| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

IS<インフィニット・ストラトス> ―偽りの空―

作者:★和泉★
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Turn
  第四十二話 紅と白

 合宿は二日目に入り、僕らは再び海岸に集合している。この日は午前中から丸一日ISの装備試験運用とデータ取りに追われることになる。当然、専用機持ちはフル稼働のため一般生徒以上に忙しい。

「よし、では班ごとに割り振られたISの装備試験を行え。事前に説明があったように専用機持ちは別行動だ」

 千冬さんの指示のもと、一般生徒と専用機組がわけられる。
 一学年全てがそろっているので、かなりの人数が動く。その中に、なんとも言えない表情でこちらを見る箒さんの姿があった。気持ちはわかるのだけれど、こればかりはどうしようもない。

「あいや、あいや待たれ~い!」

 とそんな折、気の抜けるような誰かのかけ声が響いてきた。いや、誰かと考えるまでもなく束さんだ、うん。チラッと千冬さんを見たら怒気と呆れが混ざったような凄い表情をしていた。
 いったいどこから、と周囲を見渡すけれど姿は見えない。しかし何やら甲高い音が聞こえてくる……空から。
 空? とふと見上げると巨大な人参が地上に向かって降ってくるところだった。え、どういうこと?

 どうやら他の生徒も気付いたようで軽いパニックが起きている。とはいえ、おかげで落下予測地点の周りには誰もいなくなった。

 謎の飛来物は落下する勢いのまま、砂浜へと突き刺さる。
 ビーチにそびえる巨大人参というシュールな光景に頭が痛くなる。やがて、そのオブジェは真っ二つに割れ、その場の全員が注視する。ゴクリ、と誰かの息を飲む音が聞こえた気がする。
 
「ちーちゃーげぶっ」

 しかし、声が聞こえてきたのは謎の物体からは離れている千冬さんがいる方角だった。慌ててそちらを見ると、千冬さんが束さんの顔面を鷲づかみにしているところだった。どうやら人参を囮にして生徒達に紛れて近づき、千冬さんに不意打ちで飛びついたところを迎撃されたようだ。
 奇襲に対応した千冬さんを褒めればいいのか、直前に声を出した束さんに呆れればいいのか。

「うぅ、愛が痛い」

 そんなことを僕が考えているうちに解放されたのか、束さんが頬をさすりながらトボトボとこちらに歩いてくる。

「しーちゃん、慰めて~」

 情けない声を出しながら、僕を見上げる。
 同時に周囲の視線が僕に集まる。当然だろう、去年いた人なら僕と束さんが親しいことを知っている人は少なからずいるけれど、今の一年生ではそれを知る人はほとんどいないはずだ。
 とはいえ、ここで無碍な対応をして後で拗ねられるほうが面倒なので、苦笑しつつも僕は彼女の頭を撫でながら慰める。ただ、ちゃんと笑顔かは自信がない。いや、確実に引き攣っていると思う。

「はふぅ、やっぱり癒やされるね、ありがと。おっと、そうだ。えぇっと……あ、いたいた。やぁ、箒ちゃん! それにいっくんは昨日ぶりだね」

 蕩けるような、だらしない表情を浮かべていた束さんは思い出したかのように辺りを見回し……というか頭上のウサミミが指し示す方角を見て、目的の人物を見つけると駆け出す。もちろん、その相手とは箒さんだろう……織斑君はどうかな、昨日も会っているようだしついでかな?
 ところで、一応彼女は学園から見たら部外者ということになるんだけど大丈夫なのだろうか、と千冬さんをチラりと一瞥すると何やら山田先生に指示を出しながら生徒を纏めていた。どうやら昨日の訪問でこうなることは予測していたようだ。

「……どうも」
「あ、はい、どうも」

 織斑君はともかく、箒さんは直接会うのは数年ぶりになるはずだ。だからかは分からないけど、ずいぶんと他人行儀に感じる。

「あの、お姉様……あの方が篠ノ之博士ですの?」
「あ、はい。そうですよ、俄には信じられないかもしれませんが」

 ふと、セシリアさんが耳打ちするように問いかけてくる。まぁ、確かにあの人がIS開発した凄い人ですって言ってすぐ信じるのは無理だよね。

「そうですか! 是非一度お会いしてわたくしのISを見て頂きたいと思っていたのです」
「そ、それは止めたほうがいいかと思います。その、彼女はとても偏屈といいますか。ご家族の方や特定の人間以外には酷く辛辣になるのです。おそらく、話しかけたとしても嫌な思いをするだけかと」

 間違いなく、そうなるだろう。彼女が正しく顔と名前を認識している人間なんて両の手で足りるくらいしかいないと思う。それ以外は路傍の石と同じような扱いだ。

「そう、なんですの。ですが、お姉様はずいぶんと親しいようにお見受けしましたが?」
「幼いころに縁がありまして。千冬さん……織斑先生ともその頃からよくしていただきました」
「ま、まさか本当に一夏さんの許嫁……」
「いえ、ですからそれは違います!」

 何やら話が思わぬ方向に飛んでしまった。
 僕が紹介してあげるという手もあるのだけれど、以前に楯無さんと鉢合わせた時のことを考えるとあまりやりたくない。どういう訳か彼女とは波長が合ったようだけど、他の人も同じとは限らないし何故か僕の心労が増える気しかしないので今回は提案しなかった。

「さぁ、今こそお披露目するよ! この天才束さんが開発した、箒ちゃんの箒ちゃんによる箒ちゃんのための専用IS『紅椿(あかつばき)』、現行ISのすべてを凌駕するスペックを持っている珠玉の逸品だよ!」

 気付けば、箒さんの専用ISが発表されていた。やはり束さんの贈り物とは専用ISだったようだ。というか、その謳い文句とかいろいろ間違っている気がする。ツッコむ人間は誰もいないけれど。
 束さんのかけ声とともに、先ほどから突き刺さったままの人参モドキから何かが射出され、それは再び轟音をたてて落下してくる。あの人参はただの登場用のネタのためだけではなかったのか。
 僕が変なところに感心している間に砂浜に落ちてきたそれは、銀色の箱のようなものですぐにバラバラになる。そして中から現れたのは、太陽の光を目映く反射する深紅の装甲に身を包んだISだった。

 周りの生徒はもはや目の前で起こっている出来事が理解できていないような状況だけど、見たことのないISが現れ、それが箒さんに与えられるということが知らされると少なくない人間が不満そうな顔をした。
 気持ちはわかる。この学年の専用機持ちと親交があるとはいえ、本人の成績は決して一般生徒と比べて抜きん出ているという訳ではない。それが束さんの妹というだけで専用機を与えられるのだから。

「おや、今まで世界が平等だったことが一度でもあったかな?」

 これは束さんの口癖のようなものだ。世界は平等ではない。現に、今不満を感じた彼女らも女性、しかもIS適正があるというだけで少なくない恩恵を受けているはずなのだから。もっとも、それが正しいかどうかはわからないけれどね。僕だって理解はしても納得はできない。

「よし、終わり! それじゃ装備の説明に入るよ~」

 僕が考え事をする間にフォーマットとフィッティングが終わったようだ。相変わらず早い。僕もマニュアル操作での速度には自信があるけれど、さすがに束さんには叶わない。
 いや、彼女のことだからある程度箒さんの現状を予測していたのかもしれない。束さん曰く、彼女の頭上にある『箒ちゃんセンサー』は日ごとのスリーサイズの成長も正確に捉えることができるとか。
 なにそれ、怖い。あれって僕が昔あげたカチューシャ……だよね? どんな改造してくれちゃったの?

 それはともかく、目の前では紅椿の試験運用が繰り広げられている。
 その飛行速度だけでも量産機とは比べものにならない、それどころか専用機でも追随は難しいレベルだ。

 そして束さんの口から説明される二つの武装。それは左右に一本づつ持つ展開された刀だった。
 右手に持つのが『雨月(あまづき)』。打突に合わせてエネルギー刃を放出する、散弾銃のような特徴を持った攻撃手段を持つ刀。その射程はアサルトライフルほどと狭いが、超高速で接敵が可能なこの機体なら有効だろう。
 左手に持つのは『空裂(からわれ)』。斬撃に合わせて帯状のエネルギー波が広がり、刀を振った範囲に自動的に展開する。その威力と範囲は、束さんが放った十六連ミサイルを箒さんが一太刀で撃ち落としたことで実証される。

 箒さんはISの基本的な動作はどこか覚束ない部分があり、機体性能に振り回されている印象を受けるものの、刀の扱いはやはりスムーズだ。もともと彼女の流派でもある篠ノ之剣術流には二刀を扱う型があるようで、ISでも様になっていた。

 今まで呆気にとられてその様子を見ていた周囲の生徒を余所に、僕はそれらの視線とはズレたところを見ていた。まるで敵を見るかのように、束さんをことを厳しい顔で見つめる千冬さんのことをただじっと……。この時の僕はいったいどんな表情だったのだろうか。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「たた、たったた大変でっす。お、お、おり、織斑先生!」

 突然周囲に響いた山田先生の言葉で、僕は我に返る。
 いつもアワアワした様子の彼女であるが、今回のそれは尋常ではない。何かが余程のことがあった証拠だろう。
 そのまま僕は束さんを一瞥するが特におかしな様子はない。だけど何故だろう、この一件に彼女が絡んでいる、確信めいたものが僕の中にはあった。

「専用機持ちは?」
「ぜ、全員出席しています」

 山田先生を落ち着かせた千冬さんが事情を聞いている。途中から特殊な暗号手話でやり取りを始めたことから、それなりに機密事項があるのだろう。とはいえ、日本のIS関連部署で使われているものだから何人かは理解できてしまうのではないだろうか。少なくとも僕はある程度わかるし、日本の代表候補生である簪さんも知っているはずだ。
 
 そう考えると、それほど隠すつもりはないのか……。いや、なるほど。そもそも僕らにはバレても構わないということか。
 二人の手話から断片的な情報を得た僕は、そう結論付ける。

「全員、注目しろ! 現時刻をもってIS学園全職員、及び指定した生徒は特殊任務行動に入る。よって、本日の行動予定は全て白紙に戻す。これから呼ばれる者以外は旅館に戻り、各部屋にて指示があるまで待機しろ。なお本件は最重要機密に相当する、よって一切の詮索は禁止だ。指示に従わないものは拘束対象となる、以上だ。わかったらとっとと戻れ!」
『は、はい!』

 千冬さんが一気に捲し立てると、勢いに飲まれたのか生徒達は一斉に返事をする。
 意味がわからないといった様子だけれど、指示に従わないとまずい雰囲気であることは誰もが察したようだ。

「今から呼ぶ者はこちらに集まれ。といっても専用機持ち全員だがな。織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰、西園寺、更識……それから篠ノ之もだ!」

 その瞬間、嬉しそうな表情を浮かべた箒さんを見て僕は言いようのない不安に駆られる。
 これは実戦だ、それも国家レベルの。当然、下手をすれば死ぬことだって考えられる。彼女はそれを理解しているのだろうか。

 そして、それ以上にそのレベルの案件に生徒である僕らを集める学園側の意図がわからない。学園がいくら各国からの治外法権となっているとはいえ、この場所は厳密には違う。あくまでここは日本であり、学園側が臨海学校のために借り受けているに過ぎない。
 そこで、外国の代表候補生が軍事行動を起こすことによる影響は大きい。

 でもこれは千冬さんの判断ではないだろう。あの苦虫を噛み潰したような表情。恐らく、上層部だろう……それが学園か政府かはわからないけれど。

 一抹の不安と不信を持ちながらも、僕は他の呼ばれた皆と一緒に指示された場所へ向かう。ちなみに束さんはいつの間にかいなくなっていた。



「では、現状を説明する」

 教師陣と僕ら専用機組が集められたのは旅館の奥にある大座敷。
 そこで大型の投影ディスプレイを用いて千冬さんによる説明が行われた。

 それは先ほどの暗号手話で僕が読み取ったことと大差ない。

 二時間ほど前にハワイ沖で試験稼働を行っていたアメリカ・イスラエル共同開発の最新鋭の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が暴走し、こちらに向かっているということ。そして、あと一時間もしないうちに近隣空域に差し掛かるということ。

「学園上層部の通達により、現場で対処することになった。職員及び訓練機は海上の封鎖。そして専用機には対象の捕縛、最悪の場合は撃墜をしてもらう」

 やっぱり……!

「意見・質問があるものは挙手しろ」
「対象の詳細なスペックデータを要求します!」

 セシリアさんが具申すると、機密事項であることを念押しされてデータが公開された。
 そこには現行の第三世代の中でもかなり高い部類に入る機体スペックや、広域殲滅を目的としたオールレンジ射撃が可能な特殊武装について細かく書かれている。

 そもそも、ここからおかしい。何故こうもたやすく、データが出てくるのか。事前から知っていた? 

 僕の疑問を余所に、皆は目の前のデータを見ながら意見を交している。

「織斑先生」
「なんだ?」

 でも、それより前に僕は確かめたいことがあった。

「私たちが対応しなかった……できなかった場合の被害予測はどうなっているのでしょう?」
「……っ!」
「なっ」

 千冬さんは明らかに顔を顰めた。声を出したのは織斑君だろうか。

「……作戦時刻を過ぎて数分で対象は日本の領土上空へと差し掛かる。対象が暴走状態であるが故にその後の行動の予測はできないが……最悪の場合、第二次大戦を遙かに上回る被害が出る」

 その事実に、皆は言葉を失ったようだ。

「日本側の防衛はどうなっているのですか?」
「今回の件に関して、対応が間に合わないとのことだ」

 ということは、日本はアメリカ・イスラエルの共同軍事演習に対して知らなかった、もしくは黙殺していたということだ。そうでなければ、有事の際に対応できるように部隊を待機させるはずだ。
 学園に日本政府から要請があったのかは分からないけれど、これは学園が他国に軍事介入するのと同義だ。

「学園は戦争でも起こす気ですか?」
「そんな訳がないだろう! だが……だが今は時間がないんだ!」
「……わかっています。ただ、皆さんにも現状を正しく理解していただきたかったんです」

 よく現状を理解していなかったように見える織斑君を除いて、みんな少し浮かれているような気がした。もちろん、代表候補生であるセシリアさん達は真剣に話し合っていたのはわかるけれど、それが僕は怖かった。
 学園の指示があったからと何の疑問も持たずに実戦へと臨もうとする彼女たち。

 一歩間違えば、この中の誰かが死ぬかもしれない。
 運良く犠牲なく乗り切ったとして、この不可解な事件。国家レベルのいざこざに巻き込まれるかもしれない。

 ようやく出来た大事なもの、それを失うかもしれないことが何より怖かった。

「……こちらも全ての情報を明かせる訳ではないのは理解してほしい。だが、もはやこの案件、対応できるのは我々しかいない。プレッシャーをかけるつもりはないが、失敗は許されないと思ってくれ」
『は、はい』

 僕もこれ以上邪魔をするつもりはない。
 
 正直な話、僕に日本を守ろうなんていう崇高な思いはない。できれば守りたいとは思うけれど、目の前にいる友人や学園にいる楯無さん達と比べるべくもない。
 でも、そんな彼女達に危険が及ぶなら……僕はこの身を賭けてでも守り抜いて見せる。



 その後の作戦会議は紛糾した。
 対象は超音速で飛行を続けていることから、一回のアプローチで堕とさなければならない。それはつまり一撃必殺の攻撃力が必要であり、必然的にその役に当たるのは『零落白夜』を持つ織斑君になった。まぁ、本人は納得していないようだけれど。

 しかし彼の白式だけでは速度が足りずに接敵が出来ない。つまり彼を対象のもとまで連れて行く役が必要になるのだけれど、それを決めるにあたり束さんが突然乱入して箒さんを押した。

 本来であれば超音速下での訓練経験があるセシリアさんや鈴さんがやるべきなのだけれど、束さんは紅椿のスペックを武器にごり押しした。
 この場の誰の専用機をも凌駕する……第四世代のスペックで。

 時間も無いことから、すぐに織斑君と箒さんが向かうことが決まり束さんにより両機体の調整が行われた。

 今は二人に他の専用機組が、超音速下での戦闘のレクチャーを行っている。

 僕は……というと、束さんに呼び出されていた。

「ねぇねぇ、しーちゃんも行ってくれるよね?」
「……天照では速度がとても足りませんよ? 瞬間加速度のスペックは高いですが、最高速に関しては第二世代と比べてさえそれほど優れたものではありませんし」

 もともと、この機体は並外れた加速により瞬時に最高速に達することができるかわりに最高速そのものはそれほど速くはない。アリーナという範囲が限られた戦場や、接近した状況ならともかく今回のような作戦ではかなり厳しい。

「それはほら、束さんがしーちゃんのために開発した専用パッケージを使えばちょちょいのちょいで」
「いつの間に……」

 どうやら、外付けのパッケージを開発していたようだ。
 この機体は既存のものとはコンセプトそのものが違うからそう簡単に適応するものは作れないはずなんだけれど。
 でもまぁ、僕も作戦に参加できるのなら望むところだ。みんなを守ると覚悟を決めた今、織斑君と箒さんだけを危険に晒したくはない。

 こうしてなし崩し的に僕も作戦へと同行することになる。とはいえ、要となるのは二人であることに変わりは無い。僕は何かイレギュラーがあったときの保険のようなものだ。

 目の前でパッケージの説明と調整をする束さんを見ながら、僕はふと訪ねる。

「ねぇ、この件も束さんなの?」

 いつもの口調で……もちろん近くに誰もいないことは確認した。

「うん? なんのことかな? でもこれが箒ちゃんのデビュー戦だよね。ここで活躍すれば誰も文句言わなくなるんじゃないかな」

 それも一つの答え。
 立場上、束さんの妹ということで微妙な位置にいる箒さんは常に危険に晒されている。そもそも学園に入学したのも保護プログラムによってだ。
 それが専用機を持ち、世界に実力を証明したとなれば生命的な危険は減るかもしれない。

 でも、だとすれば疑問が残る。
 確かに力を示すことはできるけれど、それ以上に厄介事に巻き込まれる可能性も高まってしまう。そんな真似を束さんがするだろうか。

「ねぇ、本当のところはどうなの?」
「……しーちゃん。敵はね、見える場所にばかりいる訳ではないんだよ。そう、実はこの束さんが全ての黒幕で、とある野望のためにしーちゃん達を利用している可能性だってあるのさ!」

 冗談……なんだろうけれど何故かその言葉が耳に残る。

「さて、これで終わり! まぁ、しーちゃんなら大丈夫だよ。これからもっともっと強くなれるんだから。その過程で、できれば箒ちゃんやいっくんは守ってくれると嬉しいな。ちーちゃんは……まぁ、心配するまでもないかな。他はどうでもいいよ」
「束さん?」

 何か、彼女らしくない。
 
「これからいろんなことが起こるだろうけど、しーちゃんがやりたいようにやればいいと思うよ」
「……うん」
「だから頑張って、バイバイ! ……ごめんね」

 言いたいことだけ言って、やりたいことだけやって彼女はどこかに行ってしまった。

「うん……バイバイ」

 最後の言葉、聞き取れなかったけれど口の動きは『ごめん』と言っているように見えた。
 それに去り際に振り返ってこちらを見ながら手を振る束さんの表情が目に焼き付いて離れない。



 何故か……もう彼女に会えない気がした。


 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧