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絶対の正義

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第二十三章


第二十三章

「そうしてです。そのうえで」
「抗議ですね」
「ここは」
「そうです。そしてです」
 彼はさらに言うのだった。良識の仮面を被ったうえで。
「この悪辣漢のことを伝えて下さい。こうした輩が出ない様に」
「はい!」
「何があっても!」
 彼等は誓い合った。その次の日もデモが行われてここでも連日連夜続いた。そうしてある日の休日。この日は会社は休みだったので筑紫の自宅の前で抗議活動を行っていた。そこには近所の人達も参加して家を完全に囲んでそのうえで攻めていた。
「出て来い悪魔!」
「さっさと謝れ!」
「逃がさないぞ!」
 こう叫ぶのであった。家は壁は抗議の文字が何処までも書かれ生ゴミが放り込まれ荒れ放題になっている。家の扉も窓も閉められている。その中からやつれきった筑紫が出て来た。彼等はその筑紫の姿を認めるとそれこそ鬼を見つけた様に騒ぎだした。
「いたぞ、出て来たぞ!」
「こら筑紫!」
「自分の罪を認めるのか!」
 だが彼は応えない。空虚な顔で何かをぶつぶつと呟いているだけである。そのうえでこれまた徹底的に荒され落書きや傷跡だらけになった白いスポーツカーに乗り込む。どうやら連日連夜の抗議によって憔悴しきってまともな思考力も判断力も失われているようであった。
 彼はそのまま車に乗って何処かに行こうとする。しかし岩清水はそれを逃さなかった。
「皆さん、追いましょう」
「追撃ですね」
「車で」
「そうです、逃がしてはいけません」
 こう言うのである。
「幸いワゴン車を何台も用意してます。それで抗議活動をしながら追いましょう」
「ええ、それでは」
「逃がさないぞ筑紫!」
「地獄の果てまでもだ!」
 彼等は次々にワゴン車に乗り込みそのうえで筑紫が運転するスポーツカーを追跡する。追跡する中でも拡声器で彼の過去の悪事を周囲に吹聴するのであった。
「皆さん、今私達が追っている筑紫商事の御曹司筑紫博はです」
「かつて修和高校一年の時にいじめでクラスメイトを自殺に追いやった極悪人であり」
「飼育小屋の兎を虐殺しました」
「そんな人間が許されるのでしょうか!」
「筑紫博を許すな!」
 そしてまた叫ぶのだった。
「極悪人を許すな!」
「いじめっ子は何処までも追って叩き潰すぞ!」
「逃がしはしないぞ!」
 こう叫んで追っていくのであった。やがて筑紫のスポーツカーは彼等の目の前で何故かハンドルを右に大きく切ってしまいコンクリートに正面から激突してしまった。彼は車の中で大きく何度も弾け跳び割れたガラスを全身に浴びた。当然ながら即座に病院に担ぎ込まれた。
 しかし病院でもだった。彼等は病院にまで押しかけそのうえで抗議活動を続ける。許可は筑紫の過去の悪事を警察にも病院にも吹聴しておりそれをネットでも広めていた為に脅迫にも近い形となって許された。彼等は筑紫の担ぎ込まれた手術室の前で集まり相変わらず抗議を続けていた。
 流石に病院の中なので拡声器は使わない。しかし口々に言うのだった。
「入院しても許さないぞ!」
「出て来い筑紫!」
「絶対に逃がさないからな!」
「いい加減にして下さい!」
「何なんですか貴方達は!」
 その彼等の前に泣いて出て来た一組の男女がいた。どちらも初老と思われる歳である。その二人が彼等に対して言ってきたのである。
「うちの息子は死にそうなんですよ!」
「それで病院にまで抗議しに来るんですか!鬼ですか!」
「貴方達は誰ですか?」
 岩清水は落ち着いた顔でその二人に対して尋ねた。
「一体」
「筑紫博の父です」
「母です」
 二人はこう名乗ってきた。
「それで筑紫商事の社長です」
「副社長です」
「悪辣漢の親だ!」
「親が出て来たぞ!」
 だが岩清水達はその二人も取り囲んだ。そのうえで彼等に対する攻撃もはじめたのであった。
「人殺しの親だ!」
「子供に兎を殺すように教えたんだな!」
「屑!」
「犯罪者の親だぞ!」
 彼等は二人も糾弾する。そうして何処までも追い詰めていくのであった。
 
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