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明日の日記

作者:PC眼鏡
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悩ましき日々

 
前書き
うーむ。 

 
今日はいい天気だ
PCの中のあの娘も「今日もいい天気ネー」って言ってたし
ほんとにいい天気だ。

空を見上げても雲のカケラも見当たらない
どこまでも青。

ああ、なんてすがすがしい気分なんだ
こんなに天気が良いと自分の心まで爽やかになってしまいそうだ
どこまでも晴れ渡るこの空のように、僕の心もまっさらに!

どこまでもどんよりとした心(だって眠い)を持つ学生が自分を皮肉っている

ああ眠い

超眠い

研究室に着いたら少し仮眠を取ろう
そうすれば、どんよりとした僕の心にも木漏れ日が差し込むだろう  ・・・と思う

僕の研究室のコアタイムは10~17時なのだが
今日は30分前には到着できそうだ
家にいたら寝てしまいそうだったので、早めに出発したのだ
その30分を有効活用させていただくとしようじゃないか
教授が研究室に顔を出すのは、11時前くらいだから
10時半くらいまで安眠しておいても大丈夫な気がしないでもないが
こういうときに限っていつもより早く来たりするものだ
安全策をとるのが賢明か。

気づけばもう研究室の前まで来ていた
部屋の中は土足厳禁なので、入り口にある靴の数を見れば中に何人いるかはわかる
サンダルが一足と靴が一足。部屋の中には2人いる
靴を脱いで、そっとドアを開ける

1人は同級生、そして彼に話しかけているお方は・・・永田教授ではありませんか
あれれ? おかしいなぁ
何でこんなに早くいらっしゃってるのかしら?
しかもなんか熱心に語ってるし
いづきもそんなに一気に教えられてもわからんだろうに
・・・あ、いづきこっち向いた  
おいおい、そんな助けて欲しそうな顔でこっちみないでおくれよ
僕は教授の餌食になっている君を置き去りにして
10時まで休憩しようと思ってるんだからね 学食とかでさ
まぁ、運が無かったと思って諦めるんだ   さらばだ。友よ

田村いづきは同じ研究室の同級生で、席が隣なのでよく話し相手になってくれるいい奴なのだ
僕が暇そうにしていると、いつも話しかけてくれる
僕の友達と呼べる数少ない人物の1人だ    
いつもお世話になってます

・・・が、それとこれとは話は別なのは言うまでもないのだ
残念だが、僕に君を助ける勇気なんてないのさ
こっちは眠くて眠くて仕方がないんだよ

友達と呼べる数少ない人物を見捨てて、僕はそっと部屋を出ようとした
幸い、教授はいづきと向き合って話しているので僕が見えていない

見えていなかったのに

「失礼しまーす!
 レンおはよー
 あれ? 先生今日は早いっすね お疲れ様です いづきも」

後藤ケンヤ
体育会系だが、そこまで肌は黒くない
こいつを一言で表すなら、間違いなく「元気」だ
加えて、「活発」「前向き」という三拍子がばっちり備わっている
ちなみに研究室での席は僕の後ろ

そして紹介がかなり遅れたが、やっと自分の名前が出てきたので自己紹介
結城 蓮、22歳、男です!   ・・・よし、これでばっちりだ!
人間性や性格は、そのうちばれると思うのでここでは割愛。

そして気づいてしまった
永田教授が僕に

「おう、おはよう
 後藤くんに結城くん 今、田村くんにも話していたんだが・・・・・・」

そこから先は覚えていない
なにやら、最近の技術のことやら趣味のことやらいろいろ話してた気がする

僕の耳から入る音の波動は鼓膜を振動させ電気信号となって脳に伝播し
そこで言葉として認識されて意味を理解するはずなのだが
どこかで完全にシャットアウトされていたらしい

よくやった。  さすが僕のブレーン


ただ、30分の休憩を取り損ねた僕の心が
しくしくと雨模様に変わった事だけは、はっきりと覚えていた




---------




教授の一方的な言葉責めから解放されたとき、時計の針は12時を回っていた

かれこれ2時間以上も話を聞いてたのか(半分も覚えていないが)

話が終わり、満足そうに部屋を出て行く教授を見送った後
3人で机に突っ伏していた

「お疲れ」

いづきが申し訳なさそうに、後から来た2人を気遣う

「別に、俺は疲れてないし」

ケンヤがいつもの調子で返事をする
体育会系は忍耐力や体力において文系の人間よりハイスペックなので
そこまで疲れていないらしい

「僕も疲れてないから、大丈夫だから・・・」

いづきに心配かけまいと、全力のやせ我慢を試みる
さっきそっとドアを閉じようとした少しばかりの罪悪感と
申し訳なさそうないづきの顔を見ては文句は言えない

「今日はどんな地雷を踏んだの?」

「今日は早いですねって言ったら
 『いつもこの時間に来てるんだけど誰もいないんよねー』
 ・・・から始まって
 自分の研究の事とか、最近のニュースの事とかいろいろ。
 自論を展開してたから、途中から聞いてるフリして聞き流してたけどね」

「地雷を踏む」とは、教授のながーいお話が始まる原因を作ってしまう事を指す
この研究室の中でなら通じる、ローカルワードだ
開放まで、短くて30分、長ければ今回のように2時間を越えることもある恐ろしい兵器なのだ

「とりあえず学食行かない?
 話の途中から腹が鳴り出して、内容が全く頭に入ってないんよね」

ケンヤが下腹部を右手でさすりながら提案する

というか全員が話を聞いてなかったのか
僕だけだと思ってたから、少し心が軽くなったような気分だ。
赤信号 みんなで渡れば 怖くない
これを考えた人は天才か

「じゃあ、いこうか」

「今日もカレーうどんかな」

「レンいつもそれやんww」

「いやいや、最近発見したんだけどさ
 カレーうどんに別売りの温玉を乗っけると、味わい深くなって・・・」

そんな事を話しながら、僕らは3人で学食に向かった
おなかもいい感じに減ってるし、今日のご飯はおいしく頂けそうだ

このときの僕は、昨日の出来事が頭から完全に消えていた







僕らの研究室がある工学部棟から、学食が入っている建物までは歩いて5分ほどの距離にある
地方の大学なので、建物と建物の間に屋根はついておらず
天気のいい日はお日様の下を、雨の日は傘をさして移動することになる

前記の通り、本日の空は晴れ渡っている
12時から1時までが昼休みなので行き交う学生の数もかなり多い
僕の研究室は自由に休憩を取ることができるので
いつもは人の少ない時間帯に学食に行くのだが、今日は仕方あるまい
あれは不慮の事故だ

最近は工学部棟と学食との間の空き地で工事が行われている
話によれば、なにやら講堂らしきものが出来上がるらしい
ちなみに現在は、骨組みを組む作業中のようだ

行き交う大勢の学生

不意に何かにつまずいて倒れそうになるが、なんとかもちこたえた

そして



僕の前髪をかすめながら、鉄骨が目の前に落ちてきた



その衝撃で僕は後方に吹き飛ばされる
体がバラバラになりそうな衝撃

・・・・何これ・・・・

状況が全く理解できない。頭の回転が追いつかない。
こんなことありえない・・・・・



・・・朦朧とする意識の中で、僕に唯一できたことは
現実から目を背ける事だけだった





--------------






「その程度の不意打ちで私のコマがやられるわけがありません」

上品な口元の片側をつり上げニヤリと笑う、上品な顔立ちの女神
名は「神策の女神 シルメリア」

「あちらは彼がたまたま躓いたと思って悔しがってるでしょうね
 あの位置に小石があったのは偶然だと。

 ・・・愚かな方です

 この世に偶然など存在しないということを教えて差し上げましょう」

シルメリアの思考回路には、負けを認めた相手が地面に這いつくばって
再戦を申し込んでくるまでのプロセスが出来上がっていた

「そして私は言うのです

 『私に挑戦できるのは、生涯で一度きりです』と。」

そしてシルメリアは次の一手をうった
相手を追い詰めるための、最初の一手を。






・・・







「・・・!」

「気をつけて運べ! 頭を揺らすなよ!」

あー、頭痛い。

「心拍数異常ありません!」

心臓動いてるのか・・・よかったぁ

「よしっ! 救急車に乗せるぞ!」

え? 救急車?

「せーのっ!」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

気づいたら僕の体はタンカに固定されていた
救急車の後ろの扉が開いており、まさに今積み込まれようとしている状況を
僕は瞬時に理解した

「班長! 意識が戻りました!」

僕に見える範囲で、救急隊員は3人いた
男、男、女だ
ちなみに女性隊員さんのお胸は割と大きめだった

仰向けに寝かされている僕の頭上に覆いかぶさるようにしてなにやら作業をしているので
ローアングルから合法的に凝視することができた
怪我するのも悪くないかも・・・

そんなことを考えていると、周りには大勢の野次馬(学生)がいることに気づいた
いや、気付かされたといったほうが適切か

なにやら巨大なものが落ちてきたとき、周りにはたくさんの学生がいたので
気を失っていた時間はそんなに長くはなさそうだ

そこで初めて、大勢から見られているということを正しく認識した僕は
目の前のお胸の興奮とのダブルパンチによって・・・

「班長! 心拍数が急激に上がりはじめました!」

「なんだと!? 早く救急車で運ぶぞ!」

正直、体はどこも怪我してないみたいだし
意識もはっきりしているので、ここで開放されたいという気持ちがあったが
それを上回る羞恥心が、僕に「救急車でここから脱出」の選択肢を選ばせたのだった



・・・



病院で一泊し、検査を終えて再び研究室を訪れたのは
翌日の昼下がりだった

研究室の入り口に立ち、違和感を感じる

もうお昼を過ぎているはずなのに誰もいない

ドアにはカギがかかっており、「 当分の間休講します。 永田 」の張り紙が目に留まる

「・・・?」

そんなこと言ってたっけ? まあいいや
この1日でみんなから遅れた分を取り戻すにはいいチャンスかもしれない
今日中にみんなに追いつかないとな
研究室配属の日に教授から渡された研究室の合鍵を使い、ドアを開け中に入る
部屋の中から花のいい香りがしてきた
今まで研究室に花なんて飾ったことなかったと思うのだけど。
そう思いながら部屋の中に進んだ僕の目に映ったのは


机の上に置かれた2つの花束だった


僕の思考回路が急激に動き出し、結論が出る。
それに納得できず、僕は別の結果を考え始める
しかし、思考回路は既に停止していた

いきなり突きつけられた現実


2人が・・・死んだ?




僕の悩ましくも楽しかった日々がもう戻らないと分かった時
今までの日常が崩れていく音が、僕の耳に確かに聞こえていた




 
 

 
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