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I want BRAVERY

作者:清海深々
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二十八話 女帝



「君は一日が24時間ではないと言ったら、信じるか?」

「信じません」

「・・・」

 いきなり沈黙から俺と桐条先輩の会話は始まった。

 結局昨日の出来事があった次の日、というよりも今日、俺は桐条先輩に呼び出された。
 昨日か今日の朝かはわからないが、真田先輩がどうやら俺のことを言ったみたいだ。

 昨日は何故か楽しそうに走って帰っていったため、何処か嫌な予感はしていたが、今日早速とは思わなかった。
 それに、まさかあんな状況で呼ばれるとも思わなかった。

 どうやら原作でそうであったように、桐条先輩はあまり一般庶民の常識を知らないようだ。
 なぜなら、今日の昼休みに突然俺の教室までやって来て、

『琉峰彩』

 いきなり名を呼ばれ、桐条先輩の方を向いた俺に、

『そうか。今日二人きりで話がしたい。放課後を空けておいてくれないか?』

 なんて、クラスメイト皆の前で言うのだから。

 これは間違いなく誤解を生むだろう。

 そして放課後呼び出されて、そのまま先輩の寮まで連れて行かれた。

 今日先輩に連れてこられたことは絶対明日皆の話のネタにされるのは間違いない。
 なぜなら、あの桐条先輩が男を寮に堂々と連れ込むなんて、とかいうのを先輩に寮に連れていかれた時に、寮の近くを通っていた生徒から言われれば、そのことは容易に想像がつく。

 前世では人にイジられるのはなれていたが好きというわけでは、もちろんない。

「そうか・・・いや、しかし、君は体験したいただろう?」

「何をですか?」

 原作のような状況とは違って、理事長はいない。
 俺と桐条先輩の二人っきりだ。

 理事長がいないにも関わらず、何故か勝手に作戦室を使っているのだが、これは許可はいらないのだろうか。

 それにしても、まるでRPG系のゲームで、フィールドを歩いている時に『出てきて欲しくない』と思った時は出るくせに、レベルを上げるために『出てきて欲しい』と思った時は出てこないモンスターのように、俺の平穏は、『平穏であって欲しい』と思っていた時になくなった。

 もしこの世界によくある『修正力』が働いているのなら、昨日の出来事はありえなかっただろう。
 つまりこの世界には『修正力』はない。
 
(もしかして・・・これは原作とは完全に違うのか!?原作主人公がいないとかなるのか!?もしそうなら世界が終わる!?)

 なんて、つまらないことを考えてしまうくらい今の俺はテンパっていた。

「・・・ふぅ、昨日明彦が君を『影時間』で見た」

「『影時間』?」

「君が体験したあの不思議な時間のことだ」

「いえ、そんなもの体験した覚えはないのですが」

 とりあえずシラを切り通すしかない。
 というより、なにか考える余裕がないので、ここは一時撤退するべきだと、俺の頭が告げている。

 そう、学力6の頭がだ。
 それに従わない術はない。

「どうあってもシラを切り通すつもりか?」

 どうしよ。
 てかなんで俺ってバレたんだ?

 確かにあの時俺は真田先輩と目が合った。
 しかし、顔を完全に見られた覚えはない。

「いえ、ですからなんのことか自分はわからないのですが」

 あの真田先輩、頭脳派とは言えない彼が一体全体どうやって俺だとわかったのか。
 もしくはどうやって桐条先輩が俺だと特定できる情報を見つけたのか。

 わからない。

 だいたいあの時、真田先輩は完全に寮の真正面にいたが、決して寮の傍にいたわけではない。
 それなりにキョリはあった。

 ・・・あぁ、そういうことか。
 俺の寮の部屋番号か。

 それくらいなら外見から分からないこともない。

 今ばかりは、寮の真正面に俺の部屋の窓があったことを恨まずにはいられない。

「・・・私たちは『シャドウ』と呼ばれる化物と戦っている。そのシャドウは影時間に人間を引きずりこみその人間の精神を食う。そして、その食われた人間は廃人、最近よく聞く『無気力症候群』となる。まぁ、私達は『影人間』と呼んでいるがな」

 先輩は俺の目を見ながら言う。

「そのシャドウを倒せるのは、あの時間に存在できる者のみ。影人間を救えるのも、あの時間に存在できる者のみ」

 先輩は俺の反応を見るように、こちらを見ながら黙る。

「・・・先輩」

「どうした?」

「俺、先輩はもっと普通の人だと思っていました」

 俺は心底失望したような顔で桐条先輩を見る。

「先輩が・・・皆の憧れの的の先輩が、まさか『オカルトマニア』だったなんて!」

「ちょ、ちょっと待ちたまえ!君は今の話を聞いていて何も思わないのか!?」

「俺は・・・あくまで一般人です。変な趣味はありません」

「そ、そういう意味ではない!彼らを救えるのは我々だけだと言っているのだ!」

 桐条先輩は、キャラに似合わないほど慌てた様子で立ち上がりながら言う。

「先輩・・・正義のヒーローごっこが許されるのは小学生までですよ?しかも女の子がそんなことをするなんて・・・なんてはしたない」

「な!?き、君!明彦が言っていたんだ!影時間に適応している人間なんだろ!?」

「先輩、もう止めましょうよ。今日のことは誰にも言いませんから」

「違うと言っているだろう!だからだな!明彦という証人がいるんだ!言い逃れはできないぞ!」

「真田先輩に責任を押し付けるなんて・・・」

「だから!君という人間は!」

 バンっとテーブルを強く叩きながら桐条先輩は言う。

「先輩・・・一体いつから」

 なんて言いながら目頭を押さえて見せたり。

「誤解だ!誤解なんだ!」

 必死なってそう言う桐条先輩のキャラ崩壊具合を見ながら思う。

(キャラ簡単に崩壊しすぎだろ)

「断じて私は『オカルトマニア』なんかではない!」

 だんだんと話が逸れて来た。
 これで俺の思い通りと思った時だった。

———ガチャリ

「美鶴」

 後ろのドアから真田先輩が入って来た。
 そして彼の脇にには見覚えのある顔が。

「もう一人連れてきた」

 そこには先輩がいた。

(あぁぁぁ!!なんでじゃぁぁ!!)

 思わず叫ばずにはいられない。

 
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