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ニュースキャスター

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第三章


第三章

「おい、麻薬売ってたんだぞ!」
「それで済むか!」
「ちゃんと擁護していたことを謝罪しろ!」
 ネットだけでなく抗議の電話や手紙も殺到し騒ぎは大きくなる一方だった。最早この新聞社もテレビ局も信頼は地に落ちその発言は全く信用されなくなった。このこともまたこの番組に影響し視聴率は暴落し粂達への批判も爆発的に増えた。そしてこんな時だった。
 巣型が問題を起こしたのだ。しかも女性問題である。彼の愛人がある週刊誌にその関係や些細なことまで告白したのである。これで巣型は完全に終わった。
「偉そうに言っていてそれかよ」
「モラル!?変態野郎が言うな」
「バナナって何だよバナナって」
 批判どころか嘲笑になっていた。
「愛人相手によ」
「そのまま流されて失脚しろってんだ」
 こう嘲笑されたがこれは本当に彼の失脚につながった。新聞社内でも問題になり孤立し挙句にはこの番組からも降板し窓際に追いやられることになった。以後彼は新聞社内でも家庭でも誰にも相手にされない孤独で惨めな余生を送ることになったのだった。
 巣型の失脚は当然ながらこの番組の視聴率にも影響した。スキャンダルが影響するのは常だがこの番組も例外ではなく落ちたのだ。そして間の悪いことにまた事件が起こった。
 今度は簡単に言うなら自爆であった。それも報道番組としても資格を問われるような。それは。
 ある食品の偽装事件で野証言者だがこれはその偽装事件を起こした会社の人間ではなくこの番組で使っている芸能事務所の新人タレントだったのだ。つまり偽装の証言者を捏造したのである。
 これははっきりと言えば詐欺行為であった。こちらの方こそ偽装事件と言うべきものであった。当然ながらこれはネットで大騒ぎになり週刊誌にも取り上げられた。
「ふざけるな、御前等それでも報道番組か!」
「報道の看板おろせ!」
「何処の独裁国家のプロパガンダだ!」
 こうした批判が噴出した。番組への抗議電話が二十四時間鳴り響いた。
 これで流石に懲りたのは古宮が謝罪した。粂はこの時はたまたま休みだった。
 しかし問題は続く。今度は沖縄での市民集会だがこの番組はここでもまたやらかしたのだ。何と集会に集まった人間の数を誇大に言っていたのだ。
 白髪三千丈という言葉があるがそれとはまた違うのはこの番組は放送でこれだけ市民の怒りが集まった、と主張していたからだ。もっともこの集会にしろ所謂プロ市民という素性がかなり怪しい連中が主導していたものであるという指摘がネットで証拠と一緒に述べられていたが。
「数の問題ではありません」
 古宮は言った。やはりここでも粂はいなかった。しかし古宮のこの開き直りそのものの発言はまた騒ぎになった。丁度彼女自身も男性問題を噂されていてそれも言われまたしてもこの番組はネットや週刊誌、それに総合雑誌から集中的な批判を浴びたのであった。
『最早報道番組ではない』
『只のプロパガンダだ』
『視聴者をペテンにかける悪質なデマコーグ』
 こうまで書かれる始末だった。こうして古宮も終わった。彼女も降板し以後はテレビから徹底的に干されることになった。残るは一人であった。
 巣型と古宮の代わりは毒にも薬にもならない人間だった。彼等は特に槍玉に挙げられることはなかったが粂は別だった。その野菜の問題への批判が続いていたのである。
 残る最後の一人となった粂への批判は凄まじいものであった。最早孤立無援となった彼は遂に謝罪に追い込まれた。ところがこの謝罪がまた傑作であった。
「おいおい、何だよそれ」
「それが謝罪か?」
 またしてもネットで批判されることになった。何と彼は頬杖をついて謝罪したのである。
「幾ら何でもその謝罪はないだろ」
「全然誠意がないな」
「悪いと思っていないんだろ」
 掲示板でもブログでも次々に書かれた。
「幾ら何でもそりゃないわ」
「他人には謝罪しろ謝罪しろって言うわりにな」
「自分はそれかよ」
「本当に屑だな」
 批判は呆れ果てたものだった。そしてこれがやがてこの番組の止めを刺すことになった。
 批判者達は非常手段に出た。何と番組のスポンサーに電話したのである。この番組の偏向と捏造、それにキャスター達の問題を。これは確実に効果があった。
 これによるスポンサーも離れた。視聴率はさらに下がった。こうして番組は批判だけがあり賛同者も信じる者もいなくなった。そしてその果てにあったのは。
 打ち切りであった。長く続いたこの番組も遂に終わることになった。粂はすごすごとテレビの前から姿を消し以後その力は見る影もなくなってしまった。
 これがこの番組とニュースキャスター達の末路であった。彼等は今までの偏向と捏造の責任を無理矢理取らされた。だが問題はそれがネットが発達するまではほぼ野放しだったことだ。彼等はその行いに相応しい惨めな末路を迎えた。しかしそれ以前に誰かが問題点を指摘し一刻も早くどうにかするべきであったのだろう。そうした存在がなかったことこそがこの話の最大の問題ではなかろうか。だがこれへの答えは誰も答えられなかった。


ニュースキャスター   完


                 2009・1・7
 
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