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悠久の仙人

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第七章


第七章

「そうですね。話によるとですね」
「話によると?」
「インドがイギリスに支配されていた頃からここにおられたらしくて」
「といいますと六十年以上もですか」
「九十を超えておられるそうです」 
 ハルジャは少し考えたうえで述べた。
「いや、百歳を超えていたかも」
「百歳をですか!?」
「詳しいことはわかりませんが」
 要するに年齢不詳というのである。
「まあそうです。相当な御歳でして」
「その人がここにおられるのですね」
「はい、この寺院の奥にです」
 こう言ってさらに奥に進むとだった。そこに一人のみすぼらしい服を身にまとった一人の老人がいた。浅黒いインド人特有の肌を持ち薄い白髪と髭を伸ばしたままにしている。痩せた身体をしていてその場で座禅を組み瞑想に耽っていた。その彼がいたのだ。
「この方がですか」
「はい、この方です」
 その彼だというのである。
「名前はですね」
「何と仰るのですか?」
「さて」
 それを言われると首を傾げさせる彼だった。
「何といったでしょうか」
「御存知ないのですか」
「あった筈ですが御本人が然程こだわっておられないので」
「名前にもですか」
「はい。そういったものにもです」
 やはりこだわっていないというのである。
「ですから私も知りません」
「左様ですか」
「とりあえずですね」
「はい」
「この方のお話を聞かれればいいです」
 そうすればいいというのである。
「まずはです」
「お話をですか」
「はい。ですから」
 ここでその仙人に声をかける彼だった。
「あの、宜しいでしょうか」
「むっ!?」
 ハルジャの言葉に応えてだった。ふと顔をあげる彼であった。
「誰じゃ?わしを呼ぶのは」
「私です」
「おお、ハルジャさんか」
 彼の話を聞くとだった。目も開ける。黒く澄んだ、その奥に何か深いものをたたえた瞳であった。その目でハルジャだけでなく剛も見てきたのだった。
「それにこちらの方は」
「日本から来られた方です」
 彼のことも話すハルジャだった。
「そちらの方でして」
「日本のか。成程」
「どうも思うところがあるようでして」
 剛のそうした悩みは既に察している彼だった。
「それでこちらに来られたようなのです」
「左様なのか」
「それでお話を聞きたいそうです」
「わしから話すことは何もない」
 しかしであった。彼はこう言うだけだった。何もないというのである。
「特にな」
「えっ、それは」
「まずは座られよ」
 何もないと言われて驚く彼への言葉だった。
「まずはじゃ」
「座るんですか」
「ハルジャさんもな」
 彼もだというのである。
「座られよ」
「わかりました」
 ハルジャは素直に彼の言葉に従い座った。それを見て剛も座った。そのうえで、であった。
「話をするよりもじゃ」
「もっといいことがあるんですか」
「左様。それではじゃ」
 剛に応えてまた言ってきたのだった。
 
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