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万華鏡

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第七十四話 冬化粧その八

「一シーズンで三十勝してるぜ」
「それはまた凄いわね」
「稲尾、杉浦を超えるぜ」
 この伝説の投手達をだというのだ。
「このままな」
「故障には気をつけてね」
「ああ、そっちも注意しながら進めてるよ」
 そのゲームもだというのだ。
「怪我って怖いからな」
「ゲームでもね」
「それで終わりってあるからさ」
 ゲームでもこのことは忠実に再現されている。故障から野球選手の寿命を縮まらせるか終わらせた選手は多い。
「やっぱり怪我しないことが第一だよ」
「田渕さんなんか怪我多かったらしいわね」
「あの人毎年だったんだろ」
 今は打席にもおらず守備にもついていないのでこう言うのだった。
「それこそ」
「そうみたいね」
「それでよく途中で駄目にならなかったな」
「再起不能になりかけたことはあったらしいわ」
 広島戦でデッドボールを受けた時だ。この時は命の危険も噂された。
「それでも何だかんだでね」
「最後までやれたんだな」
「三十代後半までね」
「凄いな、毎年みたいに怪我してそこまでやれるって」
「けれど。怪我が多くて」
 まさに毎年の如く怪我をした結果だった。どうなったかというと。
「名球会は入られなかったわ」
「二千本安打はか」
「そう、出来なかったわ」
「じゃあ怪我さえなかったら」
「いけてたと思うわ」
 二千本安打を達成出来たというのだ。
「多分ね」
「そこまで凄い人だったんだな」
「そもそもそれだけ怪我しても野球やれたのは凄いわ」
「頑丈だったんだな」
「怪我は多くてもね」
 頑健な肉体だったことは確かだ、天性の野球センスに加えてその頑健な身体が田淵を球史に残る選手にしたのだ。
「それでもやれたからね」
「そうなんだな」
「凄い選手だったのは確かよ」
「そういえば能力も凄いな」
 田渕の野球選手としての能力もだというのだ。
「まあ俺は最初から作ったけれどな」
「ゲームに最初から入ってるのじゃなくて」
「そう、一から作ったんだよ」
「あんたのイメージする田渕さんよね」
「ああ、キャッチングもいいな」
 田渕はデッドボールの影響で耳が悪くなりそのせいで今一つキャッチング、というかファールフライの処理が悪かったと言われている。実際にファールフライを追わなかったことが問題になったこともあったりする。
「そうした田渕さんだよ」
「それって無敵でしょ」
「ノムさんクラスのキャッチャーだよ」
「それは凄いわね」
「文句なしの四番キャッチャーだよ」
 野村と同じだった、このことは。
「不動のさ」
「バース、掛布以上の」
「俺的にはそうだよ」
「何かそう聞いてたら私もしたくなったわ」
「よかったら貸すぜ」
「ううん、そう言われると今はやってるゲームがあるから」
 そちらに熱中したい、だからだというのだ。
「いいわ」
「そうか」
「ええ、じゃあもう飲み終わったから」
「お昼よ」
 その時にだった、母が風呂からあがってきてだった、ラフな服装であったまったその顔でこう言って部屋に来た。 
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