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赤とんぼとステーキ

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第四章


第四章

「受験するからな」
「そうなの、高校行くの」
「最近高校に行く先輩も多いしな」
 次第に高校進学率が増えてきていた。そうした時代であった。
「親父とお袋も高校に行けって言ってるしな」
「それじゃあ中学卒業しても」
「ああ、行くからな」
 また行くというのである。
「どっかの高校にな」
「そうなの」
「御前はどうするんだよ」
 あらためて小枝子に問うた。
「何処かの高校に行くのか?」
「どうしようかしら」
 そう言われても今一つわからない顔をする彼女だった。
「私は」
「親父もお袋も行って欲しいみたいだけれどな」
「叔父さんも叔母さんも?」
「ああ、高校はな」
 このことを彼女にも話すのだ。
「行って欲しいって言っていたぜ」
「そうなの」
「御前の成績だったら何処かの高校行けるだろ」
「多分ね」
 あまりはっきりしない返事ではあった。だがそれでも言うことは言った。
「それは」
「じゃあ行けばいいさ。何なら同じ高校行くか?」
「同じ高校に?」
「そうだよ。俺は商業高校受けるつもりなんだよ」
 そこをだというのだ。
「商業高校だと野球もたっぷりできるしな。ひょっとしたら甲子園だって行けるしな」
「甲子園行きたいの」
「ああ、行きたいな」
 こんな話もするのだった。
「やっぱりな。野球やってるからな」
「それじゃあ私は」
 小枝子は周吉のそんな話を聞いて述べた。
「その周吉さん甲子園の観客席で応援していいかしら」
「じゃあ同じ高校行くんだな」
「ええ」
 その言葉に確かに頷いた。
「そうするわ。一年遅れになるけれどね」
「待ってるからな。それにしてもな」
 周吉はここで周りを見た。その周りはどうかというと。
 赤い世界であった。夕焼けが真っ赤だ。その赤い世界の中で今日も赤とんぼが舞っていた。
 数はとても多い。見える限りそこには赤とんぼ達が舞っている。そんな土手の上の道だった。
 その赤とんぼ達を見て。周吉は小夜子にまた言った。
「この道も同じ高校だったら今みたいに歩けるからな」
「今みたいに」
「できたらずっと会ってみたいな」
 こうも言うのだった。
「ずっとな」
「ずっとなの」
「俺達ずっと一緒にいたよな」
「ええ」
「御前が俺の家に来てから」
 その時からだというのである。
「だからな。これからもな」
「二人でね」
「できたらいないか?」
 ここで小夜子の方を振り向いた。その彼女の方をだ。
「ずっと二人でな」
「それも高校に入ったら」
「いたいんだけれどな」
 そんな話もこの赤とんぼ達の中でした。そうしてであった。
 高校を出て働きだして。彼は今度は勇作と一緒に道を歩いていた。勇作もまた同じで高校を出て働いていた。その彼が横にいる周吉に対して言うのだ。
「俺今コックやってるよな」
「ああ」
「それでな。独立しようと思ってるんだ」
 こう彼に言ってきたのである。
 
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