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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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ゼロ魔編
  015 3つの名前(かお)を持つ女


SIDE 平賀 才人

トリスタニアから帰って少し日にちが経った日の事、朝練に向かう途中に〝何か〟があると第六感に従い〝何となく〟宝物庫のを通った時、そこでこの学院の秘書さん──ミス・ロングビルを見つけた。

(あの人は確かミス・ロングビルだったか? ちょっと驚かしてみよう)

子供染みた思いつきではあるが、思い立ったが吉日。俺は仙術で出来る限り気配を薄くして、周りの空間に俺と云う存在を紛れ込ませる。

「どうやったら〝破壊の杖〟を奪えるかねぇ」

ミス・ロングビルはひっそりと近付く俺に気付かない様子で何やら物騒なことを呟いているし、何時もと口調が違う。……誰も居ない事から鑑みるに、こっちの口調がミス・ロングビルの〝素〟なのだろう。

「あのハゲの言う通りならこの扉にはスクエアクラスの“固定化”の魔法が掛かってるらしいね。……私のランクでは真っ向から解くの不可能か。……なら、外側から物理的に巨大なゴーレムかなんかで破壊するしかないね」

(おいおい)

あまりにも物騒な事を言ってるので、自分に掛けていた仙術を解きミス・ロングビルへと話しかける事にした。

「もし? ミス・ロングビル」

「うきゃあっ!?」

いきなり現れた俺に驚いたのか、普段では絶対に上げない様な声を上げてミス・ロングビルは尻餅を着いた。

「あんたは──ゴホンゴホン。……貴方は確かミス・ヴァリエールの──」

「そうです。俺がルイズの使い魔です。……おはようございます。ミス・ロングビル」

「お、おはようございます。ミスタ」

ミス・ロングビルは狼狽しながらも直ちに素の振る舞いから何時もの、知的美人的な振る舞いに戻し、俺に朝の挨拶を返してくる。

「……もしかして、聞いていましたか?」

ミス・ロングビルは冷や汗を流しながら恐る恐ると訊いてくる。もしかしなくても、先ほどの泥棒計画の事だろう。……だが、ミス・ロングビルの眼には軽く諦めの色が浮かんでいる事から、何となく彼女にも答えは判っていて、さっきの質問もある種の形だけのものだろう事が窺える。

「ミス・ロングビルの言っている事が〝破壊の杖〟云々という話ならばイエスと答えましょう」

「くそっ! ここまで来て!」

ミス・ロングビルは観念せずに俺を殺して口封じをしようとするが──

「無駄だ! “サイレス”!」

ミス・ロングが口封じをしようと杖を抜く前に機先を制し、“サイレス”の魔法でルーンを紡げなくする。

「■■■■■■■■■■■! ■■■■■■■■■■■! くっ! ルーンが! あんた一体何をやったんだい!?」

「手元がお留守ですよ?」

ミス・ロングビルがルーンを紡げなくて焦っている内に、“剃”でミス・ロングビルの懐に入りこみ、“無刀取り”の要領でミス・ロングビルの杖を奪う。

「くっ! 私の杖! 返しな!」

「だが断る。いきなり襲おうとしてきたヤツの凶器を折角奪ったのに、それを返せと言われて返す奴がどこに居るか」

「ぐっ!」

ミス・ロングビルは自分の身体を護る様に掻き抱きながら、じりじりと後ずさるが、“絶霧(ディメンション・ロスト)”で生み出した〝霧〟を前世で見た魔砲少女のアニメに出てきた(バインド)みたいにしてミス・ロングビルを捕縛してあるので、思う様に後ずされ無くて更に焦りを募らせていくのが感じとれる。

「あたしに何をしようってんだい!?」

「大丈夫だ。〝そっち〟の気は無い。この状況では信じられないかもしれないが、貴女には何もしないさ。……ただ、何でこんな盗賊紛いの事をしているのかが気になっただけだ。……もし俺が納得のいく答えが貰えたら、貴女をその〝霧〟みたいなのから解放するのも吝かではない」

「ふんっ! ……遊ぶ金欲しさだよ。……これで判っただろう? 約束通りこの霧から解放してくれ」

「嘘だ」

仙術をある程度修めた所為か、何と無くだが人の気の乱れから人の言葉の真偽を感じ取れる様になった。……尤も、ミス・ロングビルは俺の目をじっと見て俺から目を離さないし、口をかたく閉じているし、下唇を噛んでいるようにも見える。……これは女性が嘘を吐く時の態度に該当する。

「何で嘘を吐くのかは知らないが、まぁ詳しい話は追々と。朝食の時間まで、まだまだ時間は有るな。……さあ、オハナシしようか」

「……勝手にしな」

(……嗚呼、今日も“腑罪証明(アリバイブロック)”の世話になりそうだ──タイムマシン的な意味で)

「あ、その前に」

ギーシュとの約束である朝のトレーニングをすっぽかす訳にはいかないので〝別魅〟をギーシュの元に送っておく。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そろそろ学院の生徒達も起きる頃であろう時間帯。俺はミス・ロングビルの部屋でミス・ロングビルと──マチルダ・オブ・サウスゴータと机を挟んで、お茶を飲みながら対面していた。

「……これまでの話を要約すると、貴女の正体は最近巷で話題の≪土くれのフーケ≫さんで、アルビオンで今は亡き彼のモード大公の忘れ形見のハーフエルフの子を匿いながら養っていて、貴女の本名はマチルダ・オブ・サウスゴータだと……」

「確かにそうだけど、あんた驚かないのかい? 後フーケの名前に〝さん〟付けは止めな。それに何でそんな説明口調なのさ」

「俺は敬虔なブリミル教の信者って訳では無いから、ハーフエルフ云々はどうでも良いさ。それと、説明口調なのは何と無くだ」

俺がそう言い放つと、ミス・ロングビルは──マチルダさんはまるで信じられないものを見る様な目で見てきて、しきりに──自分にあてがわれた部屋なのに辺りをキョロキョロと見回す。

「……ハーフエルフがどうでも良いって…あんた今の聞かれていたら異端審問に掛けられるよ」

「大丈夫大丈夫。予め〝耳〟は潰してある」

「そういう問題じゃなくてね…はぁ、あんたと話してるドッと疲れるよ」

「それはそれは、お疲れさまとでも言っておこう」

「あんたの所為だよ!」

何か睨まれながら怒鳴られた。何と無く理由は判るとして、それはそれでも割かしショックは受ける。

閑話休題。

「さて、これからどうするんだ?」

「質問返しはマナー違反承知で逆に聞くけど、あんたは私の事を知ったけど一体どうするんだい?」

ぶっちゃけ、納得のいく説明は聞けたので〝霧〟のバインドからは解放してある。それでもまだマチルダさんが動こうとしない理由はまだ杖を返してないからだろうか。

「ぶっちゃけるとここだけの話、貴女がこの学院に手を出さないなら俺はどうこうする積もりは無い。……て言うか、貴女の犯行計画を聞いたから後で俺が外壁の強度を補強するから、多分もう破壊は出来ないと思う」

「……そうかい」

マチルダさんは苦虫を噛み潰した様な面持ちで呟く。その顔を見てると、ティンと不意に天敬が舞い降りて来る。

(……あれ? もしかしたら〝あの計画〟に引き込めるかもな)

聞いた話に依るとエルフは尖り耳らしいが、そのエルフ特有の尖り耳ももどうにか出来そうなのもある。

「これは提案だ。……マチルダ・オブ・サウスゴータ、貴女をスカウトしたい」

「スカウト? 一体全体、私に何をやらせようってんだい?」

徐に口を開いた俺に、マチルダさんは訝しんだ様子で口をあんぐりと開けて俺の真意を問い質してきた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

マチルダさんとのあれそれから数日経ったある日。結果から言ってしまえば、マチルダ・オブ・サウスゴータをスカウトする事が出来た。

「さて、明日はどうするかな」

ルイズに召喚されてほぼ2週間が過ぎた。召喚されて2回目の虚無の曜日を翌日に控えた今日、俺は明日の休日の予定について頭を悩ませていた。

「あら? サイト?」

「ユーノか丁度良かった」

〝見聞色〟の範囲内に入っていたユーノが話掛けて来たのはその時だった。……ユーノ──円とも、いずれは腹を据えて話さなければならないと思っていた。……そういう意味では僥倖だったのかもしれない。

「私に何か……?」

「明日って虚無の曜日で授業は無いよな?」

「そうですね」

「明日2人でトリスタニアに行かないか? ユーノには召喚されて2日目の朝に世話になった時のお礼がしたいんだ。一緒に来てくれたら昼食でもご馳走しよう」

「私は別に構いません──と言うか、サイトと一緒に居られて寧ろ嬉しいですから。……ですが貴族御用達のお店では代金の方が結構かかりますよ?」

「それについては大丈夫。お金なら向こう17代は遊んで暮らせるくらいは持っているからな」

「? そこまで言うなら構いませんが」

こうして俺はユーノ──円との会談をセッティングする事に成功した。

SIDE END 
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