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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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第一部
第零章 プロローグ
  消失-ヴァニッシュ-

私たちは、時々思うことがあるのではないだろうか。地球以外にも、人間と同じような知性と意思を持つ種族がいるということを。この宇宙は私たち人間の及びもつかないほど無限の広大さを秘めているから、「いるわけないじゃん」の一言で否定することは褒めていいのか疑問がある。
もしかしたら宇宙も複数存在し、私たちの生きる地球が存在する宇宙はその一つでしかないかもしれない。
私たちがこれから見る世界は、いるはずのないそれらの要素が実在すると言う仮定の上で展開される物語。
あなたたちは今からその世界を、体験することとなるのです。




紅と蒼。異なる二つの色で己の身を染め上げた月。その月が囲むようにまわっている星があった。
その星は、外見だけならば地球と非常によく似た星。緑あふれる自然と、青く澄み渡った海。私たちの生きる地球と比べると、全く科学的な力が及んでいない分汚れた部分さえもうけられない。
地球と特に異なるのは、人間だけではない。この星の知的生命体は耳の先がとがった人『エルフ』・翼をもつ人『翼人』など、多彩だ。そして人間を含めた彼らの多くが魔法という、ファンタジーの中でしか存在しえない力を行使することができるのだ。
後に異界の者たちからこの星は『惑星エスメラルダ(略称エメラダ星)』と名付けられる。
…しかし、見かけの汚れは見受けられなくても、内的な汚れというものはどこか存在する。
この星にも私たち人間と同様、知的生命体が存在する。そして古来より己と自らの同胞たちのため、自身の信じるもののため、互いに争い合っていた。権力を誇示するため、愛する人を守るため、理由は様々だ。

エスメラルダは狙われていた。
今、この星に…恐るべき魔の手が忍び寄ろうとしていた。





地球…。
この地球を覆っている化け物『スペースビースト』の恐怖から、人々を解放する特務機関として国家レベルを超えて設立された地球解放機構『Terrestrial Liberation Trust』略して『TLT(ティルト)』。
スペースビーストとは、宇宙から降り注ぐ『χ(カイ)ニュートリノ』が地球に降り注ぎ、地球生物等に影響を及ぼすことで誕生する生物。奴らは恐怖の感情を糧とするため、人間を主な捕食対象として狙う危険すぎる存在だ。

5年前に奴らの祖ともいえる怪獣が飛来、新宿で大災害を起こし人々を恐怖に陥れたが、その時だった。銀色の巨人『ウルトラマン』が現れ、奴を倒したのは。しかしその怪獣が消滅した後、地球各地ではその名残ともいえる正体不明の生物…つまりビーストが現れ人を人知れず襲うようになった。ビーストに対抗するため人類はTLTを設立し、ビーストを撃退し人を守ることを使命とした。だがビーストへの恐怖が、また更にビーストへの恐怖を生み、それがビーストをおびき寄せ狂暴化させてしまうことを知ったTLTは、『MP(メモリーポリス)』に記憶の改ざんを行わせ、被害者からビーストへの恐怖心を消すことを生業とした。だが人間の恐怖はそのセーフティを破り、ビーストが活発化していくうちに記憶消去が間に合わなくなっていく。やがてそれが限界に達した2009年秋、ついに強大なる敵が現れ、世界を荒らしてしまう。
しかしこの戦いは、再びウルトラマンが人々の祈りを聞きつけるかのごとく現れ、見事その敵を撃退したのである。
それから約1年。ビーストは絶滅こそしていないが、当時からのTLTの主戦力部隊である対ビースト迎撃チーム『ナイトレイダー』の活躍で被害は0とまではいかなかったが最小限に止められていた。



日本支部第3基地。神奈川県内にあるダムに偽装した巨大基地『フォートレスフリーダム』。
水底に存在するその基地はSF映画に登場する要塞さながらの風格があった。その基地のコマンドルームには、5人の男女で構成されたナイトレイダーが待機していた。
テレビ回線につなぎ、ビーストの被害状況を見ているのは隊長の『和倉英輔』。ビースト殲滅に使用する銃火器の手入れをしている、クールな女性は副隊長の『西条凪』。ネイルアートで暇をつぶしている女性はこのチームのムードメーカー『平木詩織』。ノートPCでビーストの特徴をチェックしている男性は若々しさと勇敢さが最も目立つ『孤門一輝』。そしてもう一人、凪とどこか似たような雰囲気を漂わせる、まだ10代後半に見受けられる青年が別室の射撃場で的を銃で撃ち抜いていた。
すると、待機していた各隊員たちに向け、警報がフォートレスフリーダム内に鳴り響く。
『第三種警戒発令。ナイトレイダーにスクランブル要請』
全員集合し、ヘルメットとプロテクターを装着して特殊銃器『ディバイトランチャー』を手に、エレベータブースに駆け込む隊員達。左から和倉・凪・孤門・青年・詩織が入る。
「出動!」
全員が入るのを確認し、和倉が高らかに宣言、五人は勢いよくコマンドルーム真上に用意された、飛行兵器『クロムチェスター』の格納庫へ射出された。
チェスターαに凪、γに詩織と孤門、βに和倉、Δに青年が搭乗する。満月の下、ダムに偽装された発進ゲートが開いて、4機のクロムチェスターが発進した。


目的地は廃工場。そこに今回の殲滅対象がいた。
カブトムシとゴキブリに酷似した『インセクトタイプビースト・バグバズン』。
『以前討伐した際と同じ流れで。ターゲットは一度冷凍弾で凍らせ、ナパーム弾で一気に仕留めてください』
今の声は若き作戦参謀長、CICこと『吉良沢優』。彼はビーストの姿を絵に描いて予測することから『イラストレーター』というあだ名でも呼ばれる。彼のIQは非凡な数値を秘めており、これまでの戦いで何度も的確な指示を与えることでナイトレイダーたちを支持してきた。
今回も同様に彼の指示が、和倉に通信越しに伝えられた。
「了解。凪は冷凍弾、『黒崎』はナパーム弾を用意しろ!孤門と詩織は俺と一緒に敵の牽制だ!」
「「了解!」」「「了解!」」
五人はヘルメットに装備されたグラスを下ろし、バグバズンにディバイドランチャーを向けると、孤門と詩織・和倉はディバイドランチャーによる集中砲火でバグバズンを攻撃した。
「ギオオオオオ!」
「冷凍弾準備完了!」
「ナパーム弾のセッティング完了!」
凪、そして『黒崎』と呼ばれた青年はディバイドランチャーにそれぞれ指定された弾丸をセットした。
「よし、撃て!」
まず凪が冷凍弾を発射、バグバズンの体はたちまち凍りついていった。
「止めだ…!」
青年はバグバズンの体が凍りついたのを確認すると、トリガーを引いてナパーム弾を発射、バグバズンを木っ端微塵に吹き飛ばした。
ヘルメットのグラスを上にあげ、和倉は砕け散ったバグバズンの姿を確認した。跡形も残っていない。任務完了だ。
「状況終了」
『任務ご苦労様です。ターゲットは消失しました。帰還してください』
吉良沢は和倉に通信で伝える。
「了解。各自、フォートレスフリーダムに帰還せよ」
「「「「了解」」」」
五人はクロムチェスターに再び搭乗し彼らの本拠地に帰還した。



青年は帰還後、コマンドルームにてコーヒーを啜っていた。
「候補生からナイトレイダーになってしばらく経つけど、慣れたかしら?」
凪が目の前に座る青年に尋ねると、青年はコーヒーカップを置いて口を開いた。
「…大丈夫です。問題ありません…」
青年はコーヒーを飲み干すと、すくっと立ち上がった。
「どこへ行くの?」
「今日は時間が空いてるので…町の方へ。すぐに戻ります」
部屋を後にする理由はプライベート的なことのようだ。彼はそう言ってコマンドルームを後にした。凪は、他者を寄せ付けたがらないような雰囲気を漂わせる彼の背中を、ただ黙って見送っていた。
「…ねえ、孤門君。あの子のことどう思う?時々プライベートでも会うんでしょ?」
詩織が完成したネイルを孤門に見せながら尋ねる。
「そうですね…なんと言えばいいでしょうか」
孤門は何と答えるべきか考え込み始める。
「休みの日は僕と一緒に憐の遊園地でバイトの手伝いをやってくれているんですが、あまり心の底から打ち解けているとは言えないですね」
「…そうだよね」
詩織の性格だと『付き合いが悪そう』と一言きつい評価を下しそうだが、何かしら事情を知っているためかそれ以上言わずに納得した言葉を吐く。
二人がそう会話する中、和倉は自分の部下たちを見渡す。
(孤門はビーストの分析を任せられる様になってさらに成長が見受けられる。入隊してからこれまでの戦いを乗り越えてきたおかげだろう。
凪も憎しみを克服してより冷静さを保てるようになり、『黒崎』への指導も抜かりない。
詩織も元々優れていた銃器の扱いもうまくなり、『石掘』の時のショックから立ち直ったとも見える。だが…)
青年の去ったコマンドルームの入り口を、和倉はじっと見る。すると、今度は黒い髪に白いメッシュのある男性がコマンドルームを訪ねてきた。
「失礼します」
「あなたは…海本博士、どうしてこちらへ?」
和倉が、訪れる人としては思わぬ人物だったためか目を丸くする。
「休暇をとれたので、今日は彼の様子をこの目で見に来たのです。突然の訪問をお許しください」
海本は謝罪を入れ、頭を下げる。ナイトレイダーにとって海本は階級が上の存在、急な訪問と謝罪に戸惑いながらも、座り込んでいた凪・詩織・孤門は立ち上がって海本に向けて敬礼する。それに応え、海本も頭を下げる。
「彼は、このチームでうまくやっているでしょうか?」
この海本という男性は、本名は『海本隼人』。北米本部で勤務している研究者である。TLTが所持する兵器の多くは、『来訪者』と呼ばれる宇宙生命体から与えられた知識を借りたもので、海本は彼らと人類を繋ぐ者の一人だ。しかしそれを仕事とする立場は決して楽なものではなく毎日が多忙だ。そんな彼が北米からわざわざ日本へやってきたことには理由があった。
和倉は海本からの質問に対してこう答えた。
「ええ、任務を忠実にこなし、我が部隊には理想的な人材と言えます。ただ…」
「ただ…何か、問題が?」
「時々自分の身を削りすぎるところが見受けられます。必要以上に訓練場にこもり、任務の際人質に取られた被害者を救出するために一人で飛び出すなど…」
「…そうですか」
海本はどこか沈んだ声で呟く。すると、今度は初老で細身の男性がコマンドルームを訪問してきた。
「海本博士。立場上あまり一人で出歩いては困るのですが」
「松永管理官」
失礼したと海本は、松永と呼んだ男に頭を下げた。
松永要一郎。TLT日本支部の管理官を務めている。ビーストから人類を守るためならば自らの手と心を汚すことをいとわない覚悟を秘めた人物である。時折冷酷な手段さえも使うことがあるが、TLTの人間は彼のことを嫌悪するほどには思っていない。
「R7性因子。彼は他の隊員たちよりもそれがずば抜けて高かった。それ故、新たなナイトレイダーチーム編成のために我々TLTは彼が必要だったのです」
ビーストが放つ振動波は、実は人類にとって精神的に有害な波動。R7因子とはそれに対する抗体のようなもの。ナイトレイダーたちは一般人と比べてそれが高いためにビーストと戦うだけの肉体を手に入れることができた。あの青年も例外ではない。
「ですが…彼の『黒く染まった過去』は、私の責任です。私は生みの親同前の身でありながら、あの子に何もしてやれなかった。いえ…何もしなかったと言う方が正しいでしょう。私は、憐の体を治すことを優先するあまり、彼を放置していたのですから」
生みの親を自称するこの海本という人物は青年とは、ある特異な関係にあるようだ。
「海本博士…」
悔いるように沈んだ顔を浮かべる海本に、和倉は複雑そうな表情を露わにする。
「すみません。言ったところで、私の罪が消えるわけではないというのに…」
「いや、お気になさらないでください」
「彼は今、どこに?」
顔を上げた海本は、青年がどこへ行ったのかを訪ねと、その問いに対して凪が立ち上がって答えた。
「黒崎隊員ならたった今、外出しました。恐らく、『霊園』に」
「墓地…」
『墓地』という単語のせいか、より聞こえのいい会話ではなくなった。あの青年が墓地へ向かった。誰か忘れたくない大事な人がいるということなのだろう。




午後4時。青年…『黒崎修平』は私服に着替えて黒部ダムから出ると、愛用のバイクを走らせ、ある場所へと向かっていた。
その先は、黒部ダムから数キロ離れた遊園地。夕方に近づきつつあった時間帯だったためか、一緒に家へ帰る親子、または友人や恋人と一緒にここへ遊びに来た人々の姿を多く見かける。
「継夢、帰るぞ~!」「わかってるよ!」
「いやいや!まだ乗る~!!」「ほら、我がまま言わないの!」
まだ遊び足りなくて駄々をこねる子供たちなど、この遊園地では日常茶飯事。
だが青年は、ここへやってきた目的意識が強かったせいか強い興味を示さなかった。遊園地を去る人々とすれ違いながら、彼は主に入場券窓口として使われている入園口の関係者入口の扉を開く。
「お、シュウ!来たのか!」
窓口から離れた机に座っていた、彼と同年代に見受けられる青年が、シュウの来訪に笑みを見せた。
「…ああ。尾白か」
この青年、尾白はこの遊園地でアルバイトをしている高校生である。もうじき卒業して大学に通う身だ。
「テレビで見たぜ、この前のお前らの活躍!仕事がはかどってるみたいじゃん」
「…まあな」
シュウは労いの言葉をかけられながらも、調子に乗るようなそぶりも見せなかった。
「尾白、憐はどこにいる?」
「憐?ああ、あいつなら花の手入れをしているところだけど」
この話だと、どうやら尾白以外にも友人がいるようだ。
「花、か。ちょうどいいな」
「え?」
「なんでもない。それより、どこの花壇だ?」
「ああ、観覧車のすぐ近くんとこ」
「わかった」
憐と呼ばれた人物がどこにいるのかわかるや否や、彼はせっせとその場を去って行った。
「もうちっと話をしようとか思わねえの?憐と孤門もよく向き合えるよな…」
嫌な奴とまでは言わないけど…そう付け加えて尾白は去って行った彼に呆れたように呟いた。




シュウは無口かつ無表情が強く押し出されているかのように、笑みというものをこれまで他人に見せたことがなかった。そのせいかまるで彼の顔そのものが鉄仮面のようで、彼の端正な顔を目的に声をかける女性もいたが、彼の無表情さと無関心さ故にすぐ飽きてしまい今はほとんどいない。道行く人が、心なしか彼を避けて歩いているのが見受けられる。それを気にも留めずシュウは歩いていく。
ようやく観覧車前までたどり着くと、シュウと比べると少しだけ小柄の茶髪の、いかにも人懐っこそうな青年が花壇の手入れをしていた。
「憐」
名前を呼ばれた青年は、手入れを中断し立ち上がって後ろを振り返る。
「お、シュウ!今日も来たんだな!」
肩をパンパン叩いてくる彼の名は『千樹憐』。シュウや尾白とは同じ18歳の青年だが、学校にも就職もしていない。だがここに来る子供たちの笑顔を見たいらしく、ここでアルバイトをし続けている。
「ああ。だが今日はついでで顔を見に来た」
「ついで?何をしに来たんだ?」
首を傾げる憐。
「花をくれ。切り花にちょうどいいのはないか?」
「花?誰か、見舞いにでも行くのか?」
「いや、…墓に供えるためのものだ」
少し答えにくそうにしながらも、シュウは鼻を必要とする理由を伝えると、また憐は首を傾げる。
「墓?」
「何かないか?」
「そうだな…切り花と供え物にちょうどいいやつって…遊園地にそんなのあるかな?」
遊園地は娯楽施設。人の心に安らぎを与えたり弾ませたりする目的もあって、花はチューリップやパンジーが多い。とても墓に供えるのに向いている花があるとは思い難い。
「あ、そうだ!近くに花屋があるんだ!そこに案内するよ」
「…助かる」
憐に連れられ、シュウは彼と共に花屋へ歩き出した。
「瑞生、どうしてるか聞いている?」
花屋へ向かう途中、憐がシュウに誰かのモノと思われる名前を口に出して尋ねてきた。
「瑞生?どうしてだ?」
「いや、お前と瑞生ってTLTの同僚だろ?それにほら、MPってビーストを見た人たちの記憶の消去が目的だったじゃん。それをしなくなった今、仕事がさ…」
瑞生は憐とは同世代のMPの少女。憐とは交際している仲だ。MPの役目がほぼ終わったともいえる今、彼女が今どうしているか気になっていた。
「…件数が少なくなったとはいえ、記憶処理自体がなくなったわけじゃない。ビーストに襲われて発狂した人もいるからな。とはいえ今のMPは主な仕事がない。新しい目的がない限りはほぼボランティアに近い状態だな」
「そっか…早く見つかったらいいけど…お、あそこだあそこ!」
憐が指をさした方角には、目的の花屋が見えた。シュウはそこで墓への供えに向いている花束を買うと、憐に次の時間までの別れを告げてバイクに乗って墓地へと向かった。




墓地へ到着した彼は、まっすぐ目的の墓の前へたどり着き、墓の周りの落ち葉を払い、墓石を雑巾で拭きとってきれいにする。その墓の花瓶に水を注いで、花屋で買ってきた花を入れた。身をかがめ、彼は合掌する。墓には『花澤家墓所』と文字が刻みこまれていた。
「…また、日を開けてすまない」
墓の主に言ったのだろうか。シュウは謝罪の言葉をかける。だが、彼はそれ以上の言葉を言おうとしなかった。何かを言いたそうにしていたが、言葉にしなかった。
(…いや、言葉にするだけ無駄なんだ。相手はもう死んでいるんだ。もう終わっているんだ)
今の彼の脳裏には、きっと彼の過去が流れたのだろう。表情を歪ませ、彼の右手は自然と握り拳を作っていた。その時、一羽のカラスが彼の頭上を、鳴きながら飛んでいた。




シュウはその後、バイクを走らせ黒部ダムへ戻っていく。彼のバイクはTLTで支給されたものだ。『NR(ナイトレイダー)』のエンブレムが証拠だ。話によるとクロムチェスターをはじめとするTLTが使用する兵器、これは組織内での機密だが『来訪者』と呼ばれる異星の知的生命体から与えられたオーバーテクノロジーによる産物でもあり、このバイクも例外ではない。排気ガスを出さず、長く走り続けることを考慮してエネルギー不足に困らないつくりとなっていた。太陽の光を使っているのかと思っていたが、違うらしい。結局どんなつくりになっているのかシュウはわからないままだが、こうして走れるならなんだっていい。
もう夕日は沈み、夜道を街灯が眩しく照らし、その光の周りを小さな蛾が飛んでいる。
何かが出てきそうなほど、街灯に照らされている場所以外は暗闇に包まれた、山岳地の道路。基地のある黒部ダムは結構な山奥に設置されているので、徒歩は当然だが車でも少々キツイ場所だ。シュウはバイクで走るときの、自分に降りかかる風を心地よく感じているため、あまり苦に思わなかったが。
明日からまたナイトレイダーとしての戦いが続く。ある意味戦場で戦うことは地獄に追いやられたように苦しいかもしれない。だがそれでもかまわなかった。シュウは戦うことに疑問さえも抱こうとしなかった。寧ろ、つかの間の平穏を味わうことも本当は自分に許されないものであると、戦いの中にこそ自分の道があると思っていた。
そのままバイクを走らせ、黒部ダムへ向かうシュウ。だが、その時彼はバイクを急停車させた。奇妙な現象が起こっていた。
「…!?」
自分の目の前に突如現れた、浮遊する白い発光体。新種のビーストか何かか?
左腕に装備したパルスブレイカーを見やるシュウ。これはテレビ電話のように相手の顔を見ることができる通信機であると同時に、近辺のビースト振動波を探知できる機能が備わっている。他にも低威力の銃器やスタンガンとしても使える代物なのだ。
だが、この発光体からビースト振動波が検知されない。ならばこの発光体は一体何なのだ。
連絡だけでも取らなくては。パルスブレイカーを機動し、回線をフォートレスフリーダムのコマンドルームにいる仲間たちに繋げた。
「こちら黒崎。隊長、聞こえますか?」
『こちら和倉だ。どうした?』
通信に応じたのは、隊長の和倉だった。
「現在黒部ダムへの道路上にて、白い発光体を発見しました。応援を願います」
『白い発光体?…見せてくれ』
和倉から見せるように要求されたシュウは、パルスブレイカーの画面に映っている和倉に発光体を見せる。
『なんだ、この光は?』
発光体を見たときの彼の反応はシュウと同じ反応だった。きっと向こうにいる孤門たちも同じだろう。
『こちらCIC。僕の方でもその発光体は見させていただきました』
「イラストレーター」
この白い発光体については、イラストレーターこと吉良沢優も聞きつけていた。
『こちらでも探知してみましたが、その発光体からはビースト振動波はありません。おそらくビーストとは別物です。ですが、万が一のこともあります。黒崎隊員、くれぐれも迂闊に近づかないでください。ただし、あなたの身に危険を及ぼした場合、応援が来るまで耐えるか、射殺してでもその場をしのいでください』
(やはり、ビースト振動派波がないか)「了解」
これでよし。通信を切ったシュウは、いつでも万が一逃げ切れるようにバイクに乗ったまま目の前の発光体を、5mほど離れた場所から見て、パルスブレイカーをガンモードに変形させ、いつでも弾を撃てるように構える。さて、この発光体の正体はなんなのか。隊長は自分たちが来るまで耐えろとは言っていたが。ここから黒部ダムまで距離はほとんどない。皆すぐに来るだろう。
…一分ほど経過しただろうか。発光体はこちらには何もしかけてこない。まるで向こうもこちらの様子をうかがっているように見える。
「黒崎!」
シュウの名字を呼ぶ声が、路面の山岳方面から聞こえてきた。ほどなく、ナイトレイダーの仲間たちが駆けつけてきてくれた。これで万全か…と思ったその時だった。
「!」
白い発光体が、動き出した。それも予想以上に速い速度だった。シュウはパルスブレイカーを発射して応戦したが、発光体は全く動じずシュウにただまっすぐ近づいて行った。
「シュウ、逃げろ!」
孤門の声が轟く。返事をする間もない。シュウはバイクを反転させてその発光体の反対方向、自分がたどってきた町の方角へとバイクを走らせた。
「発光体を黒崎に近づけるな!撃て!」
「了解!」
和倉の命令により、4人のナイトレイダーたちはシュウを襲う発光体に向けてディバイドランチャーを乱射し始めた。しかし、発光体の速度は速くなっていき、その分だけディバイドランチャーにもあたらなくなっていく。せっかく当たった弾も、まるで吸い込まれるように消滅してしまったのだ。
「効いてない!」
「追いましょう!」
発光体の防御力によるものかどうかわからないが、自分の自慢の射撃が通じないことに衝撃を覚える詩織と、冷静に何をすべきかを叫ぶ凪。相手が小さすぎてクロムチェスターは使い物にならないし、基地からはごく近隣の区域だから自分たちはここまで走りのみで駆けつけてきた。頼れるのは自分たちの足だけ。四人は足を止めないまま、銃器を連射し続けていく。だが発光体は止まることを知らず、シュウを追い回していく。
(こいつ、さっきからどうして俺だけを狙うんだ!?)
恨めしそうに後ろを振り返りながらシュウは発光体を睨む。ビーストという枠組みに勝手に入れてしまっているせいなのか、なぜこの発光体が仲間たちに牙を向けようともしないのか疑問に思っていた。自分以外に危害が及ばないだけ今のところはましかもしれないが、もし自分がこいつにやられたりしたら、他の連中にも危害が及んでしまいかねない。
状況を打破するために、何か手を考えねば。だが、その間ももはや与えられなかった。
「!」
その白い発光体は、最早神速のごとき速さであっと言う間にシュウの乗るバイクを飲み込んでしまったのだ。唖然となるナイトレイダーたち。だがすぐ我に返り、シュウの消えたちょうどすぐのポイントへ接近した。
「シュウ!」
シュウの名を呼ぶ孤門だが、返事はない。代わりにかえってきたのは、ばさばさと夜風に吹かれる木々の揺れる音だけだった。
「黒崎君、返事をして!」
ならば通信を入れてみようと、詩織はパルスブレイカーを起動させて彼と連絡を取ってみたものの、パルスブレイカーからは『通信不可』と赤い文字が表示されるだけだった。
『発光体は消失しました。これ以上追っても黒崎隊員の所在は掴めません。ナイトレイダーAユニットのみなさんは帰還してください』
「しかし…」
まだシュウが見つかっていない。孤門はまだ彼を探すべきだと言おうとしたが、その前に優がナイトレイダーたちに言う。
『残念ですが、彼のパルスブレイカーの反応もありません。このまま探しても、次のミッションまでに温存すべき体力を浪費するだけです。次に備え皆さんは帰還してください。黒崎隊員については、MPに捜索させます』
「…了解。これより帰投します」
和倉は帰投命令を呑むことにした。優の探知をもってしてもまだ見つからないのなら、言う通り時間と体力の無駄使いだ。ハンドシグナルで皆に帰投すると伝えると、和倉に続いて詩織と凪は吉の方へ走り出した。
(シュウ…)
孤門は、シュウの消えた真っ暗な路面の先を振り返ったが、悔しそうにしながらも和倉たちと共に基地へと引き返した。




CIC作戦参謀室。ここが吉良沢優の仕事場だ。水中をふよふよと泳ぐクラゲの入った縦長の水槽と、デスクに置かれた高性能のコンピュータの光に照らされた暗い部屋。普通は長く留まりがたい環境だが、彼は一日の大半をここで過ごす。自分が手を抜けば、どこかで被害が出る前にビーストの居場所を特定できなくなる、そして発見するまで時間をロスした分だけ被害がでるからだ。
優には、コンピュータを扱う情報技術だけじゃない。完全とはいかないが未来を予知する力がある。子供の頃、その能力を使って未来に出現するであろうスペースビーストの姿を予知し、絵に描いたのだ。それが、彼がイラストレーターとも言われる理由だ。
(彼の未来が見えた。
謎の白い発光体に包まれ、姿を消す。まるで、最初の『適能者(デュナミスト)』が赤い発行体と遭遇して一時行方が分からなくなった時みたいに)
謎の発光体によるシュウの消失。皆には言わなかったが、これは、何かの前触れなのか?
奇妙な胸騒ぎを感じた優だった。 
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