛のシュトゥラ側の騎士団。重そうな白い甲冑を着た騎士団だ。そしてもうひとつが、まるで迷彩服のような柄が描かれた軽甲冑を纏った騎士団だった。あれは森に入られたらアウトだな。柄もそうだが軽甲冑ゆえに動きが速く、得物も小回りの利く短めの物ばかりだ。

「各騎、これより戦闘を開始する。味方は白い甲冑を着た騎士団だから、間違って討たないようにな。敵性騎士団に関してだが、見ての通り相当やる。味方の援護は可能なら頼む。では私が戦場の中心に一撃を落とし、一時的に注意を逸らさせる。それを合図に降下開始。接敵後、各騎の自己判断で敵性騎士を薙ぎ払え」

「「「「「了解(ヤヴォール)!!」」」」」

防衛騎士団は私の空からの奇襲に慣れているため驚きはしないだろうが、敵はそうはいかないはずだ。情報で知ってはいても実際に見た事がなければ必ず動きを止める。そこが狙い目だ。左手を掲げ、風を集めて一振りの蒼き風槍と成す。結構キツイから根性をみせろ、防衛騎士団。

――巻き起こせ(コード)汝の旋風(アムブリエル)――

地上に向けて投擲。一直線に進み、ズドンッと地面に着弾。予想通り敵性騎士団は動きを止め、防衛騎士団は一斉に戦っていた騎士を弾き飛ばしてアムブリエルの槍から離れ、得物を地面に突き刺し体を固定。その直後、アムブリエルが爆ぜて全てを薙ぎ払う暴風となり、敵性騎士団を吹き飛ばす。戦闘開始のゴングが鳴った。
すぐさま「降下!!」と号令を出す。アギトと守護騎士が戦場へと降り立つ。並の騎士では決して勝つ事の出来ない、優秀な騎士たちが。私も地上へと降り立ち、防衛騎士団の団長に「団長、すまない。遅れてしまった」と声を掛ける。

「いえ、来て下さっただけでも十分です。それにしても騎士オーディン。貴方は相変わらずとんでもないお方だ」

さっきのアムブリエルの一撃を含め、これまでに共闘した三度の戦闘のことを言っているんだろう。

「褒め言葉だと受け取っておくよ、団長。それはそうと連中はどういった騎士団なのか、情報を貰えるか」

「はい。敵はイリュリアの上位騎士団の1つで、地駆けし疾狼騎士団(フォーアライター・オルデン)という連中です。奇襲や待ち伏せと言った手段を取るのが奴らの戦い方だったんですが、今回は真っ向からぶつかって来たんですよ。戦術を変えるとは。一体何を企んでいるやら。団長のファルコの姿も見えないし、注意が必要ですね」

フォーアライター・・・先駆者、か。その割にやってる事はゲリラだな。団長が言うには、フォーアライター・オルデンはいくつもある敵国強襲騎士団の先槍らしい。だから“先駆者の騎士団”という名を冠しているのか。団長から情報を色々と貰っていると、「銀髪に蒼と紅の虹彩異色・・・! 情報にあった悪魔か!」と数人の先駆者が襲いかかって来た。

「悪魔とはまた酷い通り名を付けられたものだな。まぁ否定はしないが」

――舞い振るは(コード)汝の獄火(サラヒエル)――

頭上から炎槍サラヒエルをいくつも振らせ、私たちと連中を隔てる壁とする。間髪いれずに、

――知らしめよ(コード)汝の忠誠(アブディエル)――

全長8m程度の魔力剣を創り出し、サラヒエルの向こう側に居る奴らをサラヒエルごと薙ぎ払う。粉砕された騎士甲冑を撒き散らしながら吹っ飛び、気を失ったか絶命したかのどちらかで動かなくなった。魔力消費を抑えるためにアブディエルを消し、側に落ちていた二振りのナイフを手に取ったところで、団長が「お見事」と拍手。

「いやぁ常々思いますけど実に心強い。しかし、そろそろご自身の武器を用意したらどうです?」

「言われずとも。私専用の武器を鋭意制作中だから、それなりに期待していてくれ」

カートリッジシステム搭載のアームドデバイスならすでに製作に取り掛かっている。“神槍グングニル”や複製武装を具現する際の魔力消費を抑えるために、だ。かつての契約先での“闇の書事件”の際、その当時敵だったシグナムによって破壊された元3rd・テスタメント・シャルロッテ・フライハイトのデバイス・“トロイメライ”の修理・改良に関わって、デバイスの知識は手に入れていた。
それ以前に、デバイスよりさらに複雑なシステムである“戦天使ヴァルキリー”を制作したんだ。“ヴァルキリー”に比べればデバイスの一機や二機くらい1週間もあれば製作できる。だがまだ完成していない。部品がなかなか揃わない。カートリッジシステムを搭載しているデバイスを持つ騎士が意外と少ないからだ。

「それは楽しみです。あ、もう1つ。今回は仲間の騎士を引き連れて来ましたけど。一体どういう御関係で?」

「知る必要があるのか?」

さらに襲いかかってくる先駆者共を団長と2人で斬り払いながら、世間話でもするように喋る。団長は「無理にとは言いませんけど」と言っているが、知りたいと顔に出ている。妙な男に興味を持たれてしまったものだ。とは言え別段隠す必要もないため「家族だよ」と答える。
すると団長は「あぁなるほど。騎士オーディンの御両親に妹君ですね」とズレた納得をした。冗談だというのは即理解したが、一応誰がどの役に嵌まっているのか気になったから訊いてみたら、

「奴らを拳打と蹴打でぶっ飛ばしているのが父君で――」

ザフィーラだな。まぁ男は彼だけだしそうなるだろう。別の誰か(シグナム)と言ったら、団長は切り身にされてしまうだろうな。

「鉄槌で奴らを殴打して弾き飛ばしているのが妹君」

ヴィータだな。ヴィータを母親だと言ったら、冗談だとしても笑えない。じゃあシグナムとシャマルのどちらかが私たちの母親役になるわけだが・・・。

「剣士殿も妹君で、あの優しげな女性が母ぎ――」

――ペンダルシュラーク――

「「うおっ!?」」

高速で飛来してきたシャマルのデバイス・“クラールヴィント”の振り子(ペンダル)。それが団長の兜の額部分に突き刺さった。その一撃を放ったシャマルは私と団長にニコニコ笑顔を向けていた。

「ごめんなさい、オーディンさん、団長さん。手が滑っちゃいました♪」

「「いえ、お気になさらず」」

ペンダルがシャマルの下へと戻って行くのを見送り、冗談もそこそこに、と反省。いつもどおり空からの爆撃を始めようか。そう思ったところで、それは起きた。

――悪魔墜としの檻――

戦闘区域全体を覆うほどの広域結界が張られた。ただそれだけなら問題じゃない。高度制限と言うべきか天壁が低い。大体4~5mほどか。空戦を好む私としては低過ぎる高さだ。しかし私にとっては障害にならない。防性・結界破壊のメファシエルを使えばこれくらい・・・。

「オペラツィオーン・エクソルツィスムス、アンファング!」

何処からともなく聞こえてきた大声。作戦名:悪魔払い、開始――だとさ。“悪魔”といつの間にか呼ばれた私を討伐するためだけに来たというわけなんだな、フォーアライター・オルデンは。周辺に居た先駆者たちが一斉に「了解(ヤヴォール)!!」と応じた直後、森林の奥から無数の矢が飛んできた。鋼で出来ていると思われる矢は完全に無差別で、敵味方お構いなしに降り注いで来る。

(ただの矢のようだが。あんなので騎士甲冑を貫けるとは思えないが・・・)

とにかく私たちを含め周囲に居る防衛騎士たちが迎撃しようと矢を寸断した瞬間、矢が爆発し膨大な煙を発生させた。ただの煙幕か?と思えば妙な臭いがあった。直感で、この煙が毒ガスの類いだと判断。だがな、魔術で編まれた戦闘甲冑の前に、毒ガスなど無意味な攻撃だ。しかし防衛騎士団はどうだろう?と思った時、

「・・・っ!? ぅぐっ、がはっ!」

目が痛く呼吸もし難い。ついでに咳が出る。馬鹿なっ。戦闘甲冑の防御力なら魔法の毒くらい弾く・・・あ、忘れていた。魔力消費を抑えるため、戦闘甲冑の付加効果を色々減らしたんだった。減らした付加効果の中には、空気感染系攻性術式や自然毒への耐性も含まれていた。
視界が毒ガスで完全に封じられ、しかも毒の効果らしき体の痺れで上手く体が動かせない。周辺から騎士甲冑を破壊する金属音と悲鳴がいくつも聞こえてきた。どうやら先駆者たちは前もって毒ガスの効果受けないようにしていたようだ、まぁ当たり前な話だが。

――吹き荒べ(コード)汝の轟嵐(ラシエル)――

上空に蒼い竜巻を発生させて毒ガスを散らす。毒ガスがラシエルに巻き上げられ、視界がクリアになったその時、8人の先駆者がすぐそこにまで迫って来ていた。毒が体に回ったからか視界が揺らぐが、なんとか両手に持つナイフで2人の攻撃を捌いた。
しかしそれ以上は体が重く、第二波の4人の攻撃が捌けそうにない。迫り来る剣閃。魔術を発動しようにも毒の効果と思われる魔力生成阻害の所為で上手く術式が組み立てられない。魔術師がこんなにも簡単に無力化させられるとは。なんたる恥か。情けなくなる。

「マイスターには指一本触れさせねぇぇーーーーッ!!」

――フランメ・ドルヒ――

「テメェら退きやがれッ!!」

――テートリヒ・シュラーク――

そこを助けてくれたのがアギトの炎の短剣と、ヴィータの“グラーフアイゼン”の一撃だ。フランメ・ドルヒが先駆者たちの背に着弾して爆発を起こし、体勢を崩したところをヴィータの鉄槌の一撃を受けて吹っ飛ばされた。


 
 

 
後書き
ナマステー。う~ん、一人称表現での弊害を再確認。
ベルカはドイツ語を使用。ベルカの存在であるエリーゼらを始め、シグナムらが服や家具などなどを言語化する時、やはりドイツ語を使用しなければならないという。
しか~~し、それでは無駄に文字数が増えると思い、もう英語を使う事にします。
今回の場合は、ルシリオン(オーディン)の戦闘甲冑説明の際、ブーツとコートと言っちゃってます。

ドイツ語では、ブーツはシュティーフェルンとなります。コートはマンテルですね。
ブーツに|とか《》を使ってシュティーフェルンとルビを振る。はい、文字数がどっと跳ね上がりますね。
文字数関係はこちらの問題ですが、度々こう言ったルビが出ると、読者の皆さま方が読みづらいかとも思います。
ですからもう英語にしようかと。長々と好き勝手語ってますが、実際のところ皆さまはこう思っているかも。

「そんなのどうでもいい」

すいません。では次回、フォーアライター・オルデンとの決着をお送りします。
次回もまたお越しいただける事を願って、これで失礼を。
 
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