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dark of exorcist ~穢れた聖職者~

作者:マチェテ
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第19話「パトリック・キリシマペア 妖刀と激昂」

最初に動いたのはフォカロルだった。
素早く瓦礫の山に近づき、右手をかざす。


その瞬間、工事現場に流れていた風の動きが変わった。

「食らえ」

フォカロルが瓦礫の山からキリシマに向かって右手をかざす。

すると、“瓦礫の山から”突風が発生し、まるで弾丸のような勢いで瓦礫がキリシマに飛んできた。
拳大の大きさのものや、人の頭より大きい無数の瓦礫が、キリシマ目掛けて向かってくる。
しかしキリシマは避けるどころか動こうともしない。

「………………速いが……当たりはしない」

キリシマは居合の構えを取りながら、無数の瓦礫の一つ一つを視認した。
全ての瓦礫を視認し終え、キリシマは飛んでくる瓦礫にも勝る速度で抜刀した。










「………以前戦った時もそうだったな」

全く見えなかった。いや、“何をしたかが全く分からない”。

キリシマの周りに見えるのは、彼が持つ白刃の残像。そして塵になった瓦礫。
塵になった元瓦礫は、コツコツと弱い音を立て、力無くキリシマの身体にぶつかる。

「貴様………本当に人間か? 俺が全く見えなかったなど初めてだ」

フォカロルの問いかけにキリシマは何も答えない。
黒塗りの鞘に、静かに納刀した。


「……………………日本の“霧島流”………俺の流派で、俺の家系だった」

キリシマが突然話し始めた。

「……………………俺の流派は、速さを鍛えなければ話にならない」

「それにしては速さが人間のそれではないだろう……」

「………………それはそうだ。俺の速さの半分は自分のものだが……あと半分はコイツのものだ」

そう言うと、キリシマは静かに抜刀した。
キリシマが手に持つのは、銀に輝く日本刀。


すると、キリシマが持つ日本刀に変化が訪れた。
日本刀の刃が小刻みに震え、銀の刃が次第に黒く変色していく。
そしてどす黒く変色した刃から、赤黒い血が流れ垂れていく。

「なんだ、それは…………?」



キリシマが手に持つのは、黒く鈍く輝く日本刀。



「…………………“妖刀”なんて俺も信じてはいなかった。……“霧島流”からコイツを預かるまでは」



「…………………厄雲(やくも)……コイツの名前だ」




厄雲(やくも)と呼ばれた黒い日本刀は、それに反応するかのように赤黒い血の流出が止まった。
そして徐々に黒い刀身が、元通りの白刃に変色していった。

「全く………あの穢れの仲間は……とことん屑ばかりだな」

「……………………クリスのことか」

「…………あぁ、そんな名前だったか……ハッ……べリアルも物好きなもんだ、こんな屑共の………」


そこでフォカロルの言葉は遮られた。
フォカロルの懐でキリシマが居合の構えを取った状態で睨んでいた。
その眼は純粋な殺意で染まり、目の前の上位悪魔のみを捉えている。

「チッ……!」

以前のように斬られてたまるか。
フォカロルは意識を集中させる。すると、フォカロルの“足元”から突風が発生した。
風を利用し、素早く後ろに下がる。突然発生した突風にキリシマは吹き飛ばされた。

「……………」

吹き飛ばされたキリシマは、空中で身体を捻り、一瞬で体勢を立て直した。
地に足が着いた瞬間、キリシマは全力疾走でフォカロルに近づく。

「やるな………だがこれで近づけるか?」

フォカロルは両手を広げ、周囲の風を操作し始めた。
あっという間に風は竜巻状に広がり、フォカロルの全方位を守る壁となった。
竜巻は瓦礫を巻き上げ、容易に近づくことができない。

キリシマは居合の構えのまま、竜巻の様子を探っている。
竜巻によって巻き上げられた瓦礫を全て斬り落とすつもりだ。



ヒュン


竜巻の中から何かが飛んできた。
瓦礫ではない何かは、キリシマの頬を掠めて後ろの壁に突き刺さる。

「…………」

キリシマが振り向くと、壁には半透明の槍が突き刺さっていた。
正確には槍ではなく、フォカロルによって槍状に圧縮された風だ。

竜巻と瓦礫の防御。そこから飛んでくる風の槍。


「(さぁ……これを攻略できるか? 悪魔狩り)」






「………………………厄雲。力を貸せ」

キリシマの言葉と同時に、鞘と刀身の間から紫と黒の煙が溢れ始めた。




「…………………………殺す」


キリシマが抜刀した。

その瞬間、フォカロルを守る竜巻が、瓦礫が、風の槍が横一文字に両断された。

「………馬鹿な………!?」

さすがのフォカロルも冷や汗をかいた。
反撃しなければまずい。
すぐに風を操作し、両手にそれぞれ4本の風の槍を形成した。
フォカロルは計8本の槍をキリシマ目掛けて投げる。

「……………………無駄だ」


キィンッ!!


8本の風の槍は、金属音を立ててキリシマに斬り落とされた。
斬り落とされた風の槍は、地面に落ちることなく霧散した。

「クソッ……クソッ……クソッ……!!」

フォカロルは右手をキリシマにかざし、無数の風の槍を形成し、マシンガンのような勢いで飛ばし続ける。
負けじとキリシマも風の槍を斬り落とし続けた。

キリシマの周りで風の槍は斬られて霧散し、その度にフォカロルは槍を形成し飛ばす。


「クソッ……こんな穢れ風情に……………!!」

「(………………防ぐことは出来るが、近づけない。どうしたものか……)」

無数の風の槍を斬り落としながら考えていると……………








「うぉらああああああぁぁぁぁぁ!!!」


ドスッ!!


「ぐぅっ!?」

叫び声と共に、長槍がフォカロルの右腕に突き刺さる。

「…………………その長槍は槍投げに使うものじゃないだろう? パトリック」

叫び声を上げフォカロルに長槍を投げたパトリックは、素早く長槍を引き抜き、後退した。


「この馬鹿!! 追い付くのにどんだけ苦労したと思ってやがる!!」

パトリックはキリシマに怒鳴り、キリシマの頭を思い切り叩いた。

「………………………すまない」

「まぁいいや。今の問題はアイツだろ?」

2人はフォカロルに向き直る。


「……………屑が………吹き飛ばしてやる……バラバラに……グチャグチャにして………」


フォカロルの眼が赤く光る。


「うぉ………ご立腹だよ………」

「………………………バラバラになるのはお前だ、化け物」


2人はフォカロルに武器を向け、強く警戒する。
キリシマもパトリックも既に後戻りが出来ないと分かっていた。

2人はフォカロルの逆鱗に触れたのだから。 
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