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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン7 冥界の河と三連星コンビ

 
前書き
5秒で思いついたタッグ名。なんだろう、一応主人公のはずのどっかのだれかの成分がほぼ入ってない気がする。 

 
「明日ぁ!?」

 今聞いた言葉が信じられず、思わず大声を上げてしまう。ええ、と、校長の椅子にどっかりと座るクロノス先生が重々しく頷いた。

「え、ちょっと今なんて言いました先生、明日ってーとトゥデイのことですか!?」
「シニョール清明、気持ちはわかるけど落ち着くノーネ。それと高校生にもなったんだからさすがにToday(今日)の意味ぐらい覚えておいてほしかったでスーノ」
「う……め、面目ないです」

 思えば、あれは今朝のことだった。学校に来たらクロノス先生から呼び出しを食らい、はて何やったのがばれて怒られるんだろうと行ってみた。するとおもむろにカーテンを閉められ、スルスルと天井からスクリーンが垂れ下がって映像が映りこんだ。あれ、これ前もやったような。そう思いながら見ていると、案の定つい数日前見たのと同じようにノース校の一之瀬校長………が……。
 それだけだ。それから後のことは、正直思い出したくない。どう考えてもめんどくさい予感しかしないし。

「………んで先生、これどーしましょう」
「こっちが聞きたいノーネ、といいたいところですーガ。今アカデミア本校の校長はワタクシ、クロノス・デ・メディチですからネ、なんとかするしかないでショウ」
「ですよね……」
「それで申し訳ありませんが、シニョール清明。こちらも連絡がつけられないか試してみますから、そちらのことは任せますーノ」
「わかりましたよ。何かうまいこと考えときます」
「本来ならばこういったことは教師の仕事なのですが、重ね重ね申し訳ないノーネ」
「そう思うなら成績オマケしてくださいよー。じゃ、失礼します」

 どんどん空気が重くなっていったので少しでも流れを良くしようと軽口をたたき、そのまま部屋から出ていく。扉が閉まる瞬間、電話をかけようとするクロノス先生の姿が見えた。

「って、任せますーノ、って言われてもねえ。………どうしようかなあ」
「何の話だったの、だってさ」
「あ、夢想。相変わらず脈絡なく出てくるよね」
「褒め言葉かな?なんだって」

 別にそんなつもりはなかったけど、キラキラと輝く笑顔を見れたのでよしとする。うん、ちょっと癒されたしもうそれでいいや。

「と、そういや夢想にも関係ある話か。あんまりいい知らせじゃないんだけどさ、今年もノース校との学校対決するって話はこの前聞いたでしょ?」
「楽しかったねー、って」
「まあね。で、それはそれでいいんだけどさ。今朝になっていきなり音信不通だったノース校から連絡が入ったわけよ」
「ふむふむ」

 こくこくと頷きながら話を聞く夢想。ちょっと辺りを見回して見える範囲に白い制服が1人もいないことを確認してから、改めて話の続きにかかる。

「………多分、あっちはほぼ全滅してる」
「…………光の結社、ね」

 軽く形のいい眉をひそめる夢想。さすがに勘がいい、一言で理解してくれるとは。

「うん、少なくとも一之瀬校長はもうやられてる。激しく似合ってなかったけど、白服」
「本当に全員なの?校長がそうやって言ってたの、だって」
「いや、そうは言ってないんだよね。あくまでも『ほとんど』だし。ただ、どっちかっていうとこっちの方が差し迫った問題なんだけど、どうもあっちは全校ほぼ一致で明日こっちに来ることが決定したらしいのよ」

 それはまた、とため息を吐く夢想。だけど、それだけならまだいい。明日ノース校がこっちに来るということは、光の結社の人間が一気に増えるってことだけじゃない。

「メンバー……どうしよう………」

 ノース校との対抗戦が、もう明日に迫っているということでもあるのだ。去年同様5対5の団体戦ってことは、当然5人のメンバーを用意しなくちゃいけない。いけないってのに、こっちには去年の大将だった十代がいない。先鋒だった明日香や次峰だった三沢、それにこっちの代表候補として有力だった万丈目は全員光の結社入りで連絡が取れないし、そもそもクロノス先生とも話し合ったけど光の結社の人を出す気はさらさらない。
 光の結社以外の人で、あと3人のメンバーを決めてほしい―――――それが、今回クロノス先生に頼まれた僕への『お願い』だ。

「ちなみに、候補は誰かいるの?だってさ」

 そう言われ、とりあえずぱっと思い浮かんだ人間を指折り数えていく。

「まず稲石さん………は廃寮から外に出ることができないからダメ。あとは翔や剣山、葵ちゃんぐらいかなあ、めぼしいところは」

 やたらと知り合いばっかりだけど、別に他意はない。そもそも生徒じゃない稲石さんは別として、今名前を挙げた面々は校内でもじわじわ実力を知られつつあるかなりの腕の持ち主なのだ。ほかにも神楽坂とかが戦力として欲しかったところだけど、彼はもう光の結社の一人だからしょうがない。

「とりあえず、剣山から順番にあたってみようかな」

 必要人数は3人、そして候補も3人。一発で決まればいいんだけど。もしダメだったら、あとは吹雪さんにでも頭を下げに行こうかな。





「ずいぶん楽しそうなイベントだドン、恐竜さんの力をノース校に見せてやるザウルス!」
「水臭いですよ、先輩。引き受けるに決まってるじゃないですか」
「え、僕なんかでいいんスか!?ちょ、ちょっと怖いけど、やるよ!」





「一発で決まったー!?」
「いいことじゃない、だってさ。はい、お茶飲む?」
「あ、いただきます」

 いや、まさかこんなにあっさり決まるとは思ってなかった。葵ちゃんと剣山が引き受けるのはなんとなく予想ついてたけど、正直なところ翔の説得にはもっと時間がいると思ってた。これまでは十代っていう超積極的なデュエルの天才がすぐ近くにいたせいでこれまでそんなに目立ってなかったけど、翔もちゃんと成長してるんだなあ。

「でもまあ、しみじみしてる場合じゃない、か。えーっと、今年は先鋒ティラノ剣山、次峰葵・クラディー、中堅丸藤翔、副将河風夢想に大将遊野清明ですよっと」
「クラディー?」
「うん、葵ちゃんの本名だって。縮めてクラちゃん」

 クロノス先生に提出する用のメンバー表にさらさらっと名前を書き、なるべく丁寧に折りたたんで上着のポケットに入れておく。あとで出しに行かないといけないな、忘れないようにしないと。
 夢想が買ってくれた小ぶりなペットボトルの緑茶を一息に飲み干し、よっこらせいと立ち上がる。去年はまだ商売を始める前だったから思いつきもしなかったけど、今年は違う。人がたくさん動くなら、そこにビジネスチャンスあり。明日からなるであろうお祭り騒ぎの雰囲気を利用して菓子類を売りまくり、なんとしてもひと儲けしなくては。たとえ光の結社でも、お金さえ払ってくれればお客さん。ケーキやらクッキーやらの生地をたっぷり作ったり、最近手を出し始めた和菓子の準備をしたりと、やることはたくさんある。

「とゆーわけで、僕はもう行くからね。じゃ、また明日ー」
「うん………ねえ清明、少しいいかな、ってさ」
「んー?」

 立ち上がったままのポーズで振り返り、何かを考えている様子の夢想に向き直る。はて、なんだろう。できれば手短に済ませてほしいんだけども。

「ちょっと今日は、私にも手伝わせてくれないかな?」
「へ?珍しいね、夢想がそんなこと言うなんて」

 夢想は普段、YUO KNOWにとってかなりの上客ではある。しょっちゅう店に来てくれるし、買い方も気前がいい。もっとも、たいていは女子寮でのお茶会用にまとめ買いしてるだけみたいだけど。だけど、これまで厨房まで手伝いに来たことはない。そう思っての返しだったが、彼女は軽く肩をすくめるのみだった。

「別に。………なんとなく、ね。嫌な予感がしたの、だって」

 ふーむ。でも、葵ちゃんのほかに手先が器用な夢想が入ってくれるんならこっちとしては断る理由はないか。ありがたく受け取っておこう。





 その3分後。

「あー………これ?嫌な予感って」
「多分ね、ってさ」
「やっぱり?ですよねー」

 フラグというか、なんというか。

「何をゴチャゴチャ言ってやがる!」
「さあ、俺たちとデュエルだ!」
「かかってこいよ、光の結社の結束を見せてやる!」

 僕ら二人の前に立ちはだかる、白い制服の3人組。よし、右から順にその1、その2、その3と呼ぼう。

「へっ、どうした?ビビってんのかよ!」

 なんと言っていいのかわからなかったので何も言わずに立っているのをどう解釈したのか、ノリノリで挑発の言葉をぶつけるその2。それを受け、その1とその3が高笑いした。

「ハハハ、無理もないぜ高野!なにせ俺たちのコンボはアカデミアでもトップクラスだからな!」
「違いないぜ、中野!いくら少しは名の知れたこの二人でも、俺たちのコンビネイションの前にはかかって来いっていう方が残酷ってもんさ!」

 そう言い、また3人でわっはっはと笑いあう3人組。………これ、この隙に隣を駆け抜けたら逃げられるとかそういう抜け道はないだろうか。ふとそんなことを思いつき、チラッと廊下の隅に目をやる。だがその瞬間にその1、まだ名前のわからない最後の一人がデュエルディスクを素早く構えて起動させた。

「おーっと、この野中様の目をかいくぐって逃げられると思うなよ?3対2の変則デュエルでいっぺんに二人まとめて倒してやるからな!」

 右から順に野中、高野、中野ね。よし、覚えたぞ。どうやら逃げられないっぽいし、だったらここで相手する方がいいだろう。でも、タッグデュエルならやったことはあるけど3対2ってのは初めてだな。こんな時にそんなこと言ってる場合じゃないのかもしれないけど、ちょっとわくわくしたり。

「夢想、悪いね迷惑かけて」
「ううん、何となくこうなる気はしてたから、だってさ」
「「それじゃあ…………」」

 いつも通りの掛け声をしようとしたら、夢想と声がはもった。何が言いたいのかをすぐに理解して、アイコンタクトでタイミングを合わせる。

「「デュエルと洒落込もうか(洒落込みましょう)!」」

「先行はまず俺、野中がもらったぜ!よしよし、いい手札だな。カードを3枚セットして、クリバンデッドを召喚。そしてエンドフェイズ、通常召喚したクリバンデッドをリリースすることでデッキトップ5枚をめくり、その中から魔法か罠カード1枚を手札に加える。1枚目から順にタスケルトン、攻撃の無力化、速攻のかかし、ネクロ・ガードナー、だめだな。攻撃の無力化を選択して、あとは全部墓地に送ってターンエンド」
「あ、終わった?じゃあ私のターン、ドローだってさ」

 ターンが変わり、自然な動きでカードをドローする夢想。これで彼女の手札は初期手札含めて9枚………って、あれ?同じことを思ったようで、中野が文句の声を上げた。

「ヘイ、ちょっと待てよ!?それ、手札多くね?」
「これかな?だって2対3なんですもの、当然初期手札8枚ぐらいのハンデはくれるんでしょ?ってさ。ほら、清明もあと3枚引かなきゃ駄目だよ」
「ほえ?え、あ、うん、じゃ、じゃあ3枚ドロー………」

 あまりといえばあまりに堂々とした態度につい流され、言われたとおりにカードを2枚引く。い、いいのかなあこれって。きっとあの3人組が何か言ってくるかと思ったけど、見逃すことに決めたらしい。まあ相手が夢想だから、ここでスルーしたくなる気持ちはわからんでもない。僕なんかはもう慣れてきたから平気だけど、初対面の人にとって彼女のペースというか世界観はとっつきにくいだろう。
 僕がカードを引いても何も言われなかったのを見て満足そうに頷き、再び彼女のターンが始まった。

「ボーンクラッシャーを攻撃表示で召喚、カードを2枚セットしてターンエンドかな、だってさ」

 ボーンクラッシャー 攻1600

 今回の変則デュエルでは、未行動のプレイヤーへの直接攻撃を防ぐためにすべてのプレイヤーが1度ターンを終えるまで攻撃宣言をすることができない。夢想もそんな状況で全力で飛ばしていくのはさすがにまずいと考えたのか、当たり障りのない無難な布陣を引いたのみでターンを終了した。

「こ、この抜け目ないリアリスト女め………!俺のターンか。ドローさせてもらいますかね」

 そして次は、高野のターン。一人目の野中はかなり守りに重点を置いたデッキの使い手みたいだったけど、この男はどんなデッキを使ってくるのだろうか。

電動刃虫(チェーンソー・インセクト)、召喚!」

 電動刃虫 攻2400

 ギュイイイインとうなりを上げる鋭いのこぎりを抱え持つクワガタムシが、ガチガチと威嚇の構えをとる。電動刃虫、高い攻撃力を持つかわりに戦闘を行うだけで相手にドローを許すデメリットを持ったあのカードが入っているということは、かなり高野のデッキパターンは縛られるだろう。考えられるものとしては…………えっと、なんだろ。だめだ、らしくないことしようとしても結局付け焼刃の知識じゃどうにもならん。

「電動刃虫ね。【昆虫族】か【スキルドレイン】、それとも【ガーゼット】とかかな、だってさ」

 …………さっすが夢想。

「カードをセットして、ターンエンドだ」
「僕のターン!」

 そして、やっと回ってきた僕のターン。合計9枚もある手札をざっと見て、何をすべきか考える。

「よし、ここは。ハンマー・シャークを守備表示で召喚して、効果発動!このカードのレベルを1下げて……」
「おっと、待ちな!トラップ発動、スキルドレイン!1000のライフを払って発動したこのカードが場にある限り、場で発動するすべてのモンスター効果は無効に……」
「甘いよ、ってさ。トラップ発動、砂塵の大竜巻!この効果を使って、スキルドレインを破壊するみたい」
「いいや、何のためにこの野中がカードを3枚も伏せたと思ってんだよ!その砂塵に対してカウンタートラップ、盗賊の七つ道具を発動するぜ。1000ライフを払うことで、相手の発動したトラップを無効化する!」

 高野 LP4000→3000
 野中 LP4000→3000

 うーん、さすがにこれだけ人数が増えると組まれるチェーンの数もわけわからんことになってくるな。でもまあ要するに、夢想の砂塵が不発になってスキルドレインが通り、僕のハンマー・シャークの効果が無効になったってことだ。残念。

「だけど、特殊召喚はさせてもらおうかな。自分フィールドに水属性モンスターが存在するとき、手札のサイレント・アングラーは特殊召喚できる!来い、サイレント・アングラー!」

 サイレント・アングラー 守1400

「さらにカードを2枚セットして、ターンエンド」
「よし、俺の番だな。ドロー!へへへ、さっきのスキドレやら七つ道具やらでライフが減っちまったろ、今回復させてやるからな。魔法発動、成金ゴブリン!デッキからカードを1枚引く代わりに相手………高野のライフを1000回復させる!」
「おう、いつもすまんな中野」
「なっ!?」

 高野 LP3000→4000

 こ、これはまずい。成金ゴブリンがカードを1枚引ける通常魔法として成り立っているのは、その引き換えに『相手』のライフポイントを1000回復させることにある。おそらく、この3人は初めから3人一組のチーム戦を前提としたデッキを組んでいるんだろう。最初の一人、野中がネクロ・ガードナーや攻撃の無力化、盗賊の七つ道具などでひたすら妨害をかける。そして中野がライフを供給する。そして最後の一人、高野がスキルドレインを生かした高攻撃力でガンガン攻め立てていく。
 普通デッキを組む時は個人戦しか想定しないから、防御の手と攻撃の手をある程度バランスよく混ぜざるを得ない。だけどあの3人組は、個人戦では勝ち目なんてない攻撃特化、妨害特化、補助特化のデッキをそれぞれ組んでいるのだろう。この3人、早いとこ誰か1人でも潰さないとかなり厄介な相手になりそうだ。

「次、2枚目の成金ゴブリンだ!野中、お前も回復しとけよ」
「サンキュー、中野。今回も頼りにしてるからな」

 野中 LP3000→4000

 いかん、これはいやらしい。こういう時はRPGの大原則、まずは補助役から倒すのみ。ライフ回復の中野は今のところ無視して、うまいこと攻撃役の高野をいなしながら妨害の野中を潰す。それが一番こっちに勝ち目があるだろう。
 ある程度の作戦が立ったところで、隣の夢想にアイコンタクト。彼女も考えることは同じだったらしく、すぐににっこりと頷き返す。

「カードを2枚伏せて、素早いモモンガを守備表示で召喚。ターンエンドだ」

 素早いモモンガ 守100

 これでやっと全員がそれぞれの1ターン目を終えたことになる。ただ、次に動くのが真っ先に潰しておきたい妨害の野中だというのが気にかかるけど。

 野中 LP4000 手札:2
モンスター:なし
魔法・罠:2(伏せ)

 夢想 LP4000 手札:7
モンスター:ボーンクラッシャー(攻)
魔法・罠:1(伏せ)

 高野 LP4000 手札:4
モンスター:電動刃虫(攻)
魔法・罠:スキルドレイン

 清明 LP4000 手札:5
モンスター:ハンマー・シャーク(攻)
      サイレント・アングラー(守)
魔法・罠:2(伏せ)

 中野 LP4000 手札:3
モンスター:素早いモモンガ(守)
魔法・罠:2(伏せ)

「俺のターン、ドロー!いいぞいいぞ、2枚の手札をセット。これでターンエンドだ」

 俗に言うガン伏せ。普通のデッキならまだブラフが混じっている可能性もあるが、妨害札ばっかりたんまり仕込んであるであろうあのデッキなら多分全部が本命だろう。そこを夢想がこの1ターンでどこまで切り崩せるか、それが大事なところだ。僕のデッキに自分以外をサポートするカードなんて攻撃反応のカードぐらいしか入ってないからできることは少ないけど、任せたよ、夢想。

「私のターン。うーん、………どうしようかなあ、って」

 あれ、夢想らしくない弱気なセリフ。と思ったけど、よく考えたら今はスキルドレインの適用状態だった。夢想のエースモンスターであるワイトキングは効果によって攻撃力を馬鹿みたいにあげていくカードだから、その効果を無効にされたら当然戦力はがた落ちする。
 とまあ、それが常識というものだろう。でもきっと夢想だから、何か突拍子もないことをしてくれるに決まってるさ。

「決ーめた、だってさ。魔法発動、大嵐。これで、すべての魔法カードも罠カードも破壊!」

 出た、対伏せカードにおいて最高峰のカード。荒れ狂う風がフィールドを駆け廻り、全てのリバースカードを空に巻き上げようともする。だけどガン伏せは伊達じゃなかったらしく、まず野中が反応した。

「させるかよ!リバースカードオープン、神の宣告!ライフポイントを半分払う代わりに、その発動と効果は無効になる!」

 野中 LP4000→2000

「ライフを半分払ってくれたんだ、使いどころはここ一択だね。その神の宣告に対してトラップ発動、魔宮の賄賂!カードを1枚ドローさせる代わりに、その発動を無効にさせてもらうよ」

 野中の伏せカードの前に両手を広げて両手を広げて立ちはだかり、嵐の勢いを鎮めようとする白い服を着た老人。そこにどこからともなくいかにもな悪人顔の着物を着た商人風の男が走ってきて、老人の袖にスッと金貨を差し込む。揉み手しながら愛想笑いを浮かべる商人の前に、老人はため息をついて引き下がっていった。よ、よかった伏せといて。ここでこの大嵐が通らなかったら、今後の展開がガラッと変わってくるところだった。

「甘い甘い甘い!魔宮の賄賂に対してカウンター発動、ギャクタン!相手の罠カードの発動を無効にし、そのカードをデッキに戻させる………これで神の宣告が有効になって、大嵐は無効だ!」

 一仕事やり終えた男の顔で踵を返す商人の後ろから、何人もの警官がどやどやとやってくる。収賄は犯罪だからね、お上に見つかっちゃあどうしようもない、というわけか。

「なんて、甘いこと言ってる場合じゃないか。どーする、夢想?もうこれ、僕にはどうしようもないけど」

 ちょっと不安になり、思わず口を突いて出た弱音。だが、それでも夢想は笑って見せた。

「残りライフは2000、でしょ?大丈夫、このターンで確実にとどめは刺すから、だってさ」
「………どーやってかは聞かないでおくから、全面的に任せたよ」
「うん。トラップ発動、八咫烏の躯。この効果でカードを1枚ドローして、これで仕込みは整ったよ。魔法カード、ポルターガイストを発動するね。このカードは相手の場の魔法か罠1枚を持ち主の手札に戻すけど、この発動と効果を無効にすることはできないんだって。さよなら、スキルドレイン」

 手を触れていないのに勝手にモノが動く怪奇現象、ポルターガイスト。その名にふさわしくスキルドレインのカードがふわりと宙に持ちあがると、そのまま高野の手札に収まった。

「さらに手札からスカル・コンダクターの効果を発動、このカードを手札から墓地に送ることで、攻撃力合計がぴったり2000になるようにアンデット族モンスターを手札から特殊召喚するよ、だって。私が呼ぶのは、攻撃力1000のバーニング・スカルヘッド2体みたいだよ」

 バーニング・スカルヘッド 守800
 バーニング・スカルヘッド 守800

ガイコツの指揮者に誘われて、ふわふわと飛んでくる燃え盛る頭蓋骨ふたつ。一斉に口を開き、野中めがけて火の玉を吐きだした。

「ひいっ!?な、なんだぁ!?」
「バーニング・スカルヘッドの特殊効果発動。手札から特殊召喚に成功した時、相手に1000のダメージを与えるみたい」
「なんだと!?それじゃあ、1000かける2で俺のライフがなくなっちまうじゃねえか!中野、なんとかしてくれよ!」
「はいはーい。トラップ発動、フュージョン・ガード。相手が効果ダメージを与える効果を使った時、そのダメージを無効にしてエクストラデッキの融合モンスターをランダムに1体墓地に送る。重装機甲 パンツァードラゴンか、まあこれしか入れてないから当然だな」

 火の玉のうち1つが空中ではじけ飛ぶが、まだもう1つ残っている。そちらは妨害も受けずに、野中に命中した。

 野中 LP2000→1000

「アチャチャッ!ふぅ、危なかったぜ。惜しかったな、もう少しで俺を倒すことができたのによ。確かに俺の場にモンスターはいないが、墓地にはネクロ・ガードナーがいる。それに伏せカードのうち1枚がさっきサーチした攻撃の無力化だってことはわかってるんだろ、ああん?もうバーンも球切れだろうし、さすがにこのターンで俺にとどめを刺すのはなかなか厳しいもんがあるんじゃないか~?」

 確かにその通りだ。あれだけの布陣を張られたら、さすがに攻撃で突破するのは難しいだろう。だけどまあ、それもやっぱり一般論だ。相手が悪かったね、ご愁傷様でした、としか言いようがない。

「魔法カード、龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)を発動するね。この効果で場のアンデット族モンスター2体、バーニング・スカルヘッド2体を融合、だってさ」
「龍の鏡………?夢想、ドラゴン族融合モンスターなんて持ってたっけ」

 ああ、そういえば、と薄く笑う夢想。何となく、その笑顔にゾッとするものを感じた。

「まだ清明には見せてなかったね、だってさ。これが私の、もう1つのエースカード。冥府の扉を破りし者よ、其には死すらも生温い。融合召喚、冥界龍 ドラゴネクロ!」

 第一印象は、鬼だった。鬼のような顔つきに上半身、そして蛇のような形になっていて足のない下半身。名状しがたい声で叫び声を上げる冥界の龍が、狂気に満ちた瞳で3人の敵を見下ろす。

 冥界龍 ドラゴネクロ 攻3000

「大型モンスターを出しやがったよ、この女………おい野中、奈落かなんか伏せてないのか!」
「すまん………もう神の宣告も使っちまったし、この無力化じゃないほうの伏せカードも召喚を止めるためのじゃないんだよ。なあに、見えてるぶんだけでもこんだけ攻撃妨害のカードがあるんだ、このターンで俺を倒すなんてはったりに決まってるさ。さらに、俺にはこのまだ正体を知られてない伏せカードもあるわけだしな。余裕余裕」
「まだ私はこのターン、通常召喚してないね。フォース・リゾネーターを通常召喚するよ」
「へ?」

 フォース・リゾネーター 攻500

「フォースさんの効果を発動。このカードを墓地に送って私のモンスター1体を選択。そのモンスターがバトルを終えるまで、相手はあらゆるモンスターを対象にしたカードを発動できないからね、なんだって」
「ほ、ほう。や、やややややるじゃねえか。だがな、お、俺は知ってるんだぜ。ネクロ・ガードナーは対象をとらない効果、そんなもんじゃあ防ぎきれないもんな、うん」

 ああ、あの伏せカードも対象をとるような何かなんだな、きっと。さすがに僕でもしないであろう、なかなかわかりやすい反応だ。

「なら、試してみるかな?ドラゴネクロでダイレクトアタック、ソウル・クランチ!」
「わーーっ!俺は、墓地からネクロ・ガードナーの効果を発動!このカードを除外して、相手の攻撃を無効にする!」

 半透明の闇の戦士が地面から現れ、攻撃をその身に引き受けようと野中の前に両手を広げて立ちはだかる。だが、その体はドラゴネクロの牙に引き裂かれる前に再び地面の中に引きずり込まれた。

「これが私の最後の手札…………スカル・マイスターの効果を発動、だってさ。このカードを手札から捨てると、1回だけ相手が墓地で発動した効果を無効にできるみたい」
「そ、そんな~!」

 冥界龍 ドラゴネクロ 攻3000→野中(直接攻撃)
 野中 LP1000→0

「ちっくしょう、マジック・ジャマーも伏せておいたってのに、全部機能しないなんて」
「ふふふ。次は、回復役のあなたかな。でもボーンクラッシャーで攻撃したいのに、リクルーターのモモンガがいるからやめた方がいいかな?いいよ、このターンは見逃してあげる。ボーンクラッシャーを守備表示に変更、ターンエンド」
「ひ、ひいっ!」

 ライフが0になってその場にへたり込んだ野中に天使のような笑顔で微笑みかけ、くるりと首を回して次のターゲットと目を合わせる。すっかり気圧されて後ずさりする中野に、高野からのヤジが飛ぶ。

「バカヤロー、ノーダメージでビビってんじゃねーよ!野中と違って、お前はしっかり俺のサポートしろよ」
「な、なめんなよ!だいたいアタッカーがお前だからって、いつもいつもそんなに威張りくさることはねーだろ!」

 あれ、もう仲間割れだろうか。しかし、こいつら。最初のターンの連携に度肝を抜かれはしたけど、もしかして。

「多分同じこと考えてるよね、清明。この3人組は、個人での実力は下の下クラス………私もあなたも、普段通りにデュエルすれば十分倒せる相手だね、だってさ。3人がかりというプレッシャーを相手に押し付けることである程度それっぽくはなれるけど、所詮そんなものは付け焼刃でしかないよ、って。だから大丈夫、清明。ここは勝つよ、だって」
「う、うん……!」

 心強い夢想の言葉。実際、一見かなりのものに見えた連携も仲間が1人倒れただけですぐにダメになったりそもそも肝心の妨害役が2人がかりとはいえほんとにあっさり突破できちゃったりと、この3人組はなんか詰めが甘い。でもなんだろう、もう一言一言がこっちの死亡フラグにしかつながってないような気がするんですが気のせいでしょうか夢想さん。

「え、ええーい!こうなりゃままよ、速攻魔法、スケープ・ゴートを発動!これにより俺の場に、4体の身代わり羊が生み出されるぜ」

 羊トークン 守0
 羊トークン 守0
 羊トークン 守0
 羊トークン 守0

「いたずらに数を増やしても、私にも清明にも勝つことはできない………それが分かっているのかな、って」
「まだだ!魔法カード、アームズ・ホールを発動するぜ。このカードはデッキトップを墓地に送ってこのターンの通常召喚を封じる代わりに、デッキか墓地の装備魔法をサーチ!団結の力を手札に加えて、そのまま電動刃虫に装備!さらにもう1枚、さらにさらに追加でもう1枚!」

 団結の力は、装備モンスターの攻守を自分のモンスターの数1体につき800もアップさせる効果を持っている、説明不要なぐらい有名なデーモンの斧と同じく単体強化の基準ともいえるカード。今の高野の場には羊トークン含めてモンスターが5体、つまり団結の力による強化値は。

「い、いちまんにせん………?装備魔法だけで、攻撃力12000の上昇?」

 電動刃虫 攻2400→14400 守0→12000

「女から倒してもいいが、今の女に手札はない………ここは、次にターンが回ってきてまだ手札もある男を倒す!電動刃虫、やっちまえ!」

 派手に火花を散らしながら、チェーンソーのような顎が鮫の体を真っ二つにせんと迫る。だけど、僕だってただ単に何も考えずにハンマーを攻撃表示にしておいたわけじゃあない。

「トラップ発動、ポセイドン・ウェーブ!その攻撃を無効にして、さらに自分の場の状況に応じて相手にダメージを与える!僕の場には魚族モンスターが2体、よって1600の効果ダメージ!」
「何!?くそ、どうすることもできねえ………」
「効果ダメージ、ね。わかったわかった、やりゃあいいんだろやりゃあ。リバースカード、防御輪を発動。あらゆるトラップカードによる効果ダメージは、これで0になる。惜しかったな、バーンが通せなくてよお」

 む、ダメージは防いじゃったか。まあいいや、攻撃を止められたんだから十分仕事したといえるだろう。生き延びれたことに対して安堵の息をつくと、心底ブチ切れた感じの叫び声がした。見ると、高野が顔を真っ赤にしてプルプル震えている。

「て、てめえ、中野!なんてことしやがる、よくも変なカードチェーンしやがったな!」
「はぁ?お前、ダメージ止めてもらってんのになんなんだよその言いぐさ」
「俺の攻撃が防がれた、どうするピンチだ!とそこで、華麗に手札から飛び出すこの俺の最後の手札、ダブル・アップ・チャンス!そんなこともわかんねえのかよお前は、別のカード挟んだら発動できないだろが!」
「ガキかお前は!もう俺は知らん、おいそこの二人!」
「あ、僕ら?」

 よくわからない理由で再び喧嘩を始めた二人を止めてやるべきか考えながらじっと見ていると、いきなり中野がこっちに話を振ってきた。正直こっちに持ってこられても、困る。

「いきなり悪かったな、俺はもうサレンダーする。このアホは知らんから、手数かけてすまないけど思いっきり叩きのめしておいてくれ。あばよ、高野。短い間だったが、お前とのコンビなんぞもう2度とやらねえよ」

 それだけ言うと1人でサレンダーし、まだまだ怒りが冷めやらないといった様子で野中を連れてどこかへ行ってしまった。あんぐりと口を開けて放心状態の高野に、わざとなのかそうでないのか夢想が追い打ちをかける。

「どうするのかな、だって。1対2なら私たちが勝つだろうし、あなたも負けないうちにサレンダーするの?」
「ち、ちくしょう、やってやらあ、やってやらあ!俺の場の電動刃虫は攻撃力14400、そう簡単にやられはしない!」

 そして、僕のターンだ。とはいえ、もうこの手札でやることなんて1つしかないんだけどもね。

「僕のターン、ウミノタウルスを通常召喚。さらにサイレント・アングラーを攻撃表示に変更っと」

 ウミノタウルス 攻1700
 サイレント・アングラー 守1400→攻800

「へっ、なるほど読めたぜ。その雑魚モンスターで守備力0の羊トークンを倒して、少しでも攻撃力を下げようってんだな?いいぜ、そんなセコイ手なら痛くもかゆくもない」
「痛くもかゆくも、ね。なーにトンチンカンなこと言ってんだか。アングラー、その赤い羊に攻撃!」

 サイレント・アングラー 攻800→羊トークン 守0(破壊)
 高野 LP4000→3200

「え………?」
「ウミノタウルスの特殊能力は、貫通。それもただの貫通じゃない、僕の場に存在する全ての水族、魚族、海竜族にその効果は分け与えられる」
「そ、そんな、それじゃ………」

 今頃気づいたらしい高野に、夢想の真似をしてにっこりと笑いかけてやる。

「とっくに仕掛けは終わってたのさ、あとは釣り竿引き上げるだけ。さあ、ウミノタウルス!ハンマー・シャーク!2体の羊に攻撃よろしくっ!」

 ウミノタウルス 攻1700→羊トークン 守0(破壊)
 高野 LP3200→1500
 ハンマー・シャーク 攻1700→羊トークン 守0(破壊)
 高野 LP1500→0





「だ、だめだ。こんなの勝てるわけなかったんだー!」

 そう言い残し、こっちが声をかける前に逃げ出す高野。ふう、よくわからない相手ではあったけど、時間はずいぶん経っちゃったなあ。

「突貫工事で作ってかないとキツイかな?じゃあ、改めて手伝い頼むよ、夢想!」
「うん。任せて、だって。ただ、なんでだろう。まだ嫌な予感が消えないんだけど、なんだって」

 ふむ。それは多分、すぐ行くって話をすっぽかしてデュエルしてた僕に対して怒ってるであろう葵ちゃんに僕が説教されるということだろう。
 頭の中で、もうとっくに準備を始めているであろう彼女になんと言って謝ったら一番怒られる時間が短くなるかを何パターンかシュミレーションしながら走っていく。うーん、何を言っても怒られるだろうなあ………。いや、きっと道はあるはずだ。説教されるのは確定としても、その時間が1分1秒でも短くなるすんばらしい言い訳ってもんが。
 だけど、別にそこまで離れているわけではない。結局思いつかないまま、あっさりと到着してしまう。こうなったら仕方がない、正直に覚悟を決めよう。
 そう思って自動扉の前に立とうとすると、中から1人の白い影が飛び出してきた。ぶつからないようにサッと避けると、その光の結社の誰かと思しき男は一言もしゃべらないまま廊下の向こうに消えていった。まさか、葵ちゃんのところにも!?

「葵ちゃん、大丈夫!?」
「先輩、ずいぶん遅かったですね。あれ?河風先輩まで、一体どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも………葵ちゃん、今の誰だったの?」
「別に、としか言いようがないですね。強引にデュエル申し込まれたんですよ、まあ何とかなりましたけど」

 ということは、葵ちゃんも光の結社を撃退するのに成功したんだろう。まったく、はた迷惑な組織もあったもんだ。でもまあ、そのごたごたのおかげでまさかの説教なしで済んだんだからそこは感謝。珍しいなあ、いつもの彼女だったらそれはそれ、これはこれとして約束すっぽかしたことはキッチリ叱るタイプなのに。

「さ、始めましょうか。明日は商売のチャンス、でしょう?」
「もっちろん!さすがに僕の考えることもわかって来たね葵ちゃん。だけど試合が明日だし、それに響かない程度に自重しておかないとね。じゃあ夢想、悪いけどこの紙に書いた通りに小麦粉牛乳バニラエッセンスその他もろもろエトセトラ混ぜといてくんない?葵ちゃんはいつものクッキー生地ね。プレーンシナモン抹茶にチョコ………めんどくさいから省略。全部均等に作れるだけお願いねー。その間僕はこっちを作って………」

  
 

 
後書き
こんな感じで更けていく夜。
彼にとっては、まだまったりするだけの余裕がある。 
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