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カウンターテナー

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第二章


第二章

「実際のところね」
「外見見たらレスラーかフットボーラーみたいなのにな」
「それで歌声はそれか」
「訳がわからないな」
 口々に言う彼等だった。またしてもだった。
「まあバンドとしては有名になってるけれどな」
「御前のその声のせいでな」
「歌唱力自体も評価されてるしな」
「歌うのは好きだしね」
 それ自体は好きな彼だった。
「けれど子供の頃はね」
「参ったか、やっぱり」
「かなり」
「いじめられたよ」
 そのこともここで言うのだった。
「何で歌う時はそうかってね。先生も真剣に身体がおかしいんじゃないかって言うしね」
「まあそうだろうな」
「有り得ない声だからな」
 皆も彼の今の言葉には頷く。それも当然だというのだ。
「しかしまあそれでも人気だしな」
「いいんじゃないのか?」
「実際に今はそう考えてるよ」
 自分でこう返す彼だった。
「そうね」
「ポジティブにってわけだよな」
「それが一番いいよな」
「ああ、そう思うよ」
 自分でまた言うマクドネルだった。
「それじゃあ帰ったら」
「レポートか?カレッジの」
「うん、それをするよ」
 こう仲間の一人の問いに答える。
「今はね」
「じゃあそっちも頑張るんだな」
「ああ、頑張ってるよ」
 気さくな笑みと共に応えるのだった。そんな不思議な声を持つ彼だった。
 その彼の歌は有名になってきていた。そして今あるバーにおいて彼の知らないところでこんな話がされているのであった。
「それは本当かい?」
「ええ、本当ですよ」
 少し年配の男が若い男の言葉に応えていた。
「本当にそんな声ですから」
「そうか」
 年配の男はカクテルを飲む手を止めて彼の話を聞いていた。それも真剣そのものの顔でだ。
「まさかこんな場所にいるなんて」
「それでどうされるんですか?」
「一度聴いてみたいな」
 こう若い男に応えるのだった。
「是非ね」
「そうですか。それじゃあ」
「一度会ってみよう」
 また言う彼だった。
「本当にね」
「わかりました。それじゃあですね」
「うん」
「今度のライブ一緒に行きましょう」
 若い男は誘いをかけてきた。
「そのライブに」
「アマチュアのライブだよね、ロックの」
「それでもその声のせいで物凄く有名になってるんですよ」
 若い男はこのことも話す。
「ですから一度本当に聴かれると」
「わかっているよ。まずは聴いてみる」
 彼は若い男に対して応えた。
「まずはね」
「はい、それじゃあ」
「しかし。若しかすると」
 彼は期待する笑みを浮かべて述べた。
「凄いことになるかも知れないね」
「凄いことですか」
「ひょっとしたらだよ」
 今は即断をしなかった。だがそれでも期待しているのであった。それが言葉にはっきり出ていた。彼も期待を隠せなかったのである。
 
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