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IS~27歳のIS操縦者~

作者:穂波菜穂
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プロローグ

後三年で魔法使いの歩は定職もつかずバイトばかりの日々を送っていた。そんな彼が日本が誇るIS学園来てしまったのは理由がある。
なんと学園入試試験会場の警備員をしていたら、仕事中に見かけたISを物珍しさで触ってしまい、あろうことか起動させてしまったのだ。

◆ ◆ ◆

「まいったな……」
織斑千冬はどうしたものかと困り果てていた。弟の一夏だけならまだしも、立派な社会人で自分と比べてもさほど歳が変わらない岡崎歩の扱いにである。
しかも、どこかで聞いた名前だと思ったら、小学四年生時に一緒のクラスだったやつだ。当時リコーダーを振り回していた頭の痛い奴だという事を思い出す。
正直勉強も運動もその他全く秀でた所が無かったので忘れていたが、未だに定職も就かずにぷらぷらしているとは本当に情けない奴だと思う。
(まあいい。何かの縁だ。この際、同級生としてあいつを鍛えてやろう。あの馬鹿や他の甘ったれた餓鬼共にはいい刺激になるかもしれん)

◆ ◆ ◆

(これは……想像以上に……キツイ……!)
入学初日。右も左も女子しかいないこの学園に入学してしまった織斑一夏は多くの奇異の目に晒されていた。当たり前だ。世界で二人目にISを起動させてしまった男だからだ。いや隣の席に座っている彼に比べたら自分はまだ良い方である。
自分はまだ15歳。これから送る青春はかなり特殊だが、まあ、百歩譲って認めるとしよう。だが彼はあまりにも悲惨だ。
(いや、俺よりも岡崎さんの方が苦痛だよな……)
彼は現在27歳という青春など当の昔に終わっているだろう年齢であるし、後三年も経てば、おじさんという認識をされてしまうにもかかわらず、この女だらけIS学園にいる。
そう。彼が「世界で初めてISを起動させてしまった男」だからだ。まあ彼がいなかったら自分への視線が確実にもっと増えるので、心の中で謝罪しつつ、感謝する。
(岡崎さんすみません……そして、ありがとうございます……!)

◆ ◆ ◆

HRを開始するチャイムが鳴る。その時、教壇にいる山田真耶は予想以上に緊張していた。当たり前だ。ただでさえ、新人で上がり症だというのに男が二人、しかも片方は自分より年上である。
(織斑先生の小学生時代の同級生って話だけど……かっこいいなぁ)
隣にいる織斑千冬の弟、一夏よりも肌が白い。もしかしたら自分よりも綺麗かもしれない。
ならば、中性的な顔つきかと思ったがそんな事はなかった。昔自分が在学していた中学の生活指導の先生に比べるべくもないが、一目見て男だと思える顔立ちである。

しかし若干その顔にも陰りがあるように見える。というよりも絶対あるに決まっている。なにせ27歳という三十路手前なのだ。10代後半の少女達に交じって勉学に勤しむにはあまりには違和感がある。
そもそも教室に入ってきた時から既に存在感がだだ漏れなわけで。
(他の皆も少し抵抗を感じてるみたいだし……)
一夏の方は憧れの目線が入っているが、岡崎歩の方はない。というか引いている。
なんというか色々同情してしまう。おそらく彼の心情は留年した生徒と同じ信条なのではないだろうか。しかも、自分のような――同級生の場合もあるが――年下に教わるのだ。かなりのストレスになるに違いない。

(それにしても……あの時は恐かったなぁ……)
IS適性試験時の相対した時に見た彼の操縦技術にはゾッとさせられた。当時からすれば実力は劣っているかもしれないが、自分は紛れもなく元日本の代表候補生だ。
その自分が恐怖するなど。
まるで相手の心を読んでいるように動くのだ。磨けば光るどころではないぞこれは。

(しかも……あんな事が起きるなんて)
試験の時の生じた前代未聞の事態。
本人に聞いたら、「絶対防御がついているのだから、変に手加減する必要もない。油断すればこっちが墜とされるので、殺すつもりでやった」らしい。
恐いわ。化け物か。ことISの実技に関しては問題はないはずだ。残るは座学。織斑先生の話では平均未満だったらしいから不安だ。
(思った以上の逸材ですね……)
やはり織斑先生の言った通り周りの生徒の刺激になるのは確実だ。この分だと専用機持ちに、いや、それはある意味では既に達成している。だとすれば残るものは――。
(日本代表……か)
自らが果たせなかった夢。もしかしたら歩が達成するかもしれない。それまでにいくつもの強豪を倒さなければいけないが。

まあ、何はともあれ自分は教師であり彼女達は生徒なのだ。自己紹介で緊張しないように手本を見せなくては。
「皆さん入学おめでとう!私が副担任の山田真弥です」
無反応。あれ?思ってたのと違う。新学期の挨拶って何かもっとこう活気溢れるものではないのか?それよりも一夏を除いた生徒ほぼ全員が早く進めろと言った目で山田を見る。
「この学校は全寮制です。皆さん!三年間仲良く過ごしましょうね!」
やはり無反応。悲しい。

いや、段取りばかり考えていても仕方がない。直面した問題にどう対応するかが教師だ。生徒達に自己紹介をさせよう。
「では皆さんの自己紹介の時間に移りましょう。相川春香さん」
「はい!相川春香です!趣味はスポーツ観戦とジョギングです!」
出席番号一番の相川清香は立ち上がり、歳相応の元気が伺える。続いて、歩の番だ。
「岡崎歩です。以上」
「えっ」
歩は清香同様に立ち上がると名前だけ名乗り、座ってしまった。
予想外の返答。まさか、たったこれだけしか言わないとは……少し理由を聞いてみるか。

「え、え~と……他には……?」
「ありません。こんなおっさんの自己紹介など楽しくないでしょう。もう1人の方に早く回した方が生徒達も喜ぶんじゃないですか?」
「え、えー……?」
駄目だ。全く取り合ってくれない。しかも年上だと分かっているので、敬語を使われるのが何だか息苦しい。
というか、卑屈っぽさを感じる。恐らくこの女子だらけの空間で心に余裕が無いのではないだろうか?ならば教師として、授業後話相手にでもなってみよう。

◆ ◆ ◆

歩が自己紹介をしている頃、イギリス代表候補生であるセシリア・オルコットは苛立っていた。理由はただ一つ、本来女性しか入学できないはずのこの学園に男が二人、しかも片方はいい歳こいた大人がいるからである。
それが気に食わなかった。何故女しか運用できないISを運用できるのか。聞く所によれば、織斑一夏はかの織斑千冬の弟らしい。彼女の実力はもちろん知っている。知っているからこそこの学園に入学したのだ。

だからもしかするともしかするかもしれないので、まだ分からないでもない。
(ですが岡崎歩とかいう凡人は断じて認める事ができませんわ! 27歳までニートだった癖にいきなり入学なんて……お芝居だとしても滑稽すぎますわ!)
学園は一体何を考えているのだ。こんな凡人を入学させるなど前代未聞の事態だ。たかがISを起動出来たぐらいで、なんだというのだ。それくらい当たり前だ。男としては偉業かもしれないが、今更なんなのだ。遅すぎる。

しかも、なんか肌がやけに白いし。北欧人である自分よりも白いかもしれない。なんなんだイエローモンキーめ。
(全く非常に不愉快ですわ!!)
ああもうイエローならイエローらしくしろというのだ。なんなら自分が塗ってしまおうかともセシリアが考えていたその矢先、担任の山田が一夏を大声で呼ぶ。

◆ ◆ ◆

「出席番号順でもう一夏君の番なんだよね……自己紹介してくれないかな?駄目かな?」
山田は一夏がいつまでたっても返事をしない為、大声――というほど大きくないが――を出して呼ぶ。
「は、はい!すみません!」
周りの女子生徒はくすくすと笑う。

一夏は焦る。なんという事だ。入学初日からこんな失態を犯すなど、姉の織斑千冬がいたらまず殴られる。思わず歩の一つ奥にいる幼馴染、篠ノ之箒を救いを求めるような目でちらりと見てしまった。
それがいけなかった。目が合ってしまったのだ。歩は背筋が凍るような目をして早くしろと言わんばかりにこちらを睨む。

「お、織村一夏です!よろしくお願いします!以上です!」
慌てて自己紹介をしたせいで、名前を言うだけで終わってしまった。やばい、いくらなんでも単調すぎた。だが、もう取り返しはつかない。なにしろ元気な声で「以上です!」と宣言してしまったのだ。また言い直すと歯切れも悪い。今より更にぐだぐだになる事が、女の子の感情に鈍感の極みだとよく苦言を言われる一夏にも目に見えて分かったのである。

そしてなんかずっこけるような音が聞こえた気がする。それだけ一夏に期待の眼差しを向けていた女子生徒も多かったのだ。
一夏はやってしまったと思う。今ここで千冬がいると思うと恐怖に肩が震え――
「何をやってるか馬鹿者!高校生にもなって自己紹介も満足にできんのか!」
「いってえ!!」
予感的中。山田の話から察すると会議から帰って来たらしい千冬が一夏の頭を出席簿で殴る。痛い。

◆ ◆ ◆

「諸君、私が織斑千冬だ。君達新人を一年で使い物にするのが私の仕事だ。私の言う事をよく聞き、よく理解しろ。出来ないものは出来るまで徹底的に指導してやる」
先程生徒の1人を叩いた千冬の素晴らしい程の暴力宣言。だがしかし、教室には困惑のざわめきではなく、甲高い黄色い声援がやかましく響く。

「キャ―――――!千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」
全くもって動機が不純。お前のような田舎娘はずっと地元で家業でも継いでいればいいのだ、と歩は思う。
「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」
「私、お姉様の為なら死ねます!」
きゃあきゃあと騒ぐ女子生徒達を、千冬はかなり鬱陶しそうな顔で見渡す。
「全く……毎年、よくもこれだけの馬鹿者が集まる者だ。感心させられる。それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」
心から鬱陶しそうにクラスの現状を憂いているというのにそれがかえって逆効果を生む。

「きゃあああっ!お姉様!もっと叱って!罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾けて~!」
これがこのクラスの大多数の相違なようだ。全くもって嘆かわしいかぎりである。
本来ならばこの時、歩は一言怒鳴って鳴き止めさせたい気分だったが、入学初日からそんな事をすれば確実に後々面倒事の種になるので、ここは無関心を貫く。伊達に歳ばかり食っているばかりではないのだ。

途中、箒が叩かれた一夏の様子を見ようとしたが、悲しきかな間の席にいる歩と目が合ってしまった為、すぐに目を反らした。
鳴り止まぬ喧騒は千冬の一声で一応静まった。
「さあ、HRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか?いいなら返事をしろ。良くなくても返事をしろ」
どちらにしろ千冬は返事をさせたいようだ。そしてその要望通り生徒全員が返事をする。

「よし。では今から早速授業を開始する。山田先生、頼みます」
「は、はい!」
どうやら、千冬は講義をしないらしい。山田の立ち位置は差し詰め、教育実習生という風にも見える。先程の応対から考えて、新任なのかもしれない。

◆ ◆ ◆

「――であるからして、ISの基本的運用は国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ――ひっ!?」
すらすらと教科書を読んでいく山田。しかし、途中で歩の方を振り向くと、思わず小さな悲鳴を上げてしまった。
当たり前だ。なんと歩は白目を剥いていたのだから。
山田はあまり勉学が得意ではない歩の様子は大丈夫かと思い、様子を見た。少し離れて見れば確かに彼はシャープペンシル片手にノートを取っているように見える事だろう。
しかし、彼はあろうことか、そのままの体勢で白目を剥き、口を半開きにしながら、頭を縦に揺らしていたのだ。

「お、岡崎さん大丈夫ですか!?」
つい、声を出してしまった山田だが、そこは元代表候補生の教師。すぐに何か持病の発作でも起こったのかと思い、歩の身を案じる。
「ハッ。寝てた……」
歩は山田の呼びかけに反応し、目を開ける。白目からぐりんと黒目が出てきたので、若干ビビる山田。それにしても寝てたとはどういう意味だろうか?永眠しかけたということか?
まさかそのままの意味で、ただ単に居眠りしていただけなのか……?
そう疑問に思い、一応聞いてみる。
「あの寝てたってどういう……」
「いやあ、10年ほど前から居眠りすると白目剥くっていう変な癖がありましてね……」
 なんと本当にただの居眠りだったらしい。
しかし、嫌な癖もあったものだ。初見だとビビるぞこれは。いや、初見じゃなくても普通、驚く。慣れたら大丈夫かもしれないが、何だろう。慣れたくない。

山田他、周囲が歩の変癖にドン引きしていると、がっ!!という何かで思いっきり殴った音がした。
「全く、その歳で居眠りするとはな。お前には大人としての自覚が足り……ん?」
 千冬が先程の一夏と同じように出席簿で叩くが、何かが変だと気付く。
 自分が手にしている出席簿を見れば、何かが滴っている。赤い。何処かで見た気がする。というか、これは……。

「お、岡崎さん!血!血が!!血が出てます!」
歩の右隣の席に座っている一夏が叫ぶ。
本当だ。千冬が殴った所から、血が少し流れている。
途端、女子生徒達が叫ぶが、千冬の一喝により治まった。
「全く……この程度の事で騒ぎ立てるんじゃない」
 教室のほぼ全員が貴女のせいだなどと思ったのは言うまでもない。

「岡崎、目は覚めたか?」
「ああ。おかげ様で」
先程まで丁寧な受け答えをしていたが、殴られたせいか若干キレ気味でメンチ切っている。しかも、滴る血のせいで、余計に怖く見えてしまう。お化け屋敷などで使えば悲鳴を上げるのは必至だろう。
「少し強くやりすぎたな。保健室で手当てしてやろう。ついて来い」
歩は無言で立ちあがると、千冬もそれに応じて動き出す。
「では山田先生。後は頼みます」
「えっ!?」
急にこの事態を収拾する事を任された山田はちょっとばかしうろたえるが、そこは元代表候補。すぐに平静を装うが、生徒達には内心穏やかじゃないのはバレバレである。

千冬と歩はすぐに教室から出て行き、保健室へ向かう。
 その途端ざわざわと生徒達が話だしたので教師として山田は一言注意をする。
「み、皆さんも……も、もしかしたらあるかもしれないので気をつけましょねー……あは、あはははは……」
何気に恐い事をいう山田真耶。千冬のファン達も若干見る目が変わったという。授業を再開するよりもまず先に飛び散った血を片づける事の方が先決だ。

◆ ◆ ◆






◆ ◆ ◆

授業の終了を告げるチャイムが鳴る。やはりまがり間違っても大の大人。同い年の少年と違ってそれ相応のモノは備えているようだ。今のうちに牽制しておいても悪くないだろう、とセシリアは先程の織斑達とのやり取りを見て考える。
「ちょっとよろしくて?」
「おお、イギリス代表候補生の」
「そう!私こそがイギリスの代表候補生にして選ばれし超エリートのセシリア・オルコットですわ!」

セシリアが歩に話しかけ、歩がそれに答える。もっとも、傍から見ればその会話はセシリアが自慢し、歩がそれを当たり障りのない褒め言葉で返す、という読みもへったくれもない単純なものであるのだが。
それでも自信家であり、褒められる事が大好きなセシリアにとって彼女の歩に対する好感度を上げるには充分だった。
(見た目だけで決めるのは私としたことがらしくありませんでしたわ)
反省するもセシリアは基本見た目でしか決めていない。ほぼ自分が自信家なせいもあり、第一印象と先入観で状況を思いこみ、重大な失敗をしてしまう事が多々ある。しかし本人はそれに全くと言っていい程気付いていない。女性のアピールに気がつかない一夏といい勝負である。

「なあ、代表候補生って何だ?」
「あなたそんな事も知りませんの!?」
その時一夏が話に割り込んで余計な事を言ったもんだから、セシリアは憤慨。
「オリンピック選手って言えば分かるか?」

ISは本来、宇宙空間での運用を目的としたパワードスーツだったのだが、今やその計画は断念し、もっぱらスポーツの一つとしての面がある。だからこの例えはあながち間違いではない。ただスポーツとして使用するには強力すぎる兵器の数々について疑問であるが。
「うーん…まあ、何となくは…」
「この通り、こいつは阿呆だから一々気にしてたら身が持たんぞ」
「ふう……そうみたいですわね」

ぷんすかと怒るセシリアに歩はそう言ってなだめる。一夏のとんでもない無知っぷりに呆れたセシリアはこの程度で納得したのか、二人の元から去っていく。
「あの、岡崎さん……言い過ぎじゃないですか?」
「阿呆。事実だろうが」
一夏は抗議するが、取り合ってもらえなかった。
姉の千冬には馬鹿者と呼ばれ、同じ男性操縦者の歩には阿呆と呼ばれ。大人は厳しいなぁ、と痛感した一夏であった。

◆ ◆ ◆

一日目の授業は全て終わり寮に帰る途中、また一夏が歩に話しかけた。

「初日からこれじゃ先が思いやられますね、岡崎さん」
「ああ。そうだな」

そっけなく返す。というか興味が無さそうに答えた。なんか後ろから女子生徒のはしゃぎ声が聞こえる。二人の後ろについて行っているようだが―――そもそも彼女達の部屋がある寮も同じ方向なので当たり前―――どちらかというとまだ近寄りづらい雰囲気があるのか、一夏よりも歩の方がついてくる人数が少ない。
だが歩本人はそんなこと気にする事もなく別の事を考えているようだった。

◆ ◆ ◆

翌日の寮の食堂。一夏は幼馴染の箒を見つけると、足早に駆け寄る。歩は気を効かせ、人の少ないテーブルに行こうとしたのだが、悲しいかな一夏が一緒に食おうと誘いやがったもんで、気遣いが無駄になってしまった。下水道に落ちて腐ってしまえ。
一夏は箒の隣に、歩は一夏の向かい側に座る。その少し女子三人組が一夏の隣に座る。その数秒後、一夏と口論した箒が、更にその後間もないうちに歩が朝食を終え、食器を片づけに行く。

歩は内心助かったと思った。何故なら、食器を片づける事に手間取っていたら、自分達に注目している女子生徒達の格好の的だ。そんなこと昔から人見知りである歩にとってはなんとしても避けたかった。人見知りのせいでボロが出てしまえば、今まで装っていた「かっこいい男の人」のイメージが崩れかねないからだ。
そもそも、最初一夏が箒に近づいたときに離れようとした時も、あまり他人と会話したくないからである。それをヤツは気付かず―――むしろ気付いたら困る―――声をかけた。基本的には良い奴なのだろうが、鬱陶しい事には変わりない。

食器を片づけ、歩はそそくさと食道をあとにした。

◆ ◆ ◆

今日のHRではクラス代表を決める事になった。いわゆるクラス長である。これに何を思ったのか、バカ女共が織斑を推薦してきやがった。あんな客寄せパンダ如きに何ができるものか。それならかなり勘違いしているが、自信家であるセシリアに任せた方がまだ遥かにマシだ。
そう思った歩は織斑織斑と五月蠅い中、一人だけセシリアを推薦した。
この時、当のセシリアが心の中でナイスですわ!と褒めた事を歩は知る由もない。

だがその後のセシリアの言動がまずかった。言うにもこと書いて日本の事を馬鹿にしたのである。

(やっぱ、言わなけりゃよかったな)

と歩は心の中で悔やむ。
これが癇に障ったのか一夏が今度は彼女の祖国であるイギリスを侮辱。これにキレたセシリアが一夏にISでの決闘を申し込むんでしまった。全くめんどくさい連中である。
しかも周りのバカ共は面白可笑しく生やし立てるもんだから、収集がつかなくなってしまった。

しかし千冬はとてもいい顔をして日時と場所を決めた。最初からこうなる事を予想していたのだ。あながち間違っていないやり方かもしれないが、迷惑な話である。
決闘日は次の月曜日。場所は第3アリーナらしい。

ちなみにこのクラス代表、やはり一夏以外にも歩を推薦するやつがいたらしいが、千冬の一言によって撃沈した。

「一つ言っておくが、候補から岡崎は除外だ。やはり年寄りよりお前ら若者がやった方がいいだろう」

これによって若干のブーイングがあった。
そして職員室で手伝わされている歩が千冬から直接聞いた話なのだが、千冬本人としてはこの歳にもなってまだ人見知りをしている彼にやらせたかったようだ。

「全く貴様は運がいいな」
「やかましい」

傍から見ればやはり生徒よりも教師の方が様になっているとの評価になった。 
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