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明日の日記

作者:PC眼鏡
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後悔

こんなことを、真剣に考える日が来るとは思わなかった

そもそも、「こんなこと」と表現すること自体が
僕の他人に対する興味の低さを如実に表している

これまでどんなに仲良くしていても、恋人だったとしても
いなくなってしまえばそれまでだ

これからの自分の人生に影響を与えることが出来ない存在になってしまえば
僕の興味を引くことなんてできない

軽薄で薄情で自己中心的だ


だが、それが僕だ。


その気になれば、過去に戻って2人を助ける事もできるが、しない。
「みんなに出来ないことが、僕ならできる!」・・と
そんな安っぽいヒーロー精神は、もう僕の仲には存在しない
とうの昔に使い果たしてしまったのだから
あそこで人生を終えるのが彼らの運命だったんだと思う・・・・・ようにしている


僕が自分の力に気づいたのは小学校の低学年の時だった
当時は何か目的があるわけでもなく、過去に戻る事そのものが楽しかった
テストで満点を取ったり、給食のメニューを当てたりしていた
そうしているうちに、僕は飽きてしまったのだ

テストで満点取るにも、それなりに勉強が必要だし
戻った時間分はもう一度過ごさなければならない

自分だけが未来を知る世界は思っていたより退屈だった


おかげさまで、僕は自分以外に興味を持たない人間になってしまった・・・・




いなくなった2人の葬儀にはもちろん出席した
もちろん悲しかったし、涙も出た

それと同時に感じた
この2人の存在が僕の中でどんどん小さくなっていくのを






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あの事故から一週間がたった。  研究室は再開されている

部屋が広く感じたのは最初の数日だけで、2人がいなくなって広くなった空間は
研究資料や新しい機材によって埋められていった


ほら こんなもんだよ。

「悲しい」なんて感情、長続きしないのは分かってたことじゃないか


建設工事も再開され、重機の音がここまで聞こえている
作業が中止になったのは2日だけで、それからはこれまでの遅れを取り戻すように
朝から晩まで工事が続いている

研究室は2人だけになってしまったが、実質1人だ
ここまで、4人目についてのなんの情報も無かったが
話した事もなければ会ったことの無い人物を他人に紹介する方法が思いつかなかっただけで
決して面倒くさかったわけではないことを宣言しておこう


1人研究室にたたずんでいる
日が沈むにつれて窓の外から見える校舎の外壁に伸びる影が伸びていく
だんだんと薄暗くなり始めた外を、学生たちが歩いている
今日も天気がよかったので夕焼けがキレイだ
部屋の電気は点けていないので、窓から差し込む茜色の光の筋が
研究室の中を漂うホコリによって鮮明になる
僕は今まで向かい合っていたノートパソコンを閉じた

もうすぐ今日が終わる

机の上に広げていた物をバッグに丁寧に片付け、研究室を出た

僕のアパートまでは歩いて10分程度なのだが
今日はバイトも無いし、なんだか家に帰りたくない

「散歩でもして帰りますか・・・」

そしていつもとは逆の方向に歩き出した






大学の周辺には学生の住むアパートが群がるようにそびえたっていて
彼らをターゲットとした商店や建物が軒を連ねている
パン屋、美容室、スーパー、コンビ二、そして神社
神社はこじんまりとしており正直ご利益があるかどうかあやしい
・・・そもそも、「ご利益」ってのがまず怪しいのだが

神社の前を通過しながら不謹慎な事を考えたものだ・・・



・・・・・!



突然、地面が迫ってくる

足を踏み出そうにも反応が無い

「・・・・・!」

前方に90度傾く上半身

視界に入った僕の下半身は、しっかりと地面に立っていた

「あれ?」

上下に分かれた僕の切断面から、赤いどろっとした液体が流れ出す



ヤバイ、死んじゃう。



僕は身を引き裂かれるような痛み(実際裂けてる)を感じながら
10分前に跳んだ





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「 ふぅ 」

このままあるけば10分後にはまた死ぬのか
しかしなんで真っ二つなんだ?
冷や汗だらだらで、自分がまだ生きてることを確認する

「 足は・・・・・ついてるな   よし。」

通り魔? 連続殺人犯? 
最近ニュース見てないから情報が足りないのかもしれない
とにかく、違う道から帰ろう

細心の注意を払いながら、びくびくと進んだ僕が家に着いたのは
大学を出てから2時間後だった


家に到着すると、玄関の鍵をかける
いつもは使わないが、今日はしっかりと2重ロックをした

そして久しぶりにテレビを点ける

『一週間前に〇〇大学周辺で起きた殺人事件の犯人は未だ逃亡を続けており・・・・』




「・・・・・」


絶句した

逃走した犯人とエンカウントするなんて、自分の不運を呪うしかない

「僕じゃなかったら、被害者がもう1人でてるよ・・・」

自分の能力を過信しているわけではないが
今回ばかりは感謝しなければならないようだ

「 今度から気をつけよう 」


今日は長い1日だったなぁ
大学からこの部屋まで2時間かかるとは
僕は夕食をパンで済ませ、シャワーを浴びた


スウェットを着て、今日の反省を生かしてテレビ(ニュース)を見ていると
スマホにメールが入る
おや? 永田教授から?

『 明日の研究室は休講にします 』

了解です。と返信を返して、僕は布団に入った
明日は平日だが、急に休日になってしまった

「 明日休みなら、いらないよね 」

僕は目覚ましを設定せずにに眠りについた






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今日は充実した1日を送ることができたなぁ

日が暮れる前に自分の部屋に帰ってきた僕は、久しぶりの満足感に浸っていた

昨日に比べたら、なんていい1日だったんだろうと思う
スーパーではタイムセールに遭遇し、道路でおじいさんに話しかけられ
他愛も無い話に花を咲かせた

何気ない日々の中の、ほんの少しの幸せがこんなにも自分の気持ちを軽くするのか
日常っていいな   うん。

夕食の準備をしている僕の顔は、さぞかしニヤニヤしていることだろう



そういえば、昼間に実家から宅配便が届いてたのを忘れていた

僕の実家は専業農家なので、時々、野菜やお米を送ってくれる
電子レンジくらいの大きさのダンボール箱を慎重に開封する
そこから現れたのは、まずお米、そしてお米、更にお米、トドメのお米だった


「 米ばっかじゃん・・・ まあいいけど 」


そしてまた思い出す


「 ・・・・しまった!  今日お米大量に買ったじゃんよ! 」


昼間にスーパーに行った時、タイムセールという響きに流されて
10㌔を3つも買ってしまっていた


「 1人暮らしでこんなに食べれるわけないしなぁ 」


一瞬、ほんの一瞬だけ、誰かを呼んで一緒にご飯を食べようかと考えたが
めんどくさいのですぐ却下
そこから導き出される答えは・・・


「 もっかい今日を満喫するか 」



今日があまりにも充実していたので、いつもより軽い気持ちだった
過去に戻ることに抵抗がなくなってきたのだろうか

そして僕は過去に・・・





・・・





・・・・・・・









・・・・跳べなかった

「 あれ? おかしいな? 」

調子が悪いのか、イメージが足りないのか。
もう一度やってみる



・・・




・・



やはり跳べない

今までと同じやり方でやっているのに、出来ない。

こんなこと今まで無かった


次第に嫌な予感がしてくる
1週間と1日前に女神から言われた言葉が、記憶の端から蘇ってくる

『 戻った時間の10倍の人生を・・・・ 』

・・・犠牲?

冷たい汗が背中を流れる


「 嘘・・・だろ?・・・ 」


時間を戻せない → 犠牲が払えない → 犠牲が足りない

現状から導き出される答えが、僕の頭の中で反芻する

犠牲が足りないって事はつまり・・・





     命が燃え尽きる寸前だと




僕の思考回路がそこまで答えを導き出し、活動をやめようとする
しかし、それを無理やりに叩き起こし、強制的にブン回す


考えろ!

考えを止めるな!

死にたくは無いだろう?

だったら考えろ! 何か方法を!



今から数えて、スーパーに行ったのは約6時間前
10倍の時間を犠牲にするということは、僕に残された命は
最大で60時間弱で、最悪の場合、今すぐにでも・・・・・



僕はとりあえず考える時間を作るために、明日の朝まで跳んだ







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眠いなんて言ってられない



少し前まで、その気になれば何でも出来る。と、全能感に浸っていたことを
僕は認めざるをえなかった

そうでもしなければ、自分の心にポッカリと穴が開いたようなこの喪失感を
説明できなかったからだ

ただの人間に成り下がった屈辱。


「 もっと早く教えてくれればよかったのに 」


この期に及んで、他人(他神)のせいにしている自分の器の小ささが嫌になる

これからどうすればいいんだろう?

過去に戻れない僕なんて、そんなの僕じゃないのに。



ここまで自分を無能だと思ったことは無かった

自分で自分を肯定できない

じゃあ誰が自分を、自分という存在を認めてくれるというのか





誰もいない

誰も僕を肯定してくれない






僕はベランダの手すりに手をかけた





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  ・・・・とぅっとぅるー  とぅっとぅるー


人生を終わらせる数秒間の自由落下を始めようとした時、スマホが鳴った
研究室へ出発する時間を伝えるアラームが鳴り続ける

しかし行ったところで、自分しかいない
いつもの2人は、もう先に逝ってしまった

・・・が、それは関係ない

そんなことを考えていたら、さっきまでの悲壮感や喪失感がどこかにいっていた

死んだら全部終わりじゃんよ
死ぬ気になったら、何でも出来るんじゃないかな?

ただ死ぬより、何かに没頭して行きよう。
そっちのほうがよっぽど有意義じゃないか
アニメオタクでも何でもいいから何かひとつ、ひとつだけ
死んだときにあいつらに自慢できるものを持っていこう

・・・やっぱ、オタクはやめとこう


大人になったからという理由で諦めていた事はなかっただろうか
しかも、みんなができないような事
一回死んだと思えば、何も怖いものは無かった


考えた結果・・・





       自分の欲求に素直に生きる!





・・・事になった


これまでの人生で、わがままを言った記憶が無い僕にとって
「自分の欲求」というところを、無意識のうちに押さえつけていたのだろう

正直、うまく出来るかはわからない部分があるが、恐れずにいこう

数え切れない数の人間が同じ大地の上に生きているが
欲求に素直に生きている人間なんて、数えるほどしかいないだろう

周りの目が気になっていたり、自分の印象が悪くなるのを恐れているんだろう

・・・だが僕はもう恐れない
これからはやりたいことをして生きるんだ!   自由に!
一匹残らず   ・・・は違うか。












なんだか死ぬのがめんどくさくなってきた
アラームもうるさいし

今日はやめとくか


僕は部屋に戻ってアラームを止めた





そして時間を見る

12時?  もうお昼なのかー 早いなー  アハハハ・・・

「遅刻だよなぁ・・・」

どんよりとした顔の22歳独身自己中楽観的男は
手早く準備を済ませ、やや急ぎながら部屋を後にした




 
 

 
後書き
真っ二つでも死にません 
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