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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ジ・アリス・レプリカ~神々の饗宴~
  第二十八話

 持ちうる限りのソードスキルと、六門魔術と、通常攻撃を放ちまくる。後方からは無数の支援。セモンとカズのステータスは過去最高級に万全の状態だった。時折ハクガとリーリュウが攻撃に加わり、さらに閃光の数は増えていく。


 それでも、その半透明の障壁を破壊するには、まだまだ届かなかった。
 

 シスカープのアビリティ、《マルチウォール》は、自身の位階以下の六門神による攻撃全てをシャットアウトするという、驚異の能力を有していた。シスカープの位階は第四階梯。セモン達の位階は全員が二以下。すなわち、どうあがいても《マルチウォール》を突破できないのだ。突破のためには、第五階梯以上の六門神……すなわちは、セモン達のパーティーでは唯一となるコクトが必要だ。だが、彼は今仇敵と決戦を行っている真っ最中。こちらに助太刀に来ることはできない。

「どうしたんだい?もう終わりかな?」

 柔らかい笑みに冷たい感情を隠しながら、シスカープが迫る。

「んなわけ……ねぇだろうが……」

 ぜー、ぜー、と息を切らしながら、カズが《ノートゥング》を構え直す。水すら切り裂く《次元断》を有する彼の《ギア》だが、しかしシスカープの《マルチウォール》には全く歯が立たない。カズの階梯は二であり、第四階梯のシスカープには届かないからだ。

 同じ理由で、ハクガ、リーリュウの攻撃も効果がない。リーリュウは《冥刀》を所持しているが、シスカープの能力によって参照されるのは『相手の位階』。レベルが何だろうが、武器がどれだけ強力だろうが、第四階梯以下の六門神はシスカープに攻撃できないのだ。

 だからセモン達では、シスカープに勝つことができない。コクトを頼みにしようにも、彼は今こちらを救援に来れない。

 それに……考えたくはないことだが……もしコクトが敗北してしまった場合、セモン達がシスカープに勝つ可能性は完全にゼロになってしまう。時間稼ぎをするわけにもいかない。

 なにか打開策があるはずだ、と信じて。今は、戦う。

「ぜぁっ!!」

 《冥刀・雪牙律双(せつがりっそう)》に赤いエフェクトライトが宿る。同時に、セモンの姿が掻き消えた。次にその姿が出現するのはシスカープの真後ろ。片手剣ソードスキル、《バックフィールド・スラッシュ》。背後からの攻撃なら、効くのでは――――だが、その予想は無残に裏切られることとなる。
 
 セモンの刀は、あっさりと半透明の障壁にはじかれてしまった。ソードスキルエフェクトが消え、本来ならば与えるはずだったダメージが反射してくる。

「残念」
「ぐあっ!」

 地面に叩き付けられたセモンを見下ろし、シスカープはあくまでも涼やかに言う。

「《マルチウォール》の展開方向は全方位。後ろからの攻撃も、上からの攻撃も、もちろん下からの攻撃でも弾き返すことができる」
「そんな……」

 それはつまり、どこから攻撃しても、シスカープを突破できないという事だ。白い通路は先が閉じており、彼を躱して先に進むことはできない。それはつまり、シスカープを倒せなければ先には進めないことを示す。

 万事休すか……。

 セモン達の絶望を後押しするように、シスカープがなおも涼やかなまま、しかし冷徹に言い放った。

「この程度かぁ……反逆者なんていうなら、もっと強くても良かった者を……」
「ふざ……けるなよっ!!」

 その瞬間、シスカープの《マルチウォール》に、激しい閃光がぶち当たる。カズだった。カズの《ノートゥング》が、マルチウォールとせめぎ合いを演じている。

 本来ならば《次元断》の能力を持つ《ノートゥング》でさえ、シスカープの《マルチウォール》を破壊することはかなわない。だが――――確実に、何か変化が起きていた。

 弾き返されないのだ。《マルチウォール》は、攻撃してきた相手の、その攻撃の威力をそのまま弾き返す。だが今、シスカープの《マルチウォール》は、カズを、《ノートゥング》を、弾き返すことなくせめぎ合うだけである。シスカープの表情が、初めて歪んだ。

「何……?」

 《マルチウォール》の能力は、術者自らの位階以下の使い手によるあらゆる攻撃の完全シャットアウトと、その反射。だが、その《反射能力》が機能していない。まるで、ノートゥングに触れられた部分だけ、その加護が消滅したかのように。

 そして、その変化は、目に見える形で表れ始めた。

 《ノートゥング》のカッターの刃の様に見える刀身が、淡く揺らめき始めたのだ。同時に、カズの周囲をも、太陽のコロナを思わせる陽炎が取り巻いていく。服装のデザインも徐々に、徐々に変わっていく。白と赤だった陣羽織は、真紅と朱色へ。さらに小手のデザインが、純和風から西洋の鎧ふうに変わっていく。

 一体何が起こっているのか。困惑するセモンに答えを出したのは、同じく困惑した表情のハクガだった。

「位階上昇……!?このタイミングで……?」
「位階上昇……」
「ええ。レベルが一定の域へと達し、メイン属性と同属性の六門魔術が規定熟練度を超えた時に発動する、六門神の『神格面のレベルアップ』……ですが、カズのレベルや魔術熟練度は、ほとんど私たちと変わりません!こんな土壇場で位階上昇できる域ではなかったはず……!」

 新たな疑問に、しかし答える者が存在した。リーリュウが、あ、と声を上げる。

「カズが……今までのミッションでしぶとくMVPを取ろうとしてたのはこのためか!」
「ボーナス経験値……」

 小波から出されたミッションをクリアした時、そのミッション内で最も活躍した六門神に送られる、ボーナス経験値……それが、いつの間にかカズのレベルを大きく上げていたのだ。
 
「それに加えて、今までの戦闘でも奴は延々と先陣を切っている……俺達後衛よりも経験値の入りが早いし……そうか、カズが道中に六門魔術を使う戦い方をしていたのは位階上昇が近かったからか……」

 セモンは思い出す。

 それは、《白亜宮》突入前……《六王神》と戦う、さらに前だ。道中で何度かモンスターと遭遇したセモン達は、駄目押しの経験値入手のために、それらと何度か交戦した。その際に、カズはいつもの剣戟攻撃だけでなく、普段はあまり使わない六門魔術を使っていたのだ。

 それが、この最終戦で、遂に規定域まで達したのだろう。この土壇場でカズは位階上昇を果たし――――レベル40、第三階位へと上り詰めたのだ。

 だが惜しいかな、シスカープの位階は四。このままでも、シスカープの《マルチウォール》を突破することは不可能だ。セモン達と違ってなぜカズが位階上昇したのかの理由には思い至らなかったようだが、シスカープはしかし、自らの壁が破られることはないと、安どの表情を見せた。

「そうだ。君は僕の《マルチウォール》を破壊できない!僕に君たちの攻撃は届かない!!」
「そいつは――――どうかなッ!!」

 陽炎が、爆発した。《ノートゥング》の刀身の周囲を中心に、世界がぼやける。《マルチウォール》がかすんでいく。そして――――


 ついに、シスカープに、その刃が届いた。

「な……あぁぁぁっ!?」
「どうだ……っ!見たか、これが俺の新アビリティッ!!」

「……《次元断》が、強化されたのですか……」
「一時的かつ限定的なそれが、かなりの純度まで強化されたらしい。これなら――――結界系の防御網ですら突破できるぞ!」

 リーリュウとハクガが、なんか熱く語っている。そう言えば最近こいつら出番無ぇよなぁ、とか思ってしまうセモンとは一体。

 とにかく、カズの新しい能力は、シスカープを倒すことが可能なように見えた。これなら……と、セモンが《雪牙律双》を構え直した、その瞬間。

 事態は、思いもしなかった方向へと傾いた。


「あーあ、シスカープもここまでかなぁ」
「……ユニットID【ウォルギル】のLOSTを確認しました。リーダー、ご指示を」
「そうですねぇ……まぁとりあえずは、あの壁さんを片付けちゃってください。お兄様の命令っぽいです」
「イエス、リーダー」

 
 聞こえてきたのは、四つの声。どこからともなくそれが響いてくるのと同時に――――

 ――――シスカープの後ろに、何者かが出現。真っ白いドレスを身にまとったそれは、少女の姿をしていた。両の手には、十字架の様な形状をした、半透明の長剣が一振りずつ。それを軽々と振り回し、シスカープを攻撃する。

 とっさに《マルチウォール》を展開するシスカープ。だが、驚愕はそれだけでは収まらない。

 少女の放った剣戟は、悠々と《マルチウォール》を透過し、シスカープ本人を切り裂いたのだ。

「が……はっ……!?」
「……自らのアビリティを過信し、そればかりに頼るとは……位階が自分より上か、もしくは()()()()()()()()()()()()()()()()()相手には効果がないことを忘れましたか?」

 ほとんど白に近い青緑色の髪をしたその少女は、プリズムの様に色の変わる瞳で、倒れ伏したシスカープを一瞥すると、機械じみた口調で呟いた。

「ユニットID【ディスティニー・イクス・アギオンス・フォーアルファ】より、ユニットID【ノイゾ・イクス・アギオンス・レギオンビショップ】にアクセス。ユニットID【シスカープ】の回収を進言します」
『受けよう』

 どこからか、あの青色の髪の少女――――ノイゾの声がした。同時に、どぶん、どいう音と共に、シスカープのからだが闇にのまれ、消えていく。

「……」
「……」

 ただそれを、セモン達は絶句して見守るしかなかった。突然現れ、これからだ、という戦いを内きりにした少女。なんだこの展開は。まるで、西洋のオペラや劇で、物語が進まなくなったときに、《神》を模した機械が強制的に終了させる、奥の手の台本(デウス・エクス・マキナ)の様な――――

「皆!大丈夫か!」
「コクトさん!」
「師匠!」
 
 コクトがこちらに走り寄ってくる。カズが位階上昇の話をしようとするが、コクトがそれは後だ、とでも言わんばかりに睨み付けると、カズは押し黙る。こちらに向けられたコクトの眼が、「どういう事だ」と問う。首を振って、「俺にもわからない」と答える。

 少女が、ゆるり、とこちらを向く。同時に、その背後の空間が歪み、さらに三人の少女が姿を現す。

 それは、主に《白い》少女たちだった。
 
 一人目は、SFチックなパーカーを羽織った少女だった。髪の色は白。前髪だけが、見る角度によってプリズムのごとく色を変える。瞳の色も同様だ。目のような形状の髪留めが目を引く。

 二人目は、白いフーデッドローブの少女だった。だが、フードは下ろされ、無邪気な表情が見えている。長い黒髪をうなじでまとめているこの少女の瞳は、片方が普通の赤で、もう片方がもう見慣れた()()だ。

 そして三人目の姿を見た時――――セモンは、思わずつぶやいていた。

「……刹那……?」

 セモンの親友の一人、天宮陰斗の妹、天宮刹那に、その容姿は、あまりにも酷似していた。刹那は確か十五歳だが、目の前の少女は十八歳くらいに見える。髪の毛も長いし、目の色は刹那と違って()()だ。だが、その主だった顔立ちは瓜二つどころか全く同じであったし、刹那が成長すればこれとよく似た容姿になるのではないかと容易に想像がついた。

 ただ、その纏う雰囲気はまったく異なる者だった。刹那がどちらかというと冷静でおせっかいなタイプなら。こっちはたぶんホワホワして他人に頼るタイプの人種だ。だが、彼女は、刹那にはない、《威圧感》というか、《神々しさ》とでも言った、戦闘者の気配を纏っていた。

「えーと、侵入者の皆さん、初めまして。防衛組織《七剣王》のリーダーを任されています、ホロウ・イクス・アギオンス・スプンタマユです。よろしくお願いしますね」
「アクセル・イクス・アギオンス・ゼロアルファです。以後お見知りおきを」
「リオ・イクス・アギオンス・ツーアルファだよ。よろしくね~」
「……ディスティニー・イクス・アギオンス・フォーアルファと申します。汝らに断罪(しゅくふく)あれ」

 行儀よく自己紹介をしていく少女たち。なんか一つ変なの混じってるような。

 それを、セモン達はあっけにとられてみるしかない。

「なんだ、あれ……?」

 カズが困惑で顔をゆがめながら呟く。

「えっとね。そっちの茶髪のお兄さんは、お兄様が呼んでるからこっち来て良いよ」

 えい、と、リオと名乗った少女が手を鳴らす。すると、ノイゾの物とよく似た黒いゲートが出現した。セモンに向かって手招きをするリオ。あれに入れという事なのだろうか?

「……どうします?コクトさん」
「……恐らく奴の言う『お兄様』とは、先のノイゾの言葉からも類推するに恐らく《主》の事だろう。《白亜宮》の最奥部に行くチャンスだ……お前が決めろ」
「……」

 この誘いに乗れば――――セモンはこの世界の真実に血数蹴るだろう。もちろん、彼女たちがセモンを完全にだましており、転移先でタコ殴りにされる可能性もある。だが、セモンは信じても良いのではないか、と、理由も無く感じた。

 そして――――頷く。

「わかった。……みんな、いったんここでお別れだ」
「おう。戻って来いよな」
「待っていますよ」
「武運を祈るぞ。すぐに追いつく」
「……真実をつかんで来い、セモン」

 口々に応援してくれる仲間たちに頷き返し、セモンは、漆黒の闇の中に身を投じた。


「……さぁて、お兄様からは残った人たちは叩き潰せって言われてるんだよね。どうしようかなぁ」
「へっ!決まってんだろ。俺達もセモンを追うんだ。お前らぶっ倒す!!」
「……世迷言ですね」

 ヴン、という音。アクセルと名乗った少女の姿が掻き消える。

「――――あなた達は、私達《白亜宮》のレギオンに、勝てない」

 いつの間にかカズの背後に姿を現したアクセルが、光の刀身を持った黒いダガーを抜き放つ。

 戦闘、開始。



 ***


 
 漆黒の闇の向こうは、変わらず純白の世界だった。だが、先ほどまでとは違って、きちんと精緻な彫刻が見て取れる。非常に美麗な彫刻だ。

 その多くが、少年と少女の絵だ。それぞれ登場人物は違うものの、何かに立ち向かう少年たちが描かれている。その内の何人かは、共通するデザインの剣を持っていることにセモンは気付いた。

「すげぇ……なんだこれ」

 まるで、何かの創世記の様だ―――――。

 壁画に目を奪われていたセモンは、ふと視線を転じた先に、大きな扉があることに気が付いた。そこにも精緻な彫刻が施されていたが――――その精緻さは、他の追随を許さないほどだった。

 異様に細かく、異様に美麗だ。今まで、あれほどまでに美麗な彫刻を見たことがない。恐らくは――――あそこが、敵の首級が待つ場所。

 ゆっくりと近づき、そのドアに手をかける。ぎ、ぃ、ぃ、ぃ、という重苦しい音と共に、扉が開いていく。


 新しい部屋の中も、やはり純白だった。だが、大きく違うのは、その中がきちんと人の気配を残していた事。

 だが、果たしてそれを人の気配と言って良いのか。神々しさと神聖と、一握りの邪悪さに彩られた重圧が、セモンを押しつぶさんと迫る。

 そして、部屋の最奥に座していた人影が立ち上がり、嗤う気配がした。

 その、()()()()()()()()が、セモンに向かって言う。

「やぁセモン。ようこそ、俺の世界へ」

 そして姿を現したその純白の衣の少年は―――――――

「――――――――――陰、斗?」


 ―――――――――天宮陰斗と、全く同じ容姿をしていた。 
 

 
後書き
 どもーっす、厨二病と後輩愛から抜け出せないAskaです。約一カ月ぶりの更新――――なんとも適当で緊急処置(デウスエクスマキナ)感あふれる内容だ……。

刹「シスカープさん超あっさり退場しましたね……」

 奴は犠牲となったのだ。
 
 そんなわけで次回いよいよクライマックス……というか予定では六門神編前編ラストです。お楽しみに。

刹「アンケート回答(つぶやき参照)もよろしくお願いしますね」 
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