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万華鏡

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第七十七話 迫るバレンタインその十一

「大学生みたいだな」
「そんな感じよね」
「いや、本当に飲んでるよ」
「お酒漬けになってるわよね」
「どうしたものだよ、高校一年で」
「ちょっとよくないかもね」
「あはは、飲んだくれの女子高生なんてさ」 
 美優は明るく笑いながらもそこに自嘲も込めて話した。
「最悪だよな」
「うふふ、彼氏いないのもね」
「当然って言えば当然だよな」
「部活に遊びにお酒にね」
「そればっかりだからな」
 それで彼氏がいる筈がないというのだ。
「どうしたものかね、あたし達って」
「この一年本当に飲んでばかりで」
「碌でもないよ」
「そうよね」
「ううん、けれどそれでいいんじゃない?」
 明るいながらもそこに自嘲を込めて話す美優と彩夏にだ、琴乃が受け入れている顔でこう言ったのだった。
「別にそれでも」
「こうした女子高生でもかよ」
「いいのね」
「だって八条町は街の条例で飲んでいいから」
 それでというのだ。
「それに充実してるでしょ」
「ああ、かなりな」
「満足してるわ」
 美優と彩夏も充実は感じている、それは里香と景子も同じで二人も琴乃達の話を聞きながら無言で頷いている。
「いい学生生活だと思うよ」
「自分でもね」
「だからね」
 それでだとも言う琴乃だった。
「こうした生活もね」
「いいか、別に」
「これでも」
「だって楽しんでるから」
 しかも法律の範囲内でだ。
「迷惑もかけてないし」
「飲んでもな」
「それはないからね」
「だからいいじゃない」
 部活に遊び、酒の学生生活でもだというのだ。
「彼氏いなくてもね」
「青春は青春か」
「そういうことね」
「青春って言っても一つじゃないじゃない」
 恋愛だけではないというのだ。
「五人一緒に楽しんでてもね」
「五人か、だったらな」
 その五人という言葉を聞いてだった、美優は微笑み琴乃にこう返した。
「友情ってやつか?」
「友情ね」
「だってあたし達いつも一緒にいてさ」
 美優は今度は屈託のない微笑みになって琴乃に話した。
「楽しくやってるよな」
「うん、今だってそうだしね」
「だったらわ」
「私達は友達だから」
「友情だろ」 
 青春の重要なキーワードの一つが出て来るというのだ。
「それだろ」
「ううん、何か友情って聞くと」
 琴乃はその言葉を聞いてそして己の中に入れてからだ、急に神妙な顔になってそのうえでこう美優に答えた。
「急にシリアスになったわね」
「あれっ、そうかな」
「何か漫画とかだと友情って重いじゃない」
「恋愛と一緒でか」
「恋愛っていうと君の為なら死ねるとか」
 梶原一騎の名作『愛と誠』の登場人物の名台詞だ。岩清水というこの登場人物のヒロイン早乙女愛に対する愛はまさに命を捨てているものだった。 
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